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『これからはソファーに寝ころんで』を語る

『これからはソファーに寝ころんで』を語る

岡崎武志

 創業約140年という老舗出版社、春陽堂書店から『これからはソファーに寝ころんで』という本が出ました。全編書き下ろしエッセイと写真をたくさん使った本というのは、これまでの私の著作になかったタイプ。そのことを意識して作った。

 古書愛好家にとっては、版元が春陽堂書店ということに、グッと来るかも知れない。書籍小売店として出発、明治15年頃から出版に手を染め、以来140年近い歴史を持つ出版社である。大正期には漱石、芥川の本も出し、なんといっても戦後、大衆小説の廉価普及に尽力した春陽堂文庫がある。しかし平成に入り、過去の出版遺産の再生産というかたちでしか、同社の出版活動を意識することはなかった。

 昨年あたりから、自社サイトを起ち上げ、新刊に力を入れて行こうという体制が整い、私にもチャンスが訪れたわけだ。スマホで撮りだめた大量の写真を使って、何かやりたいとずっと思っていて、この機会を利用させてもらうことになった。まず写真ありきで、それに合わせて文章を書き下ろすというスタイルの本が出来上がった。

 自由時間の多いライター生活の過ごし方と、2年前に還暦を迎え、老いを意識した心境も同時につづりたい。副題に「還暦男の歩く、見る、聞く、知る」とあるのは、そういうわけである。年を取れば、若い頃と違って残り時間が少なくなり、自然にさまざまなことをあきらめるようになる。しかし、それを「消極的というより、積極的に『あきらめ』る」と考えることで、楽になった。書くことで生まれたレトリックではあるが、なるべくその心境に近付けたいと思ったのである。歳を取るのも悪くないぞ、と言いたかったのである。

 東京散歩や旅行についても、思う存分書いた。「坂を巡れば文学も人生もわかる」「水郡線の旅」などがそうである。坂巡りは、一時熱中して、地図を片手にわざわざ坂を上り下りするために、都心へ出かけて行ったこともあった。梶井基次郎が下宿していた麻布台を訪ねて行って、植木坂を上がったところで、ぐうぜんに高峰秀子邸を見つけた時は驚いた。早稲田から神田川を越え、胸突坂という都内屈指の急な石段は、村上春樹が早稲田大学に入学した際、しばらく上り下りした。坂の上に「和敬塾」という寮があったのだ。これもわざわざ訪ねて行った。

 そのほか、音楽、映画、読書と、若い時からずっと続いてきた趣味についても開陳している。足掛け5年になる「中川フォークジャンボリー」というフォークライブイベントの裏方と司会進行を担当し、ボスの中川五郎さん(フォークのレジェンド)と楽しくご一緒させてもらっている。もっとも敬愛する作家・庄野潤三の遺族とお近づきになって、名作『夕べの雲』の舞台となった生田の山の上の家を何度か訪れた。いずれも、若き日に、大阪で音楽や文学に触れ始めた時、将来、そんなことが起きるとは想像だにしなかった。上林暁旧邸への訪問もそうだし、なんだか、本書に書かれた自分の文章を読むと、歓喜にあふれている。

 出版状況が悪化の一途をたどる中、この先、どれだけ本を出し続けることができるか、まったく分からないのが現状である。一冊いっさつに全身全霊を打ち込むこと、自分という人間をさらけ出すことを心がけていきたい。『これからはソファーに寝ころんで』は、その出発点となる著作である。
 


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『これからはソファーに寝ころんで』 岡崎武志 著
春陽堂書店 価格:1,944 円(税込) 好評発売中!
https://www.shunyodo.co.jp/shopdetail/000000000660/

岡崎武志的LIFE オカタケな日々
https://www.shunyodo.co.jp/blog/2019/05/okatake_1/”>

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