ネット文化資源を作るガイドたるべく岡田一祐 |
『ネット文化資源の読み方・作り方 図書館・自治体・研究者必携ガイド』(文学通信)という本を刊行した。タイトルの「ネット文化資源」とは、インターネット上で公開される文化資源のコレクションを手短に言ってみたものである。 最近話題のデジタルアーカイブのほか、インターネット上で文化資源のコレクションを構築することに関わる内容について紹介しているものだ。
本書の元になったのは、メールマガジンに連載していた「デジタル日本研究」に関する時評である。デジタル日本研究とは聞きなれない分野だろうが、デジタル技術を積極的に活用した日本研究というほどの意味である。このような分野は、総体的に人文情報学ないしデジタル人文学という呼称が与えられ、目立たないながらも数十年の歴史を有している。国立国語研究所に大型コンピューターが入ったのは、1960年代の早きに属し、70年代にはいくつもの文系研究機関で計算機の導入が相次いだ。「デジタル日本研究」は、その日本研究への応用というほどの意味で、専門分野というよりは、デジタル技術の利活用をしたものを取り上げたということになる。本書をもともとのテーマでまとめずに、ネット文化資源の本としてまとめることになったのは、あたらしいサービスやコンテンツ、技術動向などをよくいえばひろく、じっさいのところをいえばかんがえもなしに取り上げたことによる。 書名に「読み方」と付けたのは、ネット文化資源をいわば文献学的に位置づけることを意図したからである。べつのところにも書いたが(「もっと記述のことばを、あるいは『ネット文化資源の読み方・作り方』の長い後書き」『人文情報学月報』97号、 https://w.bme.jp/bm/p/bn/htmlpreview.php?i=dhm&no=all&m=9&h=true )、 ネット上の情報資源は概して儚い。きょうあると思っていたものが突然サービスを停止することこそ最近は減ったものの、比較的長い告知期間はあったにせよ、Yahoo! Geocitiesはたくさんのすぐれたウェブサイトとともに消えていった——組織的保存もされずに(消えてしまったなつかしいサービスには@nifty omepage、Lycos Tripodなどもあった)。Internet Archiveなどの保存サービス はあるものの、収集し切れてはいないし、最近はやりの機能盛りだくさんのサイトにも対応できていない。そこでやはり残るのは言葉による記述である。そのため、紙幅の制限はありつつ、後世の資料となるような記述を心がけた。それを繰り返していたら一冊の本の長さになっていったというのが実感である(連載は上記の月報でまだ続いている)。 書名のもう一方の「作り方」のほうはもうすこし現実的で、そのような構築に携わる際の資源の扱い方、技術の取り入れ方について論じたからである。しかし本書を読んでも、直接的なガイドはなく、デジタルアーカイブは作れない。それでもなお「作り方」ということばを付け加えたのは、なにかを作るにあたって先行事例をどう読み解くかがけっきょく大きく関わるからである。読むことが作ることに先立つ、そのような意図が本書の題名には込められている。そのような意味で、本書が今後ネット文化資源を作るガイドたれば、それに優る幸いはない。 『ネット文化資源の読み方・作り方 図書館・自治体・研究者必携ガイド』 |
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