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『近代出版史探索』

『近代出版史探索』

小田光雄

 『近代出版史探索』は拙ブログ「出版・読書メモランダム」において、2009年9月から現在に至るまで、「古本夜話」のタイトルで1000編近く連載してきた最初の200編を収録している。
 これも「自著を語る」で紹介した前著『古本屋散策』が短編集とすれば、『近代出版史探索』は連作長編として書かれ、すべてがリンクしていくという構成である。すでに1200編ほどを書き、来年の早いうちにはひとつの目安であった「千一夜」を、ようやく迎えることができるだろう。

 しかしながら、この10年以上に及ぶ書き下し連載は近代出版史をコアとしているけれど、必然的に近代文学史、思想史にも連鎖し、400字詰で7000枚に及んでしまった。それもあって書き継いでいても、この連載の単行本化は難しいし、現実的に無理ではないか、ネットで読まれることで満足すべきではないかと考えていたのである。またこれはいうまでもないが、私の著作は売れないし、書評も出ないことが定着してしまったように思われたからだ。

 それは『古本屋散策』も同様で、今年の5月刊行だが、現在に至るまで、新聞や雑誌にひとつの書評も見ていないし、紹介もほとんど目にしていない。そのような個人的出版状況もあり、『近代出版史探索』を上梓することはできないだろうと諦めていたのである。

 だがまったく書評が出なかったにもかかわらず、選者の鹿島茂氏の目にとまり、思いがけずに「第29回Bunkamuraドゥマゴ文学賞」を受賞するという幸運に恵まれた。それはひとえに鹿島氏の選者としての「忖度」と、「ドゥマゴ文学賞」の「ユニークな基準」がロートレアモンの詩句のようにリンクしたことによって実現したのである。

 それを受けて、受賞に応えるためには『古本屋散策』と併走して書き続けてきた「古本夜話」を、『近代出版史探索』として上梓すべきだという思いに駆られてしまった。そのことを論創社の森下紀夫氏に話したところ、受賞に合わせ、まず第1巻を出そうと快諾してくれた。そうして全速力で編集が進められ、10月16日の授賞式日に見本が届けられて、鹿島氏とドゥマゴ文学賞事務局に手渡すことができたのである。まさに受賞の賜物であり、記念すべき第1巻の刊行となった。

 この機会を得て、『近代出版史探索』の意図を明かせば、これは新たな近代出版史を提出することによって、伊藤整の『日本文壇史』という近代文学史、並びに山口昌男の新たな近代文化史といっていい『「敗者」の精神史』『「挫折」の昭和史』『内田魯庵山脈』などの歴史人類学を架橋させたいという秘めたる思いをベースとして書き始められている。

 もちろん近代出版史の森は奥深く、謎に満ち、1200編ほど書いたところで、九牛の一毛にも及ばないことは十分に承知しているけれど、『近代出版史探索』の試みは、従来の出版史のみならず、文学史や思想史をいささかなりとも異化させていくはずである。そのような意図と目的を内包し、ここにその第1巻が出されたわけだが、売れない著者と小出版社のコラボレーションゆえに少部数で、消費税を含めると、6600円という高定価になってしまった。

 本当に読者に対し気軽に購入をお願いする価格ではないので、図書館へのリクエストを期待したい。第1巻が500部売れれば、何とか第2巻が出せると思う。本来であれば、第6巻までと書きたいけれど、現在の出版状況は、そのような予断を許さないほど深刻である。続刊の行方はどうなるであろうか。

〈付記〉
 12月7日東京古書会館 ドゥマゴ文学賞受賞記念講演レジュメ
  「知るという病」

 『古本屋散策』における戦後の私的読書体験、『近代出版史探索』を通じての戦前の出版史を重ね合わせ、近代日本の出版と読書の意味をたどる。
 そのひとつの例として挙げられるのは大正時代の『世界聖典全集』である。その発行者と編集者、内容、出版システムなどにふれ、宗教と出版、その波紋に言及する。またこの全集は英国の『東方聖書』を範とするもので、その周辺事情、両者の関係にもふれ、西洋の1910年代から20年代にかけての出版、すなわち日本の大正時代の出版への影響をも考えてみたい。
 

kindai

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