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『お弔いの現場人 ルポ葬儀とその周辺を見にいく』

『お弔いの現場人 ルポ葬儀とその周辺を見にいく』

朝山実

 茨城県にある工場を見学するまで「霊柩車」は、自動車メーカーが生産しているものだとおもいこんでいた。
実際は専門の工場が新車を購入して改造(後部座席を取り除き、車輌を切断。棺を載せるため後ろに空間を伸ばし、後輪も付け替えるなど)するのだと聞いて「わざわざ感」に驚いた。こちらが何も知らないものだから、社長さん(もともとは歯科技工士だった)や工員さんたちから代わる代わるその工程を懇切丁寧に説明していただき、それがおもしろく、小学生の頃にパン工場を社会科見学した際の焼きたての匂いをおもいだした。
昔は、高級車の新車を活用したものだが、近頃は中古車を改造することが多いという。価格の問題からだ。こんなところからも葬儀業界が激安競争の中にあることがわかる。そればかりか、使い込んだ霊柩車のエンジンを付け替えリフレッシュさせたものの需要もあると聞いて、還暦こえたジブンもまだやれそうな気になった。

このほかにも話を聞きにいったのは、年末に亡くなった母親が使っていたベッドを廃棄するのはもったいないと、お正月にベッドを解体し「仏壇」に作り直したひと(音楽ユニット「明和電機」の土佐さん)。その話をすると、「すばらしい」と仏壇の謂れを説明していただいたお坊さん(脱サラして仏門に入られた)。
バブル時代は広告代理店でイベント担当をしていたが、いまは「墓じまい」の依頼に追われているという石屋さん。遺品整理で出た品々を東南アジアにリユース輸出している倉庫を見せてもらったり(北海道土産の定番だった木彫りのクマやファンシーな縫いぐるみが人気なのだとか)。行き場のない「遺骨」をゆうパックで受け取り、わずかな料金で永代供養を請け負う住職など、会って「へー」、覗いて「ほぅ」となることが多かった。
ルポのあいだ頭の中にあったのは「ひとは、なぜ弔いの儀式をするのだろうか?」だった。

じつは、取材者であるわたし自身も現在「現場」の一端にかかわっている。東日本大震災があった年の同じ月に父が亡くなり、「父の戒名」をわたしがつけたのが始まり。父がまだ元気だったころ、ベストセラーになっていた宗教学者の島田裕巳さんの『戒名は、自分で決める』という新書本のことを話したところ、「おまえがつけるんか?」と面白がっていたのをおもいだし、新幹線の車中で戒名を考えたのだった。
葬儀社を頼み、檀家だったお寺の住職に話をすると「ひとのビジネスに手をだすな」と声をあらげられ「墓は出ていってもらう」とまで言われる始末。由緒あるお寺のご住職が「ビジネス」と口にしたのには、わが耳を疑うほど驚いた。
そんなあれやこれやを『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社)にまとめたのが6年前。本書は以来もやもやっと芽生えた疑問にもとづく続編にあたる。

「現場の一端にある」というのは、阪神淡路の震災で半壊した実家を父が再建はしたものの、家族は誰ひとり住むことなく(建てた父自身も、旧実家の側の倉庫を改造したバラックの家に頑固に十数年住まいつづけた)「空き家」となった実家を相続、思案の末に「葬儀会館」として利用してもらっているからだ。
活用してもらっているのは、父の葬儀のときの霊柩車の運転手さん(当時楽天イーグルスの正捕手だった嶋選手に似ている)で、振り返ると、火葬場までの30分ほどの「助手席の座り心地のよさ」が決め手になった。
わたしの本業はインタビューして書くこと。取材の場では自身について語ることはないのだが、ゆきがかりからこの本では実家を葬儀会館にするまでの経緯も記させていただいています。お気持ちがうごくようでしたら御一読いただけましたら幸いです。

朝山実
あさやま・じつ 1956年、兵庫県生まれ。インタビューライター。
書店員などいくつか転職の末、上京。現職について30年。
著書に『イッセー尾形の人生コーチング』『アフター・ザ・レッド 連合赤軍 兵士たちの40年』『父の戒名をつけてみました』など。

tomurai
『お弔いの現場人 ルポ 葬儀とその周辺を見にいく』 朝山実 著
中央公論新社 本体:1700円(税別) 好評発売中!
http://www.chuko.co.jp/tanko/2019/10/005242.html

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