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『東北の古本屋』~大震災を乗越え地域の文化をつなぐ古本屋さんへの応援歌~

『東北の古本屋』~大震災を乗越え地域の文化をつなぐ古本屋さんへの応援歌~

折付 桂子(日本古書通信社編集部)

 東日本大震災から8年半が過ぎた。私の故郷は福島県。神保町古書街近くの勤務先で、崩れ落ちる本と書類の山にまみれながら、連絡のとれない故郷に不安が募ったことを思い出す。原発事故の後には、故郷がなくなるかもしれないという恐怖にかられた。

 雑誌『日本古書通信』や『全国古本屋地図』などでお世話になった古書業界の方々も大きな被害をうけた。業界の片隅にいる自分にできることは何かと考え、2011年以来、被災地の古書店を継続的に取材し、『古書通信』誌上で、震災・津波・原発事故、そして古書にまで及んだ風評被害に負けずに頑張る古書業界の姿を伝えてきた。

 震災の年、広範囲の甚大な被害にもかかわらず、営業を辞める古書店はなかったが、徐々に様相が変っているようだ。その変化を反映した古本屋案内を作りたいと考えていた時、一昨年の岩手の古書市場で業者の方々からも他地域の様子を知りたいとの声があった。そこで、現在、古書店はどのような状況なのか、店は何軒あるのか、東北6県全体の実態を記録しようと考えた。店舗のある店は直接伺って話を聞き、地図や写真も添えて案内、無店舗の方もできるだけ特色が解るように紹介した「東北の古本屋」を連載したのが昨年のことである。

 連載が好評だったこともあり、今回1冊にまとめることにした。その後の動きを修正、加筆し、リストは各県組合に確認していただいた(掲載したのは全古書連加入の古書組合員)。カラー版にしたことで、棚の様子や店の雰囲気がよりはっきり伝わる本になったと思う。

 この詳細な案内の土台には8年間の取材の積み重ねがある。本書の後半には2011年以来の震災取材記事のダイジェスト版を収録した。阪神淡路大震災の記録は兵庫組合の記録誌があり、熊本地震の記録も残されている。本書が古本屋から見た東日本大震災の記録となれば幸いである。

 残念ながら古本屋は少しずつ減っている。全古書連組合員は今年3月現在2056軒で、20年前に比べ2割強の減少。それでも、新刊書店が半減し、日書連加盟店が激減している状況をみると、古本屋はかなり頑張っていると思う。

 ただ、実数以上に少なくなった印象を受けるのは、店の形が変ったためだろう。ネット販売の隆盛で店舗をもたない形が増えた。実際、東北6県の組合員は20年前は70数軒で殆どが店舗営業だったが、現在64軒のうち店舗は41軒(倉庫的な店も含む)で6割強。この数字はまだ高い方で、全国的には店舗率はもっと低いと思われる。駅を降りれば、地域の香りのする古本屋を何軒もはしご出来たという時代は遠くなってしまった。

 ただ、今回取材して感じたのは、それでも、少ない古本屋がしっかり地域を支えているということ。街の風景が画一化する中で、古本屋には地域のカラーが残っている。

 「たいした店じゃないよ」と謙遜されていても、話を伺ううち、言葉の端々に〈郷土への思い〉〈古本屋としての矜持〉が滲んでくる。「何十年も寝かせて売れる本もある。じっくり腰を据え地元の文化をつなぎたい」「東北の資料は白河の関を越えて流失はさせない」など、郷土への熱い思いに胸を打たれた。重厚な書籍や資料を扱う老舗だけではない。「普通の街の古本屋として地域と共に」「どんなお客様も先生」という言葉も重い。〈街の古本屋〉は一朝一夕ではなりえないから。改めて、古本屋は、本と人をつなぎ、地域に根差し文化を支えてゆく存在なのだと実感した。

 店の形は多様でいい。ただ、街には、広く深い古本の世界と出会える場があり続けてほしい。35年、業界の片隅にいて、いま強くそう願わずにはいられない。そんな思いも込めての、古本屋さんへの応援歌である。

tohoku
『東北の古本屋』 折付桂子 著
日本古書通信社 刊 定価:1100円(税込)+送料180円
お申込はメールにて kotsu@kosho.co.jp

Copyright (c) 2019 東京都古書籍商業協同組合

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