「甲賀忍者の真実―末裔が明かすその姿とは」渡辺俊経 |
37年間の東京勤務を終えて62才で帰って来た故郷甲賀で、自分が江戸時代に尾張藩へ仕えていた甲賀忍者の子孫であることを、私は初めて知った。その後蔵から古文書も発見され、否応なく忍者・忍術の世界へつき合わさせられて20年、地元で分かって来た甲賀忍者に関する歴史の事実と世の中の認識とのかい離が気になりだした。ここは地元の者にしか分からぬことどもを遺書として書いておこうと思った次第である。
日本人の9割以上がマンガやアニメや小説・映画などから忍者を知り、その延長上で甲賀忍者を知ることになると、甲賀忍者とは手裏剣を懐に黒い忍者衣装に身を包み、敵前を軽々と飛んだり跳ねたり時には消えたりする者達と認識している。でも同時に普通の人間がそんなことできるはずがないとも思っている。また服部半蔵は史実として忍者でないのにNHKのデイレクターさえも服部半蔵の忍者話を信じている。他方欧米では忍術とは超高度の武術とみなされ、古武術の技を習得することが忍者になる事であるかの如く誤解されて、多くの古武道道場がNinjutu道場の看板で数百人の会員を集めて繁昌している。 一方磯田道史氏のように現場に密着して調べている歴史学者は別にして、最近忍者の世界に進出して来た多くの学者たちは、古文書を見つけたと云ってはそこに探索が指示されているからと云って忍者を見付けたと安易に報告して来る。スパイ活動は人類の歴史が始まって以来行われていたのであって、古代のエジプトにもメソポタミアにもあった。命令を受けてスパイに向うのは必ずしも忍者ではないのである。 では忍者とは何者か、甲賀忍者とはどんな者達か。それにはこの本を読んでいただきたい。 ところがである。絶対的に多くの読者は大都会それも首都圏に住んでいて、知らず知らずのうちに中央政府の歴史感つまり勝者の歴史感にどっぷりと浸かっている。それに対して甲賀は地方である。一時的に勝者に与したことがあったとしても所詮は敗者となった地方である。現に豊臣秀吉にこっぴどく痛めつけられた。こんな地方の歴史をこまごまと語ったとしても勝者の歴史に染まった人々は読んでくれないのである。また地方に住む読者も実は冷たくて、自分の地域には思い入れがあっても他人の地域の歴史には興味を抱いて戴けないのである。 それでもめげずに、甲賀の歴史を書こう、その上で甲賀忍者を語ろうと決心をして書いたのがこの本である。結果として甲賀の歴史書のような形になったので、当初対象とした忍者ファンの外に、甲賀の地元の人にも読んで欲しいとの欲が出て来た。それにも増して読んでいただけたら有難いと思う人達がいる。それは歴史は楽しむためではなく、そこから現代に生かせるものを学び取るためにあると考える人達である。また地方にいて同時代史料に事欠く敗者の歴史を何とか書き揚げたいと願っておられる方々である。正直身びいきが過ぎて面はゆいことが多々あるが、地元に語り継がれる歴史を掘り起こすとき、文献証拠が乏しくとも云い放って良いのではないか。それが敗者の歴史を綴ることであろう。 『甲賀忍者の真実 末裔が明かすその姿とは』 渡辺 俊経 著 |
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