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研究という怪獣造形――『怪異をつくる』をつくる

研究という怪獣造形――『怪異をつくる』をつくる

木場 貴俊

 テレビアニメ『SSSS.GRIDMAN』(2018年)は、女子高生の新条アカネが負の感情を反映させて造形した怪獣フィギュアが実体化し、街を破壊し人を襲う展開になっています。
 これを自分の研究に引きつけてみると、さながら研究論文は怪獣フィギュアで、そしてこのたび刊行した『怪異をつくる 日本近世怪異文化史』は、そのフィギュアを使ったジオラマになぞらえることができます。
 『怪異をつくる』は、江戸時代を生きた人びとや社会のいとなみを「怪異」との関わりから考えたものです。本書では、怪異を「あやしい物事を指し、化物・妖怪・不思議などと表現する対象を包括する概念」として用いました。あやしいと感じることは、日常や常識が前提にあって喚起されるものなので、この本は逆説的に、当時の日常や常識を考えるものだと言い換えることもできます。

 本書で取り上げた物事は多岐にわたります。人物については、林羅山や貝原益軒、荻生徂徠、井原西鶴といった歴史や古典の教科書に必ず登場する有名人から、政治思想史で近年注目されている古賀侗庵(とうあん)、そして多数の民衆にまで視野を広げました。他に、政治や学問、言葉など、これまで怪異との関係があまり注意されてこなかった対象へも目を向けています。ここまで多くの物事を取り上げざるを得なかったのは、人のいとなみのさまざまな面が怪異と切り離せない関係を持っているからです。当時の人びとが怪異をどのように考え、対応し、あるいは表現したのか。具体例とともに考察を行いました。

 さきほど研究論文を怪獣フィギュアに例えましたが、フィギュアの骨組みに当たるのが論理構成です。『怪異をつくる』でもそうですが、古文書や書物、絵画などさまざま資料を駆使して、研究者は課題に答えるべく実証を行っていきます。そうした作業に基づいて組み上げた論理構成を骨組みとして、それに肉付け=論文化していきます。文章にしていくなかで、改めて構成を変えたり、新しい資料を追加したり、注を入れたりと色々手が入ります。フィギュアに置き換えれば、二足歩行を四足歩行にしたり、角や翼を生やしたりということで、執筆も造形も自分が納得する=面白いかたちを目指します。そして試行錯誤の末、論文というオリジナルの「作品」が生まれます。

 今まで、いろんな論文を書いてきましたが、それらを一書にまとめるのは今回が初めてでした。基本的にその時々の問題関心から研究をしている自分にとって、節操がない個々の論文をどのようにまとめるのか――怪獣をどのような舞台にどう配置するのか――は悩みどころでした。苦心の末、思いついたのが「つくる」という括りでした。怪異について、創作だけでなく、ある物事を怪異だと認識することやその対処方法なども含めて、「つくる」という言葉で括ってみました。

全体を構成する際、論文を改めて読み直し、文章や論法など全体的に加筆修正を行って調整をしただけでなく、資料も原文だけでなく読み下しや訓点、振り仮名を多く施して、研究者だけでなく広く一般の方にも読んでいただけるように努めました。

こうして完成したのが、『怪異をつくる』です。怪獣が上手く暴れ回ったかどうか、完成品を前にして、読者のみなさんがどのように受け取るかは非常に気になるところですが、個人的には既に新しくやりたいことが湧き上がっています。これからも研究という怪獣造形を続けていく所存です。

kaii
『怪異をつくる 日本近世怪異文化史』 木場貴俊 著
文学通信刊 定価:本体2,800円(税別) 好評発売中!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-22-7.html

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