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『日本印刷文化史』

『日本印刷文化史』

印刷博物館 学芸員 川井昌太郎

 印刷博物館は2020年10月に開館20周年を迎えたことを記念し、3点の書籍を刊行しました。『日本印刷文化史』と『HISTORY OF JAPANESE PRINTING CULTURE』(『日本印刷文化史』英語版)、そして、『印刷博物館コレクション』です。その内『日本印刷文化史』は、講談社さんに出版していただきました。全国の本屋さんにてお買い求めいただけます。本書はリニューアルした印刷博物館の常設展と密接に関連する「コンセプト・ブック」にあたります。
 
刊行の背景と構成
印刷博物館の20年間の活動を踏まえ、日本の印刷文化の歴史を体系的に見通すことはできないだろうか、そのような思いから本書の発行計画がスタートしました。印刷を文化や社会、技術や産業の中に位置づけ、できるだけ実際の出来事や実例に即しながら、その時印刷がどのような役割を果たし、歴史的な展開をしたのか、あきらかにしたいと考えました。「はじめに―読者の皆さんへ」では、この思いをさらに詳しく述べています。
本書の本文は古代・中世・近世・近代・現代の5部から構成され、それらは全部で22の章と6つのコラム、8つの印刷技術に関する挿話から成り立ちます。古代は2章、中世は2章、近世は10章、近代は5章とし、最後の現代は特別に「22章 日本の図書館の歴史」を加え、3章としました。

『日本印刷文化史』からわかる日本の印刷の特徴
本書で日本の印刷の歴史をたどっていくと、他国では見られない特徴があることに気づきます。ここでは大きく3点のポイントに絞り、紹介します。日本の印刷の特徴は、①長い歴史があること、②東洋や西洋から影響を受けていること、③担い手や技術に多様性があることです。

①長い歴史があること
 「1章 奈良時代に始まった日本の印刷」から本書は始まります。称徳天皇の発願により「百万塔陀羅尼」(770年)が印刷されたことが、日本の印刷の出発点です。2020年の現在に印刷産業があることを考えると、日本の印刷には1250年の歴史があることがわかります。印刷が仏教政治に関わっていた古代から、「21章 大量消費社会と印刷―効率化と標準化の時代」で触れたマスメディア、マーケティングメディアとして活用される現代まで、常に印刷は時代にあわせた役割を果たしてきました。

②東洋や西洋から影響を受けていること
 島国である日本は、さまざまな分野で外国からの影響を受けてきましたが、印刷でも同じことがいえます。最も顕著な例としてあげたいのは、「5章 朝鮮出兵―朝鮮伝来活字はなにをもたらしたか」「コラム1 天正少年使節は木製印刷機をはこぶ」で記したとおり、中世から近世に移った時期に、朝鮮半島やヨーロッパから活版印刷が伝わったことです。当時新しい印刷技術であった活版印刷を、天皇、武家、医師、宣教師、医師、商人などが積極的に活用しました。その中でも「6章 徳川家康を中心とする印刷・出版合戦」にあるとおり、家康による駿河版銅活字の製作、駿河版の開版は特筆に値する動きです。

③担い手や技術に多様性があること
 印刷の担い手は、「3章 鎌倉時代の印刷―本格化する寺院の開版」にあるように、中世では寺院がその主役を務めました。近世では「8章 京都・大坂・江戸 三都出版物語」に見るとおり、版元たちの旺盛な印刷・出版活動が始まります。それによって、書物が知識人から一般の人々まで広がり、「9章 印刷が広げた江戸時代の行動文化―旅を助けた書物、版画、摺り物」「11章 学問の進展と印刷―本草学から植物学へ」「13章 改暦と印刷」「コラム2 農業技術を広めた農書」などが説明するように、印刷物は学問や産業の発展、余暇の充実に欠かせないものとなりました。

 印刷の技術が最も多様化していく時代は、近世から近代に移る頃です。「16章 戊辰戦争、そして明治
政府による改革へ―幕末明治の活字文化」「17章 『描く技術』を伝える」「コラム3 めがね絵から紙幣
まで―銅版画の普及」などが示すとおり、江戸幕府から明治政府へ政治体制が変わったとき、木版印刷
から、銅版印刷、石版印刷、そして本格的な金属活字による活版印刷へ変化していきました。
印刷の担い手と技術が広がった近代から現代にかけて、続々と印刷会社が登場します。同時に、印刷物を享受する側、読者や消費者の印刷ニーズも多様化していきます。「18章 資本主義社会と大衆文化の成立―大正時代の印刷」「20章 高度経済成長と素材のバリエーション」では、印刷が書物だけではなく、多方面にわたりたいへん大きな役割を果たすようになったことがよくわかります。

 ここにあげたポイントの他にも、読みどころがたくさんあります。この先はぜひ手にとってご覧ください。本書は冒頭で述べたとおり、リニューアルした印刷博物館の常設展の「コンセプト・ブック」でもあります。印刷博物館にも足を運んでいただければ幸いです。

insatubunka
『日本印刷文化史』 印刷博物館 編
講談社 2,000円+税 好評発売中!
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000343750

Copyright (c) 2020 東京都古書籍商業協同組合

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