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『和歌でみる源氏物語~おばあさん的~』

『和歌でみる源氏物語~おばあさん的~』 
おばあさんなら(お姉さんも)わかる女性たちの心 
(おじいさん、お兄さんもわかる親子の情)

たなべ書店・田辺真知子

 この本を刊行して、多くの日本人に『源氏物語』体験といったものがあるのだと気づかされました。学生のときにちらっと勉強しただけだけれど、いつか、ゆっくり読んでみたいとか、現代語訳を読んだことがある、原文は「須磨」の巻で挫折してしまった、などなど。世界に冠たる日本文学『源氏物語』はどんなお話なのだろうか、いつかどこかで触れてみたいという思いは、日本人の心のどこか片隅に巣くっているようです。

 『源氏物語』の読み方も人さまざまです。あの雅な世界へ憧れる人もあれば、あんな女たらしの光源氏の話なんか敬遠したいという人もあるでしょう。読み方はそれぞれでいいのですが、今回私は、光源氏の恋愛遍歴よりは、彼を巡る女性たちの生き方や交流、子や孫を思う親の情、千年前と同じ普遍的な心に惹かれる読み方になったようです。「おばあさん的」の副題はそんな意味合いがあります。おばあさんなら、いや、これからおばあさんになる人にも、はたまたおじいさんたちにも共感して読んでいただけるのではないでしょうか。

 そして、何といっても『源氏物語』を「和歌」を芯にして読みたいと思いました。私はずっとフリーライターの仕事をしてきましたが、能に関わるようになって二十数年。能は源氏物語や平家物語、伊勢物語など古典を題材にするものも多く、ために、原典や関連する本を読むようになり、すっかり古典の魅力に取りつかれました。そして、能の詞章(台本のようなもの)に和歌や漢詩が織り込まれていて、物語を引き立てていることに気づかされます。詞章のなかの和歌が気になり出したら、和歌の系譜をたどりたくなり、万葉集から古今和歌集、新古今和歌集と読んでいくなかで、源氏物語が浮き上がってきました。
「古今集は源氏物語に流れ込み、新古今集は源氏物語から流れ出ている」(岩波古典文学大系・古今和歌集)といった解説を読み、これは源氏物語の和歌を見てみなければ・・と。

 和歌の系譜をたどる中での源氏物語。ちょっと読む動機が不純ですが、読みだしたら面白く、書き留めておきたいことが山ほどになりました。やはり、源氏物語という物語の偉大さでしょうか。和歌だけでなく地の文章も魅力的です。
『源氏物語』には800首弱の和歌があります。本書ではその中から、源氏が最愛の伴侶・紫上を亡くし出家するまでの間の200首を超える和歌をセレクトしました。
いくつか和歌を紹介します。
「かぎりとて別るる道のかなしきに いかまほしきは命なりけり」
 この歌は、光源氏の母・桐壺更衣が亡くなるときに、生きていたいと苦しい息で絞り出した、まさに絶唱です。光源氏が3歳のときのことでした。
「人の親の心は闇にあらねども 子を思ふ道にまどひぬるかな」
 これは源氏物語に最も多く引き歌(有名な古歌を引いて、文章の味わいを深くする)として登場した歌で、紫式部の曽祖父・藤原兼輔の歌です。普遍的な親の思いを詠っています。
「五月(さつき)まつ花橘(はなたちばな)の香をかげば 昔の人の袖の香ぞする」
これも引き歌ですが、伊勢物語や古今和歌集の夏歌に登場する読み人しらずの歌です。花橘の夏歌ですが、昔の恋人を思い出す風情によく合います。

 このような、四季をめでる心、人を愛する心、それらを詠った和歌の伝統は、今の日本人の心の底に静かに眠っていて、どこか感性の源になっていると思うのです。
 好き勝手に楽しく書き進めたこの『和歌でみる源氏物語~おばあさん的~』(304ページ)。専門家でもないのに、源氏物語を題材にするなんて、大それていると思い、
 恐れ多いのですが、こんな読み方をしている人もいるのかと、手に取っていただければ嬉しく思います。

wakagenji

『和歌でみる源氏物語~おばあさん的~』
田辺真知子著
たなべ書店刊
価格:1400円+税

注文は「日本の古本屋」のサイトか
メールで:order@tanabeshoten.co.jp
電話でも:03-3640-0564 たなべ書店

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