『古本屋的!』は『東京古書組合百年史』の姉妹本なのだ稲垣書店 中山 信如 |
『東京古書組合百年史』、もう手にとってみたかい? 読んでみたかい? どうだい、立派な本だろう。八千円もするけど、第一章は、まるまるあの有名な鹿島茂先生に(といったってオレの一つ上なだけだけど)じきじきに頼んだり、見てくれだって、プロの気鋭の装幀家間村俊一さんに頼んで腕をふるってもらったりで、たいへんだったんだ。だから、そんじょそこらの社史や業界史とちがって、見映えがするだろう? 中身だって、仕上げるまでに三年と八ケ月、おりしも新型コロナ騒ぎのまっただなか、つどった編纂委員上は七十三から下は四十一歳まで総勢十五名、古い文献で歴史をおさらいしたり、ダンボールをあさって資料を集めたり、カンナンシンクの果てやっとこさ、どうにかこうにか作り上げたんだ。そんな苦労も、カラー口絵を含む七百ページ近くのボリュームを見れば、想像がつくってもんだろう。 でも、あの『百年史』、あれでやれやれ、終った終ったなんぞと思っちゃいけないヨ。実はあの『百年史』には、まだ続きがあるんだ。そう、オイラがやった、第五章「見よ、古本屋の豊穣なる世界」の続きがネ。あの第五章、中でもチラッと書いてるけど、副題「『古書月報』寄稿傑作選寸評集」ってある通り、先行する『東京古書組合五十年史』以降に出た組合機関誌「古書月報」五十年分のなかから、オイラが傑作と認定したおもしろいものを選って集めてコメントしたもんなんだけど、ハナからあんな形にするつもりじゃなかったんだ。始めはおもしろいと思ったものをドンドン粗選りしてって、最後にそのなかからさらにイイって思ったものを選んで載せて、それで一丁あがり、おしまいってするつもりだったんだ。 でも、いざ始めてみたら、これが予想に反しておもしろいものがゾロゾロ出てきて、第一次選考通過作的なもんだけでも、ふと気付くと三百編近く、ついでに選んだ座談会や聞き書きなんかのしゃべりものまで入れたら、三百と八十編。これを全部収録できたら、組合員同胞の持つ多様さ、幅広さ、奥深さを紹介せんとの思いもみごと達成できたんだろうけど、なんてったって与えられたページ数には限りがあり、しかもおもしろい、読ませる文はそれなりに長いものが多くって、何編もはいらないってことに気付いちゃったわけ。 オイラも、それもそうだそれがいい、そうしようそうしようとその時はその話に乗っかって、第五章はオイラが選んだ「傑作選寸評集」ということでめでたく一件落着したんだけど、でも仕上がってきた『百年史』第五章を見て、みんなもそう思ったろうけど、オイラがいくら得意のうまい言葉や言い回しでホメたり論じたりしてたって、肝心の本文そのものが載ってないんじゃカッカソウヨー、ちっともピンとこないじゃないか。ましてや同じ古本屋仲間ならまだしも、外部の一般人には、なんのことやらピンとくるはずもないじゃないかと。 もともと意中の出版社だった、書物文化に理解ある、若い読者層にもウケのいい本の雑誌社だったが、OKをもらいゴーサインが出て、『百年史』編集の終盤、同時進行の形ですでにスタートしていたそっちの編集作業のほうにも、ますます熱がはいった。フル回転した。『東京古書組合百年史』関連出版ということで、本の雑誌社側も編集兼発行人オン自らおでましの上ジキジキに担当してくれて、おもしろくなりそう売れそうと大車輪の編集作業、ついにA5判四百ページになんなんとする大冊は、みごとここに出来上がってきた。 ただし、ただしダヨ、ひとつだけ言っておかなきゃいけないことがある。こんどの本、オイラが最初に選んだ「古書月報」の三百八十編、あとから追加で選んだ「全古書連ニュース」の三十いくつかを足すと四百二十編近く、これをすべて収録しようとすると、『百年史』と同じくらいブ厚い本を二冊三冊作らなきゃならなくなって、とても無理。だから一冊に収めるため、本の雑誌社側と協議協議の結果、涙を飲んでしぼりにしぼった。いわく、業者以外の文は外そう。いわく、東京組合員以外の文は外そう。いわく、再録済の文は外そう。いわく、一人三編までにしぼろう。こうして単独文、座談会など百二十編ほどにしぼりこんだのが、こんどの本『古本屋的!』、サブタイトル「東京古本屋大全」。おかげで、そのぶん、もうこれ以上はムリ、限界っていうほどおもしろいものばかり詰めこめたし、読んで納得、見て満足、間違いなしってシロモノに仕上がった。だから内側つまりわれら同業者側から見ても、外側つまり外部の一般客側から見ても、おもしろいこと請け合うヨ。 さて、かくして、この本『古本屋的!』、『東京古書組合百年史』に引きずられるようにして進められた連動企画、引きずられるようにして生まれた副産物、と始めはオレっちもそう思ってたけど、いいやそうじゃない。よくよく考えてみりゃ、『百年史』の第五章を先に読んだらこれを読みたくなる、こちらを先に読んだら『百年史』の第五章を読まずにはいられなくなる、つまり、『百年史』でオイラのシャレたコメントを読んだら中身の本文まで読みたくなる、逆に『古本屋的!』を先に読んだら、この文にオイラがどんなコメントを寄せてるか確かめたくなる、そういう不即不離のセット、ペア、切っても切れない〈姉妹本〉なんだ。 いずれにせよこんどの二冊の本たち、今まであまりかえりみられることもなかった、過去五十年にわたる古書業界の歴史のなかに眠りつづけてた〈古本屋の豊穣なる世界〉、その幅広く奥深い魅力的な世界が、ついに姿を現してるってこと。だから同業諸兄も諸嬢も諸老も、みんなこぞって買って読んでネ。思った以上に売れれば、こんどの本には入れられなかった残る秀作たちや、今回涙を飲んで見送った東京組合員以外や再録済の傑作たちを集め直して、もう一冊出してもらえるかもしれないしネ。 そして行く行くは最後に、東京古書組合創立百周年記念のこの年(ほんとは新型コロナで一年ズレちゃったんで、昨年だったんだけどネ)、改めて内からも外からも、古本屋世界に新たなる思いを馳せようじゃないか。 全古書連ニュース 11月号から転載 『古本屋的! 東京古本屋大全』 中山信如(編著)
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