「本のある場所」への感謝南陀楼綾繁 |
先月末に『古本マニア採集帖』(皓星社)を刊行した。自分なりのやり方で古本と付き合っている36人のインタビュー集だ。つい最近まで「日本の古本屋メールマガジン」で連載したものに、書下ろしを加えた。連載は当初2年ぐらいのつもりだったが、続けていくうちにこんな人も、あんな人もと欲が出て、3年近くの長期になった。好きなように書かせてくださった東京都古書籍商業協同組合広報部には、改めてお礼を申し上げる。
本書には映画、地下本、カラーブックス、幻想文学、噴水、龍膽寺雄など、さまざまなテーマの本を集め、読み、調べる人たちが登場する。現在、本メルマガで連載中の書物蔵さんも「『図書館絵葉書』を発見したひと」として登場する。彼らのマニアぶりについては、ぜひ本文で確かめていただきたい。 インタビューする際は、その人がどんな古本マニアなのか、と同じぐらい、どんな過程をたどって古本マニアになったのかを伺うことに重きを置いた。人生においていきなり古本と接する人はまれで、たいていの人は段階を踏んで古本と出会っているはずだからだ。人それぞれの読書のグラデーションのようなものに興味があった。 たとえば、「貸本小説」を発見した末永昭二さんは、田舎町で学校の図書館の本を読み尽くし、京都の大学に入ってはじめて古本屋に足を踏み入れる。それが伝説の〈アスタルテ書房〉だったというのがすごい。 島根県出雲市に生まれた私の場合、本と出会ったのは幼稚園のときに買ってもらった学年誌だった。その後、小学校の図書室、市立の図書館、商店街の新刊書店と行動範囲を広げ、それとともに読む本が広がっていく。親に連れられて松江市の新刊書店に行ったときにはその広さに驚いたが、小学6年ではじめて東京に行き、〈八重洲ブックセンター〉に行ったときの衝撃はすさまじく、その後しばらくこの本屋が自宅の裏に建っている夢をよく見た。 はじめて古本屋に入ったのは高校生のときで、松江市にあった〈ダルマ堂書店〉だった。小説が安く買えたのが嬉しかったが、のちにこの店には郷土本が揃っていることを知る。それと前後して、吹奏楽部の全国大会に出場した際、自由時間に神保町に行った。雑誌『BOOKMAN』の神保町特集に古本屋の地図が載っていて、それを眺めながら歩いた。両手で紙袋が持てないくらいたくさんの古本を買い、集合時間に遅れて泣きそうになりながら大手町駅から東京駅まで走ったのを覚えている。 大学に入って東京で暮らしはじめた頃も、社会人になってからも、私は古本屋、新刊書店、図書館をめぐって、本と出会ってきた。 今年は『ダ・ヴィンチ』6月号に「10年後の被災地をめぐる『本のある場所』のいま」という記事を書いた。東日本大震災で被害を受けた地域の新刊書店、古本屋、図書館、ア―カイブ、出版社を取材したものだ。また、『地域人』75号の特集「本屋は続くよ」では、新潟県、広島県、香川県、福岡県の新刊書店と古本屋を取材した。これらの記事を通じて、私なりに「本のある場所」を応援しているつもりだ。 本書の巻末には、本文に登場する新刊書店と古本屋の索引を掲載した。いまも営業中の店もあれば、日暮里の〈鶉屋書店〉など古書業界の歴史に残る店の名もある。安くて掘り出し物が見つかる店として3人が挙げた荻窪の〈ささま書店〉は、昨年惜しまれながら閉店した。アナキズムに関心があった2人が、神保町にあった〈高橋書店〉を挙げているのも興味深い。本当はここに図書館も入れたかったのだが、煩雑になるので省略した。 なお、来年春からはこのメルマガで新しい連載をさせてもらうことになっている。これもまた、「本のある場所」をめぐる旅になりそうで、いまからワクワクしている。 『古本マニア採集帖』 南陀楼綾繁 著 ※『古本マニア採集帖』イベント開催します! |
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