『ポスター万歳 百窃百笑』田島奈都子(青梅市立美術館 学芸員) |
2022年7月に文生書院から刊行した拙著『ポスター万歳 百窃百笑』は、戦前・戦中期に製作された日本製ポスターのある部分が、外国の専門誌に掲載された作品を元ネタとしていた実態を、適宜解説を加えながら見開きで紹介する書籍である。
著者は1945年までの日本製ポスターを専門としており、これまでの調査経験から、同時代の作品と比べて異質なものは、たいてい外国作品に依拠していることが判ってきた。しかも、その中には「影響を受けた」や「着想を得た」レベルを遥かに超えた、いわゆる「丸パクリ」が数多く含まれており、それゆえ書名は『ポスター万歳 百窃百笑』とした。 さて、本書を読み進めていくと、「あの作品もこの作家も、実は外国作品をパクっていたのか・・・」と驚愕し、それらが続くと、次第にいたたまれなくなってくるかもしれない。しかし、元ネタとして何を選択し、どのように加工するかにも、一定の才能やセンスは必要である。また、戦前期は外国作品と接点を持てる人物や機会が、極端に限られていたことから、こうした行為は「勉強している証し」として、評価された面もあった。 もちろん、本書で取り上げた作品は、多くが現在では著作権法違反で訴えられないような類似性を見せており、そうした負の実態を白日の下に「さらす」行為に対しては、自虐史観と捉える向きもあるかもしれない。ただし、そのような過去を経て、今日の日本の広告界やデザイン界が存在する以上、史実に対して怒るだけでは意味がないと筆者は考えている。 ところで、本書の内容は前述したようにユニークであるが、実は執筆するに当たって採用した調査方法も、相当ユニークであった。詳しくは本書でご確認いただきたいが、実は今回翻案とされた海外作品の調査は、基本的に外国の機関がインターネット上で公開しているデータベースを閲覧することで済ませた。もっとも、データベース上で閲覧した洋雑誌については、著者もその実物を日本国内で閲覧した経験を持っており、翻案化の実例が複数見つかることは確信していた。また、そもそも戦前期の日本のポスターについて熟知していなければ、外国作品を見ても「こういう作品があったのか・・・」で終わってしまい、それが日本人作家によって翻案化されたことには気づけない。要するに、『ポスター万歳 百窃百笑』の執筆に当たっては、改めて行ったこともあったが、基盤となっているのはこれまでの調査経験であり、それがなければ短期間で出版することは到底無理であった。 ではなぜ、データベースを閲覧したたかであるが、これには2019年12月に中国で最初の感染例が見つかった、新型コロナウィルスが大きな影響を及ぼしている。この原稿を執筆している2022年7月末時点で、全国的には感染者数が増加傾向にあるものの、国からの強い行動制限は呼びかけられていない。しかし、一時期の東京都内の図書館は、ほとんどが感染防止を目的に利用が停止となり、この事態は文献調査に関しても各機関に足を運び、直接閲覧してきた筆者にとっては、研究上の大きな痛手となった。 こうした状況で実施したのが、自宅のパソコンからアクセス可能な、データベースを用いた文献の総覧であり、この作業は筆者にとっては当初、直接図書館等を訪問できないことに対する、代替えでしかなかった。しかし、国内における古い洋雑誌はそもそも所蔵先が少なく、かつ貴重な資料であることを理由として、利用に制限が設けられがちである一方、筆者が活用したデータベースでは、全ページがフルテキストで閲覧でき、検索やダウンロード、プリントアウトもある程度可能となっている。おまけに、在宅のまま時間を気にせず閲覧でき、結果的にそのような作業を通じて、100組以上の翻案例を新たに発見でき、それが今回の書籍化につながったのであるから、得るところは予想以上に大きかった。 とはいえ、実際の書籍化に伴う編集作業は、掲載図版が多いことから面倒なうえ、コロナ禍では何かと思い通りに運ばず、出版して下さった文生書院や、担当の目時氏には大いにご苦労をおかけした。しかし、内容としても調査方法としてもユニークな本書は、各方面にとって興味深いものになると自負している。ちなみに、「笑い」は免疫力を高めるようであることから、第7波の流行を乗り切るためにも、読者の皆さんには本書を見て読んで大いに笑っていただきたいと思っている。そしてその後に、「創作」ということについて、改めて考えていただけたら幸甚である。 ![]() 『ポスター万歳 百窃百笑』 田島奈都子編著 文生書院刊 320ページ・四六判 図版(249図)オールカラー ISBN978-4-89253-651-9 4,950円(税込) 好評発売中! https://www.bunsei.co.jp/original/new-publication/tajima/ |
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