2022年6月24日号 第349号

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☆INDEX☆
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1.クラシック音楽と日本の歴史
  「ミハイル・グリゴーリエフの物語」2022夏公演

                李めぐみ(Alacrity Inc. CEO)

2.最後の著書『昭和の古本屋を生きる』について
                    青木書店  青木正美

3.鶴見俊輔『日本の地下水 ちいさなメディアから』
 (編集グループSURE刊)のこと
                           黒川創

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━━━━━━━━━【自著を語る(番外編)】━━━━━━━━━━━

クラシック音楽と日本の歴史
「ミハイル・グリゴーリエフの物語」2022夏公演

                  李めぐみ(Alacrity CEO)

「新発掘100年!」
~埋もれていた歴史のStoryが今よみがえる~
クラシック音楽と日本の歴史「ミハイル・グリゴーリエフの物語」2022夏公演

Classical Musicと
Human Storyから
日本の歴史が見えてくる

本コンサートは、1920年にロシアから日本へ亡命し、西洋音楽が縁で
日本人女性と結ばれたロシア人「ミハイル・グリゴーリエフの物語」
をこの時代からラジオの普及により日本でポピュラーミュージックと
なっていったクラシック音楽とともに演奏家が「語り、奏でる。」

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9585

YouTube/アーカイブ動画(2021/07/22)
https://youtu.be/z1UzBeVpJ18

YouTube/告知動画#3
https://youtu.be/O1RXEStREWU

Alacrity 株式会社
https://alacrity.jp/

━━━━━━━━━━【プレゼント企画】━━━━━━━━━━━

以下の公演へ抽選で5組10名様をご招待いたします。

日時: 2022/07/30(土) 19:00(18:30開場)
会場: MUSICASA 東京/代々木上原

応募申込は下記ページにてお願い致します。
 締切日 6月27日(月)午前10時

https://www.kosho.ne.jp/entry2022/0624.html

━━━━━━━━━【自著を語る(293)】━━━━━━━━━━━

最後の著書『昭和の古本屋を生きる』について
                    青木書店  青木正美

 今度の『昭和の古本屋を生きる』について書けというのらしい。

 本書のサブタイトルに「発見又発見の七十年だった」とある通りで、
開業は葛飾の下町、父の自転車店の一部間口6尺、つまり一間分を借
りて始めた。その寸前工場勤めで貰っていた給金は150円だったが、
初日に1700円売れた。支部市場で買ってきて売るだけで、日記と売上
げ記録が残っただけの23年間だった。

 たまに行く神田の市場も一般書の市だけだった。そんな私が変るの
は、改組された「明治古典会」へ、経営主任として招かれた日暮里の
鶉屋書店主に経営員(のち会員)として引かれたことで、もう33歳に
なっていた。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9493

『戦時下の少年読物』青木正美著
日本古書通信社刊 
定価1980円(税込み)好評発売中!
https://www.kosho.co.jp/kotsu/

『昭和の古本屋を生きる』青木正美著
日本古書通信社刊 
定価2860円(税込み)好評発売中!
https://www.kosho.co.jp/kotsu/

━━━━━━━━━【自著を語る(番外編)】━━━━━━━━━━━

鶴見俊輔『日本の地下水 ちいさなメディアから』
(編集グループSURE刊)のこと
                         黒川 創

 哲学者の鶴見俊輔(一九二二〜二〇一五)は、生前、

 「わたしにとって、自分の単著を書いたりすることは、副次的な
仕事にすぎない」

 と語ることがあった。

 では、鶴見の「中心となる仕事」とは何なのか?

 他者との「共同の仕事」が、それにあたるということだった。

 たしかに、鶴見は、『共同研究 転向』(思想の科学研究会編)を
はじめとして、実に多くの共同研究に、みずから先頭に立って携わっ
た。加えて、さらに大きな「共同の仕事」は、雑誌「思想の科学」の
刊行だろう。敗戦の翌年、一九四六年に二三歳で創刊して以来、五〇
年間、自身が七三歳になるまで、編集の中心を担って刊行を続けた。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9573

定価2,860円(本体2,600円+税)
四六判・並製、352ページ
発行・発売 編集グループSURE
好評発売中!

【この書籍は書店での販売をしておりません。】
【編集グループSUREへの直接注文にてお求めください。】
https://www.groupsure.net/
https://www.groupsure.net/post_item.php?type=books&page=220507chikasui

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

「2022年上半期の古ツアをふり返る」(仮題) 
古本屋ツアーインジャパン 小山力也
http://furuhonya-tour.seesaa.net/

『左川ちか全集』 島田龍 編
四六判、上製、416ページ
書肆侃侃房 定価:本体2,800円+税 好評発売中!
https://ajirobooks.stores.jp/items/625000c23463e711bb1550ba

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

6月~7月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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日本の古本屋メールマガジン その349・6月24日

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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クラシック音楽と日本の歴史「ミハイル・グリゴーリエフの物語」2022夏公演

クラシック音楽と日本の歴史「ミハイル・グリゴーリエフの物語」2022夏公演

李めぐみ(Alacrity Inc. CEO)

 

「新発掘100年!」
~埋もれていた歴史のStoryが今よみがえる~
クラシック音楽と日本の歴史「ミハイル・グリゴーリエフの物語」2022夏公演

Classical Musicと
Human Storyから
日本の歴史が見えてくる

本コンサートは、1920年にロシアから日本へ亡命し、西洋音楽が縁で日本人女性と結ばれたロシア人「ミハイル・グリゴーリエフの物語」をこの時代からラジオの普及により日本でポピュラーミュージックとなっていったクラシック音楽とともに演奏家が「語り、奏でる。」

コンサート概要

新たなグローバル文化の波 —「大正モダン」(大正~昭和初期)
 西洋化が急速に推し進められた明治の日本において、西洋クラシック音楽の役割は極めて大きかった。近代音楽教育が始まり、日本の音楽家養成を担う「外国人教師」たちが、ドイツ、オーストリアを中心とした欧米諸国から次々に招かれ、一気に西洋音楽への門戸は開かれた。とはいえ、初めは一般の日本の人々にとって、それは縁遠いもので、時折行われるようになった演奏会も、外国人教師ら一部の専門家のみを対象としていた。ところが、徐々に日本人演奏家が増えるとともに、西洋音楽は観客の裾野を広げ、やがて人々の生活の一部として定着していく。それにともない、もっぱらドイツ音楽が中心となっていた日本の音楽文化にも、新たな「グローバル文化の波」がやってくる。・・・

 明治末期から大正にかけての日本では、ドイツ、オーストリアだけでなく、フランスやロシアなど、ヨーロッパ各国の音楽が広く聴かれるようになっていった。それは、大正に入ると日本でもレコード制作が始まり、ラジオ放送もスタートしたことで、より多くの人々が、より手軽に幅広い音楽に触れることができるようになったからである。これにともない、ハイフェッツ、クライスラー、エルマン、ルービンシュタインといった、欧米のトップレベルの演奏家たちがわざわざ来日し演奏会を行った。やがて時代が進むにつれ、日本からもより多くの学生たちが、西洋音楽を学ぶべくヨーロッパやアメリカへと渡るようになったが、この時期に数多く育った日本を代表する作曲家たちは、西洋的なものを積極的に取り入れ、和洋折衷文化が花開いた大正モダン・昭和モダンの時代を象徴する存在となっていった。

 本コンサートシリーズ「クラシック音楽と日本の歴史」第1回目の公演では、このような大正から昭和初期の「新たなグローバル文化の波」の中で、当時の人々が日々のくらしの中で親しんだ作品、欧米から来日した演奏家たちがレコード制作や演奏会で披露した作品、そしてこの時代の日本を代表するバイオリニストであり女性作曲家である幸田 延の作品の演奏と共に、同時代にロシアから日本へ亡命し、西洋音楽が縁で日本人女性と結ばれたロシア人「ミハイル・グリゴーリエフの物語」を語る。 李めぐみ

歴史概要

 100年前革命期のロシアで、⽇本陸軍のための通訳として活躍した若き将校ミハイル・グリゴーリエフは、その任務の特殊性ゆえに国を追われ日本へと渡った。時は1920年。かつて学んだ「音楽」を生活の糧とし、懸命に毎日を生きた彼は、その音楽が縁で、日本人女性・荒川綾と出会い結ばれる。華やかな西洋文化があふれ始めた東京で不自由なく青春を謳歌し、初めて触れる西洋音楽に胸をときめかせていた綾との結婚は、グリゴーリエフの人生を大きく動かすこととなった。裕福な実力者であった綾の父親の芸術への深い理解と支援を得て、グリゴーリエフは、自らの文学への情熱と学問の喜びを臆することなく深めた。さらに、綾の義兄で詩人の川路柳虹との出会いは、やがてグリゴーリエフを東京の文化芸術人サークルの中心へと導いたのである。そのなかにあって、彼にとっての音楽は、やがて生活の糧から、故郷ロシアへの強い思いを癒す薬のような存在となったが、その活動は、日本の人々の生活に小さいながらも着実な足跡を残していった—たとえば、政治思想家丸⼭眞男が、少年時代に通った映画館「新宿武蔵野館」で、グリゴーリエフ指揮による生オーケストラ演奏に親しんだのがきっかけで、⽣涯クラシック⾳楽を愛好するようになったように・・・

 時代はやがて大きくうねり、穏やかだった二人の生活もまた一変する。日本社会に根ざしてきたグリゴーリエフの心は、より故郷ロシアを追い求める一方、急激に進む国際化の波にのまれた綾は、生まれて初めて、日本人としての自分を深く意識せざるを得ない状況に直面する。すれ違いながらも、離れることができなかった彼らの“かすがい“は、西洋と東洋両方の文化を背負った二人の娘たちだったが、今にも崩れそうな夫婦の関係が、かろうじて娘たちに気取られることがなかったのは、グリゴーリエフが娘たちとともに、音楽を日々の生活にあふれさせていたからかもしれない。

 異国人同士の結婚はまだそれほど多くはなかった時代に、それでも“ごく普通の”夫婦として生きたロシア人青年と日本人女性。そんな二人の生活に寄り添い続けた「西洋クラシック音楽」と、日本のグローバル文化の発展に影響を与えた文化人たちの物語から、日本に西洋文化が取り入れられてきた歴史をたどる。 歴史研究家 榊原小葉子

 
 
 
新たな「体験」と「体感」を創造する
ニューヨーク、ベルリン、サンフランシスコ、東京を拠点に活躍する「音楽家」と「歴史家」、「脚本家」がコラボレーション!クラシック音楽と日本の歴史を新たなアプローチとコンセプトでお届けします。

GLOBAL COLLABORATORS
芸術監督: マリ・リー (New York)
音楽アドバイザー: 薗田奈緒子(Berlin)
歴史家: 榊原小葉子 (San Francisco)
脚本家: 神里雄大(Tokyo)
語り指導: 葉月のりこ(Tokyo)
企画/制作/構成: Alacrity Inc.

出演
Violin: マリ・リー
Piano: 薗田奈緒子
Narration: マリ・リー(綾) / 薗田奈緒子(グリゴーリエフ)

【公演情報】
「クラシック音楽と日本の歴史」Vol. 1 – The Russians
Violin & Piano Duo ~ 歴史‟Story”
「ミハイル・グリゴーリエフの物語」
ロシア人‟グリゴーリエフ”と日本人‟綾”
───異国の地で気づいた互いの「Identity」と「愛」との葛藤

YouTube/アーカイブ動画(2021/07/22)
https://youtu.be/z1UzBeVpJ18

YouTube/告知動画#3
https://youtu.be/O1RXEStREWU

 

日時: 2022/07/30(土) 19:00(18:30開場)
会場: MUSICASA 東京/代々木上原

日時: 2022/07/31(日) 15:30(15:00開場)
会場: やなか音楽ホール 東京/西日暮里

日時: 2022/08/03(水) 19:00(18:30開場)
会場: あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール 大阪/梅田

一般販売(全席自由)
一般:/¥4,800 学生/¥2,400

【お問合せ先】Alacrity Inc.
WEB: https://alacrity.jp/
E-mail: music@alacrity.jp
TEL: 03 5408 9755

Copyright (c) 2022 東京都古書籍商業協同組合

nihon_no_chikasui

鶴見俊輔『日本の地下水 ちいさなメディアから』(編集グループSURE刊)のこと

鶴見俊輔『日本の地下水 ちいさなメディアから』(編集グループSURE刊)のこと

黒川 創

 

 哲学者の鶴見俊輔(一九二二〜二〇一五)は、生前、

 「わたしにとって、自分の単著を書いたりすることは、副次的な仕事にすぎない」

 と語ることがあった。

 では、鶴見の「中心となる仕事」とは何なのか?

 他者との「共同の仕事」が、それにあたるということだった。

 たしかに、鶴見は、『共同研究 転向』(思想の科学研究会編)をはじめとして、実に多くの共同研究に、みずから先頭に立って携わった。加えて、さらに大きな「共同の仕事」は、雑誌「思想の科学」の刊行だろう。敗戦の翌年、一九四六年に二三歳で創刊して以来、五〇年間、自身が七三歳になるまで、編集の中心を担って刊行を続けた。

 また、ベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)など反戦の社会行動も、世代や国境をまたぐ「共同の仕事」だった。これらの行動の合間に、自身の単著を書いていた。どれだけ多忙になっても、自分の著作のために「共同の仕事」を中断しようとはしなかった。それほど強く「共同の仕事」に自負と希望を抱いていたということだろう。

 雑誌「思想の科学」で一九六〇年から八一年という長期にわたり、「日本の地下水」という連載批評欄が続けられた(その前の一九五六年からの三年半は、「思想の科学」の刊行中断期にあたり、この欄は、思想の科学研究会の名で、雑誌「中央公論」に掲載されていた)。一九五〇年代に入るころから、日本の各地で、サークル活動が盛んになった。職場、学校、地域などで、自主的な集まりを定期的に開き、趣味、職能、生活・医療など、共有する関心についての交流をはかる。敗戦からの「復興」が進んで、各自の暮らしに、その程度には余裕が生じたということでもあるだろう。これは、戦前の家父長中心の日本にはなく、戦後の男女の暮らしに新しく生じた動向である。そこでは、自分たちの小雑誌の発行も盛んだった。「日本の地下水」は、これらの小雑誌について、紹介と批評を行なう欄だった。

 この欄は、時期ごとに、雑誌の母体である思想の科学研究会から選抜される三人の筆者によって執筆された。思想史家・武田清子、詩人・関根弘、メディア研究者・田村紀雄、社会学者・天野正子……と、いろんな筆者が入れ替わって、執筆を担当した。一方、鶴見俊輔だけは、「日本の地下水」連載のほぼ全期間、執筆を続けている。彼がどれほどこの企画に力を入れていたかの表れでもあるだろう。

 ただし、この種の「共同の仕事」は、後年、忘却にさらされがちである。たとえば、「日本の地下水」は、毎回、そのときどきの共同執筆者三人の名前が連記されるかたちで発表されていた。どの文章も、直接に執筆を受け持つ者の一人称で書かれているのだが、その筆者当人の名前は明記されていない。

 私は、これらの筆者たちとともに「思想の科学」の編集に携わっていた時期がある。当時は、それぞれの書きぶりで、誰が筆者であるかは、自明のことだった。だが、歳月を隔てると、第三者の目には判定がつかなくなる。こうした状態での放置が続くと、筆者不明の扱いで、そのまま埋没しかねない。

 だから、このたび刊行する鶴見俊輔『日本の地下水 ちいさなメディアから』では、「思想の科学」に記事が掲載された時期を通して、鶴見が執筆した全部で六四編の記事を特定し、すべてを収めることにした。

 「共同の仕事」を、あえてこういう「一個人」の著作に編みなおすことには、一抹の躊躇を覚えないわけではない。だが、いま、私のような「思想の科学」の編集に加わった最後の世代の者が、これを果たしておく責もあるだろうと考えた。鶴見俊輔生誕百年、編集グループSURE創業二〇年という機会をとらえて、ご家族の承諾を得て、刊行に至った次第である。こうやって一冊として通読できる状態にすることで、鶴見による問題のとらえかたの多元性、踏み込みの鋭さ、視野の広さが、読者の目にも届くようにできたかと思う。

 編集グループSUREでこれまで刊行した鶴見俊輔の多くの著作、また、関係者による証言集『鶴見俊輔さんの仕事』①〜⑤などは、それぞれに、彼の「共同の仕事」に目を向けたものである。創業から一三年間をこの人と歩み、その後の七年間は亡き面影を道しるべとしてきた。これに感謝しつつ、未来の本づくりについても考えていきたい。

 
 
 


定価2,860円(本体2,600円+税)
四六判・並製、352ページ
発行・発売 編集グループSURE
好評発売中!

【この書籍は書店での販売をしておりません。】
【編集グループSUREへの直接注文にてお求めください。】
https://www.groupsure.net/
https://www.groupsure.net/post_item.php?type=books&page=220507chikasui

Copyright (c) 2022 東京都古書籍商業協同組合

2022年6月10日号 第348号

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 古書市&古本まつり 第113号
      。.☆.:* 通巻348・6月10日号 *:.☆. 。
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━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

「東京古書組合百年史」第43回日本出版学会特別賞受賞について

                   けやき書店 佐古田亮介

 この受賞のことをすでに知っている人もいるでしょう。私が知っ
たのは確かな記憶はないのだが、たぶん4月の下旬頃に、広報理事
から知らされた。資料会の時だったので相澤理事だったはずだ。出
版学会から組合に、受賞が決まりましたがお受けいただけますか。
と問い合わせが来たそうで、すぐにお受けいたします。と答えて受
賞決定となったようです。その時に相澤理事から、授賞式に出て下
さいね。言われたのだと思います。何しろ私は、この賞の存在すら
知らずにいたので、慌ててネット検索をしてみて、大変名誉ある賞
であることを知りました。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9468

日本出版学会
https://www.shuppan.jp/

日本出版学会 第43回 日本出版学会賞(2021年度)
https://www.shuppan.jp/materials/jyusho/2022/04/19/1999/

━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━━

古本が繋がる時3
                   樽見博(日本古書通信社)

 古泉千樫が長塚節遺品の中から、遺族に懇願して持ち帰った、書
き入れのある茂吉歌集『赤光』はその後どうなったのだろうか。千
樫の『随縁抄』に、「土岐哀果編『萬葉短歌全集』に就て」という、
「アララギ」大正5年2月から4月号に掲載された評論が収録され
ている。大正4年に東雲堂書店から刊行された善麿(哀果)編纂
『萬葉短歌全集』を、千樫が詳しく批評したものだ。千樫は「僕も
萬葉集尊重者の一人であり又折角土岐君がいゝ仕事をして呉れたの
に対して、自分の気づいたところは遠慮なくいうた方がよいと思ふ
ので、読過の際標をつけておいたものを書き抜いて見ようと思ふ」
と書いている。つまり長塚節が『赤光』に注記していったのと同じ
ことをしたのである。千樫が節の書き入れ『赤光』を詳しく紹介し
たのは大正9年だが、その本は大正4年2月から千樫の手元にあった。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9369

━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見3】━━━━━━━━━

伊那市創造館 時代の風を受けながら        南陀楼綾繁

 2021年12月5日、長野県伊那市の伊那市創造館を訪れる。JR飯田線
の伊那市から歩いてすぐのところにあり、通り町商店街も近い。

 じつはその2か月ほど前、茅野市でのトークイベントのあとで平賀
研也さんに案内されて、いちどここを訪れている。平賀さんは県立
長野図書館の館長になる前、2007年から8年間、伊那市立伊那図書
館の館長だった。現在もこの地に住んでいる。

 芝生が広がる敷地に入ると、モダンな建物が目に飛び込んでくる。
1930年(昭和5)に「上伊那図書館」として建設されたもので、2004
年に閉館。2010年には体験型生涯学習施設である伊那市創造館(以
下、創造館)としてリニューアルオープンしている。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9510

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

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「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

コショなひと 虹書店
コショなひと 古書りぶる・りべろ 前編
コショなひと 古書りぶる・りべろ 後編
コショなひと 相澤書店
コショ怪談  古書りぶる・りべろ

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━━━━━━━━【お知らせ】━━━━━━━━━━━━

◆『木村晃子原画展』開催中◆

会期 2022年6月10日(金)~23日(木) 10時~17時(日曜休館)
会場 東京古書会館 2階情報コーナー
時間 10時~18時
主催 くだん書房 電話:03-3233-2020 Mail:boss@kudan.jp
         営業時間:13:00〜18:00(日曜定休)
入場無料

詳細は
https://www.kosho.ne.jp/?p=514

━━━━━【6月10日~7月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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仙台古本まつり(宮城県)

期間:2022/04/22~2022/07/06
場所:イービーンズ9階 杜のイベントホール 宮城県仙台市青葉区中央4-1-1

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TOKYO BOOK PARK 吉祥寺

期間:2022/05/20~2022/10/30
場所:吉祥寺パルコ2階 武蔵野市吉祥寺本町1-5-1

https://twitter.com/TOKYOBOOKPARK

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第四回 リブロ古書フェス2022(沖縄県)

期間:2022/06/01~2022/06/30
場所:リブロ リウボウブックセンター(パレットくもじ7F) 那覇市久茂地1丁目1-1

https://okinawa-kosyo.jimdofree.com/

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大田原東武古書の市(栃木県)

期間:2022/06/03~2022/06/12
場所:東武百貨店大田原店 3階催事場(栃木県大田原市美原1丁目3537-2)
   ■JR那須塩原駅(新幹線)よりタクシーで約30分
   ■JR西那須野駅(宇都宮線)よりタクシーで約10分 大田原市営バスで約8分
    「西那須野駅(東口)」~「東武百貨店前」下車
   ■西那須野塩原I.C.より約15分
   ■矢板I.C.より約30分

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フジサワ古書フェア(神奈川県)

期間:2022/06/09~2022/06/22
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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フィールズ南柏 古本市(千葉県)

期間:2022/06/10~2022/06/28
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場  柏市南柏中央6-7

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書窓展(マド展)

期間:2022/06/10~2022/06/11
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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好書会

期間:2022/06/11~2022/06/12
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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御茶ノ水ソラシティ古本市

期間:2022/06/12~2022/06/19
場所:御茶ノ水ソラシティプラザ 千代田区神田駿河台4-6 地下1階
   JR御茶ノ水駅 徒歩1分、東京メトロ新御茶ノ水駅聖橋方面改札直通

https://twitter.com/koshoichi

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新興古書大即売展

期間:2022/06/17~2022/06/18
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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第21回 つちうら古書俱楽部 梅雨どきの古本市(茨城県)

期間:2022/06/18~2022/06/26
場所:つちうら古書俱楽部内

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第100回シンフォニー古本まつり(岡山県)

期間:2022/06/22~2022/06/27
場所:岡山シンフォニービル1F  自由空間ガレリア

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和洋会古書展

期間:2022/06/22~2022/06/23
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2022/06/23~2022/06/26
場所:さくら草通り(JR浦和駅西口 徒歩5分 マツモトキヨシ前)

https://twitter.com/urawajuku

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第24回 フジサワ湘南古書まつり(神奈川県)

期間:2022/06/23~2022/06/26
場所:有隣堂藤沢店イベントホール (フジサワ名店ビル6階)

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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オールデイズクラブ古書即売会(愛知県)

期間:2022/06/24~2022/06/26
場所:名古屋古書会館 2階 名古屋市中区千代田5-1-12

https://hon-ya.net/

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第2回 みんなでつくる古本祭り~平安神宮~(京都府)

期間:2022/06/24~2022/06/28
場所:京都・平安神宮

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ぐろりや会

期間:2022/06/24~2022/06/25
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://www.gloriakai.jp/

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古書愛好会

期間:2022/06/25~2022/06/26
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

https://koshoaikoukai.jimdosite.com/

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東京愛書会

期間:2022/07/01~2022/07/02
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://aisyokai.blog.fc2.com/

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横浜めっけもん古書展(神奈川県)

期間:2022/07/02~2022/07/03
場所:神奈川古書会館1階 横浜市神奈川区反町2-16-10

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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大均一祭

期間:2022/07/02~2022/07/04
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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西部古書展書心会

期間:2022/07/08~2022/07/10
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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趣味の古書展

期間:2022/07/15~2022/07/16
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

https://www.kosho.tokyo

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日本の古本屋メールマガジンその348 2022.6.10

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 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
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伊那市創造館 時代の風を受けながら  【書庫拝見3】

伊那市創造館 時代の風を受けながら  【書庫拝見3】

南陀楼綾繁

 2021年12月5日、長野県伊那市の伊那市創造館を訪れる。JR飯田線の伊那市から歩いてすぐのところにあり、通り町商店街も近い。

 じつはその2か月ほど前、茅野市でのトークイベントのあとで平賀研也さんに案内されて、いちどここを訪れている。平賀さんは県立長野図書館の館長になる前、2007年から8年間、伊那市立伊那図書館の館長だった。現在もこの地に住んでいる。

 芝生が広がる敷地に入ると、モダンな建物が目に飛び込んでくる。1930年(昭和5)に「上伊那図書館」として建設されたもので、2004年に閉館。2010年には体験型生涯学習施設である伊那市創造館(以下、創造館)としてリニューアルオープンしている。

 その向かいに立つ武井覚太郎銅像を指して、「この館の恩人です」と平賀さんが云う。武井は辰野町出身で、父が興した器械製糸業を継ぎ、のちに片倉製糸と合併して経営に当たった。郷土の大実業家であり、政治家でもあった。武井はこの図書館の建設費として14万円(現在の貨幣価値で約7億円)を寄付している。覚太郎はこの館の設計者に、片倉館(諏訪市)や台湾総督府を手がけた森山松之助を指名。のちに県内の鉄筋コンクリート建築を多くつくった黒田好造が引き継ぎ、完成させた。外壁には地元産の高遠焼のタイルが使われている。

伊那市創造館外観。気持いい冬晴れだった

テーマは「昭和の図書館」

 館内に入ると、館長の捧(ささげ)剛太さんが出迎えてくれる。東京生まれで、岡谷市にあるカメラメーカーに勤務後、創造館の初代館長公募に応じ、現在まで同職にある。捧さんの案内で二階に上がると、企画展などの展示室、伊那谷を放浪した俳人・井上井月(せいげつ)の展示室などがある。

 お目当ての書庫は、この奥にある。ここには昭和期の書籍を中心に、約1万5000冊が所蔵されているのだ。
「ふだんは鍵をかけていますが、事務室で声をかけてもらえればどなたでも見学できます」と、捧さんは云う。

 中に入ると、木の床に木製の棚が並ぶ。手前には階段があり、上の階にも書庫がある。一見して、戦前の本が多い。
「この書庫は戦前の本の世界が目に見えるものにしたいと考えました。同じ伊那市立でも高遠町図書館は幕末から明治の本を多く所蔵する〔江戸の図書館〕、創造館は〔昭和の図書館〕という位置づけです」と平賀さんは云う。

 書庫内の本はきちんと書架に並び、あとで触れるようなテーマについては解説パネルがつくられている。それらを読みながら書庫を一周すると、昭和の本の世界が体感できるようになっている。ここまで見学者に親切な書庫は珍しいだろう。

 本の整理やパネル制作の中心となったのは、学芸員の濵(はま)慎一さん。富士見町出身で、創造館開館時から勤めている。
「伊那図書館を閉館して、創造館にリニューアルする際、戦前の本は書庫の中で埃まみれになっていました。それを伊那図書館に運んで整理し、OPAC(オンライン蔵書目録)に登録して創造館に戻しました」と、濵さんは話す。

 こういった経緯を経て、この書庫は「昭和の図書館」として生まれ変わったのだ。

武井覚太郎と上伊那図書

 ここで重要なのは、2004年に閉館した上伊那図書館は、伊那市立ではなく、上伊那教育会が運営した図書館だという事実だ。1994年7月、別の場所に伊那市立図書館が開館するまで、伊那には公立の図書館は存在しなかったのだ。
「長野県では明治期から地域の青年団活動が盛んだったこともあり、1929年(昭和4)の『御大禮記念 長野県勢大観』には、私立の図書館が160館と全国で最多だとあります」と、平賀さんが解説する。前回取材した県立長野図書館はこの年に開館。上伊那図書館の開館はその翌年だ。

 当時、上伊那教育会の会長で初代館長となる原才三郎は、1921年(大正10)に『上伊那郡史』を完成させたとき、「この次は、図書館だなあ」と云ったという(『上伊那図書館閉館記念誌』上伊那図書館)。

 図書館の敷地として、伊那実科高等女学校が火災で焼失した跡地を使えることになり、設立資金のために寄付を募った。創造館に残る寄付台帳には、長野県出身の岩波茂雄、上伊那出身で古今書院創業者の橋本福松らの名前が見える。しかし、寄付を約束しながら実際には払わなかった人も多かったらしく、当初の目標の十分の一にも達しない状況だった。そこで、武井に相談したが、最初は取り合ってもらえなかった。

寄附芳名簿(左)と、寄附賃金台帳と寄附依頼者氏名(右)。これも現物を閲覧できる。

 当時を知る者は、武井は欧米を訪れた際、ニューヨークやパリの図書館を見学しており、「折角立派な建物を建てても、それが立ちぐされになってはいけない。また教育の立場に立って使われるかどうかということを心配されたのだと思います」と推測する(座談会「上伊那図書館を語る」、『創立五十周年記念誌』上伊那図書館)。再度の懇請によって寄付を引き受けてからは、工事の様子を毎日のように見に来ていたという。

 武井は建築費とは別に図書購入費として1万円を寄贈。購入した本には「武井文庫」という印が押されている。

 落成した上伊那図書館は、4階建て。平面図を見ると、1階には館長室や印刷室、2階には一般閲覧室と児童閲覧室があり、3階が講堂、4階が参考室となっている。書庫は1階と2階に4層あったようだ。書庫にある書架や椅子は開館当時のものだ。
「書庫を整理した余った書棚は、2014年に伊那図書館で開催した『一棚古本市』で利用したんです」と、平賀さん。

 開館時の蔵書数は、約1万1000冊だった。開館時の蔵書には、『日露戦争実記』など日露戦争に関するものが多かったという。

 同館には開館時からの日誌が残されており、濵さんらはそれを読み込んで、この館の歴史を紐解いてきた。その成果として、2016年1月~5月に「伊那市創造館と秘密の書庫」という企画展が開催された。開館に関わった人物や、戦争と上伊那図書館の関係、主要な蔵書を紹介するとともに、館全体を使ってのお宝探し企画も開催された。

「伊那市創造館と秘密の書庫」のチラシ。子ども達にむけて、人気映画を思わせるタイトルとデザインに。

戦争と図書館

「戦争との関係では、発禁本についての発見がありました。日誌には1933年(昭和8)からマルクス主義関係などの図書が没収された記述があります。発禁になった本は図書原簿からも削除されました」と、濵さんは云う。警察署からの発禁本通知書は、県立図書館への通達の翌日に届いているそうだ。一方、1944年(昭和19)に購入した294冊のうち、50冊が戦争関係の本だった。

 また、都市部への空襲が激しくなると、東京の徳川黎明会が所蔵する「蓬左文庫」や、東京産業大学(現・一橋大学)の「メンガ―文庫」「ギルケ文庫」の疎開を受け入れた。1945年(昭和20)5月には一般閲覧室が海軍の衣料工場に使われ、閲覧が停止された。

 戦争が終わると、今度は進駐軍への対策に追われる。9月1日の「蔵書整理ニ関スル件」という県からの通達には、敵愾心をあおる資料を隠匿せよとあった。10月には上伊那図書館が進駐軍のアメリカ軍70名に接収されることになった。
「それからの館内は正にテンヤワンヤである。書庫の中にある戦争に関する本は全部持ち出すし、講堂にある折畳みの椅子や閲覧室のテーブル椅子も全部伊那小学校へ運ぶ。疎開中の荷物は急遽荷造りして発送する、という具合にまねかざる客を迎えるに大童となった」(中村弥紋太「回想 進駐軍接収のころ」、『創立五十周年記念誌』)

 アメリカ軍は3か月後に同館を去るが、滞在中に一人の米兵が本棚に「Jack」というサインを残している。

 書庫にはほかにも、戦時中の戦争協力を呼びかけるポスターや、終戦直後のいわゆる「墨塗り教科書」が展示されている。『日本地理風俗大系』全30巻は、1944年8月に、日本の国勢が判ってしまうため「防諜上公開禁止」とされ、伊那署に供出させられたのが、戦後に戻されたという。

戦時中の教科書の展示。書棚中段、黒塗りされたページが開かれている。

 図書館のありかたが戦争や国家に左右されてきた歴史を、この書庫は示しているのだ。年表を見ると、1944年4月に名誉館長の武井覚太郎が、1945年11月に初代館長の原才三郎が相次いで亡くなっているのも、なんだか感慨深い。
「書庫の本はすべて手に取ってみることができます。それらに触れて、当時の生活や価値観を感じてほしいです」と、濵さんは話す。

 お話を聞いたあと、書架の間をめぐって本を眺める。倫理学、仏教、歴史、教育……。従軍体験を書いた本が並ぶ一角もある。

 初代の高遠町長を務めた中村家の蔵書は、4列に収まっている。同家の本棚の並びそのままに、この書庫に移されたという。洋書のツアーガイドなど旅行関係が目につく。その中に、サトウハチロー『僕の東京地図』(有恒社)があったりする。『ロビンソン漂流記』『西遊記』『アラビアンナイト』など冨山房発行の児童書シリーズは、天金・イラスト入りの豪華本だ。「1巻につき3円80銭(現在の物価で約2万円)もする高価な本を子どもにたくさん買い与えることができるほど、すごい家だったんですね」と、濵さんはつぶやいた。

鉱物標本、剥製、甲冑、絵本……まだまだ凄い収蔵庫棟へ

 いやー、すごかった、書庫を十分堪能したと思ったが、じつはまだこれで終わりではなかった。同館には収蔵庫棟があり、ここがまた、とんでもない場所だったのだ。

 先に触れたように、上伊那図書館は2004年に閉館する。伊那図書館とは約10年間並立していたが、上伊那図書館の利用者は減少していた。そんなとき、伊那市駅前再開発ビルに上伊那教育会が入ることになる代わりに、上伊那図書館は伊那市に寄託され、伊那市創造館として生まれ変わった。

 上伊那図書館の隣には、1967年に「上伊那郷土館」という施設が開館し、明治以降に収集された郷土の文化財を収集・公開していた。しかし、同館の老朽化が進んだことから、上伊那図書館が伊那市に寄託されるのに際して、同館は取り壊され、跡地に現在の収蔵庫が建設されたのだ。

 この収蔵庫は地上1階、地下1階で、作業室を除けばすべてが収蔵室になっている。この中を見せていただいたが、あまりに膨大なモノがありすぎて、とても把握しきれない。
『上伊那教育会所蔵文化財 目録と考察』(上伊那教育会)によれば、その内容は、人文(美術・考古・歴史・人物・民俗)、自然(植物・昆虫類・鳥類・哺乳類・地質・気象)に分かれている。
「人物」の中には、高遠出身で音楽教育に寄与した伊沢修二に関するコレクションがあって、伊沢がハーバード大学に留学中に聴講したグラハム・ベルの講義録なども所蔵されている。

 また、上伊那図書館の恩人である武井覚太郎の孫が、ニューヨークで購入した仕掛け絵本のコレクションなどというものもある。

 自然関係の収蔵室には「長野県内岩石鑛物標本」と蓋に書かれた箱があった。これは前回、県立長野図書館で触れた保科百助(五無斎)が収集し、県内の各学校に寄贈したものだ。上伊那教育会に招かれた保科は、郡下の教員とともに1週間かけて岩石を採集したという。こんなところで、この人に再会するとは思わなかった。


保科百助が寄贈した鉱物標本の箱とその中身

創造館の書庫が一般公開されているのに対し、こちらの収蔵庫には基本的に関係者以外は入ることができない。自然科学の地質の部屋は、事務室で声をかけてくれれば、展示物を見られるという。また、考古・民俗や自然科学の動植物の部屋も見学できるよう準備中だそうだ。ぜひ収蔵庫ツアーを企画してほしい。

 公立図書館ができる前から、地域の教育関係者と篤志家によって設立され、時代の風を受けながら運営されてきた上伊那図書館。その資料をもとに、開かれた「昭和の図書館」として生まれ変わった伊那創造館。書庫を見ることで、二つの館の継承のかたちを知ることができたと思う。

 充実した取材だったが、心残りがひとつ。館の近くにある、レトロな看板が魅力的な〈餃子の店 山楽〉が、前回も今回も営業していなかったのだ。次に伊那を訪れるときにはぜひ入りたいものです。

 
 
 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

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最後の著書『昭和の古本屋を生きる』について

最後の著書『昭和の古本屋を生きる』について

青木書店 青木 正美

 

 今度の『昭和の古本屋を生きる』について書けというのらしい。

 本書のサブタイトルに「発見又発見の七十年だった」とある通りで、開業は葛飾の下町、父の自転車店の一部間口6尺、つまり一間分を借りて始めた。その寸前工場勤めで貰っていた給金は150円だったが、初日に1700円売れた。支部市場で買ってきて売るだけで、日記と売上げ記録が残っただけの23年間だった。

 たまに行く神田の市場も一般書の市だけだった。そんな私が変るのは、改組された「明治古典会」へ、経営主任として招かれた日暮里の鶉屋書店主に経営員(のち会員)として引かれたことで、もう33歳になっていた。

 ……私はこんな文学書ばかりの古書市場があるのを知らなかった。まるで水を得た魚が私だった。好きだった作家原稿・手紙などをじかに手にすることが出来る!その時の同じ仲間だった一人が言った。「まるで何かを狙う虎狼の眼だったぜ!」

 さて今回の本の紹介の方だ。一応まとめたので出版をたのんだ日本古書通信社の編集長に目次を送ったのである。すると中の一篇「戦時下の少年読物」を見せろと言う。「まずこれだけで一冊作っちゃうよ」ということになる。小形本ながら、なかなかの本に仕上ってしまう。

 ただ困ったのは、残された文章たちだ。と言ってもう時間はないし根気もなかった。頼るとすれば、古通に連載した古い「古本屋控え帳」の文章群しかない。早速読み直してみたが、これがけっこう面白いのである。「控え帳」は昭和61年5月号からの連載で、以来今年で36年間を超えて424回にもなった。おかげでこの欄から生まれた本は多く、東京堂出版の『古本屋奇人伝』『古本屋控え帳』、博文館新社からの『自己中心の文学—日記が語る明治・大正・昭和』、本の雑誌社の『文藝春秋作家原稿流出始末記』などの本になった。

 そして最後の本となる本書の構成である。

  1「田村泰次郎の戦線手記」
 から始まる。明治古典会に入ったすぐの頃買ったもので、この全資料一箱には私以外の誰も入札しなかった。最低価で買ったもので、まさかそこに7年間に及ぶ実戦下の作家の手記が入っていようとは買った本人も思わなかった。当時業界では見るのさえいやな戦争記録だったのだろう。この章で私は、限られたものであるにしろ日本の軍隊を象徴させてみたつもりだ。(令和元・9月〜同3年8月連載)

  2「永六輔の時代」
 これは私と同年同月生れ、6年前に物故されたこの人に、昭和ヒトケタ世代の代表として登場して貰い書いたものだ。(平29・2月〜9月に連載)

  3「若き古本屋の恋」
 当時すでに石原慎太郎の『太陽の季節』が出ていたが、あれはいわば当時の「上流社会の青春」だ。私のは片思いの道しかのぞめない階層、家庭環境だったことを自らの日記で示したかったのだ。

  4「カストリ雑誌は生きている——街の古本屋の棚に見る性風俗40年の興亡」
 このタイトルは、「新潮45」の編集者がつけた。注文で書いたもので、「ある有名作家の穴埋めに何か書け」と言うことだった。多分ここで紹介した事情が当時の一般庶民の性欲の吐け口の一面。それに乗った出版界、果ては古本屋の実態だった。いつか書いておきたいと、集めたままの資料が生きることになった。昭和50年、まだ50歳の時の文章だ。世の中、流行歌「矢切の渡し」がはやっていた。

  5「下町業界の生活と盛衰」
 弘文荘反町茂雄とは晩年10年間沢山の手紙を交換までするようになった。これは主催されていた「訪書会」に招かれ語ったもので、『紙魚の昔がたり。昭和篇』(八木書店刊)に収載のもの。ちなみに鹿島茂著『神田神保町書肆街考』中には反町茂雄の著書とこの談話が多く引用されていることに何とも言えない矜持を感じる。

  6「古本屋の船旅世界一周記」
 100日間の世界一周の記録だが、古書会館の古本市ばかりが気になる日々で、私は50日で帰りたくなった。ただ、あれほど妻がよろこぶとはね。生涯の罪ほろぼしになった。

  7「私の徒然草」
 読み始めると面白くてやめられなくなった。調べて書いたとは言え、戦時下の古書業界をこれほど詳細に文章化したものはないと思う。またキャサリーン台風時の下町業界も。

 結局、松井須磨子、阿部定や下って豊田正子などの文献を紹介した「文献の章」や、まだ何とか間に合ってお会い出来た人などの「人物像の章」など4章に分けて並べた。一例を挙げよう。

 佐藤慶太郎という人がいた。上野公園に建つ東京都美術館(今のは三代目の建築)の初代寄贈者だったことは行けば別室があるので分かる。石炭王と言われた方で、実は駿河台の山の上ホテルの建設者でもあった。「山の上ホテル」、戦前はその名を冠した「佐藤新興館」という教育施設でもあった。昭和16年には海軍省が使用、敗戦後はGHQが占拠。現在の「山の上ホテル」になるのは昭和29年からだった。私はここまでの調査でやめたが、これだけでも当時「古本探偵」を自称していた自分を思い出させてくれる。

 もうやめよう。こんなことが書かれた本だったのである。

 あと1年生きていればの 青木正美

B6判 576頁 定価2600円+税
日本古書通信社刊行
 
 
 


『昭和の古本屋を生きる』 青木正美 著
日本古書通信社刊 
定価2,860円(税込み) 好評発売中!
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『戦時下の少年読物』 青木正美著
日本古書通信社刊 
定価1,980円(税込み) 好評発売中!
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「東京古書組合百年史」第43回日本出版学会特別賞受賞について

「東京古書組合百年史」第43回日本出版学会特別賞受賞について

けやき書店 佐古田亮介

 

 この受賞のことをすでに知っている人もいるでしょう。私が知ったのは確かな記憶はないのだが、たぶん4月の下旬頃に、広報理事から知らされた。資料会の時だったので相澤理事だったはずだ。出版学会から組合に、受賞が決まりましたがお受けいただけますか。と問い合わせが来たそうで、すぐにお受けいたします。と答えて受賞決定となったようです。その時に相澤理事から、授賞式に出て下さいね。言われたのだと思います。何しろ私は、この賞の存在すら知らずにいたので、慌ててネット検索をしてみて、大変名誉ある賞であることを知りました。

 前回の第42回は、あの凸版印刷株式会社印刷博物館が受賞しているのだ。ついに東京古書組合も、あの様に様々な企画展を行って世間に広く認知されている印刷博物館と並ぶ評価を得たのだ。と、思わずニンマリしてしまったが、同時に何か重大な責任を背負ってしまったようにも感じた。もう迂闊なことは出来ないぞ。といったような思いがヒシと迫って来たのだ。これは組合が受けた賞なのだが、同時に組合員全員が受けたものでもあるはずだ。この際そうした自覚は必要だと思う。つまり今後は、周りからはそうゆう眼で見られるということだ。まあ、私ひとりで何が出来る訳でもないのだが、組合員一人一人が自覚を持って行動することは、非常に大事なことであるはずだ。

 受賞式は、5月14日土曜日に千代田区三崎町の日本大学法学部本館にて行われた。私と梶塚理事との二人で出席したが、事前に服装について打ち合わせをしていた。スーツかカジュアル。あまりに違い過ぎると何だか一体感がなくなって組合の印象も悪くなるような気がしたからだ。梶塚理事からはカジュアルで行きます。との返事が来たので、私は詰まらない服しか持っていないためカジュアルとはならないのだが、ノーネクタイで行くことにした。ネクタイは大の苦手なので大助かりであった。受賞式は、日本出版学会総会の中に組み込まれていて授賞式の時間に合わせて出席したので、1時間もかからなかった。人もそんなに多くはなくて40人ぐらいが長い教室に距離を置いて座っていた。顔見知りが二人もいたのにはビックリした。

 2021年度第43回の受賞式は奨励賞2点、特別賞2点であった。奨励賞は受賞対象となった本の著者2名に送られ、特別賞は組合百年史ともう一つは「大宅壮一文庫」に送られた。古書組合もとうとう大宅文庫と並んだのだ。何たる名誉。益々社会的に重責を担うことになった次第だ。受賞理由などはネットで探せば出て来るので、是非ご一読してみて下さい。ここに書いたことは決して大げさなことではないと、ご納得いただけることと思います。
 
 
 

日本出版学会
https://www.shuppan.jp/
日本出版学会 第43回 日本出版学会賞(2021年度)
https://www.shuppan.jp/materials/jyusho/2022/04/19/1999/

 
 


授賞式の様子

第43回 日本出版学会賞【特別賞】 賞状

 


「東京古書組合百年史」
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2022年5月25日号 第347号

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☆INDEX☆
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1.ポラン書房を撮る 映画『最終頁』について
         中村洸太(映画『最終頁』/監督・撮影・編集)

2.「無駄」を愛するあなたへ贈る本 『地下出版のメディア史』
                大尾侑子(東京経済大学准教授)

3.『近代出版史探索Ⅵ』              小田光雄

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━━━━━━━━━【自著を語る(番外編)】━━━━━━━━━━━

ポラン書房を撮る 映画『最終頁』について
         中村洸太(映画『最終頁』/監督・撮影・編集)

 「自著を語る」の番外編として、私が自主制作したドキュメンタリ
ー映画『最終頁』を紹介させていただきます。

 この映画は、古書店「ポラン書房」の閉店を描く、10分間のドキュ
メンタリーです。ポラン書房は、東京都練馬区の西武池袋線・大泉学
園駅にあった古書店で、2021年2月7日に実店舗営業を終えました(現
在はオンラインで営業中です)。映画は、店主の石田恭介さんが緊張
した面持ちで営業終了の時刻を告げる場面から始まります。そこから
数週間前に遡り、ポラン書房のこれまでの足取り、パンデミック下に
受けた影響と閉店に至るまでの経緯を辿りつつ、石田さんや客たちそ
れぞれの書棚への思いに光を当てています。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9425

プロフィール 
中村洸太
1998年東京生まれ。立教大学社会学部在学中に映画サークル「シネマ
トグラフ」に所属し、自主映画を制作。現在は京都大学大学院 人間・
環境学研究科 修士課程に在学し、映画学を専攻している。

映画『最終頁』(短編版・約10分) 中村洸太(監督・撮影・編集)
YouTube: https://youtu.be/L6WrpBzNu5s

━━━━━━━━━【自著を語る(291)】━━━━━━━━━━━

「無駄」を愛するあなたへ贈る本 『地下出版のメディア史』
                大尾侑子(東京経済大学准教授)

■「変態」は現代でもNG?:
 2021年10月、ニュースサイトをスクロールしていると、ある記事が
目に飛び込んできました。“サブカルチャーの聖地”、中野ブロード
ウェイの某店舗が、風営法違反の疑いで警視庁に書類送検されたとい
うのです。事件の詳細や是非はさておき、記事に添えられた写真には、
〈営業禁止区域でアダルトショップを違法営業していた法人等による
風営法違反事件 保安課・中野署〉と書かれた貼り紙のもと、「DVD」
「Blu-ray」「書籍」「ビデオテープ」「レーザーデスク」「写真集」
といった押収品が、段々のテーブルにずらりと並べられていました。
もっとも「猥せつ」らしき部分は付箋で隠され、背表紙も後ろに向け
られています。段々の机にお上品に佇むその姿は、不謹慎にも“三段
飾りの雛人形”さながらで、なんとも滑稽。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9409

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■【試し読み】
地下出版のメディア史 高級エロに命をかけた知識人たち(慶應義塾大学出版会note)
https://note.com/keioup/n/n8f18ade3ccca
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『地下出版のメディア史
エロ・グロ、珍書屋、教養主義』 大尾 侑子 著
慶應義塾大学出版会 定価:4,950円(税込)好評発売中!
https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766428032/

━━━━━━━━━【自著を語る(292)】━━━━━━━━━━━

『近代出版史探索Ⅵ』                小田光雄

 論創社の森下紀夫、小田嶋源両氏の全面的なバックアップを受け、
3年余の短い期間で、本探索も六巻目となった。お二人の期待に応え
るためにも、とりあえず十巻をめざし、今しばらく書き続けていくつ
もりだ。

 本探索の目的は各巻の「あとがき」で、様々に述べてきたが、一巻
で既述しておいた「新たな近代出版史の森の造形」はなされつつある
し、姿を見せ始めているといっていいだろう。ただどれだけの読者が
いるのかは定かでないし、書評もまったく出ないに等しいので、少し
ばかり残念ではある。しかしここまで刊行できたわけだから、版元だ
けでなく、書店と図書館の支援、少数ではあっても読者の存在を信じ
たい。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9360

近代出版史探索Ⅵ  小田光雄 著
論創社刊  6000円+税 好評発売中!
https://ronso.co.jp/

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

‟ 新たな「体験」と「体感」を創造する ”

「クラシック音楽と日本の歴史」Vol. 1 – The Russian Violin & Piano Duo ~ 歴史‟ Story ”
「ミハイル・グリゴーリエフの物語」
企画・制作・主催 Alacrity Inc.
https://alacrity.jp/

詳しくは、6/24号メルマガでご紹介いたします。
どうぞ、お楽しみに!

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鶴見俊輔 生誕100年記念出版
『日本の地下水──ちいさなメディアから』     鶴見俊輔 著
2022年5月下旬刊行予定 定価2,860円(本体2,600円+税)
四六判・並製、352ページ 発行・発売・ご注文は 編集グループSURE
https://www.groupsure.net/post_item.php?type=books&page=220507chikasui

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『戦時下の少年読物』青木正美著
日本古書通信社刊 
定価1980円(税込み)好評発売中!
https://www.kosho.co.jp/kotsu/

『昭和の古本屋を生きる』青木正美著
日本古書通信社刊 
定価2860円(税込み)好評発売中!
https://www.kosho.co.jp/kotsu/

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

5月~6月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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日本の古本屋メールマガジン その347・5月25日

【発行】
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 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
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【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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ポラン書房を撮る 映画『最終頁』について

ポラン書房を撮る 映画『最終頁』について

中村洸太

 

 「自著を語る」の番外編として、私が自主制作したドキュメンタリー映画『最終頁』を紹介させていただきます。

 この映画は、古書店「ポラン書房」の閉店を描く、10分間のドキュメンタリーです。ポラン書房は、東京都練馬区の西武池袋線・大泉学園駅にあった古書店で、2021年2月7日に実店舗営業を終えました(現在はオンラインで営業中です)。映画は、店主の石田恭介さんが緊張した面持ちで営業終了の時刻を告げる場面から始まります。そこから数週間前に遡り、ポラン書房のこれまでの足取り、パンデミック下に受けた影響と閉店に至るまでの経緯を辿りつつ、石田さんや客たちそれぞれの書棚への思いに光を当てています。

 ポラン書房は、小学校入学前からなじみの「街の古本屋さん」でした。駅前に移転するまで、大泉学園通りを北に進んだ関越自動車道の高架近くにあり、よく父に連れて行かれました。入り口の正面ではゴリラのぬいぐるみが出迎え、左右に高い本棚が聳え立つ店内は、幼かった私の目には、どこか非日常的な異空間に映ったことを覚えています。その後、ポラン書房は駅から徒歩5分の便利な場所に移転し、店の規模は倍に、店内の明かりは蛍光灯から暖かな色の白熱電球になりました。こだわりの内装で彩られた店内は、端から端まで美しく本が並べられ、ただそこに立って本の背を眺めているだけで不思議な幸福感に包まれました。ドアの風鈴の音とともに中に入ると、私のお気に入りの映画の棚が左の壁際に、漫画の棚が右側の突き当たりにありました。ポラン書房はトークショーなどのイベントをよく開いており、2010年、私が11歳のとき、店内で上演された演劇をMini DVカメラで撮影したこともありました。石田さん自身も出演された朗読劇です。

 今思うと、私にとってポラン書房は「そこにあるのが当たり前」な存在だったのかもしれません。私は必ずしも熱心な客ではありませんでした。ポランが閉店すると知ったのは、新型コロナウイルスのパンデミックから1年が経とうとしていた、2021年の1月初めのことでした。私は大学の自主映画制作サークルで主に劇映画を作っていました。突然の閉店の知らせを聞いたとき、かつてポラン書房でカメラを回したときの記憶がにわかに蘇り、その魅力的な迷路を思わせる空間をカメラに記録したいという衝動、今ポラン書房の閉店の現実に向き合わなければ後悔するのではないかという思いに駆られました。

 ありがたいことにすぐに石田さんに撮影の許可をいただくことができ、1月23日からひとりカメラを持って撮影を始めました。予め映画の全体像は考えず、撮影中はできる限り目の前で起きる出来事をカメラに記録し続けるように努めました。店内は自由にカメラを置けるほど広くはないため、必然的に撮影中はカメラと被写体との距離は近くなります。準備期間がほとんど無かったこともあり、ポラン書房の皆さんがカメラを意識せずに振る舞うということはほとんど不可能だろうと考えました。さらに、閉店という事態も被写体の方々にとって非常にデリケートなものなので、部外者の撮影行為が与える心理的影響にも自覚的でなくてはならないと思いました。そのため、映画を客観的な閉店の記録とするのではなく、被写体の方々と撮影者である私のコミュニケーションの記録とし、私自身の存在も映画に残すことにしました。

 撮影を続けていると、閉店に向けて毎日次々と思いも寄らぬことが起こりました。ポラン書房という空間のなかで、働かれている方、常連の方、閉店を機にはじめて訪れた方など、様々な人々の思いが交錯していき、カメラの前で物語が展開していったのです。ファインダーを通して見ると、ポラン書房はまるで、外の世界から店の中まで、あらゆる物語を引きつけていく「磁場」のような空間でした。私自身もその中に身を置き、時にはそれに巻き込まれながらカメラを回しました。ポラン書房の持つ、こうした求心力こそが、多くの人々を魅了してきたのかもしれません。

 撮影は、店舗がスケルトン、すなわちコンクリート剥き出しの空きテナントとなるまで続けました。さらに、店員の南由紀さんが独立し江古田に新たな古書店「snowdrop」を開店してからの様子、無店舗営業を続ける石田さんご夫妻のお仕事の様子も記録しました。撮影した60時間の及ぶ映像を見直し、私は2つのアプローチで映画の完成を目指しました。多くの方に気軽に観ていただけるようなかたちでポラン書房の閉店の物語をまとめる短編版、および営業最終日も含めて閉店以前・以降の経緯と展開を描く長編版の2本です。

 短編版『最終頁』は、店主の石田さんの語りを中心として構成しました。閉店を迎えた映画の終盤、石田さんは「石神井書林」の内堀弘さんから受け取ったメッセージを読み上げます。この場面をカメラに収めながら、私の中の閉店への喪失感が少し薄れた気がしました。是非、ご覧いただけますと幸いです。

 『最終頁』は2021年11月にYouTube上で公開し、様々な反響をいただきました。また、国内外の映画祭でも上映・配信していただきました。1月には「池袋みらい国際映画祭」で特別審査員賞をいただき、2月には英国映画協会による若者向けの映画祭「BFI Future Film Festival」の選出作品としてロンドンで上映されました。また、シカゴで行われた同じく若者向けの「CineYouth Festival」でドキュメンタリー映画賞をいただき、その折の「物語構成、ヴィジュアル、音響、全体のインパクトなどすべてにおいて優れている」という選評は、今後の大きな励ましとなっています。受賞作として今年10月のシカゴ国際映画祭で特別上映していただくことにもなっています。

 国外での上映後には、イギリスやアメリカでも、パンデミック下で古書店をはじめとする様々な「居場所」が急速に失われつつあるという感想をいただきました。ポラン書房という一つの古書店の物語が国境を超えて広がっていき、それを契機として多くの方に「そこにあるのが当たり前」だった「居場所」について考えていただいていることを大変嬉しく思います。
 
 75分の長編版『ポラン』は、今年3月に完成しました。この映画は、物語の「磁場」であるポラン書房という空間それ自体を主役に据えて構成しました。まだ上映は未定ですが、近い将来どこかで皆さまにお見せできるよう、尽力していきたいと思います。

 最後に、この場をお借りして、ポラン書房の石田恭介さんと石田智世子さん、snowdropの南由紀さん、制作にご協力くださった皆様、そして映画をご覧いただいた皆様に、心より感謝を申し上げます。

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『最終頁』(短編版)はYouTubeにて配信中。YouTube公開版を再編集した「映画祭上映版」はU-NEXTにて配信中。『ポラン』(長編版)は公開未定。
YouTube: https://youtu.be/L6WrpBzNu5s
U-NEXT: https://video.unext.jp/title/SID0068385

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プロフィール 
中村洸太
1998年東京生まれ。立教大学社会学部在学中に映画サークル「シネマトグラフ」に所属し、自主映画を制作。現在は京都大学大学院 人間・環境学研究科 修士課程に在学し、映画学を専攻している。

 
 
 


映画『最終頁』(短編版・約10分) 中村洸太(監督・撮影・編集)
YouTube: https://youtu.be/L6WrpBzNu5s

 
 


CineYouth FestivalでBest Documentary Awardを受賞

Copyright (c) 2022 東京都古書籍商業協同組合

chikashuppan

「無駄」を愛するあなたへ贈る本 『地下出版のメディア史』

「無駄」を愛するあなたへ贈る本 『地下出版のメディア史』

大尾侑子(東京経済大学准教授)

 

■「変態」は現代でもNG?:
 2021年10月、ニュースサイトをスクロールしていると、ある記事が目に飛び込んできました。“サブカルチャーの聖地”、中野ブロードウェイの某店舗が、風営法違反の疑いで警視庁に書類送検されたというのです。事件の詳細や是非はさておき、記事に添えられた写真には、〈営業禁止区域でアダルトショップを違法営業していた法人等による風営法違反事件 保安課・中野署〉と書かれた貼り紙のもと、「DVD」「Blu-ray」「書籍」「ビデオテープ」「レーザーデスク」「写真集」といった押収品が、段々のテーブルにずらりと並べられていました。もっとも「猥せつ」らしき部分は付箋で隠され、背表紙も後ろに向けられています。段々の机にお上品に佇むその姿は、不謹慎にも“三段飾りの雛人形”さながらで、なんとも滑稽。

 そんななか異様な存在感を放つ「書籍」がありました。二段目のセンターに陣取り、図々しくこちらを向いています。「もしや」と思い画像を拡大すると、その正体は『変態・資料』(1926〜1928)の揃い、3万円(お買い得!)。戦前昭和に発禁の常連だった、会員制風俗雑誌でした。令和になって、まさかYahoo!ニュースでこの古雑誌を目にするとは……。近所の野良猫と久しぶりに遭遇したような、妙にウキウキした気分になったことを覚えています。

 さらに興味深かったことは、表題部分が付箋で隠され、雑誌のタイトルが秘匿されていたこと。いずれにせよ、デザインから『変態・資料』が紛れていたことに気がついたアナタ。そして同誌の押収に違和感を感じたアナタは、きっと愛書家か古書好きでしょう。そう、一部の本好きにとって、この雑誌はじつによく知られた存在であり、同時に「中身はほぼ硬派な文献の寄せ集め」であることも共通の了解なのです。

 拙著『地下出版のメディア史』は、この『変態・資料』の主幹であり、戦前昭和のエロ・グロ出版で八面六臂の活躍を見せた出版狂・梅原北明(1901-1946)とその周辺に広がった軟派出版(非公刊流通した性・風俗文献)、その版元(珍書屋)、人的ネットワークに光を当て、メディア史研究として整理した一冊です。

■「知っている」の、その少し先へ……
 「日本の古本屋」のメルマガ購読者には釈迦に説法かもしれませんが、こうした界隈の人脈については戦後、数多くの“変人奇人伝“やエッセイによって語り継がれてきました。人名や断片的なエピソードを知っている人も少ないくないでしょう。

 一方で、それらには孫引きや初出不明の口伝も散見され、学術研究である以上、そうした点を無視することはできません。本書は、そうした「マニアならば常識」と思われてきた人脈やエピソードを、未公開のパンフレット、一枚刷りの会員向け通知、国外の新聞記事など、家蔵版の一次史料から精査しました。未公開の図版を数多く掲載し、稀覯本の書誌情報をまとめた年表が付録となっています。本書の学術書としての意義を示すならば、まずもって、これらの基礎研究をもとにメディア研究や社会学、文学研究などの先行研究を踏まえて体系的に論じた点にあります。

 マニア的な楽しみ方もありえますが、資料の網羅性に応えることだけが本書の役割ではありません。ましてや遡及的に見出される“事実発見的な価値“を喧伝することは目指していません。少なくとも「地下出版」という分析概念を設定し、これを歴史的・社会的なコンステレーションに位置付け直すことで、合理的批判や後継研究が生まれる畑を作っておくこと。10年ほど、このことを意識してきました。

 もちろん、その試みの成否は読者に委ねるほかなく、一冊の本で達成できるはずもありません。ただ一つ言えることは、学術研究として本書が成立しえたのは、2000年代後半以降、国内外における学術的知見の蓄積、復刻ラッシュ、蒐集品の寄贈やアーカイブ化、国際的な文献データベースの整備、そして古書のオンライン通信販売など、技術的条件と集合知が結晶化してきたからです。

■「エロ」をめぐる教養合戦の滑稽さと魅力
 冒頭に掲げた報道を見て、「警察に押収されたエロ本を扱うなんて低俗」と眉をしかめた方もいるでしょうか。ちょっと待っていただきたいのは、こうした書物や「知」をめぐるステレオタイプや境界設定──「高級文化/低級文化」「高級なメディア/低俗なメディア」「インテリ/大衆」「良い趣味/悪趣味」「アカデミズム/在野の趣味人」──、その恣意性を問い直すことこそが、本書の眼目です。

 例えば『変態・資料』や『グロテスク』といった媒体のなかには、趣味家、古今東西の性文化研究者、古書店店主、プロレタリア作家、医学博士、洋酒ブローカー、「シナ通」など、バラエティ豊かな面々が集いました。また、彼らは会員制雑誌や艶本叢書の刊行案内などを通じて「地上」の華々しい出版文化──ブルジョア文壇、岩波文化、総合雑誌、円本など──に喧嘩を売り、自らの趣味の卓越性や、己の教養を喧伝しました。そして〈歴史や文化の裏面にこそ、真に人間を知るための手がかりがある〉とも書き残しています。表題から戦前のエロ・グロ・ナンセンス研究かと想像する人もいるかもしれませんが、興味深いことに、「高級エロ」を自称した彼らはエロ・グロ・ナンセンスに沸き立つ世間の風潮を「悪どい幼稚なエロ」「イカモノ」と痛烈に批判しました。

 このように、非合法的に頒布された軟派出版物をひもとくと、そこには趣味を介した男同士の絆にくわえ、“教養アピール合戦”や知識マウンティングが随所に見てとれます。「ガリ勉」的教養主義の陳腐さや「地上」のメディアを嘲笑し、「変態」な教養を体現した彼らもまた、ある意味ではもっとも(ガリ勉的にエログロ知識を蓄積した)「逆立ちした教養主義的インテリ」に他ならず、同時代の知的風土や恵まれた出自という拘束性から、自由ではなかったのです。

 ここで思い起こされるのが、テオドール・アドルノの「半教養の理論」。アドルノは「半教養」の典型的な口ぶりを「へえ、あなたはそれをご存知ないのですか?」という乱暴なものだと述べており、精神的に不遜で野蛮なまでに反インテリ的だと批判します。そして、その蔓延が実質的に「教養」の消失を意味すると警鐘を鳴らしました。梅原北明周辺の言論バトルを眺めていると、「もうちょっとpeaceに行きましょうよ」と笑える反面、官憲の追及というのっぴきならない背景があったことも無視できません。

 とはいえ、知識や趣味(taste)によるマウント合戦は、いまでも、さまざまな場所で反復され続けている。その点で自由闊達に「趣味」と向き合い、ルールに縛られずに遊び倒した三田平凡寺(1876-1970)は、さばけていて、個人的に肩入れしたくなったりします(彼はあらゆる人種、性別、立場の人間を包摂した趣味家集団「我楽他宗」の中心でした)。

■無駄を愛する人へ
 戦前の珍書屋を追いかけるなかで、さまざまな言葉と巡り合いました。なかでも、気に入っているのが「無駄を省け、集中的に生きよ」──酒井潔(1895-1952)の口癖だったと、妻が明かしています。これを文字通りに受け取っては野暮というもの。性と魔術(オカルティズム)の研究に没頭した酒井潔は「無駄」をこそ愛し、その一点に集中して生きました。「有用性」という世俗的価値から距離を取り、外野のノイズを遮断して己が没頭するものに集中して生きる。それが彼のエステティクスであったのです。戦争は、そんな人生から研究を奪い去りました。

 本書もいわば「無駄」の集積。何かの役に立つとか、教養が得られるといった“コスパの良い”本ではありません。「役に立たない」本が「地上」の、それも慶應義塾大学出版会から刊行されたこと。そんな社会の“ゆとり”がかろうじて存在することが、ささやかな救いとなれば……。「日本の古本屋」なくして本書は存在しませんでした。古書という夢のような世界に誘ってくれた全国の古本屋さん、これからもお世話になります。

 
 
大尾侑子(おおびゆうこ)
1989年東京生まれ。博士(社会情報学)。専門は歴史社会学、メディア史。桃山学院大学を経て、東京経済大学コミュニケーション学部 准教授。

■【試し読み】地下出版のメディア史 高級エロに命をかけた知識人たち(慶應義塾大学出版会note):
https://note.com/keioup/n/n8f18ade3ccca

 
 


『地下出版のメディア史
エロ・グロ、珍書屋、教養主義』 大尾 侑子 著
慶應義塾大学出版会 定価:4,950円(税込)好評発売中!
https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766428032/

Copyright (c) 2022 東京都古書籍商業協同組合

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