古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期報告

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期報告

古本屋ツーリスト 小山力也

 新型コロナウィルスに相変わらず振り回されながら、あっという間に今年も半分が過ぎ去ってしまった。世界中でワクチンの接種が進み、パンデミックを抑え込む希望の光は見え始めているが、まだまだ遠い場所での、手に届かぬ輝きである。そんな状況での、ありえないオリンピック開催に憤りながら、二度目・三度目の緊急事態宣言にもめげず、個人が出来る感染対策を十分に施しながら、素敵な古本を求めて、愛しい古本屋さんを工夫して巡る日々は、何とか継続している。ただし三回目の緊急事態宣言発出時は、さすがに苦しめられた。何故か古本屋にも東京都から休業要請が出されたため、東京では多くのお店が制限が緩和されるまでの一ヶ月ほど、休業に入ってしまったのだ。馴染みのお店のシャッターが閉じられ、そこに貼られた『臨時休業のお知らせ』の紙を、どのくらい目にしたことか……それはまるで“禁古本屋法時代”に迷い込んでしまったような、切なく乏しい一ヶ月……だが、砂漠の中のオアシスのように、それでも開けてくれている貴重なお店をトボトボ伝い、古本と言う名の命の露を必死に啜り、どうにか乗り切ることが出来たのであった。こんなことがいつまで続くのだろうか。またもや七月に入ってから緊急事態宣言が出されてしまった。そして愚挙と声を大にして言えるパンデミック下での東京オリンピック開催…これらが一介の古本屋ツーリストにどんな影響を及ぼすのか、その月日を乗り越えなければ、行く末はわからない。だが、これまで暮らして来た生活の中に、この継続する過酷な事態を乗り越えるヒントが、もしかしたら潜んでいるかもしれない。それに気付くために、一月からの古本屋行動を急ぎ足で振り返ってみる…。

 一月、去年同様、中央線の中野〜武蔵小金井間で古本を買い漁る日々が続いている。特に一月八日の二度目の緊急事態宣言発出以降は、主に高円寺〜吉祥寺間を頼みにすることが多くなった。そんな最中に、武蔵境の「浩仁堂」が店売りを辞めることを知り、大泉学園の名店「ポラン書房」閉店一割引セールに駆け付けたりした。二月は、いつでも開けてくれている上井草の「井草ワニ園」で童心社のヨセフ・チャペック「こいぬとこねこはゆかいななかま」を800円で、沼袋の「天野書店」で河出書房新社「霧と影/水上勉」の献呈署名入りを千円で買ったり、荻窪の「古書ワルツ」でカバーナシだがポプラ社の少女探偵小説「流れ星の歌/西條八十」を330円で見つけたり、都立家政の「ブックマート」で國民文藝社「溺れる川/窪田空穂」の歌入り署名本を330円で掘り出したりと、意外なほどの掘り出し物当たり月に。神保町では「大島書店」の跡地に入った「光和書房」の店頭の古書の充実に瞠目したり、白山通りの古本もちょっと扱っていた「東西堂書店」の『閉店の原因は、新刊書店業界の長期低落と新型コロナウィルスです』の閉店の貼紙に涙する。

また国立では老舗の、街の小さなランドマークでもあった洋古書専門店「銀杏書房」が閉店。同時期に同国立の「みちくさ書店」が、駅裏手の『国立デパート』内に移転する。三月も奮闘してなかなか良い本を見つけており、荻窪「竹中書店」で徳間書店「ミステリー 戦艦金剛/蒼社廉三」とアルス「槐多の歌へる/村山槐多」(函ナシ、大正九年初版)をともに200円で買えたのは奇跡であった。また吉祥寺には「あぷりこっとつりー」という絵本の古本を扱うお店が出現し、阿佐ヶ谷でも古着屋なのに知的な読了本を店先に並べる「雑踏」というお店が、小さいながらも近辺古本屋ルートに新たな選択肢を増やしてくれた。三月二十八日に緊急事態宣言が解除され、その直後に吉祥寺に「古本のんき」が誕生。これで吉祥寺古本屋ルートの駅南側が、キレイな半円を描くことになった。四月、荻窪に「中央線書店」が出来ているのを、たまたま車窓から発見。

今は店頭に100〜500円棚を出しているだけだが、秋くらいには店売りも始めるらしい。そして出来たばかりの「古本のんき」で春陽堂探偵双書「不連続殺人事件/坂口安吾」を千円で見つけたり、函ナシの日本評論社「勞働詩集 どん底で歌ふ/根本正吉・伊藤公敬」を千五百円で手にしたりと、一気に当店のファンとなる体験が連続。そんなことでウハウハ喜んでいると、本郷古本屋街とば口の老舗「大学堂書店」が閉店することを知り、ビル奥のロケーションが素敵だったお店に別れを告げに行く。そして四月二十五日には三度目の緊急事態宣言が発出。都下の多くの古本屋さんが休業に入ってしまう。“禁古本屋法時代”の到来である。そうして迎えた五月も、それでも開けてくれているお店を求め、街を彷徨う。そんな厳しい状況下で、下北沢「ほん吉」で櫻木書房「日米對譯 映画劇」(函ナシ)に330円で出会えたのは、古本の神が与えてくれた哀れみの慰めか。高円寺ではバンドマンが酔っ払いながら開いていた「おもしろ古本市」に偶然出くわし、角川文庫のレア本「流砂/ビクトリア・ホルツ」を二冊も500円で買えてしまったのは、古本の神がニヤリと微笑んでくれたおかげだろうか。さらにその高円寺では、元クリーニング屋さんが蔵書を並べて古本屋と化した「クリーニングまるや店」が出現。

だが、そんな風にどうにかヨロヨロと古本ライフを楽しみながらも、神保町に赴いてみたら、開いているお店が二十店弱…世界に誇る本の街が、さすがにこの状態はかなり寂しい、とショックを受ける。六月、緊急事態宣言は続くが、規制が緩和され、多くの古本屋さんも休業トンネルから脱出。開き始めたお店をあちこち挨拶するように巡りながらも、代田橋駅前の小さなお店「バックパックブックス」の開店を目撃したり、高円寺の変わり種店「アニマル洋子」の建物の解体に伴う閉店を悲しむなどする。この月一番の掘出し物は、吉祥寺「古本センター」で80円で買った千代田書院「決定版 祇園小唄/長田幹彦」(函付き、献呈署名入り)であった。

 ……うぅむ、ここまで書いて、何がヒントかまるで閃かない。ただ古本屋に行って古本を買っているだけではないか…まぁ、とにかくいつワクチンを接種出来るのかわからぬが、引き続き感染対策を施し、もはや己にとって性で呪いで福音でもある、古本屋さん探索に血道を上げてゆくことにしよう。江古田に出来た「snowdorop」にもいまだに行けてないし、池袋に移転した「コ本や」や、南足柄に移転した「中島古書店」、神保町すずらん通りに移転した「永森書店」、神保町に新しく出来た「NAGA」、伊勢原の「おほりばた文庫鐙堂」にも行かなけりゃならないんだ!新型コロナとそれに伴う強制型環境に、負けてなるものか!




小山力也
2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。「東京古書組合百年史」の『古本屋分布図』担当。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。http://furuhonya-tour.seesaa.net/

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『社史・本の雑誌』

『社史・本の雑誌』

浜本茂

 社史・記念史専門の自費出版会社(そんな会社があるんですね)によると、社史制作五原則というのがあるそうで、その五つのポイントさえ押さえておけば間違いなく読まれて面白い社史になるという。

ちなみにその五原則というのは、
一、経営史として書く
一、主語は当社は
一、社史の本体は文(ドキュメント)
一、「内部向け」>「外部向け」であること
一、「社史」とは「社」会貢献「史」
の五つで、ようするに「当社は」を主語にして、社外よりも社内向けの感覚で、いかにわが社が社会の役に立ってきたかを熱い思いをもって、写真ではなく言葉で伝えるべく書かれた経営ドキュメント、が面白い社史ということになるわけである。

なるほど、そうだったのか!
と思ったのはわけがある。実は「当社」もこの六月末に社史を刊行したのである。その名も『社史・本の雑誌』。「社史1」「付録2」からなる二分冊の箱入りで四六判厚さ五十五ミリ! グレーの箱に空いた窓から茶色の表紙がきりりと覗く、本の雑誌創刊四十五周年記念にふさわしい造本・装丁の大部なのである、と言ってしまおう。
しかしてその実態は。

何を隠そう「社史1」、つまり社史本編は『本の雑誌風雲録』と『本の雑誌血風録』のカップリング。ご存じない方がいるかもしれないので、念のため説明すると『本の雑誌風雲録』は本の雑誌初代発行人の目黒考二が本の雑誌十周年を記念して書き下ろした本の雑誌社配本部隊十年のドキュメントであり、『本の雑誌血風録』は本の雑誌二代目編集長(創刊号のみ目黒が編集兼発行人だった)椎名誠が一九九六年の一年間「週刊朝日」に連載した超零細企業実録小説である。『風雲録』は一九八五年に本の雑誌社(「当社」ですね)から単行本が刊行。九八年に角川文庫化され、二〇〇八年には書下ろし+書籍未収録原稿九十枚を加えた「新装改訂版」がやはり当社から刊行。『血風録』は九七年に朝日新聞社から単行本として刊行されたうえ、二〇〇〇年に朝日文庫化、二〇〇二年には新潮文庫にもなっている。言ってみればどちらも相当数の読者に読まれてきた作品だ。だいたいドキュメントである『風雲録』はまだしも、『血風録』は実録小説である。これを「社史」と言っていいのか!?

よかったのである。冒頭の社史制作五原則に照らし合わせてみると、『風雲録』も『血風録』もともに経営者(ふたりとも取締役だった)の視点で会社の歴史を書いたものであり、もちろん文章がメイン。内部向けの内幕もので、本人たちが意識しているかどうかは別にして、エンタメ書評を確立して出版界に貢献した本の雑誌の立ち位置が熱く描かれている(本当です)。主語こそ「ぼく」だが、目黒も椎名も本の雑誌を自分たちの子どものように大事に育てていこうと慈しんでいたくらいだから、「当社」と「ぼく」は一蓮托生、一心同体と言っていい。まさに五原則にそった理想の社史だったのだ。
しかも初版刊行からそれぞれ三十六年、二十四年が経ち、残念なことにどちらの文庫も品切れになっている。本の雑誌創刊四十五周年だというのに、初期の本の雑誌史を伝えるこの歴史的名著二作を読めないままにしておいては本の雑誌社の名がすたる!

という次第で『本の雑誌風雲録』と『本の雑誌血風録』を合本にして、本の雑誌社の社史として世に問うことにしたのだが、前述したとおり、どちらも文庫にまでなっているわけで、合本だけでは「全部読んじゃってるよ~」という人もいるだろう。そこで「付録2」として「付録本の雑誌」を用意することにした。「付録」には本の雑誌創刊号から最新号までの全表紙と「和田誠カバー劇場」「和田誠装丁劇場」をカラーで収録。椎名、目黒、沢野ひとし、木村晋介、浜本茂の書下ろし「本の雑誌の45年」のほか、ベテラン編、同期入社編の社員座談会が二本、さらに節目節目の対談や原稿、秘蔵写真集に年譜までを収め、合本では描かれなかったその後のエピソードを網羅。社史としての体裁を整えた(と思っている)のである。

『社史・本の雑誌』の刊行によって、当社が、まあ、いつか消えた出版社となったとしても、本の雑誌社の歴史は購入してくれた人の本棚や図書館(少なくとも社史コレクションがある神奈川県立川崎図書館には置いてほしい)の書架に長く残るに違いない。社史こそ歴史なのである。そして箱の背に記された「無理をしない 頭を下げない 威張らない」の本の雑誌社社是が、その前を通る人々の目に止まり、なんだ、これ?と笑ってもらえたら、こんなにうれしいことはない。

honshashi
『社史・本の雑誌』 本の雑誌編集部
本の雑誌社 定価6600円(税込) 好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114574.html

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『大宅壮一文庫解体新書――雑誌図書館の全貌とその研究活用』

『大宅壮一文庫解体新書――雑誌図書館の全貌とその研究活用』

阪本博志

 立花隆氏が4月30日に亡くなっていたことが、6月23日に報じられた。7月9日発売の『文藝春秋』『中央公論』8月号には、追悼記事が掲載されている。

 よく知られているように、立花氏が『文藝春秋』1974年11月号に発表した「田中角栄研究――その金脈と人脈」は、同年11月26日の辞任表明につながった。
 『出版ニュース』1974年12月下旬号「’74年出版界・読書界10大ニュース」の第1位は、「『文藝春秋』11月号のヒット企画」である。「『文藝春秋』11月号は「田中角栄研究――その金脈と人脈」で“マスコミが教えてくれないから”“雑誌ジャーナリズムはじまって以来の大取材”と銘うって、田中首相(当時)への疑惑を追った。/これは周知のように、田中退陣までに追い込む契機をつくった。/新聞ジャーナリズムの政府に対する弱い姿勢に対して、雑誌ジャーナリズムが、有効な機能を果しうることを実証したようなものである」。

 立花氏は「「田中角栄研究」の内幕」(『文藝春秋』1975年1月号)で次のように述べている。「取材班がスタートして、最初にやったことは、大宅文庫にいって、あらゆる関連活字資料を集めてくることだった。(略)索引で“田中角栄”をひくと、田中角栄氏について書かれたあらゆる記事がドサッとでてくる。“黒い霧”“小佐野賢治”“入内島金一”“日本電建”など、ありとあらゆる関連がありそうな項目をひいて、山のようなコピーをとってくる」。
 1976年11月刊行の『大宅壮一エッセンス 5 多角的遊泳術』(講談社)に立花氏は、「大宅文庫と私」と題したエッセイを寄稿している。氏はいう。「大宅文庫なしには、「田中角栄研究」をはじめとする私の幾つかの仕事は、ほとんど不可能だったろう」。

 財団法人大宅文庫(当時。現・公益財団法人大宅壮一文庫)は、大宅壮一(1900-1970)の蔵書約20万冊(雑誌約1000種類・17万冊、書籍3万冊)を基盤に、1971年5月17日に設立された。
 大宅は1951年ごろから古書の収集をはじめた。1956年から数人のスタッフによる雑誌記事の索引カード(サイズは縦約7センチ、横12.5センチである)の作成・整理に着手した。
 大宅文庫設立後、カードは、『大宅壮一文庫雑誌記事索引総目録』全13巻(1985年)に代表される図書、『大宅壮一文庫雑誌記事索引CD-ROM版1992-1996』(1997年)を嚆矢とするCD-ROMを経て、2002年に教育機関版のサービスをはじめた「大宅壮一文庫雑誌記事索引検索Web版」(「Web OYA-bunko」)というオンラインデータベースへと、進化を遂げていく。
 2020年4月時点で大宅文庫は、雑誌約1万2700種類・80万冊と書籍約7万冊を所蔵するにいたっている。

 この大宅文庫を活用して調査研究をおこなうための本邦初のガイドブックである拙編『大宅壮一文庫解体新書――雑誌図書館の全貌とその研究活用』(勉誠出版)を、本年5月17日の文庫創設50年にあわせて刊行した。下記リンク先の出版社ホームページにて目次をご覧になればおわかりいただけるように、本書は、国文学・社会学・メディア学・歴史学といったさまざまな領域の研究者が参加したものである。
 本書が生まれる端緒は、『幻の雑誌が語る戦争――『月刊毎日』『国際女性』『新生活』『想苑』』(青土社、2017年)などの著作で知られる石川巧氏に2018年10月、筆者が次のような相談をしたことにある。「大宅文庫には80万冊の雑誌が所蔵されている。これらのなかには、まだ光があてられていない雑誌もあるのではないか」。
 翌月石川氏から、「雑誌文化研究会」をたちあげ大宅文庫を活用しながら研究活動を推進していったらどうだろう、という連絡を受けた。
 そして石川氏と筆者が研究者に個別に声をかけ、計13名の研究者と鴨志田浩氏(大宅文庫)からなる雑誌文化研究会が結成された。2019年3月5日にキックオフミーテングを開き、同年5月15日の第1回研究会に、それぞれが各章のプランを持ち寄った。こうしてできあがったのが本書である。なお、雑誌文化研究会は現在、新規の入会希望者を受け入れる準備をしている。

 本メルマガ4月26日号(第321号)の記事「大宅壮一と古本収集」で平澤昇氏(大宅文庫)が述べていたように、本年5月17日には、公益財団法人大宅壮一文庫編『創立50周年記念 大宅壮一文庫所蔵総目録』(皓星社)が発行された。同書は、大宅文庫東京本館の80万冊にもわたる所蔵雑誌の全貌を明らかにするものである。
 「Web OYA-bunko」に加え、『大宅壮一文庫所蔵総目録』ももちいて、80万冊の雑誌にわけいっていくことが可能となった。本邦初のガイドブックである『大宅壮一文庫解体新書』を、その探究にご活用いただければ幸いである。

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『大宅壮一文庫解体新書 雑誌図書館の全貌とその研究活用』
阪本博志 編 勉誠出版 定価:3,850円 好評発売中!
https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101210

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2021年7月9日号 第326号

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 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
 古書市&古本まつり 第102号
      。.☆.:* 通巻326・7月9日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━━【『東京古書組合百年史』刊行】━━━━━━

『東京古書組合百年史』 刊行  締切間近!

東京都古書籍商業協同組合は、1920年1月に東京古書籍商組合とし
て創立され、2020年に創立100周年を迎えました。
100周年の記念事業の一環として 2021年8月に『東京古書組合百年史』
を刊行いたします。
本史は、昭和・平成・令和の各時代における古書市場の歴史は
もちろんのこと、当組合が経験してまいりました様々な歴史を
記録として残すことを心がけました。
ぜひ多くの皆様にご覧いただければ幸いです。

・書籍判型:A5上製本
・総 頁 数:696ページ(内、巻頭カラーページ:16ページ)
・定  価:8,000円(税込・送料込)
・申込締切:7月16日(金)17時まで

※本書は、「予約限定販売」となります。

東京古書組合百年史
http://www.kosho.ne.jp/100/index.html

━━━━━━━━【鹿島茂先生からのメッセージ】━━━━━━

第一章執筆 鹿島茂先生からのメッセージ

 今回、縁あって『東京古書業組合 百年歴史』のイントロダクシ
ョンを担当することとなった。四年前に『神田神保町書肆街考』と
いう本を上梓して神保町の古書店街の歴史を書いたことが東京古書
業組合の百年史制作委員会の目にとまったようである。この本の執
筆に当たっては『東京古書業組合 五十年史』にひとかたならぬお
世話になったので、恩返しの意味で今回、イントロダクションを引
き受けたのだが、しかし、『東京古書業組合 五十年史』の要約で
はつまらないので、自分なりにいくつかの問題を設定してみた。そ
れは以下のようなものである。
①そもそも日本ではなにゆえに古書店と新刊書店がはっきりと分
かれているのか?

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7037

━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

私が実感する古書組合に加盟することのメリット6つ

                    書肆吉成 吉成秀夫

平素はご愛顧いただきありがとうございます。札幌組合の書肆吉成
の吉成秀夫です。この度は東京古書組合さんよりメルマガに原稿を
書くようにとご下命があり、3回にわたって書かせて頂きます。今回
は東京組合さんより指定のありましたテーマ「私が実感する古書組
合に加盟することのメリット6つ」をご紹介いたします。加えて、
昨年7月21日に私が古書店修行をした札幌の伊藤書房の伊藤勝美さん
が亡くなりまもなく一周忌となりますのでその追悼の意味をこめた
原稿となります。古書店経営や組合にご興味ある方にお読みいただ
ければと思います。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7026

書肆吉成
https://camenosima.com/

━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

第30回 末永昭二さん 「ジャンルのない本」を集めるひと

                     南陀楼綾繁

 神奈川県立近代文学館で開催された「永遠に『新青年』なるもの」
展を観に行って、懐かしい名前を見つけた。会場で販売していた
「新青年」研究会の機関誌『「新青年」趣味』に、末永昭二さんが
文章を書いていたのだ。もう20年以上前のことだが、同誌について
取材する際に末永さんとはじめて会った。その後、古書雑誌『彷書
月刊』で私と同じ時期に末永さんが連載されていたこともあり、顔
を合わせる機会が何度かあった。そのたびに、「この人は何者なん
だろう?」と気になっていた。なんでもよくご存じだが、どこかつ
かみどころのない印象があった。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7099

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ
・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人を
つなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市
の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社刊 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

━━━━━━━━━【東京古書組合からお知らせ】━━━━━━

「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━【7月10日~8月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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センター南駅店・港北古書フェア (神奈川県)

期間:2021/07/07~2021/07/16
場所:市営地下鉄センター南駅の改札を出て直進、右前方※駅構内です
【最寄り駅】横浜市営地下鉄 センター南駅

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東京愛書会【会場販売あります】

期間:2021/07/09~2021/07/10
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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大均一祭

期間:2021/07/10~2021/07/12
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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趣味の古書展

期間:2021/07/16~2021/07/17
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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第182回神戸古書即売会(兵庫県)

期間:2021/07/16~2021/07/18
場所:兵庫古書会館 神戸市中央区北長狭通6-4-5
(阪急花隈駅西口真裏の通り)

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たにまち月いち古書即売会

期間:2021/07/16~2021/07/18
場所:大阪古書会館 大阪府大阪市中央区粉川町4-1

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阪神古書ノ市(大阪府)

期間:2021/07/21~2021/07/27
場所:阪神百貨店梅田本店 8階催場 大阪市北区梅田一丁目13番13号

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八王子オクトーレ古本まつり

期間:2021/07/21~2021/07/27
場所:JR八王子駅北口徒歩2分
王子オクトーレ3階 フリースペース&5階エレベーター前

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和洋会古書展

期間:2021/07/23~2021/07/24
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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五反田遊古会

期間:2021/07/23~2021/07/24
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

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中央線古書展

期間:2021/07/24~2021/07/25
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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アクロスモール新鎌ヶ谷古本市(千葉県)

期間:2021/07/28~2021/08/09
場所:アクロスモール新鎌ヶ谷 1F 中央エレベーター前
千葉県鎌ケ谷市新鎌ヶ谷2-12-1

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さんちか古書大即売会(兵庫県)

期間:2021/07/29~2021/08/03
場所:さんちかホール(神戸・三宮さんちか3番街)

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我楽多市(がらくたいち)即売展

期間:2021/07/30~2021/07/31
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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杉並書友会

期間:2021/07/31~2021/08/01
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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城北古書展

期間:2021/08/06~2021/08/07
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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好書会

期間:2021/08/14~2021/08/15
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその326 2021.7.9

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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第一章執筆 鹿島茂先生からのメッセージ

第一章執筆 鹿島茂先生からのメッセージ

 今回、縁あって『東京古書業組合 百年歴史』のイントロダクションを担当することとなった。四年前に『神田神保町書肆街考』という本を上梓して神保町の古書店街の歴史を書いたことが東京古書業組合の百年史制作委員会の目にとまったようである。この本の執筆に当たっては『東京古書業組合 五十年史』にひとかたならぬお世話になったので、恩返しの意味で今回、イントロダクションを引き受けたのだが、しかし、『東京古書業組合 五十年史』の要約ではつまらないので、自分なりにいくつかの問題を設定してみた。それは以下のようなものである。

①そもそも日本ではなにゆえに古書店と新刊書店がはっきりと分かれているのか?

②『東京古書業組合 五十年史』では、明治二十年代くらいまで古書店という業態には欠かせない市会というものが存在しておらず、「せどり」と呼ばれる独立の古書ハンターが古書探しを引き受けていたのはなぜなのか?

③明治維新で古書の最大顧客だった武士が東京からいなくなったため、明治二十年代まで和本は底値に張り付き、買い手は外国人だけだったが、しかし、だとすると、一般の古書店はどうやって営業を続けていたのか?

④明治十年代から神保町に進出した新しいタイプの古書店は有斐閣、三省堂、冨山房など一橋近辺に誕生した大学や専門学校相手の洋古書店としてスタートしたが、やがて業態を新刊本屋に移した。その際、洋装本という特異な書籍形態が生まれたが、その特異形態はどのようなところから来ているのか?

⑤明治三十年代に入ると和本は完全に洋装本に入れ替わり、神田神保町に古書店街が形成されたが、その多くが改正道路(靖国通り)の南側に集まった。それはいかなる理由によるのか?

⑥神田神保町の古書街は何度か大火に見舞われ、関東大震災で灰燼に帰したが、そのたびに規模を拡大して発展していったのはなにゆえか?

⑦東京の古書店は大学・専門学校の発展と軌を一にして発展していったが、それはかならずしも大学生や専門学校生が良き買い手だったわけではない。大学・専門学校と古書店の本当の関係はどのようなところにあるのか?

⑧東京古書業組合は、市会の改革をきっかけに百年前に生まれたが、組合と市会との関係は旧態依然だった。これが劇的に変わったのは統制経済が進む太平洋戦争の直前だった。その劇的な変化とはいったいなんだったのか?

⑨古書店は書物が耐久消費財であることを前提にして成立するが、円本の登場以来、本は戦後にはますます消費財化していった。では、前提が崩れたにもかかわらず、古書店があいかわらず存在しつづけているのかいかなる理由によるのか?

 イントロダクションでは以上の疑問に私なりに答えようとしたつもりだが、しかし、その本当の答えの多くはイントロダクションというよりも、古書組合員が自ら執筆した本編の中にありそうだ。
 私も本編を読むのがいまから楽しみである。

『古書月報』2021年6月号より転載

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第30回 末永昭二さん 「ジャンルのない本」を集めるひと

第30回 末永昭二さん 「ジャンルのない本」を集めるひと

南陀楼綾繁

 神奈川県立近代文学館で開催された「永遠に『新青年』なるもの」展を観に行って、懐かしい名前を見つけた。会場で販売していた「新青年」研究会の機関誌『「新青年」趣味』に、末永昭二さんが文章を書いていたのだ。もう20年以上前のことだが、同誌について取材する際に末永さんとはじめて会った。その後、古書雑誌『彷書月刊』で私と同じ時期に末永さんが連載されていたこともあり、顔を合わせる機会が何度かあった。そのたびに、「この人は何者なんだろう?」と気になっていた。なんでもよくご存じだが、どこかつかみどころのない印象があった。

久しぶりに会った末永さんは、仙人のような髯をたくわえ、「神保町、久しぶりに来ましたよ」と話す。自宅で編集仕事をしていて、人と会う機会は少ない。新型コロナウイルス禍の前から、そういう生活を続けているそうだ。

末永さんは1964年、福岡県生まれ。大分県に近く、海も山もある田舎町で育つ。両親と6つ違いの兄との4人家族。父は中学校で技術家庭科を教えており、家には教育関係の本が多かった。
「技術家庭科だけど、本来は園芸が専門なんです。だから、授業で製作するラジオキットを検品代わりに私に教材を組み立てさせることもあった。小学生がつくれるんなら大丈夫って(笑)。それで『ラジオの製作』などの雑誌を買うようになりました」

記憶に残る最初の本は、小学校に入った頃に読んだ『吾輩は猫である』。子ども向けのものではなく、旺文社文庫版に母がルビを振ったものを読まされたという。
「ほんとうは何も判ってなかったのですが、なんとなく面白かったですね。めんどくさくなったのか、途中でルビがなくなるんですが、勘で読み通すことができました」
小学校に入ると、図書室の本を片っ端から読む。市の図書館や児童館でも借りまくり、それらを枕元に積み上げていた。あまり本ばかり読むので、言いつけを守らないときは、本を読ませないことが罰だった。小学校の図書室で週一回借りる本はすぐ読んでしまうので、兄に頼んで中学校の図書室で借りてもらっていたら、兄が多読で表彰されてしまうというハプニングもあった。
小学校3年のとき、校舎が建て替えで、図書室の蔵書が移動された。その中には、古すぎて開架にしていなかった終戦直後の仙花紙本が混じっていた。
「NHKのラジオドラマ『三太物語』シリーズもありましたね。ラジオドラマの本をよく出していた宝文館が発行したものです。この本で旧かな遣いが読めるようになったと思い込んでいましたが、最近確認したら新かな遣いでした。でも、この頃から新かな・旧かなの両方が読めていたのはたしかです」
恐るべし、旧かなを読む小学生!

乱読なので何でも読んだ。とくに保育社の原色図鑑を熟読する。「写真の説明を読むのが好きでした」。親に買ってもらった、小学館の全集「少年少女世界の文学」に収録されていた海野十三の『海底大陸』で探偵小説というジャンルを知った。1973年のことだ。だからと云って、特定の作家を愛読するということはなかった。
この頃から数年は、1冊ごとに読書感想文を書いて母に提出しないと、次の本を買ってくれなかったという。
「このあたりから『子ども向け』に編集された本を読まなくなりました。雑誌もマンガも読まず、テレビも子ども向けの番組はあまり観ませんでした」
なお、末永さんの母方の祖父は戦前に大阪で暮らしており、母は昔、祖父が買ったであろう『新青年』を読んでいたという。祖父の家には講談社版の江戸川乱歩全集があり、それを読んで、ポプラ社の乱歩シリーズが改変されていることに気づいた。

中学では吹奏楽部に入り、ギターも弾くようになって、バンドも組んだ。いまでもライブ活動を続けていて、楽器を自作する凝りようだ。
相変わらず本を乱読する。学校の図書室で、渡邊一夫が訳したラブレーの『ガルガンチュワとパンタグリュエル物語』を読み、その文章に魅せられる。『鞍馬天狗』や『収容所群島』など、長い小説を好むようになる。
「田舎だったので、高校まで電車やエレベーターの乗り方を知りませんでした。高校の修学旅行で東京に行った際、自由行動の時間に友だちと秋葉原に行ったのですが、駅のホームが交差していて、電車がドンドン来るのに怖気づいて、早々に帰ってしまいました(笑)」

そんなウブな少年は、立命館大学の文学部哲学科に入学。京都で一人暮らしする。はじめての古本屋体験もこの地だった。
「映写技師のアルバイトをしていて、映写中は本を読んでいました。そこで安い本を買いたいと思って入ったのが、クラスの友人に教えられた〈アスタルテ書房〉でした」
澁澤龍彦も通ったと云われる伝説の古本屋だ。当時は河原町三条にあった。探偵小説が並んでいる棚があり、その中からまず、江戸川乱歩の本の解説で名のみ知る、小酒井不木を買ってその面白さに引き込まれた。
「この店では久生十蘭や橘外男といった作家の戦前の本を買いました。いま思えば安かったですね。週に3、4回通っているうちに店主の佐々木一彌さんから『探偵もの好きの学生』として覚えてもらいました」
新刊は立命館大学の生協で買う。ここの書籍部は国内最大級の広さがあり、組合員は割引で買える。葦書房の『夢野久作著作集』全6巻や三一書房の『少年小説大系』全27+6巻、『宮武外骨著作集』全8巻(河出書房新社)といった、長期にわたって刊行された全集物はここで買いはじめた。
「宮武外骨や小酒井不木を経由して、梅原北明という出版人に出会います。古本屋で、彼が編集した雑誌『グロテスク』や『カーマ・シャストラ』、『変態十二支』シリーズなどを集めました」
ウィトゲンシュタインで卒論を書き、ビュトールの言語遊戯に魅せられる。その流れで、1976年から刊行された集英社版『世界の文学』全38巻を揃いで買って、セリーヌやゴールディングを知り、当時知られていなかった作家の変わった作品を読んだ。
「ちなみに私は、文学作品は海外作家だけで、日本の作家は読みません。でも、探偵小説となると逆で、日本人作家ばかり読んで、海外ミステリには疎いです。なぜか手が出ないんです(笑)」

大学在学中、就職活動のために何度か東京へ。はじめて神保町の古本屋と楽器店をめぐる。〈中野書店〉の探偵小説の充実ぶりに目を見張り、「やはり東京に出ないとダメだ!」と思う。卒業すると、1987年、卒業とともに上京。府中のメーカーに就職し、技術開発として働くが、あまりの残業の多さに1年半で辞める。
その後、日本エディタースクールの通信教育の校正コースを修了し、同校から紹介されて、技術関係の出版社で編集者として働く。
「小さな会社で、給料が出ないこともありました。仕事が多くて、会社に泊まり込むこともあった。でも、好きにやらせてもらえたので、10年くらいいましたね」
神保町には足しげく通う。その頃から古い雑誌を集めるようになる。
「単行本と違って、当たり外れがあるのがいいんです。袋に入った雑誌の隅っこに、面白そうな記事がひとつでもあれば当りという遊びです」
その頃、『橘外男ワンダーランド』(中央書院)収録の単行本リストに入っていないタイトルを、読者カードに書いて送ったところ、編者である作家の山下武さんから自宅に誘われる。山下さんは古書関係の著作が多く、「参土会」という古本好きの集まりの主宰者だった。
「その日に出会ったのが、浜田雄介さんら第二次『新青年』研究会のメンバーでした。同世代で古本の話ができる人たちと会えて嬉しかったです」
山下さんとは40歳近くの差があったが、集めている本が重ならないことや古い演芸の話が通じることから可愛がられ、蔵書の整理も手伝った。その付き合いは2009年に山下さんが亡くなるまで続いたという。

また、ジャーナリストの竹中労を囲む月例会にも参加し、父の画家・竹中英太郎についての話も聞いている。末永さんはのちに竹中英太郎が挿絵を描いた小説を集めた『挿絵叢書 竹中英太郎』全3巻(皓星社)を編集している。同シリーズの横山隆一、高井貞二も担当。多種多様の雑誌に目を通してきた末永さんだからこそできる仕事だ。

会社を辞めたあと、編集プロダクションで校正のアルバイトをしたのち、90年代末から誠文堂新光社の雑誌『MJ無線と実験』にフリー編集者として関わるようになった。少年時代から親しんできた電気の知識が役に立った。
2001年には、『貸本小説』(アスペクト)を刊行。昭和30年代に貸本屋向けに出されていたライトな小説本を紹介した、ユニークな本だ。
「異なる出版社から似たような装丁の本が出ていることから、貸本小説ということに気づき、自分の中でひとつのジャンルになりました。お金が貯まると地方をめぐって、古本屋で買っては自宅に送るという旅行をしたり、田舎の元貸本屋で貸本小説がたくさん見つかったときは、数人で共同購入したりしました。『貸本小説』というジャンルに気づいてから2、3年で、500冊ぐらい集めたと思います」
同書は安くて変色しやすい本文用紙を使用し、時とともに古びる本だとアピールした。古本に関する本が盛んに出ていた時期でもあり、注目された。
「書評が書きたくなる本だ、なんて云われましたね(笑)」
同じ年、『彷書月刊』から「昭和出版街」を連載。そののち、PR誌『アスペクト』で「『垣の外』の文学」を連載した。いずれも、出版史・文学史の主流ではない、まだジャンルとみなされていないものに注目している。
「目的を持って集めるのではなく、目の前に来てくれたものを読んで、その意味を考えるのが好きです。いろいろ見ていくうちに、これまでジャンルとして成立していなかったものを、ひとつの塊として認識できるようになる」
いま気になっているのは、戦前のユーモアものだという。
「たとえば、原田宏『夫婦戦線異状なし』(1930年)の主人公は、探偵小説の研究家で、テーマはドッペルゲンガーです。版元の中村書店はマンガで有名ですが、こういう奇妙なユーモア小説も出しているんです」

以前は即売会にも通っていたが、10年ほど前から行かなくなった。
「あるデパート展で、初日の開場に集まったマニアの列におばあさんが巻き込まれて倒れてしまった。それに目もくれず走っていく連中を見て、自分もこうだったのかと、なんだかいっぺんに醒めてしまったんです。いまは目録やネットで買う方が多いですね」
それと、老眼で読書に根が詰められなくなったのも辛い。これについては、私も他人ごとではない。

自宅の本は以前は整理できていたが、東日本大震災と棚の老朽化でぐちゃぐちゃになって以来、諦め気味だという。
「もともと私以外には価値がない雑誌が多いですし、体系立ってもいません。私が死んだら捨てるしかないでしょうね」
しかし、その体系のないところに新しい山脈を発見するのが、末永さんという人なのだと思う。私はその成果が読める日を待っています。

 

 

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

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私が実感する古書組合に加盟することのメリット6つ

私が実感する古書組合に加盟することのメリット6つ

書肆吉成 吉成秀夫

平素はご愛顧いただきありがとうございます。札幌組合の書肆吉成の吉成秀夫です。この度は東京古書組合さんよりメルマガに原稿を書くようにとご下命があり、3回にわたって書かせて頂きます。今回は東京組合さんより指定のありましたテーマ「私が実感する古書組合に加盟することのメリット6つ」をご紹介いたします。加えて、昨年7月21日に私が古書店修行をした札幌の伊藤書房の伊藤勝美さんが亡くなりまもなく一周忌となりますのでその追悼の意味をこめた原稿となります。古書店経営や組合にご興味ある方にお読みいただければと思います。

さて、今年3月26日に私はツイッター( https://twitter.com/syosiyosinari/ )に以下の投稿をしました。
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私が実感する、古書組合に加盟する5つのメリット
1.「日本の古本屋」に出品できる。
2.組合が開催する古本市に参加できる。
3.全国の市場を利用して仕入れや在庫処理ができる。
4.同業者に仲間ができる。
5.古書月報、全古書連ニュースといった業界紙を入手して全国動向を知ることができる。
番外.なんらかの被災があったときに支援金を送るなど相互扶助ができる。
------------------------
これが東京古書組合さんの目に留まったとのことなので、以下に私個人の実感に即して解説してゆきます。

まず、1番目。「日本の古本屋」に出品できる。
書肆吉成では店頭販売のほかネットでは日本の古本屋とAmazonに出品しております。売上比は日本の古本屋の売上がAmazonの約2倍です。出品点数と販売点数はAmazonの方が多いのですが、貴重書、学術書、全集、雑誌などは日本の古本屋に出品しており、結果的に日本の古本屋の売上のほうが格段に多くなっています。かつてはAmazonの売上のほうが多かったのがここ3年くらいで逆転しました。今は日本の古本屋での販売に力を入れています。これはなぜかと言うとAmazonの手数料が比較的高額なのと、仕様や規約がころころと一方的に変更されることにうんざりしていることと、機械相手に価格競争をしている感じがすることのつまらなさが原因です。Amazonに隷属し、その下請けとして働かされている気がして、これでは自営で古書店をやっている意味がないよという気持ちになります。一方で日本の古本屋はお客さんの姿が感じられ、自分の裁量でお客様とコミュニケーションをとりながら信頼関係をつくれます。常連さんができるとうれしいです。登録販売のプロセスが若干面倒で手間なのですが、ひとつひとつ自分の手でやっていくことで手ごたえや面白さを実感できます。多少の不便さをふくめて日本の古本屋を好んで使う理由です。

2番目に挙げたのが「古本市に参加できる」です。
札幌古書組合では年2回の古本市を開催しています。今はコロナでできませんが、例年は新札幌サンピアザという大型商業施設にて紀伊國屋書店新札幌店さんと共催で各3日間の開催をしています。古本市では単価の安い商品を大量に売りさばくことができます。古本市用に本を分けて用意するのは大変ですが、それを上回るメリットは地元のお客様とじかに接することができることです。本好きのお客様へ手から手へ本を売るたびに手応えを感じます。モチベーションも上がるし売上も上がる。買取につながる。ライブ感がある。商売を営むうえでこれ以上のメリットがありますでしょうか。

3番目として全国の市場ですね、札幌古書組合では習慣的に「交換会」とか「セリ場」と言っていますが、「市場を利用して仕入や在庫調整ができる」ことです。多くの人が組合加盟のメリットとしてこの市場の利用を挙げると思います。
「売り」では大量出品してまとまった資金を得ることができ、「買い」では自分好みのジャンルの本を落札して自店の特色を打ち出せます。全国の市場を利用できるので、札幌の組合員でも東京の「大市」で売り買いしたり、珍しい本を仕入れて商売を大きく飛躍させることができます。
また、「売り」で無視できないメリットは大量出品によって生み出される「スペース」です。古書店業は在庫=空間=コストです。空間をどう使うかは経営に直結します。当店は約50坪の店舗のほかに合計200坪を超える3カ所の倉庫に本を置いていますがそれでも空間確保はつねに課題です。そもそも札幌古書組合の市場は月1回の開催なので、東京のように毎日市場があって自社販売と市場を自転車の両輪のように回していくようなスタイルを作れません。そのため自然とフローよりストックを重視する難しいやり方になりました。

市場は個人的にも大好きで、宝探しの楽しさがあり、行けば必ず絶対に面白い本があります。ここですこし脱線をさせていただくと、私が古書の世界に憧れるきっかけになった人は「本の真剣師」月の輪書林の高橋徹さんでした。私が学生時代に文化人類学者の山口昌男先生がホストで坪内祐三さんと月の輪書林の高橋さんを招いた講演会が札幌でありました。そこではじめて「生の」古本屋さんを見ました。講演会も面白かったのですが(坪内祐三『三茶日記』p72参照)、その翌々日に山口先生たちと古本市に出向き、その後カフェで昼食をとりながら古本市の獲物を見せあう自慢合戦をしました。それがすごく楽しくて、その場の思いつきで私は「大学を卒業したら古本屋さんになりたいです」と発言したところすぐさま月の輪さんと坪内さんに「いやいやそれはやめた方がいいよ!」と止められました。それがまた漫才みたいで面白く、やっぱり僕は古本屋さんになるんだ、と心のなかで決心したのでした。
さて、高橋徹著『古本屋 月の輪書林』(晶文社)には市場での奮闘ぶりが描かれていて、それは真剣勝負そのものです。高橋さんの主戦場は市場であるようです。市場とはなんて面白そうな場所なんだろう、こんなふうに本気で打ち込み戦える仕事というのが世の中にあるのかと大いに感化されました。是非自分も市場というところで同業者と切磋琢磨しながら商売をやってみたいと思ったものです。

実際つねに市場はドラマティックです。落札できたできないの一つ一つに火花が散っています。雑本の山のなかに光るものが一冊ありそれを仕入れたいと思った場合に他の同業者はこの本の存在に気づいているか、どのくらい札が入っているか、自分の懐具合はどうか、運を天に任せて乾坤一擲いざ勝負! といった緊張感ある駆け引きがあり非常に面白いです。アドレナリンが分泌しているのがわかります。私が修行した伊藤書房の伊藤社長がまた市場が大好きで、ワクワクするといって毎月セリを楽しみにしており、景気のいい時はどれもこれも片っ端から落札するような豪放磊落な人でした。伊藤書房での修行時代には釧路や帯広の交換会や東京の大市にも連れて行ってもらいました。古書業のおもしろさの一つは本を求めて地方に出かけられることです。市場は古本の仕事を楽しくするひとつの仕掛けだと思います。

4番目として「仲間ができる」をあげました。札幌組合は月1度ですがセリ場でいつも同業者と顔を合わせて少ない言葉を交わすだけで自然と打ち解けます。古本市などのイベントを一緒にやるとぼくらは仲間だという感じがしてきます。仲良くなったからといってべつにどうということもないんですが(昔は大きな仕入れがあると何店か共同で仕入れるといったことがあったようですけれども)、すくなくとも孤独ではないですね。お互いどんな商売をやっているのか意識し、セリ場でどんな本をどのくらいの強さで落札しているかを見て参考にしたり、荷物運びを手伝いながら、こないだ怪我しちゃってさぁとかどこに旅行に行ったとか昔はよかったぞーとバブル時代の話を聞いたり。茶飲み友だち的なコミュニケーションのなかに耳学問の種があるばかりでなく、たんにこんな他愛もない時間が好ましく、意外とかけがえのない貴重なことだと思います。

5番目として業界紙で全国動向を知ることができます。4番目のメリットの全国拡大版ですね。全国の情報が入ってきます。大市の出来高や別の地方の古書組合の様子などがうかがえます。東京組合が発行している古書月報はさまざまなエッセイ、座談会、インタビューが収録されていて読み物としてもとても面白いです。内輪向けの完全にガードの下がった本音が載っていたり、非常に力の抜けたリラックスした文章を愉快に読めたり。そういうなかに海外のお客さんが最近どういうものを盛んに購買しているとか、どういうものが商品としてクローズアップされてきているとか、新しい組合員さんが加入したとかがわかります。日々皆さんが思っている何気ないことにヒントがあったり無かったりと、なにかと参考になります。「古書業界」というおおきな世界で自分も商売してるんだぜという実感を呼び覚ましてくれます。

6番目として「被災した時に支援金を贈り合う」。寄付活動です。助け合いの輪に参加できます。
商売は「攻め」(売り・投資)だけでなく「守り」(保険・福利・補強や修繕・休むこと・リスク管理)がとても大切です。「攻め」は勢いでやれるので簡単ですが「守り」は案外難しいものです。古書組合はこの「守り」の機能があります。数年前、大洪水の被害を受けた古書店が近隣の古書店さんの手伝いをうけて倉庫の汚損本を処分した様子がツイッターにありました。全国組合に募金が呼びかけられ、私も少額を寄せました。ときにライバルとして、ときに仲間として、助け合い切磋琢磨しながらやっていく、そういうものとして組合が存在していることは有難いことです。

古書組合は何の権力も強制力もない組織で、組合員がそれぞれめいめいに自分の利益を追求するための相互扶助組織です。組合に加盟することは自分たちの「生き残り」のためにプラスに働きます。自社の利益だけでなく業界全体を盛り立てようと考えた時に非常に有効に機能します。全体で取り組むことで課題を解決し、一人一人が潤います。その大きな仕組みが「日本の古本屋」と「市場」です。これは個人で必死にやっていてもなかなか達成できない仕組みです。

以上6つのメリットを挙げてみました。これで東京古書組合さんからのご依頼に応えられたでしょうか。

さて、ここまで原稿を綴りながら、私には昨年亡くなった伊藤書房の伊藤勝美さんのことが思い出されてなりません。伊藤書房は私が修行した古書店です。今までの人生で唯一厚生年金をかけてもらったのがこの頃です。私が独立するときは札幌古書組合にスムーズに加盟できるよう配慮してくださり、独立後は組合の事業活動で助け合い協力しあう関係を継続しました。市場の一角をともに作っていったのです。
伊藤さんはとにかく情報が大事だといってこまめに連絡をくれました。ほかの古書組合員のご家族に訃報があればすぐに香典を持っていくという具合で、付き合いを大事にする昔気質(むかしかたぎ)の方でした。そんな伊藤さんの姿から、組合の存在がただ商売の場というだけでなく、そこでの生老病死や人付き合いを大事にする、家族的な共同体のようなものとして私のなかに意識付けられてゆきました。
また、私は伊藤さんが先輩ですが、その伊藤さんはえぞ文庫の古川実さんに商売の恩を感じていて、そういった継承、系譜が繋がっていく場として組合が考えられます。排他的なムラ社会の縁故主義のような側面がでてしまうきらいがありますが、そういう系譜とはなんの関係もなく入ってくる人もいますし、古書を商う者同士があつまって仲良くなったり喧嘩したりみんなで温泉に行ったり古本市をやったり、そんな離合集散をワイワイガヤガヤとやりながらぜんたい古書店業が純粋持続してゆく場として古書組合があるのだと思います。札幌古書組合80年史という本も数年前に発行しました。東京古書組合百年史も間もなく刊行予定と聞いています(ご予約お急ぎください)。
伊藤さんは自分の利益追求に余念の無い人でしたが、不思議と人づきあいや仲間付き合いを大切に考えた人でした。情が厚く、下世話な話もあけすけにものを言い、宴会が大好きでした。古書店業の大先輩として、ときには反面教師として、つねに体当たりの付き合いでした。伊藤さんの背中をみることで、私は私なりの仕事のスタイルをつくることができたのだと思います。7月21日に一周忌となる伊藤勝美さんにこの原稿を捧げたいと思います。



書肆吉成
https://camenosima.com/

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2021年6月25日号 第325号

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     。.☆.:* その325・6月25日号 *:.☆. 。
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を希望された方にお送りしています。
ご不要な方の解除方法はメール下部をご覧下さい。
【日本の古本屋】は全国950書店参加、データ約640万点掲載
の古書籍データベースです。

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☆INDEX☆
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 『東京古書組合百年史』刊行に寄せて   小山力也

1.『出版状況クロニクルⅥ』       小田光雄
2.『日本疫病図説』           畑中章宏
3.『長澤延子全詩集』          福島泰樹

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━━━━━━━━━【『東京古書組合百年史』刊行】━━━━━━

『東京古書組合百年史』 刊行

東京都古書籍商業協同組合は、1920年1月に東京古書籍商組合とし
て創立され、2020年に創立100周年を迎えました。
100周年の記念事業の一環として 2021年8月に『東京古書組合百年史』
を刊行いたします。
本史は、昭和・平成・令和の各時代における古書市場の歴史は
もちろんのこと、当組合が経験してまいりました様々な歴史を
記録として残すことを心がけました。
ぜひ多くの皆様にご覧いただければ幸いです。

・書籍判型:A5上製本
・総 頁 数:696ページ(内、巻頭カラーページ:16ページ)
・定  価:8,000円(税込・送料込)
・申込締切:7月16日(金)17時まで

※本書は、「予約限定販売」となります。

東京古書組合百年史
http://www.kosho.ne.jp/100/index.html

━━━━━━【『東京古書組合百年史』刊行に寄せて】━━━━━

茨の道の古本屋分布図

          古本屋ツアー・イン・ジャパン 小山力也

 東京古書組合が百年史を編纂し始めたことは、編纂委員のひとり
である、日頃から何かとお世話になっている西荻窪の盛林堂書房さ
んから聞き及んでいた。古本屋好きのマストアイテムとして、大阪
古書籍協同組合『古本屋人生 あんなこと こんなこと』、札幌古書
籍商組合『札幌古書組合八十年史』神奈川県古書籍商業協同組合『
神奈川古書組合三十五年史』などは手に入れていたので、ついに東
京も出すのか!と楽しみにするとともに、長年東京の古本屋さんを
訪ね歩き、古本を買って来た者として、冗談めかしながらも半ば真
剣に「機会があったら何か書かせてよ」とお願いしていた。通常、
組合史は編纂委員と組合員の文章のみで綴られるものである。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7035

古本屋ツアーインジャパン
http://furuhonya-tour.seesaa.net/

━━━━━━━━━━━━【自著を語る(272)】━━━━━━━━

『出版状況クロニクルⅥ』

                     小田光雄
 
『出版状況クロニクル』を書き始めたのは2007年からなので、足か
け15年を閲し、現在も書き継がれている。今回の6冊目としての『出
版状況クロニクルⅥ』は2018年から20年までの3年間をトレースして
いることになる。
 このような21世紀初頭からの出版状況論を書く端緒となったのは、
1999年刊行の『出版社と書店はいかにして消えていくか』(ぱる出
版、後に論創社)であった。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7030

『出版状況クロニクルⅥ』(2018年1月~2020年12月)
小田光雄著 論創社刊 定価3300円(税込)好評発売中!
https://ronso.co.jp/

━━━━━━━━━━━【自著を語る(270)】━━━━━━━━━

『日本疫病図説』

                     畑中章宏

 いま私たちが脅威にさらされている新型ウイルスによる感染症の
ような疫病、毎年のように列島の各地で発生する水害をはじめとし
た自然災害を合わせて、ここでは「厄災(やくさい)」と呼ぶこと
にする。厄災に際して近世の人々は、まじないに頼り、さまざまな
神仏にすがった。そうして、厄災をめぐる新たな信仰や習俗が生ま
れていった。

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『日本疫病図説』 畑中章宏 著
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━━━━━━━━━━━【自著を語る番外編】━━━━━━━━━

『長澤延子全詩集』

                       福島泰樹
 
敗戦後の1949(昭和24年)6月、17歳の命を断った少女の詩文『友よ
 私が死んだからとて』が1960年代後半の叛乱の時代に言葉を与えた。
 
  私は一本のわかい葦だ
  傷つくかわりに闘いを知ったのだ
  打ちのめされるかわりに打ちのめすことを知ったのだ

  雪よ 闘いの最中にこの身に吹きつけようとも
  もうすでにおそい
  私は限りない闘いの中に
  私の墓標をみた                                
           
 「墓標」と題する詩の一節だ。死の年の一月に書かれている。
この詩が書かれて19年、長澤延子の詩が、学生たちに読まれる
時を迎えたのである。

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『長澤延子全詩集』福島泰樹編
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http://www.libro-koseisha.co.jp/literature_criticism/9784774407364/

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期活動報告(仮題)
古本屋ツーリスト 小山力也
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『大宅壮一文庫解体新書 雑誌図書館の全貌とその研究活用』
阪本博志 編 勉誠出版 定価:3,850円 好評発売中!
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『社史・本の雑誌』 本の雑誌編集部
本の雑誌社 定価6600円(税込) 好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114574.html

8月号 予告

『書物・印刷・本屋』藤本幸夫編
勉誠出版刊 定価:17,600円
https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101221

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

6月~7月の即売展情報

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日本の古本屋メールマガジンその325 2021.6.25

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
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【発行者】
 広報部:志賀浩二
編集長:藤原栄志郎

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茨の道の古本屋分布図

茨の道の古本屋分布図

古本屋ツアー・イン・ジャパン 小山力也

 東京古書組合が百年史を編纂し始めたことは、編纂委員のひとりである、日頃から何かとお世話になっている西荻窪の盛林堂書房さんから聞き及んでいた。古本屋好きのマストアイテムとして、大阪古書籍協同組合『古本屋人生 あんなこと こんなこと』、札幌古書籍商組合『札幌古書組合八十年史』神奈川県古書籍商業協同組合『神奈川古書組合三十五年史』などは手に入れていたので、ついに東京も出すのか!と楽しみにするとともに、長年東京の古本屋さんを訪ね歩き、古本を買って来た者として、冗談めかしながらも半ば真剣に「機会があったら何か書かせてよ」とお願いしていた。通常、組合史は編纂委員と組合員の文章のみで綴られるものである。だからそこに部外者が割り込ませてもらう望みなど、薄いことはわかっていたのだが、そんな記念すべき本に、一介の古本屋好きとして少しでも関われたら、なんと素敵なことだろう!などと手前勝手に夢想していたのである。だが、これが、〝棚から牡丹餅〟どころか、〝薮を突ついて蛇を出す〟という故事を、地で行く事態を招くとは、予想だにしていなかった……。

 二〇二〇年八月、盛林堂さんより仕事の相談があると言われ、話を聞くことになった。このご時世仕事の話なら、何でも嬉しいものである。その仕事とは、組合百年史についてのものであった。これは何か一文書かせてもらえるのか!と色めき立ったら「地図を作って欲しい」という、意外な依頼であった(私の本来の職業はグラフィックデザイナーである)。組合所属のお店を、現在と昭和六十二年近辺の二つの時代を重ね合わせ、神田支部・新宿支部・中央線支部・南部支部・文京支部・北部支部・東部支部の七つに分け、それぞれを見開きで紹介したいという。だがこれを聞いた瞬間、激しく尻込みしてしまう。無理だ、とても無理だ。新宿・文京・神保町(店数はとてつもなく多いが)など、一地区にわかりやすく固まっているところは地図化できても、果てしなく横に広がる中央線支部や、広大な上に店数も多い南部支部を見開きにまとめるなんて、絶対に無理だ!と即座に気付いたので、相当の難物であることを伝えつつ「よくわかっている広報さんが作成した方がいいんじゃないの」などと言ってみるが、盛林堂さんは柳に風と言った感じで、「とにかく作ってみて欲しい。やり方は任せるし、ページ数もどうにかするから」とやんわり説得され、ついには「作り始めてみないと、どんな形になるかわからないから、作業を進めつつ色々相談させてください」と言うことになってしまった。

 しかしいったいどうしたものやら……そうこうするうちに九月になり、組合所属店の全名簿と、広報さんがある程度ネット地図にお店をプロットしてくれたものが迅速に届き、プレッシャーをかけられる……まず、作り易いところから手をつけてみよう。そう決めて、グズグズしながらも、手始めに新宿支部の地図を作り始める。これはさすがに上手くまとまった形で、容易に見開きに収まり事無きを得た。十月に編纂委員会にサンプルとして提出。この時「こんな地図じゃダメだ。こんないい加減なものを百年史に載せるわけにはいかない。やめだやめだ」……などと言われ、これ以上地図を作らなくてよくなることを期待したが、意外にもサンプルは好評を持って迎えられ、「早く他の支部も見たいので、この調子で続きも作って欲しい」と言われてしまう始末。おまけにページ数が増えても構わないと、お墨付きまでいただいてしまった…あぁ、やっぱり作らなければならないのか……。

 そこからは、茨の道の試行錯誤の連続である。ページ数に拘らずによくなったとは言え、広い地域に跨がる支部は、詳細な地図化は大変に困難である。そこで発想を転換し、各支部の中に走る鉄道路線を基準とし、駅を目印としてその周辺にお店を配置する形を採ることにした。だが実際の地図や鉄道路線図をそのまま誌面に落とし込むわけにはいかないので、まずはページの形に収まるように、空間をあっちゃこっちゃ捩じ曲げ、手書きで地図を作ってから、それをデータ化して行った。しかも、現在のお店と昔のお店を、見落とさぬよう重ね合わせて行く……地獄のような、果てしなく地味で細かい複雑怪奇な作業であった。一瞬、大好きな古本屋さんが嫌いになりそうになった……だが、作業は年を越し、何とか一月には全支部のサンプルが出せるところまで漕ぎ着けたのである。結局ページ数は十四ページから二十三ページに増大。そして当初の〝古本屋地図〟というよりは、東京に散らばる古本屋さんを俯瞰するような作図になっていたので、名称を〝古本屋分布図〟に変更。そこからは各支部の編纂委員の方々にご迷惑をかけ、何度も何度も校正をかけていただき、修正を加えつつ次第に完成へと近づいている次第である。

 長い長い過酷な茨の道も、ようやく終わりが見えて来た。今はもうただただ、難儀した分布図が無事に収まった本が、出来上がって来るのを楽しみに待つばかりである。

東京古書組合刊 『古書月報506号』2021年6月より転載

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『長澤延子全詩集』

『長澤延子全詩集』

福島泰樹

敗戦後の1949(昭和24年)6月、17歳の命を断った少女の詩文『友よ 私が死んだからとて』が1960年代後半の叛乱の時代に言葉を与えた。
 
  私は一本のわかい葦だ
  傷つくかわりに闘いを知ったのだ
  打ちのめされるかわりに打ちのめすことを知ったのだ

  雪よ 闘いの最中にこの身に吹きつけようとも
  もうすでにおそい
  私は限りない闘いの中に
  私の墓標をみた                                
           
 「墓標」と題する詩の一節だ。死の年の一月に書かれている。この詩が書かれて19年、長澤延子の詩が、学生たちに読まれる時を迎えたのである。「墓標」を書き写しながら私は、1969年1月、陥落後の東大安田講堂の壁に書き記されていた「君もまた覚えておけ/藁のようにではなく/ふるえながら死ぬのだ/一月はこんなにも寒いが/唯一の無関心で通過を企てるものを/俺が許しておくものか」、あるいは「連帯を求めて孤立を恐れず/力及ばずして倒れることを辞さないが/力を尽くさずして挫けることを拒否する」などの檄詩を思い起こしていた。
 延子の詩が秘めた時代へのつよい想いとその予見性を思う。敗戦後ほどなく地方の一少女が書いた詩が、濃密なリアリティーをもつ時代が現出したのである。

 長澤延子1932(昭和7)年2月、機業の街桐生(群馬県)に生まれる。ほどなく母を喪う。44年、桐生高等女学校入学と同時に、伯父の家にもらわれてゆく。45年、勤労動員先の工場で敗戦を聞く。46年1月(13歳)、この頃から詩を書き始める。「友よ 何故死んだのだ/紫の折鶴は私の指の間から生れた/落葉に埋れたあなたの墓に/私は二つの折鶴を捧げよう」。
 「折鶴」は14歳の詩。延子の詩は、死に向かって歩行を開始したいま一人の私(友)、つまり自身への呼びかけから始まる。だが、もう一人の私は「新聞部」や「社会部」を創り、壁新聞「ホノホ」を編集。この間、文学、歴史、経済、哲学、政治、社会、心理、精神病理学の書を乱読。15歳、高村瑛子との文通が始まる。16歳、自殺した一高生・原口統三の手記『二十歳のエチュード』に出会い「原口病」に陥るほどの影響を受ける。だが心の闘いを経て、「原口は純潔を求めて死に転身しました。私は生への純潔を求めて」「唯物論に転身します」と書くに至る。

 1948(昭和23)年5月、延子16歳3ケ月。原口との戦傷の3月、4月を経て、詩作に火が付いた。死没までの13ケ月、多数の長編詩をふくむ107篇もの詩作品を書き記す。女性詩研究家クリハラ冉は、それを「奇跡の十三ケ月」と名付けた。なかば絶望的にコミュニストへの転身を、生きるよすがとしてである。「友よ/私が死んだからとて墓参りなんかに来ないでくれ」。10連44行からなる「別離」の書出しである。
 「名も知らない高山花に包まれ」「たゞ冬になったときだけ眼をさまそう」そして「ちぎれそうに吹きすさぶ/風の平手打に誘われて/めざめた魂が高原を走りまわるのだ」。この鋼【はがね】のように硬く、しなやかな語感のうちに、詩人長澤延子の生への決意がこめられている。「私の墓を/幾度び〱 過【ヨ】ぎる春秋の中で/人々の歩みを/やがては/忘られた勝鬨さえ聞くことが出来るだろう」。彼女は、参加しようとしているのだ。戦後の荒地を切り開き、歩んでゆくだろう人々の未来を、万感の思いをもって見守ろうとしているのだ。「忘られた勝鬨」を聞くことが出来たとき、私は歴史にしかと参加しえたのである。複雑に織り込んだ時間と、そこに生起する感情の襞、それをわずかな行数でやってしまう韻律の妙。

 12月、最後の望みを託して青共(日本青年共産同盟)に加盟、晴れやかにオルグ活動を続ける。養家の父母の逆鱗にふれ、青共メンバーとの絶縁を誓わせられる。3月15日、桐生高等女学校を卒業。卒業の前後から、それまでの詩稿を大学ノート(ノート「A」「B」)に整理。26日夜、服毒後最後の詩稿、200行にも及ぶ長編詩「寄港日誌」を画帳に書き続け、地上への別れとする。…
が、自殺に失敗。日を経ずして、再び詩を書き始める。
 「母よ/静かなくろい旗で遺骸を包み/涯ない海原の波うちぎわから流してくれまいか」。初めて生母への切ない思いを明かす。そして、「何から何までを吐き出してしまいたい衝動にかられ書くつもりではなかったこの手記を」書き始める。

  さようなら
  死人の言葉に耳傾けるいとまも持たぬ程に、
  うるわしく一人一人の生存のためにたたかって下さい。

  私は破船した
  最後の通牒を眠りに沈んだマストにかかげる。
  さようなら
  ひとたび去ってはもう二度ともどらないもの。
  美しい生存の名において。

 延子実父からの依頼を受けた友人、新井淳一らの手によって私家『「海」長澤延子遺稿集』が刊行されたのは、1965(昭和40)年10月。詩人、評論家、新聞社などへの贈呈が功を奏し、詩集は人の知るところとなった。翌春、芳賀書店の編集者矢牧一宏が出版を申し出てきた。しかし、手記と詩からなるアンソロジーは、芳賀書店から刊行されることはなかった。この経緯は、原口統三『二十歳のエチュード』に、似ている。山田出版社の編集者伊達得夫は、自らが編集しヒットを飛ばした『二十歳のエチュード』一巻を引っ提げて書肆ユリイカを創設。矢牧は、売れると踏んだのだろう。「天声出版」を起こし、長澤延子『友よ 私が死んだからとて』を刊行。改版を重ね累計10万部のベストセラーを送ることとなるのだ。

 私が、長澤延子に出会うのは、「江古田文学」68号(編集長・中村文照)特集「夭折の天才詩人 長澤延子」に歌稿の依頼を受けた2008(平成20)年5月のことであった。その詩「折鶴」「別離」「乳房」「わだち」「星屑」などの詩篇に感銘した私は、毎月10日の吉祥寺「曼荼羅」での月例「短歌絶叫コンサート」を基点に、延子詩朗読行脚を開始。
 翌年、桐生市水道山記念館で、長澤延子没後60年、その友高村瑛子没後5年祭が、新井淳一の尽力で開催された。一高生原口統三の僚友で『友よ 私が死んだからとて』出版の仕掛人いいだももの挨拶がこころに沁みた。この日を境に、『長澤延子全詩集』刊行が私の夢となった。何人かの出版人にも話をもちかけてみた。テキスタイルプランナー新井淳一氏のアトリエにも何度かお邪魔した。
 2015年4月、月例「短歌絶叫コンサート」の会場 、吉祥寺「曼荼羅」に吉報がもたらされた。皓星社藤巻修一氏が、『長澤延子全詩集』刊行を申し出てくれたのだ。爾来編纂に要すること6年の歳月を経て、遺稿詩集『海』(栞をふくむ)全編の他、大学のノート3冊に書かれた詩稿129篇、大学ノート2冊にびっしり書かれた手記、長編詩「寄港日誌」、遺書、死後発見の小品などあますところなく網羅。クリハラ冉の解題、福島泰樹解説のもと、850頁の大著が、晴山生菜社主の手で開板をみる。装訂・造本は間村俊一。
 おりしも来春、詩人長澤延子生誕90年を迎える。

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『長澤延子全詩集』福島泰樹編
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