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『脇役本 増補文庫版』

『脇役本 増補文庫版』

濱田研吾


 今年4月、ちくま文庫から『脇役本 増補文庫版』を上梓した。『脇役本 ふるほんに読むバイプレーヤーたち』(右文書院、2005年)より120ページほど増補し、文庫化した。
 脇役本。ひとことで書けば「俳優本」である。筆者独自の定義は3つ。日本人であること。故人であること。好きな俳優もしくは関心のある俳優であること。自伝、エッセイ、写真集、闘病記、絵本、詩集、句集、評論、小説、実用書、雑誌、家族(遺族)が書いたもの、ファンがこしらえた研究書、法要の席でくばられる「まんじゅう本」、ジャンルは問わず。

 文庫化にあたっては、18人分を書き下ろし、77人の俳優の名が目次にならんだ。脇役といっても、人それぞれ。脇でも印象的な主演スター(佐分利信、天知茂)、映画やテレビは脇でも演劇界では大物(滝沢修、八代目坂東三津五郎)、かつては主役で晩年は脇役(高田稔、市川百々之助)、生涯バイプレーヤー(中村是好、野口元夫)、セミプロの俳優(菅原通済、三國一朗)…。舞台、映画、放送と活躍の場も多彩である。

 新刊文庫だが、古本屋さんに読んでほしい。紹介した脇役本はほぼすべて“古本”で買ったものだから。そもそも、3つの定義に当てはまる脇役本は、新刊ではまず見かけない。独断と偏見に満ちた体系であっても、こうして一冊にまとめると、見えてくるものがきっとあるはず。それは、プロの古本屋だからこそ感じられる特権、だと思う。

 子どものころから、古い日本の映画・テレビドラマが大好きだった。ごひいき俳優の著作を探そうと、古本屋をめぐった。通っていた高校は、JR大阪環状線の沿線にあった。阿倍野の「古本のオギノ」、大阪球場の「なんばん古書街」、梅田の「阪急古書のまち」。懐かしく思い出す。脇役本は、古書価があまり高くない。それゆえ蒐めやすかった。

 売りに出す古本屋なくして、脇役本を手にいれることはできない。個人が古本を売買する時代とはいえ、プロにはかなわない。東映時代劇の名悪役だった吉田義夫が、日本画家を志していた若き日々を綴った『波光先生を想う』(私家版、1978年)。古書展の棚にならべた月の輪書林さんの見立てなくして、この稀覯本と出会い、『脇役本』のトリを飾ることはなかった。

 蒐め出して30年。未知、未見の脇役本はたくさんある。最近も「日本の古本屋」で、『語りもの 京都新劇史 その一』(京都新劇団協議会、1974年)という冊子を見つけた。劇団「くるみ座」を支え、映画やテレビで“こわいおばあちゃん”としてならした名女優、毛利菊枝の聞き書きである。これだから脇役本狂いはやめられない。
 泉下の俳優について書くのは、楽しい。届かぬ手紙を書いているような、心地よさがある。続きも書きたい。これからも“ウブい”脇役本を、売りに出してください。待っています。



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『脇役本 増補文庫版』 濱田 研吾 著
筑摩書房 定価:本体1,200円+税 好評発売中!
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480434944/

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江戸から伝わる古書用語 3 江戸時代の市場    (シリーズ古書の世界第6回)

江戸から伝わる古書用語 3 江戸時代の市場

橋口 侯之介(誠心堂書店)

前回、江戸時代にも古書の市場があったことを述べた。河内屋和助こと三木佐助の懐古談『玉淵叢話』によれば、「糶市(せりいち)と申すものでござりました。……伊丹屋善兵衛で市の定日が二、七の日、外に内々の市屋、柏原屋儀兵衛のが四、九の日、播磨屋太助のが三、八の日でありまして此等の糶市が私共若年者には誠によい参考になりましたのでござります。凡て書籍と云ふ書籍は御経浄瑠璃本まで悉く此市で売買されたものであります」とその盛況ぶりが描かれている。

今回はその実態をもう少し明らかにしておこう。
江戸・京・大坂では本屋仲間が株を与える公式な市場があったことを紹介したが、このほか長崎に入ってくる唐本についても入札で取引されていた。では当時、どのような方式で行われたのだろうか。入札方式なのかセリ方式なのか、ということも知りたいことである。実は入札とセリが併用されていた。
唐本の市では本ごとの落札値段が出てくる史料が残っており、天保2年(1831) 5月12日に開かれた市には、およそ300点が出品されたが、前半は「入札(いれふだ)」で、後半は「是よりふり市」となって方法を変えている。

入札は紙に希望価格と店名を書いて、主催者がそれらを比べて高値の者に落札できるようにする方式で、現在とそう変わらない。それを後半はふり市に変えて行うというのである。ふり市は現在でこそ少なくなったが、昭和期はよく行われていた。振り手が本をかざし、参加者の中から欲しい者が声で値を言い合う。そこで最後まで残った最高値の人に決まるセリ方式である。このほうが盛り上がって高くなることが多いので、後半の善本はそれで競わせたらしいのである。

別名振り立てともいって、文久2年(1862)大坂の市の申し合わせ事項に取引には「えこひいき」がないように、あるいは一度落札した価格を値引きさせるようなことは禁止であると出てくる。たくさん出品したから手数料の値引きをいうようなことをしてはならない、という決めもあった。誰に対しても公平であるように勤めていたのだ。

取引の精算も問題だった。寛延2年(1749)の江戸三組行事の規約によれば、「世利物」といわれた本市で取引された品の支払い期間は十日とし、その支払いを延ばすなら、品物を受け取るのは清算がすんでからである。もし、不算用が判明したらその者の名を市宿(市の会場)に張り出し、現金といえども今後の取引を禁ずるという厳しいものだった。

大坂では、市に荷物を出す売り主にはその月の晦日に売り上げ分を支払い、買い方はその前の二十七日までに支払うことという達しだった。晦日に払うためにはその前に資金を確保するために買い方に早めに支払わせる必要があるからである。ところが、買い方の中には払いを延ばす者がいて困るので、払わない者へは遠慮無く催促するよう申し聞かせるということだった。こういうことは古くて新しい問題である。



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『和本への招待 日本人と書物の歴史』 著者 橋口 侯之介
角川選書 (角川学芸出版・角川グループ)
定価 1,728円(本体1,600円+税)好評発売中!
https://www.kadokawa.co.jp/product/201001000449/

誠心堂書店
http://seishindo.jimbou.net/catalog/index.php
 

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2018年5月25日 第251号

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☆INDEX☆
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1.『公共図書館の冒険』           田村俊作
2.『熊楠と猫』               志村真幸
3. Editorship(エディターシップ) Vol.5   大槻慎二

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━━━━━━━━━━━【自著を語る番外編】━━━━━━━━━


『公共図書館の冒険』

                       田村俊作


 公共図書館は,日本中どこにでもありよく使われている施設です。
おおぜいの人が利用してその恩恵を受けている一方,ベストセラー
を大量に貸し出して出版社の利益を損なっていると,作家や出版社
からたびたび非難されてきました。最近では,書店が運営する図書
館が大賑わいを見せています。ん?書店が図書館を運営?


続きはこちら
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『公共図書館の冒険』
編:柳与志夫・田村俊作
執筆:小林昌樹・鈴木宏宗・柴野京子・河合将彦・安井一徳・小田光宏
みすず書房刊 定価:3,780円(本体3,500円)好評発売中!
https://www.msz.co.jp/book/detail/08682.html



━━━━━━━━━━━【自著を語る番外編】━━━━━━━━━━


『熊楠と猫』

                        志村真幸

 水木しげるの『猫楠』は南方熊楠を主人公とした漫画だ。熊楠に
ついてよく調べられ、我々研究者から見ても違和感がない。なによ
り優れているのは、熊楠を猫という切り口から描いた点だろう(た
だし、荒唐無稽に過ぎる面もあって、先日は授業で学生から「熊楠
って猫と会話できたんですよね?」と質問された)。

続きはこちら
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『熊楠と猫』
著者:南方 熊楠・杉山 和也・志村 真幸・岸本 昌也・伊藤 慎吾
共和国刊 価格 2,300円+税 好評発売中!
http://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784907986360

━━━━━━━━━━━【編集長登場シリーズ】━━━━━━━━


出版業の本来の姿を思うーー「Editorship vol.5」の発刊に際して

日本編集者学会事務局長
「Editorship」編集長 大槻慎二

2年ぶりの発刊となる「Editorship」第5号をお届けいたします。
前号では沖縄で地元メディアとコラボしたセミナーを取り上げ、
現在の辺野古基地問題にも通ずる沖縄の歴史とメディアの関係を
扱いましたが、今回は長野県飯田市に場をうつし、「信州と出版
文化」と題して行ったセミナーを軸としてコンテンツを構成いたし
ました。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=3893


Editorship(エディターシップ) Vol.5 日本編集者学会編
特集1信州と出版文化 他
価格 1,600円+税 好評発売中!
発行:日本編集者学会 販売:田畑書店
http://tabatashoten.co.jp/


━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『カバー、おかけしますか?』中西晴代 編
出版ニュース社 定価:3024円  好評発売中!
http://www.snews.net/book/978-4-7852-0164-7.html


「大正モダーンズ ~大正イマジュリィと東京モダンデザイン~」
会 場:千代田区立日比谷図書文化館 1階特別展示室
会 期:2018年6月8日(金)~2018年8月7日(火)
休館日 6月18日(月)、7月16日(月)
観覧時間:平日 午前10時~午後8時、土曜日 午前10時~午後7時、
https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/hibiya/museum/exhibition/taisho-modern.html

『脇役本 増補文庫版』 濱田 研吾 著
ちくま書房 定価:本体1,200円+税 好評発売中!
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480434944/

━━━━━━【東京古書会館展示会開催のお知らせ】━━━━━━

 「カバー、おかけしますか?展」

会期 6月20日(水)~6月23日(土)
時間 午前10時~午後5時
会場 東京古書会館 2階情報コーナー

主催 出版ニュース社
協賛 書皮友好協会
後援 東京都古書籍商業協同組合


ホームページ
http://www.kosho.ne.jp/?p=188



━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━


5月~6月の即売展情報

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init


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見逃したメールマガジンはここからチェック!
 【バックナンバーコーナー】
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 次回は2018年6月中旬頃発行です。お楽しみに!
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*☆ 本を売るときは、全古書連加盟の全国の古書店に ☆*
全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

https://www.kosho.or.jp/buyer/list.php?mode=from_banner

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日本の古本屋メールマガジンその251 2018.5.25

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:小野祥之
編集長:藤原栄志郎


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本と人との交流拠点  「神保町ブックセンター with Iwanami Books」

本と人との交流拠点 「神保町ブックセンター with Iwanami Books」


これからを生きるための新しい知識・新しい仲間に出会える本と人との交流拠点「神保町ブックセンター with Iwanami Books」が2018年4月神保町に開業しました

神保町ブックセンターは、書店・イベントスペース・コワーキングスペース・喫茶店の機能を複合させた施設です。

■ 神保町ブックセンターの特徴

コンセプト:未来の自分の種をまく。

神保町ブックセンターは神保町を訪れるだれでもが立ち寄って本を読み、その本を購入でき、さらにコーヒーや食事も楽しめる「本喫茶」と、本に囲まれた空間で仕事ができ、様々なテーマ のイベントをきっかけに、新しい知識や仲間に出会える「仕事場」とを複合させた施設です。新しい知識や発見との出会い、新しい仲間との出会いを促し、これからの時代を生き抜くための気づき・個人の成長のきっかけを提供することを目指します。

アドバイザーに「NUMABOOKS」代表、下北沢「本屋B&B」共同経営者であるブック・コーディネイター内沼晋太郎氏を迎え、同氏との協力体制のもと運営していきます。

「本喫茶」
店内には現行販売されている岩波書店主要出版物をご用意。日中は本が読めて買える喫茶店とし て、さらに夕方以降は本に囲まれながらゆっくりとお酒なども楽しめる場として営業します。

「仕事場」
本に囲まれた空間で集中して作業ができるワークラウンジと会議室、サービスオフィスといったコワ ーキングスペースを提供。ワークラウンジでは、岩波書店の書籍に関するイベントのほか、著者を招いたトークイベント、ワークショップやスクール(連続講座)、読書会などを定期開催します。

【施設概要】
所在地 :東京都千代田区神田神保町2丁目3-1
岩波書店アネックス1階・2階・3階
アクセス:都営地下鉄三田線・新宿線・
     東京メトロ半蔵門線「神保町」駅徒歩1分
営業時間:平日9:00~20:00 土日祝:10:00~19:00
TEL: 03-6268-9064
URL: http://www.jimbocho-book.jp/

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kumagusu

『熊楠と猫』

『熊楠と猫』

志村真幸


水木しげるの『猫楠』は南方熊楠を主人公とした漫画だ。熊楠についてよく調べられ、我々研究者から見ても違和感がない。なにより優れているのは、熊楠を猫という切り口から描いた点だろう(ただし、荒唐無稽に過ぎる面もあって、先日は授業で学生から「熊楠って猫と会話できたんですよね?」と質問された)。

 熊楠は生涯を猫とともに暮らし、しばしば論文のテーマにとりあげ、無数の猫の絵を残した。『熊楠と猫』は、そんな熊楠と猫についてのすべてを集めた本である。猫の絵も100点近くが収録されている。
 本書は、2015年に南方熊楠顕彰館(和歌山県田辺市)で開かれた展覧会をもとにしてつくられた。そもそも展覧会のきっかけは、熊楠の猫の絵があまりに魅力的なことにあった。でっぷりと太っていて、図々しく、油断しきっており、ご満悦な表情を浮かべている。熊楠がどれほどかわいがり、甘やかしていたか伝わってくる。

 熊楠の猫たちは思わぬところに潜んでいる。日記の片隅に描かれていたり、反古の裏に悪戯書きがあったり、論文で難解な概念を説明するのに使われていたり。展示では一部しか出せなかったが、こんなにあるなら本にしなければもったいないということで、『熊楠と猫』が生まれたのだ。

 編集作業中に、熊楠が飼っていた猫の写真が出てきたのにくわえ、熊楠が日本で広く知られるようになった論文である「猫一疋の力に憑って大富となりし人の話として」の続編が3篇も新発見された。これらを収録できた点でも、『熊楠と猫』は意義深いものとなっている。
 なお、本書の出版を記念して、6月5日~10日に、高円寺の来舎ギャラリーにて「熊楠と猫」展(南方熊楠顕彰館:後援)を開催する。



kumagusu
『熊楠と猫』
著者:南方 熊楠・杉山 和也・志村 真幸・岸本 昌也・伊藤 慎吾
共和国刊 価格 2,300円+税 好評発売中!
http://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784907986360



「熊楠と猫」展
南方熊楠と自由で不思議な愛猫たち
2018/6/5(火)~6/10(日) in 高円寺来舎
12:00~18:00
https://gallerykiya.jp/?p=2583

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『公共図書館の冒険』

『公共図書館の冒険』

田村俊作


 公共図書館は,日本中どこにでもありよく使われている施設です。おおぜいの人が利用してその恩恵を受けている一方,ベストセラーを大量に貸し出して出版社の利益を損なっていると,作家や出版社からたびたび非難されてきました。最近では,書店が運営する図書館が大賑わいを見せています。ん?書店が図書館を運営?
 そもそも,どうして自治体は公費で本を買い上げて無料で住民に貸すようなことをするようになったのでしょうか。公共図書館はどのようにしていまのような運営のし方や利用のされ方になったのでしょうか。

 本書は,わが国の公共図書館の歩みを,利用者,本棚,出版界との関係,図書館員,カウンターといった多様な観点からたどり,それぞれ,最初の頃はどうだったのか,それがどのような経緯で現在のようになったのかを探っています。根底にあるのは上記の疑問で,歴史から現在とはずいぶん違った図書館の姿が見えてきます。私たちは本書を通じ,図書館の歩みを相対化することによって,図書館は現在と別様でもあり得たのではないか,あるいは,これからなり得るのではないかと,その可能性を考えています。

 本書の出版を私たちに呼びかけたのはみすず書房の持谷寿夫社長(当時)と東大の柳与志夫さんです。記録を見ると,お二人の呼びかけに応えて執筆者が集まり,検討を始めたのが2016年2月ですから,丸二年以上かけて出版の準備をしたことになります。検討には,執筆者,持谷さん,柳さんの他に,みすず書房の編集から守田省吾さん(現社長),さらに,「文脈の会」という以前あった図書館史の研究会から,春山明哲さんと森洋介さんのお二人が参加しました。執筆者が用意した構成案に春山さんと森さんの容赦ない突っ込みが入り,おかげで内容はぐっと締まったものになりました。検討の最後に守田さんが「面白い」とコメントされると,執筆者一同ほっとしたものでした。

 執筆自体は各人の責任において行いましたから,1章1章スタイルは違っています。利用者から裏方の地味な作業まで,通して読んでいただけると,図書館の内部の論理や社会での立ち位置の変遷など,ひととおりのことが理解できるように作ってありますが,何せ今まで書かれなかったことが満載ですから,個々の章を単独で読んでも,十分に読み応えがあります。最後がまとめの章になっていて,全体を論評するようなスタイルで書かれていますから,あるいは最後の章から読まれても良いのかもしれません。



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『公共図書館の冒険』
編:柳与志夫・田村俊作
執筆:小林昌樹・鈴木宏宗・柴野京子・河合将彦・安井一徳・小田光宏
みすず書房刊 定価:3,780円(本体3,500円)好評発売中!
https://www.msz.co.jp/book/detail/08682.html

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出版業の本来の姿を思うーー「Editorship vol.5」の発刊に際して

出版業の本来の姿を思うーー「Editorship vol.5」の発刊に際して

日本編集者学会事務局長・「Editorship」編集長 大槻慎二


2年ぶりの発刊となる「Editorship」第5号をお届けいたします。

前号では沖縄で地元メディアとコラボしたセミナーを取り上げ、現在の辺野古基地問題にも通ずる沖縄の歴史とメディアの関係を扱いましたが、今回は長野県飯田市に場をうつし、「信州と出版文化」と題して行ったセミナーを軸としてコンテンツを構成いたしました。

岩波書店、筑摩書房、みすず書房、理論社……なぜに信州はこうした名だたる出版社および出版人を輩出してこれたのか?この疑問に答えます。

特に飯田の地にあって実に60年以上の歴史をもつ月刊誌「伊那」を継続して発刊している主幹の原田望さんからは、この雑誌を支える伊那谷の一般市民の民度の高さを教えていただきました。「出版」というと常に「全国区」を相手にした大手出版社を中心に考えてしまいがちですが、こうしたローカルメディアにこそ本来の出版の姿が宿っていると感じました。

また県立長野図書館長の平賀研也さんからは、「古来山河の秀でたる 国は偉人のあるならい」という長野県歌「信濃の国」の一節から端を発し、「偉人」を「編集者」に置き換えた上で、自然環境がそこに暮らす人々の生活と文化にどういう影響をおよぼすか、という示唆に富んだ考察をいただきました。加えて新しい時代の新しい図書館像を「図書館3.0」と命名して提示され、「地域〜図書館〜出版」と互いにリンクする文化的な課題を考えさせられました。

そして、第2特集として編んだ「少年社員のいた時代」では、平澤尚利さん(講談社)、前田良和さん(中央公論新社)、今井康之さん(岩波書店)のお三方から、実際に「少年社員」として人生を出発し、出版界を歩まれてきた貴重な体験談を伺いました。

戦後の高度成長と期を一にして大きくなっていった出版界ですが、原点は人と人との繋がりにこそあること、第1特集に呼応して改めて深く認識させられました。

その他、谷崎研究の第一人者・千葉俊二先生による「谷崎潤一郎と編集者たち」など、バラエティーに富む内容、ぜひ手にとってご覧ください。



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Editorship(エディターシップ) Vol.5 日本編集者学会編
特集1信州と出版文化 他
価格 1,600円+税 好評発売中!
発行:日本編集者学会 販売:田畑書店
http://tabatashoten.co.jp/


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2018年5月10日 第250号

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 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
 古書市&古本まつり 第63号
      。.☆.:* 通巻250・5月10日号 *:.☆. 。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

初旬に(10日前後)全国で開催されている古本展示即売会など、
イベント情報をお送りします。お近くで開催される際は、ぜひ
お出掛け下さい。
なお、1月から「シリーズ古書の世界」を連載しております。


━━━━━━━━━【シリーズ古書の世界 第5回】━━━━━━━



江戸から伝わる古書用語 2 本の市場

                 橋口 侯之介(誠心堂書店)



競り市場というのは、一つのアイテムを複数の買い手が競争するこ
とで一定の値が付くことにある。これを相場といい、次回以降の取
引に参照される。この関係は江戸時代には早くから金銀や米の取引
で確立されており、きわめて現実的な価格形成が為されてきた。



続きはこちら
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誠心堂書店
http://seishindo.jimbou.net/catalog/index.php


━━━━━【5月10日~6月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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早稲田大学青空古本祭

期間:2018/05/07~2018/05/12
場所:早稲田大学10号館前=大隈重信候そば

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第18回紙屋町シャレオ古本まつり(広島県)

期間:2018/05/07~2018/05/13
場所:広島市中区基町地下街100号 紙屋町シャレオ中央広場

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東京愛書会

期間:2018/05/11~2018/05/12
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:http://aisyokai.blog.fc2.com/

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杉並書友会

期間:2018/05/12~2018/05/13
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9

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第56回名鯱会(名古屋)

期間:2018/05/18~2018/05/20
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12

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趣味の古書展

期間:2018/05/18~2018/05/19
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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札幌ブキニスト(古本市)in チカホ(札幌市)

期間:2018/05/20~2018/05/22
場札幌地下歩行空間・憩いの広場

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第86回彩の国 所沢古本まつり(埼玉県)

期間:2018/05/23~2018/05/29
場所:くすのきホール
(西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場)

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和洋会古書展

期間:2018/05/25~2018/05/26
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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五反田遊古会

期間:2018/05/25~2018/05/26
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

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第13回 東京蚤の市

期間:2018/05/26~2018/05/27
場所:東京オーヴァル京王閣 東京都調布市多摩川4-31-1
(京王線「京王多摩川駅」臨時改札口すぐ)
   ※要入場料(イベント詳細は公式サイトより)
URL:http://tokyonominoichi.com/2018_spring/

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中央線古書展

期間:2018/05/26~2018/05/27
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2018/05/31~2018/06/03
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2018/05/31~2018/06/03
場所:JR浦和駅西口徒歩5分 マツモトキヨシ前

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城南古書展

期間:2018/06/01~2018/06/02
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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柏モディ古本市(千葉県)

期間:2018/06/06~2018/07/01
場所:モディ柏店 3F 千葉県柏市柏1-2-26

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城北古書展

期間:2018/06/08~2018/06/09
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 

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倉庫会

期間:2018/06/08~2018/06/10
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12 

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第13回 つちうら古書倶楽部の古本まつり

期間:2018/06/09~2018/06/17
場所:つちうら古書倶楽部 茨城県土浦市大和町2-1 パティオビル1F

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杉並書友会

期間:2018/06/09~2018/06/10
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9

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書窓展

期間:2018/06/15~2018/06/16
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 

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━━━━━━━━━━【映画公開のお知らせ】━━━━━━━━━


映画 
『私はあなたのニグロではない』

黒人文学のレジェンドであり、公民権運動家だった作家ジェームズ・
ボールドウィンの未完の原稿「Remember this House」を元に、
彼の盟友であり30代の若さで暗殺された公民権運動の指導者達の
生き様を追いながら、アメリカの人種差別と暗殺の歴史に迫ってゆく。

■ストーリー
1957年。フランス・パリで執筆活動をしていたボールドウィンは、
故郷アメリカへ戻る決心をする。パリ中で売られていた新聞に載
っていた少女、アメリカ南部シャーロットの高校に黒人として初
めて入学するドロシー・カウンツの写真を見たのがきっかけだ。


大勢の白人たちに取り囲まれ、ツバを吐かれ嘲笑されながら登校
する15歳のドロシーに、ボールドウィンは強い衝撃を受けた。
「パリで議論している場合ではない。われわれの仲間は皆責任を
果たしている」そして彼は、人種差別の最も激しい地域、アメリ
カ南部への旅に出る。


続きはこちら
http://www.magichour.co.jp/iamnotyournegro/

■監 督   ラウル・ペック
■原作・出演 ジェームズ・ボールドウィン
■語 り   サミュエル・L・ジャクソン 
■出 演   キング牧師、マルコムX、メドガー・エヴァース他

■公 開   5月12日(土) ヒューマントラストシネマ有楽町ほか
全国順次ロードショー


       http://www.magichour.co.jp/iamnotyournegro/
■配給・宣伝 マジックアワー

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日本の古本屋メールマガジンその250 2018.5.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:小野祥之


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2018年4月25日 第249号

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☆INDEX☆
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1.『古本乙女の日々是口実』       カラサキ・アユミ
2.『日本文学全集の時代―戦後出版文化史を読む』 田坂 憲二
3.『出版クロニクル5』             小田光雄



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━━━━━━━━━━━【自著を語る(205)】━━━━━━━━━━


『古本乙女の日々是口実』について

                    カラサキ・アユミ



 学生時代から今日まで、私のスマホのホーム画面には『日本の古
本屋』のサイトが長らく鎮座している。遠出や旅行に行くとなった
らまず真っ先に開くのはこのサイトの“古本まつりに行こう”のコ
ーナーだ。即売会の情報含め古本の情報を我が身に惜しみなく注入
させてくれるこのサイトにどれだけ助けられてきたことだろう。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=3853


『古本乙女の日々是口実』 カラサキ・アユミ 著
株式会社 皓星社  価格:1,000円(+税)好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/furuhonotome/

ツイッター
https://twitter.com/fuguhugu

━━━━━━━━━━━【自著を語る(206)】━━━━━━━━━━



『日本文学全集の時代 ー戦後出版文化史を読む』

                       田坂憲二



本書は、1950年代から70年代まで、戦後の出版界で大きな
役割を果たした文学全集の類を、代表的な10の出版社を中心に分
析したものである。世界文学全集については、特定の出版社を切り
口にしたものであるが、すでに『文学全集の黄金時代 ー河出書房
の1960年代』(和泉書院、2005年)で明らかにしたので、
今回は、日本文学全集について、主要な出版社を網羅して、体系的
に考察したものである。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=3850

『日本文学全集の時代―戦後出版文化史を読む』 田坂 憲二 著
慶応大学出版会 税込価格:2,592円 好評発売中!
http://www.keio-up.co.jp/np/detail_contents.do?goods_id=3821


━━━━━━━━━━━【自著を語る(207)】━━━━━━━━━━

『出版状況クロニクルⅤ』

                        小田光雄

 これで『出版状況クロニクル』も5冊目となった。論創社の森下
紀夫氏の誘いにより、2007年から始められた出版業界の定点観測は
10年間に及んでいる。それゆえに本クロニクルは紛れもないひとつ
の現代出版史を形成しているし、リアルな出版社、取次、書店のド
キュメントとなっている。その事実からすれば、本書は他の業界で
は見ることができない、臨場感を伴う同時代レポートと称してもか
まわないだろう。



続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=3859


『出版クロニクル5』小田光雄 著
論創社 4月下旬発売予定
http://ronso.co.jp/


━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━



『公共図書館の冒険』
編:柳与志夫・田村俊作
執筆:小林昌樹・鈴木宏宗・柴野京子・河合将彦・安井一徳・小田光宏
みすず書房刊 定価:3,780円(本体3,500円)好評発売中!
https://www.msz.co.jp/book/detail/08682.html



『熊楠と猫』
著者:南方 熊楠・杉山 和也・志村 真幸・岸本 昌也・伊藤 慎吾
共和国刊 価格 2,300円+税 好評発売中!

http://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784907986360


Editorship(エディターシップ) Vol.5 日本編集者学会編
特集1信州と出版文化 他
価格 1,600円+税 5月3日発売予定
発行:日本編集者学会 販売:田畑書店
http://tabatashoten.co.jp/

*本と人との交流拠点
 「神保町ブックセンター with Iwanami Books」が 4月11日開業*
UDS株式会社
http://www.uds-net.co.jp/article/7726



━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━


4月~5月の即売展情報

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init


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*☆ 本を売るときは、全古書連加盟の全国の古書店に ☆*
全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

https://www.kosho.or.jp/buyer/list.php?mode=from_banner


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日本の古本屋メールマガジンその249 2018.4.25

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:小野祥之
編集長:藤原栄志郎


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江戸から伝わる古書用語 2 本の市場    (シリーズ古書の世界第5回)

江戸から伝わる古書用語 2 本の市場

橋口 侯之介(誠心堂書店)

競り市場というのは、一つのアイテムを複数の買い手が競争することで一定の値が付くことにある。これを相場といい、次回以降の取引に参照される。この関係は江戸時代には早くから金銀や米の取引で確立されており、きわめて現実的な価格形成が為されてきた。大坂の堂島では18世紀初頭の宝永・正徳頃に米の先物取引が始まったとされ、それが全国に影響を与えた。金銀銅貨の交換も取引所があって大坂では毎日レートが発表されていた。

この方法を本屋たちも早速取り入れている。享保の頃には(1720年代)には京都で本と板木の市が立ったことが確かめられているのだ。当初は私的な市場だったが、その重要性が認められて公的な仕組みが必要だと考えられるようになった。京都の宝暦12年(1762)の記録に市屋の株と仕法を定めたとあり、市場を開く権利を本屋仲間が認めた業者(本屋にかぎる)に株を与え、その規定を定めたという。後にさらに唐本を扱う唐本市にも同じ仕組みを設けた。

以来、本の市場(当時は本市といった)が定期的に開かれ、その取引はかなり盛んだった。18世紀中頃の本屋の日記を見ると(風月庄左衛門の『日暦』)、当主だけでなく番頭や手代を参加させてかなりの量を仕入れたという。そこで集めた書籍を各地の藩などにまとめて納入している。

この仕組みはすぐに大坂も導入し「世利分(せりわけ)市」と称した。江戸も同様で、その結果、三都の間を自由に古書が売買され、セドリ(世利子ともいった)のような業者が往来した。世利子は本屋仲間の店で登録され、その人別帳を市に登録するので、京・大坂・江戸のどの市にも参加できた。

つまり江戸緒時代の中期には、そのような流通形態が確立していたことがわかる。蔵書家の本が売りに出ると売り立てが行われ、例えば曲亭馬琴の蔵書は市で250両になったとか、大坂では大塩平八郎の本が600両で売られたという記録がある。

市場の株を持った者は、広い会場を用意し、そこが仲間成員の交流場所にもなっていた。
ここでおもしろいのは市の売り手が支払う手数料(歩金)が5分だったことだ。市の株を持った会主はそこから2分を仲間に納入した。当時の本市が東京の中央市会や東京古典会に相当し、東京組合が本屋仲間だと考えるなら、現在に至るまで変わらない制度なのだ。



wahon
『和本への招待 日本人と書物の歴史』 著者 橋口 侯之介
角川選書 (角川学芸出版・角川グループ)
定価 1,728円(本体1,600円+税)好評発売中!
https://www.kadokawa.co.jp/product/201001000449/

誠心堂書店
http://seishindo.jimbou.net/catalog/index.php
 

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