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あまりにも、あまりにも底辺な

あまりにも、あまりにも底辺な

古書現世 向井透史

 久しぶりに単行本を出させてもらうことになった。
2006年にまとめて2冊(『早稲田古本屋日録』(右文書院)『早稲田古本屋街』(未來社))出させて以来なので16年ぶりになる。雑誌連載の単行本化で、2010年夏から2021年末までの日記である。まぁ「日記」というか、毎月店先や街中で見た面白いことを書いたり、思ったことを書いたものと言った方がいいだろうか。

 一九九一年に高校を卒業してすぐに父親の古本屋で働き始めた。店番などの他に、卒業式の一週間後に何をするところかも知らないままに神保町にある業者の市場で週一回働きはじめて古本屋としての一歩を踏み始めた。もうキャリアも三十年を超えてしまったのだなぁと改めて思う。

 入る前は古本屋の生活はとても静かなものだと思っていた。店主もお客さんもおとなしく知的な雰囲気の方々ばかりなのだと。しかしながらいざ入ってみると同業者はとてもクセが強い人が多く自分がずっと柔道部として関わってきた体育会系の雰囲気に近く感じた。初めて行った古本市では年配のお客さん同士が怒鳴り合ってケンカになっていたり、何かすごく恐ろしいものを見た気になったりもした。自分のような十代の古本屋なんて周りにいなくて、年齢が近い人でも十歳くらい上の人が当たり前の世界で、市場の度に真夜中まで飲みに連れて行かされてふらふらになっていた。当初はとんでもない所に入ってしまった、と気持ちが落ちた時もあった。

 店番は店番でまたありとあらゆることが店頭でおきた。スーツ姿で鎧兜をかぶった人が目の前に現れた時は動きが止まった。普通に立ち読みをしているだけで行動に不思議なところは無い。とはいえ鎧兜をここにつけてくる状況はどうしても思い浮かばない。天狗のお面をつけた人が入ってくることもあった。店というのはまさにストリートの延長なのだなと思うことが次から次へと起こるのであった。決して広いとは言えないうちの店ではあるけれど、そこは様々な人間がありとあらゆる人生を披露する舞台なのだと思うようになっていった。自分は帳場と言う特等席からそんなたくさんの出来事をずっと見て楽しんだり哀しい気分になったりと感情を揺らしてきた。
 
 たかが10年ではあるが、2011年には東日本大震災があり、ここ数年はコロナ禍で身動きとれなくなったりと激動の10年だった。しかしながら、ほぼほぼ「売れない」しか書いてないなとびっくりする。古本屋としては三流もいいとこなのは自覚しているもののよくやってるなぁと思う。でも改めてこうして振り返るとなんだかんだで店は楽しいな、と思う。今どきのお店のように素敵な雰囲気も無く、限りなく不真面目な生き方の自分ではあるが、なんとかかんとか安い本を売って生きてきた。この本は、いまや絶滅危惧種の底辺個人店主の哀しみと楽しみの日々だ。

 たまにくる「古本屋になりたい」という人に自分は絶対に「やりましょう」とは言わない。うまくいってない自分がそんなことを言えないからだ。でも、始めてしまって苦しんでいる人には村西とおる監督のようにこう言いたい。「下を見ろ、俺がいる」。こんな人でも生きている。本の蘊蓄など皆無で、古本屋を知らなくても楽しんでもらえる、と思います。
この不安な時代に読んで、少しでも笑っていただけましたら。よろしくお願いいたします。
 
 
 
 


早稲田古本劇場 古書現世 向井透史 著
本の雑誌社刊
ISBN978-4-86011-472-5
定価:2,200円(税込) 好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114728.html

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「私たちが図書館について知っている二、三の事柄」を読むにあたって

「私たちが図書館について知っている二、三の事柄」を読むにあたって

中村文孝

 図書館には国会図書館から専門、大学、学校、私設の図書館まであるが、この本では公共図書館について述べている。

 公共図書館は地方自治体が税金を原資に運営している関連施設のひとつで、利用されたことのない人はほとんどいないはずだ。が、多くの利用者は、税金で運営されている他の公共施設と同様に、図書館を「無料」の貸本屋としてしかみていないのではないか。そこがまず最初の問題だ。

 図書館の貸出冊数が書店の推定販売冊数を超えたのが、2010年だが、それ以降は差が拡がるばかりだ。今や本を読むとは、本を買うことから始まるのではなく、借りることからになってしまった。

 せめて文庫や雑誌などの廉価本は、購入することを心がけねば、読者としての矜持を失うばかりでなく、出版界の基礎体力を奪ってしまい、本を刊行し続けることが叶わなくなってしまう。 

 テレビや新聞が、その使命を報道から権力の広報へシフトし、SNSがいまいちその信頼性に欠けるいま、出版はラジオと共に貴重なジャーナリズムのツールになっている。少なくとも、多様な意見を発表できる場所になっている。これを滅ぼしてならないのは自明のことである。現在の逼塞した出版状況では、応援購入(消費ではなく)が必要になってきている。これが第二の問題。

 出版物の様々な流通ルートのひとつに取次・書店ルートなるものがある。またの名を「正常ルート」と称し、以前は7割近くのシェアを占めていた。書店は、自らこのルートを王道のように、その他のルートを邪道のように扱い、再販委託制度とともに護持してきたのである。その邪道のひとつに図書館ルートがあった。

 つまり、書店は図書館を競合相手と見做していた。それはまた、一緒に本を読者のもとに届ける仲間ではなく、商売上の取引先と見ていた。逆に、図書館は書店を出入りの業者としてしか見ていなかったといえる。第三の問題は、導入する本の選書を含め、公共図書館と地元書店との関係性を構築出来なかったことにある。

 第四は、図書館が主要業務の外部化を推進してしまったことだ。書店が自らの仕入能力を失っていった後を追うように、図書館も自らの選書能力を外部に委ねてしまったのである。TRC(図書館流通センター)のMARCなどのシステムの導入で囲い込まれた上に、新刊パックの受入れによる選書業務の放棄である。その弊害はあまりにも大きい。

 多少の問題と思い込みはあったにしても、戦後からの図書館の普及活動を支えてきた先人の思いを無惨に打ち砕くものであるという自覚はないのだろうか。

 古書店・古本市場からの購入は、大学の一部と専門図書館以外からは殆どないと聞く。せめて郷土資料などは、地域に応じて独自に購入してほしいものだが、取次扱いの本のみ、それもパックになったものしか導入できない公共図書館には期待してはいけないのかもしれない。

 これからの最大の関心事は、本の電子化についてであろう。すでに始まっているが、まだ拡がりをみせていないうちに考えておくことがある。紙に書かれたものは、画像を含めすべてデジタル化、データ化が可能になることはもはや間違いない。これは書店だけではなく、図書館の存在をも脅かす。データベースセンターなるものからは新刊は有料で、一定期間後は無料で配信される時代になるだろう。ただし、全て情報は管理者に筒抜けになり、それでも受信を選びますか、ということだ。そして既刊本での収入がなくなり、ほとんどの出版社も疲弊し、消えてゆく。

 改めて言うが、図書館の主要業務とは、リファレンスと選書であり、多様な資料の公開である。そして改善すべきは、それを支える図書館長の適切な配置と図書館員の就業環境の整備である。

 また、利用者も勘違いしないことだ。図書館での利用者は顧客ではない。図書館員とはパートナーであり、まして本を読むとは読者になることであって、消費者になることではない。   (了)
 
 
 
 


私たちが図書館について知っている二、三の事柄 中村文孝・小田光雄 著
論創社刊
ISBN978-4-8460-2179-5
定価:本体2,000円(税別) 好評発売中!
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2022年9月9日号 第354号

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 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
 古書市&古本まつり 第116号
      。.☆.:* 通巻354・9月9日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見6】━━━━━━━━━

長岡市立中央図書館・文書資料室
 戦災から復興した「文化の町」の象徴
                         南陀楼綾繁

 6月18日、JR長岡駅の大手口からタクシーに乗る。図書館までと
告げると、男性の運転手に「互尊文庫ですね?」と確認される。
これまで各地で運転手の「図書館? どこですか?」という反応に
遭ってきただけに、「互尊文庫で判るんですね」と驚くと、「長岡
のタクシーで互尊文庫知らない奴はモグリですよ!」という言葉が
返ってきた。

 話している間に明治公園に到着する。この敷地内にあるのが互尊
文庫だ。1987年に駅の東口の学校町に長岡市立中央図書館ができる
までは、ここは市立図書館の本館だった。現在は地域館のひとつに
なっている。4階建てで、1階に開架、2階に新聞雑誌コーナーと閲
覧室がある。古い建物なのでエレベーターはない。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9924

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

長岡市立中央図書館
https://www.lib.city.nagaoka.niigata.jp/?page_id=440

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「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

コショ怪談 坪井書店
多摩書房 西多摩と少年倶楽部と香山滋
コショなひと 大屋書房 前編
バックヤード拝見 坪井書店 2
多摩書房 文学趣味に生きる

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━【9月9日~10月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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TOKYO BOOK PARK 吉祥寺

期間:2022/05/20~2022/10/30
場所:吉祥寺パルコ2階 武蔵野市吉祥寺本町1-5-1

https://twitter.com/TOKYOBOOKPARK

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フジサワ古書フェア(神奈川県)

期間:2022/09/01~2022/09/14
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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TOKYO BOOK PARK 立川

期間:2022/09/02~2022/10/02
場所:PAPER WALL  エキュート立川 3階

https://twitter.com/TOKYOBOOKPARK

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丸善仙台アエル店20周年記念 バーゲンブックフェア 古本市(宮城県)

期間:2022/09/06~2022/09/20
場所:AER1階アトリウム 仙台市青葉区中央1-3-1

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第103回 彩の国 所沢古本まつり 2022(埼玉県)

期間:2022/09/07~2022/09/13
場所:くすのきホール (西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場)

https://tokorozawahuruhon.com/

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第46回古本浪漫洲 Part 3 ※8/5一部内容更新しました

期間:2022/09/07~2022/09/09
場所:新宿サブナード2丁目催事場  新宿区歌舞伎町1-2-2

https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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書窓展(マド展)

期間:2022/09/09~2022/09/10
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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第142回 倉庫会 古書即売会(愛知県)

期間:2022/09/09~2022/09/11
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12

https://twitter.com/NAGOYAsoukokai

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好書会

期間:2022/09/10~2022/09/11
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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反町古書会館展(神奈川県)

期間:2022/09/10~2022/09/11
場所:神奈川古書会館1階 横浜市神奈川区反町2-16-10

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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第46回古本浪漫洲 Part 4

期間:2022/09/10~2022/09/12
場所:新宿サブナード2丁目催事場  新宿区歌舞伎町1-2-2

https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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はくぶつかん古書市(愛知県)

期間:2022/09/10~2022/09/19
場所:名古屋市博物館  名古屋市瑞穂区瑞穂通1-27-1

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御茶ノ水ソラシティ古本市

期間:2022/09/11~2022/09/18
場所:御茶ノ水ソラシティプラザ 千代田区神田駿河台4-6 地下1階
   JR御茶ノ水駅 徒歩1分、東京メトロ新御茶ノ水駅聖橋方面改札直通

https://twitter.com/koshoichi

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第46回古本浪漫洲 Part 5(300円均一) ※8/5一部内容更新しました

期間:2022/09/13~2022/09/15
場所:新宿サブナード2丁目催事場  新宿区歌舞伎町1-2-2

https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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趣味の古書展

期間:2022/09/16~2022/09/17
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

https://www.kosho.tokyo

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♭立川フロム古書市ご案内♭

期間:2022/09/16~2022/09/27
場所:立川駅北口徒歩5分フロム中武(ビッグカメラ隣)3階バッシュルーム(北階段際)

http://mineruba.bookmarks.jp/saiji.htm

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第4回南大沢古本まつり

期間:2022/09/17~2022/09/22
場所:京王相模原線南大沢駅前~ペデストリアンデッキ~三井アウトレット前特 設テント

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2022/09/22~2022/09/25
場所:さくら草通り(JR浦和駅西口 徒歩5分 マツモトキヨシ前)

https://twitter.com/urawajuku

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和洋会古書展

期間:2022/09/23~2022/09/24
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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五反田遊古会

期間:2022/09/23~2022/09/24
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4
   JR山手線、東急池上線、都営浅草線五反田駅より徒歩5分

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中央線古書展

期間:2022/09/24~2022/09/25
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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新橋古本市

期間:2022/09/26~2022/10/01
場所:新橋駅前SL広場

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第2回 サンモール古本市 in 金港堂(宮城県)

期間:2022/09/29~2022/11/06
場所:金港堂本店 仙台市青葉区一番町2-3-26

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西部古書展書心会

期間:2022/09/30~2022/10/02
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2022/10/06~2022/10/09
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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城南古書展

期間:2022/10/07~2022/10/08
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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第22回 四天王寺 秋の大古本祭り(大阪府)

期間:2022/10/07~2022/10/12
場所:大阪 四天王寺境内内 大阪府大阪市天王寺区四天王寺1-11-18

http://kankoken.main.jp/

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古書の日即売会(愛知県)

期間:2022/10/07~2022/10/09
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12

https://hon-ya.net/

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第27回八王子古本まつり

期間:2022/10/07~2022/10/11
場所:JR八王子駅北口ユーロード特設テント

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横浜めっけもん古書展(神奈川県)

期間:2022/10/08~2022/10/09
場所:神奈川古書会館1階 横浜市神奈川区反町2-16-10

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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横浜市歴史博物館・古書フェア(神奈川県)

期間:2022/10/12~2022/10/23
場所:横浜市歴史博物館1階エントランス(入館無料エリア)
   横浜市営地下鉄ブルーライン・グリーンライン「センター北」駅より徒歩5分
   https://www.rekihaku.city.yokohama.jp/

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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ぐろりや会

期間:2022/10/14~2022/10/15
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://www.gloriakai.jp/

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本の散歩展

期間:2022/10/14~2022/10/15
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4
   JR山手線、東急池上線、都営浅草線五反田駅より徒歩5分

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フィールズ南柏 古本市(千葉県)

期間:2022/10/14~2022/11/02
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場  柏市南柏中央6-7

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日本の古本屋メールマガジンその354 2022.9.9

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部・編集長:藤原栄志郎

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長岡市立中央図書館・文書資料室 戦災から復興した「文化の町」の象徴  【書庫拝見6】

長岡市立中央図書館・文書資料室 戦災から復興した「文化の町」の象徴 【書庫拝見6】

南陀楼綾繁

 6月18日、JR長岡駅の大手口からタクシーに乗る。図書館までと告げると、男性の運転手に「互尊文庫ですね?」と確認される。これまで各地で運転手の「図書館? どこですか?」という反応に遭ってきただけに、「互尊文庫で判るんですね」と驚くと、「長岡のタクシーで互尊文庫知らない奴はモグリですよ!」という言葉が返ってきた。

 話している間に明治公園に到着する。この敷地内にあるのが互尊文庫だ。1987年に駅の東口の学校町に長岡市立中央図書館ができるまでは、ここは市立図書館の本館だった。現在は地域館のひとつになっている。4階建てで、1階に開架、2階に新聞雑誌コーナーと閲覧室がある。古い建物なのでエレベーターはない。

 2階の「文書(もんじょ)資料室」に入ると、室長の田中洋史さんが出迎えてくれた。私は5年ほど前から「新潟日報おとなプラス」で記事を書いているが、田中さんには何度も助けてもらった。めんどくさい問い合わせにも嫌な顔をせずに、いつも丁寧に答えてくれる。長岡市生まれで、「互尊文庫には子どもの頃からよく来ていました」と話す。

現在の互尊文庫。手前にあるのは野本恭八郎(互尊翁)の胸像。

互尊文庫のなりたちと野本恭八郎

 互尊文庫が現在のかたちになるまでには、数奇な経緯があった。そこには戦争と災害が大きく影響している(以下、『長岡市立図書館開館100周年記念誌』長岡市立中央図書館、『大正記念長岡市立互尊文庫 市立図書館の開館と戦災復興』長岡市史双書57 を参照)。書庫を拝見する前に、その辺を整理しておこう。

 長岡における最初の図書館は、1885年(明治18)に読書会「友共社」が設立したものだった。日露戦争後には長岡倶楽部が戦勝記念私立長岡図書館を設立し、友共社と合併した。しかし、日曜だけの開館だったこともあり、閲覧者は減少した。

 1918年(大正7)、初の市立図書館として「大正記念長岡市立互尊文庫」が開館。その建設費・維持費を寄付したのが、実業家の野本恭八郎(1852~1936)だった。

 野本は「互尊独尊」(自分の天分を尊び、人の天分を尊ぶ)の思想を持ち、「互尊翁」と呼ばれた。生涯にわたり社会に奉仕する姿勢を持っていた。野本は長岡市と契約書を交わし、寄付の条件として「緑の多い所に建設すること」「文庫の経営は長岡市立とすること」「風水害などの自然災害で、互尊文庫が被害を受けた場合は復旧し、長年の維持を確保すること」などを挙げた。「寄付の総額は、当時の長岡市の年間予算に匹敵しました」と田中さんは云う。

 最初の互尊文庫は東坂之上町にあった。駅に近く、現在は長岡グランドホテルのある辺りだ。そこは、戊辰戦争で荒廃した長岡を復興させた三島億二郎の邸宅の跡地だった。互尊文庫は洋風木造2階建て。レンガ造り3階の書庫も併設された。1937年(昭和12)には、前年に亡くなった野本の遺志により、鉄筋コンクリート3階建ての第2書庫が竣工する。

 この時期、本はほとんどが書庫に納められて、利用者の請求に応じて出納する方式だった。そのため、「職員の労働量は非常なもの」で、次のような事件が起こった(『館報 創立四十年記念号』長岡市立互尊文庫)。
「或る男子出納手、年令は十七歳、一夜型の如く閉館になつたので、多勢の入館者の使用した図書を最後の力を絞つて書庫の中に運び入れ、正しく棚に排列していたが、遂に力尽きたのか、グツタリ書庫の中に眠りこんでしまつた。夜十一時過ぎても帰らないので、自宅から電話で問合せがくる。まさか書庫の中で白河夜舟を漕ぎ続けているとは想像もされず、大騒ぎとなつた」

長岡空襲を乗り越えて

 1941年(昭和16)には、蔵書数(約6万5000冊)、閲覧人数ともに全国市立図書館22館中6位になったと、「新潟県中央新聞」が報じている(『大正記念長岡市立互尊文庫』)。

 しかし戦時色が強まると、新聞閲覧室などを市の警防団に提供、閲覧室などを陸軍や憲兵派遣所に提供することになった。

 そして1945年(昭和20)、8月1日、長岡はB29に空襲される。このとき、市街地の8割が罹災し、1488名の死者が出た。互尊文庫も空襲により「本館は全焼、第1書庫はレンガが崩れ落ち、第2書庫は窓から火を吹き数日間燃えていました」(『100周年記念誌』)。この様子を土田邦彦が描いた「火を吹く互尊文庫の書庫」という絵からは、痛ましい思いが伝わる。これにより、約7万8000冊の蔵書が失われた。

 互尊文庫の職員は一日も早く再開すべく、第2書庫を事務所にした。「職員はリュックを背負って、空襲を受けなかった村を回り、本を集めたそうです」と田中さん。日本互尊社から2000冊、三条市立図書館、新発田市立図書館、県立新潟図書館などの応援を得て3000冊を寄贈され、終戦後の9月11日に開館した。

 その後、1948年に現在の明治公園内に新館を開館。本館は木造2階建て、書庫は鉄筋コンクリート造3階だった。市には建設費の余裕がなく、繊維卸商の内藤伝吉の寄付によるものだった。野本互尊翁に続き、ここでも民間の力が互尊文庫を支えた。戊辰戦争時に教育を重視した藩士・小林虎三郎のいわゆる「米百俵」の精神が、長岡の人たちには脈々と流れているのだ。

 そして1967年には、市制60周年を記念し、現在の互尊文庫が建設された。

 先に触れたとおり、1987年には長岡市立中央図書館が開館。それまで互尊文庫が所蔵していた貴重書は、中央図書館に移管された。同館の書庫には、互尊文庫の歴史を示す資料が見つかる。

 たとえば、『大正記念長岡市互尊文庫一覧』は、各年度の蔵書数・閲覧人数などの統計や図書・雑誌寄贈者の芳名が記載されている。
『大正記念長岡市立互尊文庫館則』(1919)は、利用者の注意事項をまとめたパンフレットで、市会議員・長部榮吉の名が記入された優待券が添付されている。「本券を受付に示し特別閲覧票を受取る」ようにとある。

 1921年(大正10)版の『互尊文庫図書目録』には、「新潟県立図書館蔵書」の印と、「昭和二十年十一月一日 県立図書館寄贈」の印がある。これは、互尊文庫から県立図書館に寄贈されたものが、戦災後に県立から互尊文庫に戻されたものであることを示す。

 また、江戸時代中期写本の『東鑑五十二巻』には、「大林館山口氏」の蔵章と1947年に「山口誠太郎寄贈」の印がある。山口氏は横澤村(現・長岡市小国町横沢)の庄屋で、野本互尊翁の実家である。これも戦災で蔵書を失った互尊文庫のために、山口家が協力したのだと思われる。

文書資料室が所蔵する資料の目録が並ぶ棚。

互尊文庫の優待券(長岡市立中央図書館所蔵)。

新潟県立図書館から互尊文庫に戻された『互尊文庫図書目録』(長岡市立中央図書館所蔵)。

文書資料室と在野研究者たち

 戦後の互尊文庫は、公共図書館であるとともに、長岡の文化の拠点でもあった。

 1959年には「長岡郷土史研究会」が発足。互尊文庫の内山喜助館長は「図書館にとって、郷土史研究が大切だ」と説き、同志とともに同会を組織。機関誌『長岡郷土史』を発行した(稲川明雄「内山喜助館長からの伝言」、『長岡郷土史』第37号、2000年5月)。

 また、長岡出身の作家で、夏目漱石の娘婿である松岡譲を偲んで、1976年に「長岡ペンクラブ」が結成され、機関誌『Penac(ペナック)』を創刊した。内山は同誌にも尽力した。

 1998年、互尊文庫内に長岡市立中央図書館文書資料室が開設。『長岡市史』のために収集された古文書や歴史公文書など、約22万点を収蔵する。
「この中で一番古いものは、1592年(慶長2)の『安禅寺御用記』です。長岡市の文化財にも指定されています」と、田中さんは云う。

 最初の室長は稲川明雄。中央図書館館長や河井継之助記念館館長も務め、長岡の郷土史に関する著作も多い。稲川は前館長の内山から引き継いで、『長岡郷土史』『ペナック』『互尊文芸』などの事務局を引き受けていた。「本づくりへのこだわりの強い人でした」と、田中さんは回想する。2019年没。

 開室の翌年には、「長岡市史双書」の続刊を開始。歴史、民俗についての資料をまとめるもので、現在61冊が刊行されている。

 同室が在野の研究者といい関係にあるのは、コレクションからも感じられる。閲覧室にはテーマ別の目録が並んでいるのだが、そこには「自転車チラシ」「各種商店しおり・メニュー」「長岡市厚生会館写真」「市内書店ブックカバー」「ナガオカ丸大買物袋」などが見つかる。個人が収集したものを同室に寄贈しているのだ。

 その中のひとつである、マッチラベルのコレクションには、昨年惜しまれながら閉店した喫茶店〈シャルラン〉のラベルもあった。先の松岡譲も通った店である。

 寄贈者には『長岡郷土史』や『ペナック』に参加している人も多く、市内の新潟県立博物館で毎年開催されている「マイ・コレクション・ワールド」展に、自分のコレクションを出品している人もいる。個人と資料室のコレクションを相互に参照することができるのがいい。
「書庫に潜って、こんな資料があったのかと思いながら過ごす時間が好きなんです」と、田中さんは話す。

長岡市内の喫茶店のマッチラベルのファイル(長岡市立中央図書館文書資料室所蔵)。

中越地震から生まれた長岡災害復興文庫

 文書資料室でもうひとつ重要な資料群は、「長岡市災害復興文庫」だ。

 2004年10月、新潟県で中越地震が発生した。
「地震の際は資料室内にいました。爆発したような揺れで、本棚から本が落ちました。中央図書館はライフラインが無事だったこともあり、臨時の避難所になりました。私はたまたま阪神・淡路大震災についての本を読んでいたので、『避難所の掲示物を集めませんか?』と提案しました。毛布や子ども用品配布の案内、炊き出し情報、行事のポスターなどが集まりました」と、田中さんは振り返る。

 また、文化財レスキューとして、市内の歴史資料の所蔵者に連絡をとり、その被害状況を調査した。取り壊すことになった土蔵・家屋から合計で約1500箱分の資料を運び出したこともある。東日本大震災後には、長岡市は福島県南相馬市からの避難者を受け入れた。その避難所の資料も収集した。

 これらの資料を基に2014年に開設したのが災害復興文庫で、約5万点を公開している。

中央図書館のコレクションたち

 2日後、私は中央図書館の書庫にいた。

 案内してくれたのは、奉仕係係長の松矢美子さんと主査の諏佐志保さんだ。松矢さんは子どもの頃から互尊文庫に通っていた。「映画上映会に行くと、鉛筆をくれたのを覚えています」と笑う。その後、長岡市立図書館の館員になり、中央図書館への資料の移動にも関わった。

 当時、「きれいな図書館ができるからスーツを着て行かないと」と云うおじいさんもいたという。それぐらい、図書館への関心が高かったのだろう。

 中央図書館の現在の蔵書数は約46万8000点。そのうち約26万点が閉架書庫に入っている。

 貴重資料室に収蔵されているコレクションには、「反町茂雄文庫」がある。反町は長岡市出身。神保町には、新潟、とくに長岡の出身者が開いた古書店が多いが、現在も営業する〈一誠堂書店〉の創業者・酒井宇吉も長岡生まれだ。反町は同郷の縁から一誠堂で「帝大卒の丁稚」として働き、独立して本郷で〈古書肆弘文荘〉を営んだ。云わずと知れた、古書業界の大立者である。

 1975年、長岡の丸専デパートで古書展を開催した際、互尊文庫の内山館長と知り合う。

 最初に互尊文庫を訪れた時の印象を、反町は内山館長への手紙でこう書いている。
「数量はそう多くない、しかしそう少なくもない。お許しを願って、正直な感想を申しますと、戦災で焼けた長岡の、全焼した公立図書館としては、まあ相当の所、大体予想した位の数量でございました」「貴書珍籍を見る事が本業である私にとりましては、驚くほどの稀本は、多くは見当たりませんでした」(『反町茂雄文庫目録 第一集』長岡市立中央図書館)

 郷土資料の収集は年を追うごとに費用が掛かるため、「着手は早いほどよく、早いほど経済的負担も軽くてすむ」と考えていた反町は、1976年以降、長岡や新潟県に関する資料を購入し、互尊文庫に寄贈する。また、3000万円に上る資料の購入資金を寄付している。

 1987年に中央図書館が開館すると、同館がその事業を引き継ぐ。その資料は現在までに約5800点に達する。

 同館の書庫には、ほかにもさまざまなコレクションがある。「川上四郎文庫」は、長岡市出身の童画家の旧蔵書で、絵本や児童雑誌が多い。川上が描いた絵本の原画は別置されている。「星野慎一文庫」は、長岡市出身のドイツ文学者の旧蔵書。「伊東多三郎文庫」は、歴史学者の旧蔵書で、講義のノートや論文の抜き刷り、全国の自治体史などがある。

 なかでも貴重なのが、「堀口大學コレクション」だ。

 詩人・堀口大學は2歳で家族とともに父の郷里である長岡に移り、17歳までそこで育った。同館では、高知市在住で堀口大學関係資料のコレクターとして知られた千頭將宏から購入した資料を基に、収集を続け、現在約6600点に達している。
「同コレクションは中性紙で包んで保存しています」と、松矢さんは説明する。この中には、訳詩集『月下の一群』の「幻の7部本」と呼ばれる、1925年(大正14)に第一書房から刊行された版もある。第一書房社主の長谷川巳之吉は新潟県出雲崎町の出身で、豪華な装丁で出版することで知られた。

 同館は、開架されている郷土資料も充実しており、調べもののために来館するとたちまち時間が経ってしまう。新潟について書く際に頼りになる図書館なのだ。

長岡市立中央図書館

 中央図書館開館後も、地域館のひとつとして、また文書資料室として利用されてきた互尊文庫だが、2023年に現在地から大手通りに新しくできる複合ビル内に移転することが決まっている。

 同時に文書資料室も別の場所に移転し、来年度中にリニューアル開館する予定だ。
「場所が変わっても、資料を集めて整理して本にまとめるというサイクルは続けていきます。それとともに、資料をもっと公開していくことも必要だと感じています」と、文書資料室の田中さんは云う。

 互尊文庫は、戊辰戦争の焼け跡の中から生まれ、空襲で大きな被害を受けた直後に再開した。そして、中越地震後にはいち早くアーカイブに着手している。戦災・災害と復興を繰り返してきた長岡の町を象徴する存在なのだ。

 長岡の人たちには、今後も図書館や文書資料室を大事にしてほしい。そして、タクシーの運転手さんは新しい場所にも一発で案内してください。

 
 
 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

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長岡市立中央図書館
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2022年8月25日号 第353号

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1.『ポスター万歳 百窃百笑』
            田島奈都子(青梅市立美術館 学芸員)

2.著名な作家と、研究すると面白い作家は必ずしも一致しない
〜『職業作家の生活と出版環境 日記資料から研究方法を拓く』について〜

                                                                                          和田敦彦

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━━━━━━━━━【自著を語る(295)】━━━━━━━

『ポスター万歳 百窃百笑』
             田島奈都子(青梅市立美術館 学芸員)

 2022年7月に文生書院から刊行した拙著『ポスター万歳 百窃百
笑』は、戦前・戦中期に製作された日本製ポスターのある部分が、
外国の専門誌に掲載された作品を元ネタとしていた実態を、適宜解
説を加えながら見開きで紹介する書籍である。

 著者は1945年までの日本製ポスターを専門としており、これまで
の調査経験から、同時代の作品と比べて異質なものは、たいてい外
国作品に依拠していることが判ってきた。しかも、その中には「影
響を受けた」や「着想を得た」レベルを遥かに超えた、いわゆる
「丸パクリ」が数多く含まれており、それゆえ書名は『ポスター万
歳 百窃百笑』とした。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9815

『ポスター万歳 百窃百笑』  田島奈都子 編著
文生書院刊
320ページ・四六判 図版(249図)オールカラー
4,950円(税込)好評発売中!
ISBN978-4-89253-651-9
https://www.bunsei.co.jp/original/new-publication/tajima/

━━━━━━━━━【自著を語る(番外編)】━━━━━━━━━━━

著名な作家と、研究すると面白い作家は必ずしも一致しない
〜『職業作家の生活と出版環境 日記資料から研究方法を拓く』について〜

                           和田敦彦

■作家名頼りの企画にならないために
 本書では、今はもう忘れられているある直木賞作家に焦点をあて、
戦後の職業作家の営みから何が見えてくるのかを様々な資料、角度
から追っていくことを試みました。作家の名は榛葉英治(しんば・
えいじ)、ただその名前は本書のタイトルには入っていません。忘
れられている以上、名前をタイトルに掲げても読者にピンとこない
ということも理由の一つです。ただそれ以上に、偉大な、あるいは
著名な作家名「ブランド」のもとで出されてきた数多くの研究が見
落としてきたもの、とりこぼしてきたものをとらえることを試みた
かったというのがより大きな理由としてあります。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9825

『職業作家の生活と出版環境
 日記資料から研究方法を拓く』  和田敦彦 編
文学通信刊
A5判・並製・282頁
定価:本体2,700円(税別)好評発売中!
ISBN978-4-909658-82-1 C0095
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-82-1.html

━━━━━━━━━━━━【お知らせ】━━━━━━━━━━━━

中村洸太さんの自主製作ドキュメンタリー長編版映画『ポラン』が
「ぴあフィルムフェスティバル」で初上映されます。

それに際して、中村洸太さんからのメッセージをいただきましたので
ご紹介します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9月に東京で開催される「ぴあフィルムフェスティバル」にて、拙
作『ポラン』が初上映されます。

本作は2021年2月に惜しまれつつ閉店した古書店「ポラン書房」を
追ったドキュメンタリー映画で、メールマガジン第347号「自著を
語る(番外編)」(5月25日配信)でご紹介した短編『最終頁』の
長編版です。
上映は以下の日程で行われます。「Hプログラム」として、宇治田
峻監督の短編映画『the Memory Lane』と併映されます。

9月14日(水)18:30~
9月17日(土)11:15~

会場は国立映画アーカイブ 小ホールで、チケットは現在販売中です。

映画祭公式サイト https://pff.jp/44th/
『ポラン』詳細 https://pff.jp/44th/award/competition-tokyo.html#h
チケット詳細 https://pff.jp/44th/tickets.html

なお、本作は9月10日(土)12:00~10月31日(月)にDOKUSO映画館と
U-NEXTにてオンライン配信されます。
11月19日(土)〜27日(日)には京都文化博物館でもぴあフィルム
フェスティバルが開催される予定です。
『ポラン』を通じて、多くの方々に古書店という「居場所」の持つ
力を発見/再発見していただけることを願っています。是非ご覧く
ださい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

メールマガジン第347号「自著を語る(番外編)」はこちらから
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9425

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『早稲田古本劇場』 古書現世 向井透史 著
本の雑誌社刊
四六判変型並製 380ページ
予価2200円(税込)
2022年8月26日発売予定
978-4-86011-472-5
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114728.html

『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』 中村文孝・小田光雄 著
論創社刊
四六判上製
定価2000円+税
2022年8月27日刊行予定
ISBN978-4-8460-2179-5
https://ronso.co.jp/

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

8月~9月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
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【発行者】
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『ポスター万歳 百窃百笑』

『ポスター万歳 百窃百笑』

田島奈都子(青梅市立美術館 学芸員)

 2022年7月に文生書院から刊行した拙著『ポスター万歳 百窃百笑』は、戦前・戦中期に製作された日本製ポスターのある部分が、外国の専門誌に掲載された作品を元ネタとしていた実態を、適宜解説を加えながら見開きで紹介する書籍である。

 著者は1945年までの日本製ポスターを専門としており、これまでの調査経験から、同時代の作品と比べて異質なものは、たいてい外国作品に依拠していることが判ってきた。しかも、その中には「影響を受けた」や「着想を得た」レベルを遥かに超えた、いわゆる「丸パクリ」が数多く含まれており、それゆえ書名は『ポスター万歳 百窃百笑』とした。

 さて、本書を読み進めていくと、「あの作品もこの作家も、実は外国作品をパクっていたのか・・・」と驚愕し、それらが続くと、次第にいたたまれなくなってくるかもしれない。しかし、元ネタとして何を選択し、どのように加工するかにも、一定の才能やセンスは必要である。また、戦前期は外国作品と接点を持てる人物や機会が、極端に限られていたことから、こうした行為は「勉強している証し」として、評価された面もあった。

 もちろん、本書で取り上げた作品は、多くが現在では著作権法違反で訴えられないような類似性を見せており、そうした負の実態を白日の下に「さらす」行為に対しては、自虐史観と捉える向きもあるかもしれない。ただし、そのような過去を経て、今日の日本の広告界やデザイン界が存在する以上、史実に対して怒るだけでは意味がないと筆者は考えている。

 ところで、本書の内容は前述したようにユニークであるが、実は執筆するに当たって採用した調査方法も、相当ユニークであった。詳しくは本書でご確認いただきたいが、実は今回翻案とされた海外作品の調査は、基本的に外国の機関がインターネット上で公開しているデータベースを閲覧することで済ませた。もっとも、データベース上で閲覧した洋雑誌については、著者もその実物を日本国内で閲覧した経験を持っており、翻案化の実例が複数見つかることは確信していた。また、そもそも戦前期の日本のポスターについて熟知していなければ、外国作品を見ても「こういう作品があったのか・・・」で終わってしまい、それが日本人作家によって翻案化されたことには気づけない。要するに、『ポスター万歳 百窃百笑』の執筆に当たっては、改めて行ったこともあったが、基盤となっているのはこれまでの調査経験であり、それがなければ短期間で出版することは到底無理であった。

 ではなぜ、データベースを閲覧したたかであるが、これには2019年12月に中国で最初の感染例が見つかった、新型コロナウィルスが大きな影響を及ぼしている。この原稿を執筆している2022年7月末時点で、全国的には感染者数が増加傾向にあるものの、国からの強い行動制限は呼びかけられていない。しかし、一時期の東京都内の図書館は、ほとんどが感染防止を目的に利用が停止となり、この事態は文献調査に関しても各機関に足を運び、直接閲覧してきた筆者にとっては、研究上の大きな痛手となった。

 こうした状況で実施したのが、自宅のパソコンからアクセス可能な、データベースを用いた文献の総覧であり、この作業は筆者にとっては当初、直接図書館等を訪問できないことに対する、代替えでしかなかった。しかし、国内における古い洋雑誌はそもそも所蔵先が少なく、かつ貴重な資料であることを理由として、利用に制限が設けられがちである一方、筆者が活用したデータベースでは、全ページがフルテキストで閲覧でき、検索やダウンロード、プリントアウトもある程度可能となっている。おまけに、在宅のまま時間を気にせず閲覧でき、結果的にそのような作業を通じて、100組以上の翻案例を新たに発見でき、それが今回の書籍化につながったのであるから、得るところは予想以上に大きかった。

 とはいえ、実際の書籍化に伴う編集作業は、掲載図版が多いことから面倒なうえ、コロナ禍では何かと思い通りに運ばず、出版して下さった文生書院や、担当の目時氏には大いにご苦労をおかけした。しかし、内容としても調査方法としてもユニークな本書は、各方面にとって興味深いものになると自負している。ちなみに、「笑い」は免疫力を高めるようであることから、第7波の流行を乗り切るためにも、読者の皆さんには本書を見て読んで大いに笑っていただきたいと思っている。そしてその後に、「創作」ということについて、改めて考えていただけたら幸甚である。
 
 
 
 


『ポスター万歳 百窃百笑』 田島奈都子編著
文生書院刊
320ページ・四六判
図版(249図)オールカラー
ISBN978-4-89253-651-9
4,950円(税込) 好評発売中!
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著名な作家と、研究すると面白い作家は必ずしも一致しない〜『職業作家の生活と出版環境 日記資料から研究方法を拓く』について〜

著名な作家と、研究すると面白い作家は必ずしも一致しない〜『職業作家の生活と出版環境 日記資料から研究方法を拓く』について〜

和田敦彦

■作家名頼りの企画にならないために
 本書では、今はもう忘れられているある直木賞作家に焦点をあて、戦後の職業作家の営みから何が見えてくるのかを様々な資料、角度から追っていくことを試みました。作家の名は榛葉英治(しんば・えいじ)、ただその名前は本書のタイトルには入っていません。忘れられている以上、名前をタイトルに掲げても読者にピンとこないということも理由の一つです。ただそれ以上に、偉大な、あるいは著名な作家名「ブランド」のもとで出されてきた数多くの研究が見落としてきたもの、とりこぼしてきたものをとらえることを試みたかったというのがより大きな理由としてあります。

 作家を偉人化、神聖化するとらえかたは、作家という書き手の内側で作品の価値をすべて説明できる、という考え方を生み出しかねません。しかし言うまでもなく作品の価値を生み出すのは作家のみではありません。本の作り手、広報の仕方、売り方、教え方、さらにはそれを読む読者を取り巻く経済、政治状況によって、作品の読み方や評価は生まれ、変わっていきます。ですから、純粋に作家の中、あるいは小説の中だけをいくら深掘りしても、小説が実際に果たす役割は見えてきません。

■日記資料の面白さ
 本書では、この職業作家の戦後の営みを、原稿を書き、売り、生活するそのありようと、それを取り巻く出版環境の中でとらえることを試みています。偉人としてというより、生活者、職業人としてその活動を追い、そこから見えてくる問題を考えています。そこで大きな意味をもったのが、戦後半世紀以上に及ぶこの作家の手書きの日記でした。そこには禁酒をしてはその禁をやぶる日々の生活があり、不本意な依頼原稿を書いてでも家族の生活費を工面する日常があり、自作への編集者や知人の評に一喜一憂し、ときにはそれが酔って諍いにまで至るような日々が記されています。

 本書は、こうした日記をいくつかのテーマにそって読みやすく編集する一方で、その著述活動をその時代の読者や出版環境との関係の中でとらえたいくつかの論考で構成しています。日記を読むだけでもエピソードとしてはとても面白いのですが、本書の執筆者達の中で、日々の日記を時間をかけてたどっていくうちに、多くの問いや発見が生まれていったからです。

■本書でとりあげたテーマ
 そうした論考では、戦後、新たな文学の担い手として登場したこの作家と、その執筆していたカストリ雑誌の作り出す作家イメージとの葛藤、あるいは先端的な若者像を小説にしようとモデル料まで払って取材し、あげくに自分の方がその若者に小説に描かれてしまう事件もとりあげています。

 榛葉英治は1958年には『赤い雪』で直木賞をとり、同年には小説『乾いた湖』が映画化され、活動の幅が広がっていきます。小説が映画化されていく際に出てきた当時の問題点を追った論考もあります。戦後、中間小説、大衆小説といった小説ジャンルも大きく変わっていきますが、その中での書き手としての位置をこの作家が模索しながら執筆していくその営みも論じられています。

 彼はまた60年代には『城壁』を刊行します。日本の文学作品で南京大虐殺事件を描いた数少ない小説です。その制作の過程や、その後この小説がどうなっていったのかが論考ではとりあげられています。この作家の場合、「釣り」もまた重要な視点を提供してくれます。戦後、釣り自体がレジャーとして、そしてまた雑誌や文学としても大きな位置をしめていくことになります。生涯釣りに魅せられ、かつメディアの中でそれを発信していった榛葉英治の軌跡から何が問えるのか。それもまた本書の論考からは見えてきます。

■一人の生活者としての職業作家の営み
 こうしてそれぞれの問いを振り返ってみると、著名な純文学作家ブランドのもとではけっして問題にならないような、あるいは問題にできなかった問いが、まだまだいろいろな作家や、メディアの中の職業人を対象にして見つけ出していくこともできると思います。そうした可能性をひらいていくために本書が少しでも役立っていってくれればとも思います。先日、本の刊行をきっかけにつながりができたこの作家のご子息とお孫さんを囲み、本書の執筆者達で話をうかがう機会がありました。榛葉英治が生前、「火宅の人」になりたかったと家族にこぼしていたという話が印象的でした(ちなみに榛葉英治と壇一雄の間には家族間のつきあいがありました)。「火宅の人」になりたかったけれど、家族がいたから、家族を支える生活があるからそうなれなかった。偉大な、著名な作家としてではなく、一人の生活者としての職業作家の営みを、本書を通していろいろな角度から見て、感じてもらえればと思います。

 
 
 
 


『職業作家の生活と出版環境
 日記資料から研究方法を拓く』  和田敦彦 編
文学通信刊
A5判・並製・282頁
定価:本体2,700円(税別)好評発売中!
ISBN978-4-909658-82-1 C0095
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2022年8月5日号 第352号

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━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見5】━━━━━━━━━

日本近代文学館 後編 蔵書収集と3人の古本屋   南陀楼綾繁

 日本近代文学館が駒場公園で開館したのは1967年。私が生まれた
年だ。

 設立準備会が結成された1962年以降、開館までの経緯を伝えるのが、
63年1月に創刊された『日本近代文学館ニュース』だ。1969年4月まで
発行された。B5判で、体裁がどことなく『日本古書通信』に似てい
る。参考にしたのだろうか。

 1971年5月創刊の館報『日本近代文学館』(以下、館報)は『ニュー
ス』の後継誌だが、同館の図書資料委員会の活動を伝える一連の発行
物を受け継いでもいる。

続きはこちら
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南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

ツイッター
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日本近代文学館
https://www.bungakukan.or.jp/

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「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

コショなひと 坪井書店
コショBUZZ 古書 月世界
コショなひと 多摩書房
日本最古の古本屋・浅倉屋書店へ素朴な質問

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━【8月5日~9月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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TOKYO BOOK PARK 吉祥寺

期間:2022/05/20~2022/10/30
場所:吉祥寺パルコ2階 武蔵野市吉祥寺本町1-5-1

https://twitter.com/TOKYOBOOKPARK

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フィールズ南柏 古本市(千葉県)

期間:2022/07/28~2022/08/17
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場  柏市南柏中央6-7

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夏の阪神古書ノ市(大阪府)

期間:2022/08/03~2022/08/08
場所:阪神百貨店梅田本店 8階催事場  大阪市北区梅田1丁目13番13号

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城北古書展

期間:2022/08/05~2022/08/06
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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Vintage Book Lab(ヴィンテージ・ブック・ラボ)

期間:2022/08/06~2022/08/06
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

https://www.vintagebooklab.com/

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第35回 下鴨納涼古本まつり(京都府)

期間:2022/08/11~2022/08/16
場所:下鴨神社糺の森  京都府京都市左京区下鴨泉川町59

http://koshoken.seesaa.net/index-4.html

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第71回東武古書の市(栃木県宇都宮市)(栃木県)

期間:2022/08/11~2022/08/16
場所:東武宇都宮百貨店 5Fイベントプラザ(宇都宮市宮園町5-4)
   東武宇都宮駅よりすぐ(百貨店直結)
   JR宇都宮駅よりタクシー5分/バス+徒歩10分/徒歩25分

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オールデイズクラブ古書即売会(愛知県)

期間:2022/08/12~2022/08/14
場所:名古屋古書会館 2階 名古屋市中区千代田5-1-12

https://hon-ya.net/

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好書会

期間:2022/08/13~2022/08/14
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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三省堂書店池袋本店 古本まつり

期間:2022/08/16~2022/08/22
場所:西武池袋本店 別館2階=西武ギャラリー  東京都豊島区南池袋1-28-1

http://ikebukuro.books-sanseido.co.jp/events/6652

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ぐろりや会

期間:2022/08/19~2022/08/20
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://www.gloriakai.jp/

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散歩の達人 納涼古本市

期間:2022/08/20~2022/08/28
場所:平井の本棚 2階 イベントスペース
   江戸川区平井5-15-10 総武線平井駅北口下車30秒

https://santasu-hirai.peatix.com

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2022/08/25~2022/08/28
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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紙魚之會

期間:2022/08/26~2022/08/27
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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フジサワ古書フェア(神奈川県)

期間:2022/09/01~2022/09/14
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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東京愛書会

期間:2022/09/02~2022/09/03
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://aisyokai.blog.fc2.com/

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杉並書友会

期間:2022/09/03~2022/09/04
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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第103回 彩の国 所沢古本まつり 2022(埼玉県)

期間:2022/09/07~2022/09/13
場所:くすのきホール (西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場)

https://tokorozawahuruhon.com/

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書窓展(マド展)

期間:2022/09/09~2022/09/10
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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好書会

期間:2022/09/10~2022/09/11
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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反町古書会館展(神奈川県)

期間:2022/09/10~2022/09/11
場所:神奈川古書会館1階 横浜市神奈川区反町2-16-10

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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日本の古本屋メールマガジンその352 2022.8.5

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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日本近代文学館 後編 蔵書収集と3人の古本屋  【書庫拝見5】

日本近代文学館 後編 蔵書収集と3人の古本屋  【書庫拝見5】

南陀楼綾繁

 日本近代文学館が駒場公園で開館したのは1967年。私が生まれた年だ。

 設立準備会が結成された1962年以降、開館までの経緯を伝えるのが、63年1月に創刊された『日本近代文学館ニュース』だ。1969年4月まで発行された。B5判で、体裁がどことなく『日本古書通信』に似ている。参考にしたのだろうか。

 1971年5月創刊の館報『日本近代文学館』(以下、館報)は『ニュース』の後継誌だが、同館の図書資料委員会の活動を伝える一連の発行物を受け継いでもいる。

 開館準備のために、出版界や財界、政界に呼びかけたのが高見順、伊藤整ら作家であるのに対して、文学館の基盤となる資料を収集するという、いわば「裏方」を務めたのが、文学研究者たちだった。

 1964年4月に設置された図書館委員会(1967年の開館時に「図書資料委員会」に改組)には、久松潜一が委員長、稲垣達郎が副委員長で、小田切進、瀬沼茂樹、紅野敏郎、保昌正夫らが参加。このうち紅野は40代はじめ、保昌は30代と若く、資料収集の中心となっていく。翌月に創刊された手書き・謄写版印刷の『図書館委員会週報』では、紅野・保昌らが東京古書会館、中央線古書会、明治古典会に出かけて古書の収集を行なったことを報告している。同号では委員会の仕事として、個人・出版社への寄贈依頼、古書の蒐集・購入、分類・目録整理、レファレンス・調査を挙げる。

 9月発行の第12号でも、図書購入について報告されている。
「8月28日 早朝より二班に分れて古本収書に廻った結果について紅野氏(神田方面)、保昌氏(城北方面)より報告。この日研究書を中心に約650冊購入」

 9月5日にも全集・雑誌の穴を埋める目的で、同様の買い出し部隊が出発し、1200冊を購入している。

 これらの報告からは、文学館の資料が揃っていくことへの喜びとともに、「こんな本が買えた!」という古本好きの高揚感が伝わってくる。

 小田切進は、文学館開館のために多くの人を動かした高見順が、癌に倒れてから談話筆記で記事になった以外、自分では館についてはまったく書かなかったと述べる。
「原稿の点では、高見さんはとても頑固で、『それは小田切に頼め』と言って、いつも固辞した。(略)今になって思うと、高見さんの文士に徹したいという態度からだったのではないか、と考えられる」(「高見さんのこと 没後十年」、館報第26号、1975年7月)

 高見に自分で書くものへのこだわりがあったことはたしかだろうが、それとともに、実際に資料を集め、館を運営していく「裏方」に光を当てたいという気持ちもあったのではないか。

森鷗外文庫と〈時代や〉菰池佐一郎

 1964年11月、上野図書館内に「日本近代文学館文庫」を開設。はじめて一般が利用できる閲覧室を設けた。

 翌年9月には先の『週報』を受け継ぐ形で、『日本近代文学館 図書館委員会月報』を創刊。これも謄写版刷だ。創刊号によれば日本近代文学館文庫の利用者が増加し、30席が満席になって、来館者を断ることもあったという。

 同号には「『森鷗外資料』のことなど」という記事も掲載されている。これは古本屋〈時代や〉店主の菰池佐一郎が収集した森鷗外に関するコレクションを購入する交渉を伝えるものだ。

 のちに「菰池佐一郎収集 森鷗外文庫」と名付けられるもので、森鷗外の原稿・書簡など特別資料475点、図書412点、雑誌・新聞179種が含まれる。雑誌については、鷗外主宰の『しがらみ草紙』『めさまし草』などのほぼ全号、執筆誌も主要なものは揃い、鷗外の追悼号や特集号まで集められている。

 私も書庫で見せてもらったが、当たり前だが、すべてが鷗外に関する本ばかり。書名に出てこなくても、どこかで鷗外に言及されていれば集めている。研究者とは視点が異なる、古本屋ならではの徹底ぶりだと感じた。

 菰池は京都生まれで、東京に出て骨董店をはじめ、のちに古本屋に転じた。明治文学ものが主力で、1936年に古書目録『時代や書目』を創刊。森鷗外については「あるお客様が御熱心だった。鷗外さんのものなら何でも持ってこいという、けっこうなお客さんがありました」。敗戦後、その客が集めたものを買い戻したのがきっかけで、鷗外関連書を集めるようになる。1959年に『家蔵 鷗外書目(未定稿)』を刊行し、のちに何度か追録を刊行する(反町茂雄編『紙魚の昔がたり 昭和篇』八木書店)。

 集めてきたものを手放す際、菰池は「娘を嫁入らすような気持です、いい嫁入先ですからね」とつぶやいたという(紅野敏郎「図書資料委員会」、館報第13号、1973年5月)。一方、同業の古書店主を前にした『紙魚の昔がたり』の座談では、「その後、鷗外さんのものは、一段も二段も値上がりしました。売るのにはちょっと時期が早すぎて、しまったことをしたなと……(笑い)」と話している。どちらも本音だろう。

 このコレクションが上野の日本近代文学館文庫に搬入された際、理事長の伊藤整や図書館委員会のメンバーは喜びの声をあげたという(小田切進「はじめに」、『森鷗外文庫目録』)。

 1963年10月に、新宿伊勢丹で開催した「近代文学史展」が大成功を収めて以来、出版社からの寄贈や高見順文庫、野村胡堂文庫などの寄贈はあったが、森鷗外文庫ははじめての大型コレクションだった。森鷗外文庫搬入の頃から、貴重資料寄贈の申し出が増えた。
「20年余りの歳月をついやし、菰池さんが精魂かたむけて収集につとめられた豪華なコレクションを、文学館が受け入れさせていただけたということが、広く知られ、それで勢いづいたという感があった」と小田切は書いている。

自転車で本を――〈ペリカン書房〉品川力

 『日本近代文学館 図書館委員会月報』創刊号には、もうひとつ見逃せない記事がある。
「まさにぺリカンの如く 品川力氏の寄贈続く」と題するものだ。
「このところ品川さんが、毎日来庫される。本郷から自転車に乗ってこられるのだが、どしゃぶりの雨の日もそうして来られる。木下尚江のことやハイネのことなどをしらべに来られるのだが、荷台にのせた木の箱に必らず、図書・雑誌や資料を持って来られる」

 品川力(つとむ)は本郷にあった古本屋〈ペリカン書房〉の店主。東大赤門前の「落第横丁」にあった店舗には、私も何度か行ったことがある。『古書巡礼』(青英舎)などの著書も愛読している。

 新潟県柏崎市生まれで、父は牧場と書店を営む。上京後、1931年に本郷でレストラン〈ペリカン〉を開店。店には織田作之助、太宰治、檀一雄らが集まり、品川は織田の『夫婦善哉』が掲載された同人誌『海風』の発行人も務めた。1939年に古本屋を開く(『本の配達人 品川力とその弟妹』柏崎ふるさと人物館)。

 品川は長身でカウボーイハットを愛用し、自転車で都内のどこにでも出かけ、研究者が探している文献を配達した。日本近代文学館に対しても同様だった。

 駒場公園に開館した後の1968年9月、先の『月報』は『日本近代文学館 図書・資料委員会ニュース』に代わる。タイプ印刷。70年5月の第11号では「図書資料受入報告」で、保昌正夫は、毎号、品川力からの寄贈の話を出しているが、「やはり文学館へ本が集まってくるのは、品川さんのような尽力が原動力になっていることをおもうと、まず初めに挙げたくなる」と記している。

 第14号(1970年11月)にはやはり保昌が、次のように書く。
「品川さんの持ってきてくれる本には一冊、一冊に親しい手ざわりのようなものがある。(略)館にきてブックトラックに並べられた品川さんからの本をみてると、とにかくちょっと古本屋らしい古本屋の一角にいるような気持になる。掘り出しものが出てきそうな感じもする」

 文学館と古本屋は異なるものだと思う人は多いかもしれないが、少なくとも日本近代文学館には、古本の「親しい手ざわりのようなもの」を感じるセンスを持つ人たちが関わっていたのだと思うと、なんだか嬉しくなる。

 本郷から駒場まで、自転車でどれぐらいかかるか知らないが、品川はそうやって本を運んだ。その回数は「1200回以上と聞いています」と、案内してくれた宮西郁実さんは話す。

 そうやって寄贈された資料は約1万9000点を超える。そのなかには品川が書誌を作成するために収集したポーやホイットマンの文献が含まれている。

 特別資料に入っているものには、織田作之助、串田孫一らが品川に宛てた書簡がある。また、今回閲覧させてもらった『ちぎれ雲』と題する寄せ書き帖には、岡本唐貴、前田河広一郎、吉野秀雄らの名前が見つかった。

 品川は83歳で自転車がこげなくなるまで、文学館通いを続けた。寡黙な品川は本を届けると、おいしそうにお茶を飲んで帰って行ったという。その後も館員がペリカン書房まで本を受け取りに行った(『本の配達人』)。

 品川がこの世を去ったのは2006年、102歳だった。日本近代文学館とは準備段階から40年に及ぶ付き合いだった。
 

古本の埃と汗――――〈山王書房〉関口良雄

 時代やの菰池佐一郎、ペリカン書房の品川力に並んで、同館の恩人ともいえる古書店主が、〈山王書房〉の関口良雄だ。

 関口は長野県飯田市生まれ。1953年、大田区で山王書房を開店。私小説作家を愛し、『上林暁文学書目』『尾崎一雄文学書目』を自費で刊行する。没後に出た随筆集『昔日の客』(三茶書房)は、2010年に夏葉社から復刊され、若い世代にも読まれている。

 関口は1963年の「近代文学史展」を見に行った際、上林暁の本が一冊しかなかったという不満を、理事の小田切進にぶつける。その翌日もう一度行くと、第一創作集『薔薇盗人』をはじめ、「目のさめる様な最高の美本」が並べられていた。その翌年、関口は池袋にあった館の事務局に、上林と尾崎一雄の著書を持参したと、「『日本近代文学館』の地下室にて」で書いている(『昔日の客』)。このとき寄贈されたのは、上林が45冊、尾崎が47冊だった。

 同館の図書館委員会の若手である紅野敏郎と保昌正夫が古本を買い出しに廻る際、山王書房を訪れた。
「予算が限られていたので、安くて、筋のいい本、ということになると、足はおのずと山王書房に向った。棚から幾冊か選びつつおしゃべり、梱包を終ったところでまたおしゃべり。私たちはそこで半日を費し、楽しみ、意気揚々と引きあげた」(紅野敏郎「関口さん」、『関口良雄さんを憶う』三茶書房)

 同じ場面を関口は次のように書く。
「私は腹の中で予算は大丈夫かなと余計な心配をした。(略)先生方の顔は古本の埃と流れ出る汗でクシャクシャになり、額からはポタリポタリと玉の汗が落ちた。積み重ねた古本の上にも落ちて染を作った。

 私はこの玉の汗が、日本近代文学館の基礎を作るのだと思った」(「汗」、『日本近代文学館ニュース』第5号、1964年11月、『昔日の客』)

 また、関口は上林暁から受け取った葉書を同館に寄贈している。特別資料に入っているその一枚を閲覧した。1960年8月23日の日付だ。
「貴書房のことは岡本功司君より度々耳にしてゐます。その関係で昨年晩秋、室生犀星夫人の告別式に赴く途中、バスの窓より貴書房の看板を望見、なつかしい思ひが致しました。そちらの方面に赴く機会がありましたら寄せさせていただきます(略)」

 このとき、まだ二人は面識がない。その後、関口は上林を訪ね、上林が病床に伏してからも励まし続ける。

書庫で再び巡り合う蔵書たち

 関口は寄贈した資料以外にも、間接的に同館に寄与している。

 作家の結城信一が亡くなったあと、本人の原稿や書簡とともに、結城が集めた室生犀星の著書216点などを遺族が寄贈し、「結城信一コレクション」として整理された。

 結城は犀星を敬愛し、『室生犀星全集』(新潮社)の書誌の編者も務めた。彼が犀星本を集めるにあたって頼りにしたのが、山王書房だった。
「何度も私の家に足を運んでくれ、『抒情小曲集』初版函入美本を届けにきたときは、手離すのが惜しい、といふ興奮気味の顔で、もし売ることがあれば、今とおなじ値段で引取らせてもらひますよ、とも言つた」(「消えた来世の古本屋」、『関口良雄さんを憶う』)

 結城と関口について、保昌正夫は、関口良雄文庫が先に入っていることから、「結城さんの犀星コレクションが館に納められたことで、この二人は館の書庫で『久かつを叙し』ているかもしれない。これも因縁というものだろう」と記している(「結城信一の犀星本コレクションなど」、館報第89号、1986年1月、『暮れの本屋めぐり 保昌正夫《文学館》文集』日本近代文学館)。

 上林、尾崎の本を寄贈してから10年後、関口ははじめて近代文学館を訪れる。「図書資料部の大久保という人」に案内され、地下にある上林、尾崎の棚の前に立った。
「かつて私の背中におんぶされ、私の両手に手を引かれる様にして運ばれた本達よ。私はその本達に、また会ひに来ることを誓つて地下室を出た」(「『日本近代文学館』の地下室にて」)

 このエッセイは1977年6月の『人間連邦』に発表されたが、その2か月後、がんを患っていた関口は死去する。「また会いに来る」ことはかなわなかったのだ。

 なお、このときに関口を案内した「大久保」は大久保乙彦のことで、日比谷図書館を経て、日本近代文学館の職員となった。専門図書館である同館の特徴を生かす分類方法を提案したひとりであったという(紅野敏郎「『館』の歴史のなかで」、『追悼・大久保乙彦』)。大久保は1989年に、文学館からの帰途、交通事故に遭って亡くなった。

 同館の館報をめくっていると、理事や寄贈者の追悼記事が多く目につく。開設準備から同館に関わりつづけた保昌正夫は2002年、紅野敏郎は2010年に亡くなる。

 そうやって関わった人は消えていっても、同館の書庫のなかでは、さまざまな人たちが残した本や雑誌が再会している。そのことが奇跡のように思える。

 
 開館から55年。日本近代文学館は数々の図書・雑誌の複刻版や資料集を刊行し、展覧会を開催してきた。2011年には公益財団法人へ移行している。また、1995年には同館が呼びかけて、全国文学館協議会が発足。文学館同士が協力し合う体制ができている。

 今後の同館については、「増えていく資料に対する収蔵スペースの問題と、デジタル化にどう対応していくかが課題ですね」と、宮西さんは話す。

 貴重な資料を収めた書庫と静謐な閲覧室がいまもこの場にあるのは、関わった多くの人たちの努力と、本と出会うことへの喜びがあったからだ。この空間をこの先も残していくためにも、積極的に同館を利用していきたい。

 
 
 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

 
日本近代文学館
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2022年7月25日号 第351号

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     。.☆.:* その351・7月25日号 *:.☆. 。
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☆INDEX☆
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
1.古本屋ツアー・イン・ジャパン2022年上半期報告
                 古本屋ツーリスト 小山力也

2.なぜ『左川ちか全集』は生まれたか
   ―書物としての「左川ちか」と解放の企図―    島田龍

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━━━━━━━━━【古本屋ツアーインジャパン】━━━━━━━

古本屋ツアー・イン・ジャパン2022年上半期報告
                 古本屋ツーリスト 小山力也

 世界が新型コロナの脅威に晒され続け、二年半以上が経過した。
その間に、感染対策は定着化し(マスクにもすっかり慣れてしまっ
た…いやですねぇ)、ワクチン接種も進み、コロナウィルスをどう
にか制御し始めたような雰囲気が世界中に流れているが、敵もさる
もの巧妙な進化を続けており、相変わらず未知のウィルスであるこ
とに変わりはないのであった。まったく『何処まで続くぬかるみぞ』
と言った感じである。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9723

小山力也

2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている
場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・
ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、
大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑誌」
にて『毎日でも通いたい古本屋さん』、「日本古書通信」にて『ミ
ステリ懐旧三面鏡』連載中。

http://furuhonya-tour.seesaa.net/

━━━━━━━━━【自著を語る(294)】━━━━━━━━━━━

なぜ『左川ちか全集』は生まれたか
   ―書物としての「左川ちか」と解放の企図―    島田龍

はじめに
 森谷均を社主とする昭森社から遺稿詩集『左川ちか詩集』(以後
適宜『詩集』と略す)が刊行されたのは1936年11月のこと。編者は
伊藤整である。「彼女の残した一冊の詩集は、昭和初期における女
性詩の最高にちかい光芒をはなった」(『株式会社紀伊國屋書店創
業五十年記念誌』1977)と称賛したの春山行夫だった。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9731

『左川ちか全集』 左川ちか/島田龍 編
四六判、上製、416ページ
書肆侃侃房 定価:本体2,800円+税 好評発売中!
https://ajirobooks.stores.jp/items/625000c23463e711bb1550ba

━━━━━━━━━【イベント紹介】━━━━━━━━━━━

「左川ちか2022 〜新たに開かれる詩/モダニズム/世界〜」
島田龍×中保佐和子×イリナ・ホルカ×小川公代×エリス俊子×矢代朝子

日時:2022年8月3日(水)14:00〜17:30
場所:立命館大学衣笠キャンパス 創思館カンファレンスルーム
主催:立命館大学国際言語文化研究所
協賛:書肆侃侃房
問い合わせ先: 吉田恭子(立命館大学文学部) kyoko@fc.ritsumei.ac.jp
詳細:http://www.kankanbou.com/news/archives/372

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『ポスター万歳 百窃百笑』  田島奈都子 編著
文生書院刊
320ページ・四六判 図版(249図)オールカラー
4,950円(税込)
2022年7月28日刊行
https://www.bunsei.co.jp/original/new-publication/tajima/

『職業作家の生活と出版環境
 日記資料から研究方法を拓く』  和田敦彦 編
文学通信刊
A5判・並製・282頁
定価:本体2,700円(税別)
好評発売中!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-82-1.html

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

7月~8月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
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日本の古本屋メールマガジン その351・7月25日

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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