本稿のタイトルでもあり、来る10月5日(土)13時より阿佐ヶ谷ロフトAにて私の企画・主催・司会にて開催される同名のトークライブ、つまり、
「紙の本と、出版の未来」
なぜにこのような野心的かつ大胆な名を冠したのか。
その理由を問われれば、こうである。
「ただ単に、紙の本好きが嵩じて…」
そもそも、なぜ「紙の本」にかくも心奪われて生きてきたのか?
私事で恐縮だが、今を去ること約40年前。幼心にも閉塞感や息苦しさを感じていたあの当時の空気感を反映したかのような、お世辞にも恵まれているとは言い難い貧しい家庭に産まれ落ちた往時の私に寄り添ってくれたのは、その世界観に己を埋没・投影させ、しばし過酷な現実から離れ虚構の物語に耽ることを許してくれた、図書室で借り出した児童文学やSF小説を中心とした蔵書たちであったろうか。
世代が下り、それまで読んでいた高千穂遥(朝日ソノラマ文庫)、小松左京(日本SFシリーズ)、富野由悠季(角川ノベルス)に加え、伊藤整や大岡昇平、家永三郎等にも手を伸ばし若気の背伸びをし、しかし時代の空気を思いっきり吸い、世界や社会と自分との関わりや、世の中との対峙、折り合いのつけ方を自分なりに模索していた、あの10代の青春の日々。
いま振り返ると甘い逃避なのかもしれないが、単に逃避だけではなかった、「こことは違う、何処かへ」の飽くなき渇望…それを満たしてくれたのは、物語を読み空想の世界に遊ぶ—即ち読書という行為を与えてくれた、他ならぬ「本」がいつも傍らにあったからこそ成し得たのである。
自己を形成する上でも重要であり、単純に新刊本/古書問わず「紙の本」の触感や匂いが好きなそんな私は、ホワイトバンドプロジェクト(2006年)、2020東京オリパラ招致PR(2012~13年)等を経て、近年では独立行政法人のPRや某業界の広報誌編集等に携わる傍ら、映画・政治・ジェンダー等をテーマに多彩なゲスト(原一男(映画監督)、赤松利市(作家)、外山恒一(文筆家)、岸本聡子(杉並区長)、宇都宮健児(弁護士)等)を招いてトークライブを企画・主催をしてきたが、ここにきて何故、満を持して「紙の本と、出版の未来」をテーマとしてトークライブを敢行するのか?
冒頭付近で容喙した「ただ単に、紙の本好きが嵩じて」には違いないのであるが、ほぼ同等の熱量で抱く、往昔より長年愛好してきた紙の本が、果たしてこの先も成り立っていくのか?といった、身を焦がすまでの憂慮が、私をして突き動かしたからに他ならないのである。
では、一体どのような状況について憂慮しているというのか?
本稿冒頭にて触れたトークライブの参加予約・告知ページ
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/287251
にも明記しているように、
「大手(老舗)出版社と取次を中心とする硬直化した出版流通システム/商慣習の横行」
であり、更に云わば、このような状況を今日に於いて現出せしめる一因であると個人的には考える、1953年施行の改正独占禁止法によって規定された「再販制度(定価販売制度)」の将来的な存置・継続の是非についての、完全にゼロベースな議論をいまこそ再開しようではないかという思いに尽きる。
もう一度書こう。再販制度の是非を問うのではなく、完全ゼロベースでありどのような立場であろうとも発言できる「議論」の場の必要性である。
それはある意味において、特に出版業界に身を置いている諸賢にとってはタブーなのかもしれない。しかし嘗て、そのような議論の気運・盛り上がりが確かにあった。
1978年、橋口收公取委委員長(当時)による、所謂「橋口発言」をめぐる出版界からの反論、その後の交渉等を経て1980年に再販制度に部分再販/時限再販が盛り込まれも形骸化してしまったという苦い経緯がある。
紙幅の都合上、上記の詳細や経緯等については触れないが、高須次郎氏(緑風出版代表)による以下の記事を参照されたい。
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=4410
「紙の本」という我々が生み育み継承してきたこの素晴らしい文化そのものの有り様について、今こそすべての垣根を取り払い、それぞれの立場を尊重しつつ深く思いを致すべき時なのではないだろうか?
これらを踏まえつつ、当日会場にお運びいただける、そして本稿をお読みになられている皆様にこそ、私も含めた登壇者との議論に積極的に参加いただき(「第四部:来場者の皆様との質疑応答」)、本イベントを通じて前向きかつ建設的な「未来への提言」の取りまとめを試みようというのが、今回のトークライブを企画するにあたっての、最大にして唯一の「理由」である。
それはやはり
「ただ単に、紙の本好きが嵩じて」
としか言いようがないのである。

トークライブ『紙の本と、出版の未来』 10月5日(土)
企画・主催・司会進行:SPF syndicate ベアナガタ(永田勝徳)
予約(会場観覧/ライブ配信視聴)受付中!
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/287251