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わがスーヴェニール 下地はるお戯曲選

わがスーヴェニール  下地はるお戯曲選

川添健次(天心堂)

この新刊本のご案内をせねばなりません。
 
今回の「わがスーヴェニール」。切っ掛けは父の死です。
 
遺品整理の時に出てきた古びた大学ノート8冊程。そこには恋、別れ、浪漫、戦争と父の
青春がありました。口数の少なかった父からの問いかけ。晩年の父は、朝から数社の新聞を
読み漁り、テレビの前に居座り、外に出ることを嫌い、唯一のたのしみは麻雀でした。
 
ー親父にも青春があったー
 
文面から若かりし頃の父の声が聞きたくなりました。
ノートの表題にあった「スーヴェニール」とは、記念品、忘れ形見、土産という意味の
ようなので使わせていただきました。
その他、順次紹介します。

「刀狩り」秀吉の頃の刀狩りではなく、敗戦時、美術品や刀が勝者たちによって
持ち去られるという話。日本の捕虜だった外兵士が解放され、戦利品を物色する途中で
立ち寄った原爆の地ヒロシマの惨状など、能狂言風に書いたものです。
 
「壺から霊験記」 事故に会った青年が生死を彷徨うその狭間で、壺取りで争う
男たちの人間模様。阿・吽が立ちはだかります。
 
「ドッカーン・ピカピカ・キーン」  「わがスーヴェニール」が、青春篇とすれば、
こちらは戦争篇となります。戦死者のほとんどは戦病死ではないか。生き残った
老人の中で過去と現在が交差する戦争絵巻。
 
「狼のけむり」 (少年と狼)の寓話劇。原発のある村。僕は見たんだ。放射能が
襲って来る、逃げろ。目に見えない放射能は臭うのか。狼の屁が教えてくれます。
 
合わせて5編からなる未公開の作品群です。
 
読み物としての台本、戯曲は、今や古典扱いですが、そこからは今もなお声が聞こえます。
その声は創造の世界から、見世物、出会いへと繋がり、出番を待っています。
 
本の著者についてお話します。
「下地はるお」は、学生の頃に演劇企画集団を主催し、年に二回ほどの公演を、
十数年続けてきた時の作者名です。芝居に完璧はありません。今、彼は本名を名乗り
古本屋を営む高齢者となりました。ささやかで劇的なるものは、誰にでも襲い掛かります。
 
封印していた「下地はるお」の名で出版したのは、彼の中に、まだ演劇青年が
居たからかもしれません。
台本は、カバー、帯を付けて着飾るほどのものではないので、冊子という型にしました。

「日本の古本屋」からも注文を受け付けておりますので、一読ください。

 
 
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わがスーヴェニール 下地はるお戯曲選
下地はるお 著
天心堂出版部 刊
1,000円(税込)
 
好評発売中!
https://www.kosho.or.jp/abouts/?id=12030870

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防災専門図書館 過去の災害を未来の防災につなげる
【書庫拝見28】

防災専門図書館 過去の災害を未来の防災につなげる【書庫拝見28】

南陀楼綾繁

 天災は忘れた頃にやって来る。
 毎年8月末からの防災週間が近づくと、いろんなところで目にする言葉だ。昨年は
関東大震災から100年目であることから、例年より見る機会が多かった。

 寺田寅彦の言葉として伝えられており、高知市の寺田の旧宅(現在は寺田寅彦記念館に
なっている)前には、「天災は忘れられたる頃来る」と刻まれた石碑がある。
 たしかに寺田は「津浪と人間」「天災と国防」などで、天災に対する人間の忘れっぽさを
警告しているが、この表現通りの文章は書いていない。
 ただ、弟子の中谷宇吉郎は、寺田がこれに近い言葉を話したのを聞いており、いわば「先生がペンを使わないで書かれた文字」だと説明している(「天災は忘れた頃来る」、
『中谷宇吉郎随筆集』岩波文庫)。

 実際、人間は忘れっぽい。地震や台風が去ってしまえば安心し、もう一度これが来たら……という想像力が働かなくなる。
 備えあれば憂いなしとも云うが、憂いが去れば備えのことが頭から消えるのだ。
 今回訪れた「防災専門図書館」は、開館以来、そんな人間の習性に警鐘を鳴らし続けて
いる。

伝えたいという情熱

 8月2日の朝、地下鉄麹町駅の出口から地上に出ると、すぐに汗が噴き出してくる。
少し歩くと、千代田区平河町の日本都市センター会館に着く。1階にはホテルのロビーが
あり、朝からにぎやかだった。
 
1_entrance
★日本都市センター会館の入り口
 
エレベーターで8階に着くと、ドアが開いた瞬間、壁面に掲示された写真や地図が
目に飛び込んでくる。
これは企画展「関東大震災から100年 備えよう!首都直下地震」の展示の一部で、
エレベーターホールから廊下、そして図書館閲覧室へと展示が続く。「場所が限られているので、使える場所はぜんぶ利用しています」と、同館主任の堀田弥生さんは話す。同館のサイトでは、展示を3D-VRでも見られる。
https://my.matterport.com/show/?m=B7wnscRDkgz
 
 堀田さんは防災科学技術研究所の自然災害情報室で、研究員として10年半働いた後、2013年に防災専門図書館の職員となる。防災科研に勤める以前から同館を利用していたそうだ。
 
2_exhibition
★企画展の様子(エレベーターホール)
 
閲覧室に入ると、展示台となった目録カードケースの上に、関東大震災に関する資料が
並べられている。市販されている本だけでなく、一般には入手が難しい資料も見つかる。
 
3_Great Kanto Earthquake
★関東大震災関連の資料
 
 壁面には、東日本大震災の震源を示した図や首都直下地震の説明、今年1月に発生した
令和6年能登半島地震の被害を伝えるパネルを掲示。
 閲覧室中央には、これも目録カードケースの上に、防災グッズや災害食の見本が所狭しと
置かれており、「とにかく、防災について伝えたい!」という熱意が伝わってくる。
 
4_disaster prevention
★災害食と関連蔵書の展示
 
「災害による被害の状況とともに、防災の大切さをあわせて伝えるようにしています。
過去を振り返るだけでなく、未来の防災へつなげることが企画展の目的なので」と、
堀田さんは話す。
 奥には、消防、河川、交通安全、廃棄物などの災害・防災に関する専門誌がずらりと並ぶ。海外の雑誌も揃っている。
 
5_specialized magazines
★専門誌が並ぶ棚

「広報元年」と企画展

 カウンターの後ろにある事務室に入ると、係長の矢野陽子さんが迎えてくれた。
 矢野さんは歴史学が専門で、歴史学科の教員などを経て、東京大学経済学部資料室の学術
支援職員として研究補助や司書業務に就いた後、2009年から防災専門図書館で勤務する。
「私が入った頃は、1週間に2、3人ぐらいしか利用者がいない、知る人ぞ知る図書館でした」と、矢野さんは話す。

 そもそも、この図書館は誰が運営しているのか? 
「公益社団法人 全国市有物件災害共済会(以下、共済会)です」と矢野さんが説明する。
一回では覚えられない名前だ。

 市の相互共済事業を行なう目的で、1949年1月に設立された。火災共済から始まり、自動車(公用車や救急車、消防車を含む)の損害共済、建物の損害共済へと拡大していったという。
 その一方、火災、自動車事故、風水害などの損害に対する研究事業を行なう過程で、2000冊ほどの資料を収集。それをもとに、1956年7月に防災専門図書館が開館したのだ。

 設立当初は日比谷公園にある市政会館の中にあったが、1959年、平河町の現在の場所に
共済会が運営する都市センター会館が竣工すると、その中に移った。
 蔵書は次第に増え、『公害関係図書目録』など図書館の独自分類別目録が刊行された。
 1999年に新会館が竣工すると、8階に入る。このとき、書庫が以前の3倍に拡張した。
また、蔵書検索システムを導入した。

 2012年に公益社団法人に移行したのを機に、改めて同館のありかたを検討する委員会が
設置された。
「そして2014年度からは広報活動に力を入れ始めました。私たちにとっての『広報元年』です」と矢野さんは云う。
 ビルの入り口に館名を表示したり、エントランスの各所に図書館の案内を掲示したりした
ことで、ホテルの宿泊客や会議室の利用者などが立ち寄ってくれるようになった。

 先に触れた企画展を開始したのもこの年だ。6月のミニ企画展「1964年新潟地震」を皮切りに、翌年の「阪神・淡路大震災から20年」、「東日本大震災から5年」(2016年)、「熊本地震の現在」(2017年)、「首都圏水没!? カスリーン台風から70年」(2017年)、「震度7の連鎖:首都直下地震を考える -福井地震から70年」(2018年)、「平成の災害史」(2019年)、「スーパー台風襲来!?高潮災害を考える 伊勢湾台風から60年」(2019年)、「東日本大震災から10年」(2021年)、「熊本地震から5年」(2021年)などの企画展を開催してきた。

「◎年目という周年を基準に、年1回開催していますが、大きな災害が起きると緊急展示することも」と、堀田さんは云う。
 広報に力を入れたことにより、来館者数は増加。かつては年100人程度だったが、いまは
月100人になっている。

 同館を利用する人は研究者、学生、企業、一般の方など幅広い。レファレンスでの問い合わせもさまざまで、それに答えられる資料を用意する必要がある。
「企業からは、災害関係の製品開発に関する問い合わせがあります。また、自然災害、
大火災、テロ攻撃などの緊急事態に企業がどう対応するかのBCP(事業継続計画)を策定するための資料を探す方も多いです」と矢野さんは説明する。

 国立国会図書館でも、このBCPを策定しているそうだ。どういう計画になっているのか、
気になる。

戦争という人為災害

 防災専門図書館が所蔵する資料は、図書約17万冊。雑誌528タイトル。図書には製本した
雑誌も含む。
 防災専門図書館が考える「災害」は、「人に災いを及ぼすもの」だ。それゆえ、「風水害・地震などの自然災害から、事故・公害・戦災などの人為的な災害まで、あらゆる災害に関する資料」を収集している。最も冊数が多いのは公害に関する資料で、蔵書の31パーセントを占めるという。

 所蔵資料の分類表は独自に作成したもので、「災害一般」「火災」「風水害・雪害」
「地震・噴火・津波」「交通災害」「農業災害」「鉱・工業災害」「公害」「戦災」
「その他一般」という大項目の下に、多くの小項目が配置されている。

 地震であれば、歴史、法令から地震予知、液状化現象、津波、耐震建築、震災ボラン
ティア、震災保障など、地震に関連するすべての資料が見つかる。
 これらの中には、時代の変化によって当てはまらない項目もあるのでは? と思うが、
矢野さんによれば、どこかに該当する項目があるという。

「たとえば、『公害』の中には716『放射能(原水爆災害)・原発事故』という項目があります。また、新型コロナウイルスは『公害』の中の717『公害病・疫病(伝染病)』に分類しています。設立当時の先輩方が適切な分類を用意してくれたおかげですね」

 1979年に刊行された同館の戦災関係資料を記載した『防災専門図書館所蔵戦災関係図書
目録』の序文には、次のように書かれている。

「災害の範疇に戦災という一類が設けられていることにとまどいを感ぜられる向きもままありますが、この戦争という国家的規模による忌わしい人為災害の悲惨さ、恐ろしさを人々の記憶に新たにし、ひいては戦争防止のための一端を荷なうことが出来ればとの意図に基づき設けられたものであります」

「災害」として戦争をとらえるのは、時代に先駆けた、すぐれた視点だと云えるだろう。
 現在では、一般の利用者が検索でヒットしやすいように、OPACには関連するキーワードを追加している。
 収集する資料には、出版の状況が反映される。
 東日本大震災に関する出版物が最も多く、関東大震災がそれに次ぐ。熊本地震もけっこう
多いという。

 「昔に比べて今の出版のしやすさが影響しているのは確かです。その一方で、不謹慎な
云い方かもしれませんが、被害が甚大なほど出版される点数が多いとも云えます。世の中のインパクトが出版数に反映しています」と矢野さんは話す。
 防災専門図書館の蔵書数は、東日本大震災関連で約4000冊、福島原発関連で約1230冊だという。
 
25_great east japan earthquake2
★事務室の東日本大震災の棚
 
 以前に比べると、一般人の災害体験談が出版されることが増えているというのも興味深い。個人でも本が出しやすくなったからだろうか。
 また、大災害が発生すると、被災地の新聞を購読して記事を集める。今年1月の能登半島
地震から半年間、「北國新聞」などを購読した。それ以降は、報告書が発行されるので、
そちらで対応できるという。

「いま悩ましいのは、ボーン・デジタルの問題です」と矢野さんは話す。自治体などによる
報告書が紙版を刊行せず、ネットに掲載されるだけになってきている。ウェブ上の情報は、
掲載サイトまで見に行かないと閲覧できないので、発行情報を知るのも一苦労だという。
その上、簡単に削除されてしまうので、資料を収集・保存する役割を持つ図書館としては、
実に困難な状況になっているという。

災害史と消防車

 それでは、書庫に案内していただこう。
 ドアを開けたところにはカビ対策の粘着マットがあり、そこで靴をぬぐう。
「転倒注意!」の貼紙に、勝手に防災スピリットを感じる。
 
7_notes
★注意書き
 
ハロゲン消火設備があり、除湿器や空気清浄機も備えられている。
電動書架には、先の分類が表示されている。
 
8_classification
★書架の分類
 
「災害一般」では、災害に関する年鑑や紀要、叢書、全集などが並ぶ。
「地域防災計画」も各市町村のものが揃っている。
 その中の「災害論」には、『天災地変に関する調査』上下(東京府学務部社会課)が
見つかった。「社会調査資料」の一冊で、1938年(昭和13)に刊行されている。
 
9_survey on natural disasters
★『天災地変に関する調査』
 
 また、全国の災害史や、災害編を含む自治体史も並ぶ。その中に
『埼玉県の近世災害碑』という興味深い冊子も見つかる。
 
10_disaster history
★全国の災害史
 
11_momorial monument in saitama
★『埼玉県の近世災害碑』
 
 資料によっては、ページ数の少ない冊子や一枚モノもある。
それらは別置記号を付して、ファイルボックスに入れる。また、
地図や紙芝居などの大型資料は書架の最下段に別置している。
 
12_file boxes
★冊子が並ぶ棚
 
「火災」に移ると、消防の棚で『消防自動車を買う時に読む本』を見つける。
「買う」のは自治体ぐらいだろうが、こんな本が出ているとは知らなかった。
発行元を見ると、イカロス出版で納得。鉄道、バス、飛行機など乗り物に特化した出版社だ。
 
13_fire engines
★『消防自動車を買う時に読む本』
 
 その近くには、『週刊少年チャンピオン』連載の漫画『東京レスキュー』(秋田書店)の
単行本もあった。原作は牛次郎で、東京消防庁などが協力している。こんな漫画があったとは。
「この本は国立国会図書館にもないそうです」と、矢野さんが見せてくれたのが、ジョージ・ウィリアム・エンゼル『日本の消防(Fire Service in Japan)』(日光書院)だ。

 著者は元アメリカ陸軍中佐で、進駐軍として日本に赴任し、消防法の制定に関わったという。那之津マイク「斯界の稀覯本『日本の消防』」(『近代消防』2022年5月号)によれば、「筆者が知る限り、2冊しか現存していない。先年、国会図書館も調べたが、所蔵して
いなかった」とある。
 
14_fire service in japan
★『日本の消防』
 

地震学者の思い

防災専門図書館の分類ラベルは緑色だが、「地震」の棚には、紫色のものが目に付く。
この色の図書は、「中林文庫」に属するものだ。
「中林文庫」とは、工学博士の中林一樹さんが2019年に寄贈された地震関連やまちづくりに関する図書約1300冊を指す。

同館のYouTube(https://city-net.or.jp/3175/)から、中林さんが防災研究について語る動画が観られる。それによれば、中林さんは大学助手だった1976年、教授に同行して鎮火直後の酒田大火を調査したことがきっかけで防災を研究するようになり、阪神・淡路大震災やトルコ、台湾の地震の調査を行なった。
動画からは「防災を学ばずにまちづくりをするのはあり得ない」という強い思いが伝わってきた。
中林さんが集めた資料は、防災専門図書館の利用者に役立つものが多いという。
 
15_nakabayashi library
★中林文庫を含む地震関連の棚
 
 別の棚には、『震災予防調査会報告』もある。全100巻を所蔵する
機関が少ないなか、防災専門図書館はほぼ揃えており、関東大震災に
関する部分はデジタル化して公開している。
https://city-net.or.jp/earthquake/dai100gou/index.html
 
16_resarch report
★『震災予防調査会報告』
 
 また、『今村博士地震学講義用図表』は、地震防災の先駆者と呼ばれる地震学者の
今村明恒の講義の資料だ。
 
17_Dr.imamura
★『今村博士地震学講義用図表』
 
 1924年(大正13)発行の『神奈川県水産会報』第4号は「震災号」と銘打ち、
関東大震災の被害状況を伝えている。
 
18_fisheries newsletter
★『神奈川県水産会報』
 
「これらの中には、古書店で購入されたものもあります。いまみたいにネットが
発達していない時代に先輩たちはよく集めたなあと感心します」と、矢野さんは云う。

次に「公害」の棚へ。ここでは、大気汚染、ゴミ、騒音、伝染病、原子力発電所、
地球温暖化などの資料が並ぶ。
四大公害病と呼ばれる、水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそくについては、さまざまな報告書や裁判の記録も揃っている。
 
19_the four major pollutions
★四大公害病関連の棚
 
「この資料の重要性は利用者が教えてくださったんです」と矢野さんが見せてくれたのが、1968年9月に厚生省が出した「水俣病に関する見解と今後の措置」という文書だ。
 国はこの文書により、水俣病は新日本窒素水俣工場で生成されたメチル水銀化合物が
原因だと認めた。この資料は2016年に国立歴史博物館で開催された「『1968年』無数の
問いの噴出の時代」展で展示された。
 
20_mhw document
★厚生省の文書
 
「戦災」についても、各地の戦災史から防空、焼夷弾、引き揚げ、疎開、原爆、
戦後処理などの資料が並ぶ。市民の手記も多くあり、先の目録の序文のとおり、
これが「国家的規模による忌わしい人為災害」であるという思いを深くする。
 
21_war-related
★戦争関連の棚
 
 最後に矢野さんは、キャビネットを開いて見せてくれた。
 その中には、江戸時代から明治にかけて発行された約90点の
「かわら版」が収められている。
 
22_cabinet
★かわら版を収めるキャビネット
 
「火災、風水害、地震に関するものです。1854年(嘉永7)の安政東海・
安政南海地震、1855年(安政2)の安政江戸地震に関するものも多いです」と、矢野さん。
 これらのかわら版はデジタル化し、同館のサイトで公開している。
https://city-net.or.jp/htmls/index.html

 1854年の『諸国大地震大津波末代噺』は双六の形式で地震と津波の被害を描いている。
この図は10月30日から開始の企画展「南海トラフが動くとき~安政東海・南海地震から
170年」で展示される予定だ。
 
23_earthquake and tsunami
★『諸国大地震大津波末代噺』(データ提供:防災専門図書館)
https://city-net.or.jp/htmls/pages/390_05.html
 
 
 また、鳥観図の大家と呼ばれた吉田初三郎の『関東震災全地域鳥瞰図絵』も所蔵する。
関東大震災の翌年に新聞の付録として出されたもので、今村明恒が監修していることもあり、かなり正確なのだという。現在開催中の企画展でも、この図を拡大して掲示していた。
 
24_bird's-eye view

https://city-net.or.jp/earthquake/pages/kantou_choukanzu/kantou_choukanzu_001.html
★『関東震災全地域鳥瞰図絵』(データ提供:防災専門図書館)
 

災害情報を共有する

 ここまで見てきたとおり、防災専門図書館の蔵書は、独自の分類に基づき、丹念に
集められたものだ。
 他の館に所蔵されていない資料も多いが、それ以上に、ひとつの項目についての資料の
集めかたが徹底しているのが凄い。
 その徹底ぶりは、現在の館員にも受け継がれている。

「広報元年」以降、矢野さんと堀田さんは二人三脚で、同館を「敷居の低い図書館」に
するための努力を続けてきた。それは「防災・災害を身近に感じてほしい」という思いが
あるからだ。
 「Let’s防災!いろはかるた」をサイトで公開したり、しおりにしてイベントなどで
配布したりするのもその一つだ。
https://city-net.or.jp/wp-content/uploads/2024/08/ea398097fd9a05665c983b12553384d4.pdf
「来館した方には何か情報を持ち帰ってほしいんです」と、矢野さんは語る。

 また、堀田さんは、東日本大震災のアーカイブ機関の連携を呼びかけ、その成果を図書館
総合展で発表している。
「災害に関する情報は玉石混交です。信頼できる機関が情報を蓄積し、それがネットワーク化されることで、必要な情報にいち早くたどり着けるようにしたい」と堀田さんは語る。
 天災は必ずやって来る。その日のために防災専門図書館は更新を続けている。
 ここは未来のためにある図書館なのである。
 
 
防災専門図書館
 東京都千代田区平河町2-4-1 日本都市センター会館8階
 lib.bousai@city-net.or.jp
 https://city-net.or.jp/products/library/
 https://twitter.com/bousai_library
 開館日:平日9時~17時(休館:土・日・祝・年末年始)
 蔵書検索:https://www.libblabo.jp/bousai/home32.stm



南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

X(旧Twitter)
https://twitter.com/kawasusu

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2024年9月10日号 第402号

■■■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■
 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
       古書市&古本まつり 第140号
      。.☆.:* 通巻402・9月10日号 *:.☆. 。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━【懐かしき古書店主たちの談話】━━━━━━━━━

懐かしき古書店主たちの談話 第8回
                    日本古書通信社 樽見博

『日本古書通信』の魅力は後半の古書目録欄にあると、ずっと言われてきた。
編集者としては前半の記事に神経も労力も使っているわけで、八木福次郎は
よく「目録で売れていると言われるのは編集者として恥なんだ」と言っていた。

長い読者で執筆者でもあった辞書研究家で収集家の惣郷正明さんが「古書
通信編集部の人数は少ないけれど、裏に大勢の人々がかかわって出来て
いるんだよ」と話してくださったことがある。大勢の人々とは古書目録を
作り掲載料を払ってくれる古書店のことを指している。その通りだったと思う。
 
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=16134

 
 
※次回は10月号に掲載します
 
 
━━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見28】━━━━━━━━━━

防災専門図書館 過去の災害を未来の防災につなげる
                           南陀楼綾繁

 天災は忘れた頃にやって来る。
 毎年8月末からの防災週間が近づくと、いろんなところで目にする言葉だ。
昨年は関東大震災から100年目であることから、例年より見る機会が多かった。

 寺田寅彦の言葉として伝えられており、高知市の寺田の旧宅(現在は寺田
寅彦記念館になっている)前には、「天災は忘れられたる頃来る」と刻まれた
石碑がある。
 たしかに寺田は「津浪と人間」「天災と国防」などで、天災に対する人間の
忘れっぽさを警告しているが、この表現通りの文章は書いていない。
 
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=16423
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)
 
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。
 
 
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━━━━━━━━━【書庫拝見 書籍化のお知らせ】━━━━━━━━━

毎月10日配信号で好評連載中・南陀楼綾繁氏「シリーズ書庫拝見」が
本になります!『書庫をあるく アーカイブのかくれた魅力』(仮)は
今秋刊行予定です。乞うご期待!
 
『書庫をあるく アーカイブのかくれた魅力』(仮)
南陀楼綾繁 著/皓星社 刊/価格未定
 
 
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━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。
 
「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964
 
 

━━━━━【9月10日~10月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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ハンズ町田・古本市

期間:2024/08/22~2024/09/12
場所:町田東急ツインズ・イースト館7Fイベントスペース
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm
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TOKYO BOOK PARK 立川

期間:2024/09/03~2024/09/29
場所:PAPER WALL エキュート立川店(3階)
URL:https://x.com/TOKYOBOOKPARK
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第111回 彩の国所沢古本まつり(埼玉県)

期間:2024/09/04~2024/09/10
場所:くすのきホール 西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場
URL:https://tokorozawahuruhon.com/
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フジサワ古書フェア

期間:2024/09/05~2024/10/02
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm
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第52回 古本浪漫洲 Part.5(300円均一)

期間:2024/09/10~2024/09/12
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場
URL:https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/
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せいせきの古本市

期間:2024/09/11~2024/09/23
場所:京王百貨店 聖蹟桜ヶ丘店 7階催場
URL:https://x.com/tokyobookpark
------------------------------
イービーンズ古本まつり

期間:2024/09/13~2024/10/20
場所:イービーンズ 9F杜のイベントホール
URL:https://www.e-beans.jp/event/event-13822/
------------------------------
♭立川フロム古書市ご案内♭

期間:2024/09/13~2024/09/24
場所:フロム中武3階バッシュルーム・北階段際(ビッグカメラ隣)
URL:https://mineruba.bookmarks.jp/saiji.htm
------------------------------
書窓展(マド展)

期間:2024/09/13~2024/09/14
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=571
------------------------------
好書会

期間:2024/09/14~2024/09/15
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=620
------------------------------
秋の古本掘り出し市

期間:2024/09/18~2024/09/23
場所:岡山シンフォニービル1F  自由空間ガレリア
------------------------------
趣味の古書展

期間:2024/09/20~2024/09/21
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.tokyo
------------------------------
杉並書友会

期間:2024/09/21~2024/09/22
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=619
------------------------------
新橋古本まつり

期間:2024/09/23~2024/09/28
場所:新橋駅前SL広場
URL:https://twitter.com/slbookfair
------------------------------
浦和宿古本いち

期間:2024/09/26~2024/09/29
場所:さくら草通り(JR浦和駅西口 徒歩5分 マツモトキヨシ前)
URL:https://twitter.com/urawajuku
------------------------------
中央線古書展

期間:2024/09/28~2024/09/29
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=574
------------------------------
西部古書展書心会

期間:2024/10/04~2024/10/06
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9  
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=563
------------------------------
和洋会古書展

期間:2024/10/04~2024/10/05
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=562
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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2024/10/10~2024/10/13
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9  
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=843
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第31回八王子古本まつり

期間:2024/10/10~2024/10/14
場所:会場:JR八王子駅北口ユーロード特設テント
URL:https://www.facebook.com/hachiojifuruhon/?locale=ja_JP
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第24回 四天王寺秋の大古本祭り

期間:2024/10/11~2024/10/16
場所:大阪 四天王寺 大阪市天王寺区四天王寺1-11-18
URL:https://kankoken.main.jp/
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ぐろりや会

期間:2024/10/11~2024/10/12
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 
URL:http://www.gloriakai.jp/
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BOOK DAY とやま駅

期間:2024/10/12
場所:富山駅南北自由通路(あいの風とやま鉄道中央口改札前)
URL:https://bookdaytoyama.net/
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第2回 くりこま古本市

期間:2024/10/12~2024/10/20
場所:みちのく風土館 1階ラウンジ 
   宮城県栗原市栗駒岩ヶ崎上町裏12-1
URL:https://www.kosho.or.jp/event/detail.php?mode=detail&event_id=5353
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第13回 小倉駅ナカ本の市

期間:2024/10/12~2024/10/27
場所:小倉駅ビル内・JAM広場 (JR小倉駅 3階 改札前)
URL:https://twitter.com/zCnICZeIhI67GSi
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港北古書フェア

期間:2024/10/15~2024/10/27
場所:有隣堂センター南駅店店頭ワゴン販売 最寄駅:横浜市営地下鉄 センター南駅
市営地下鉄センター南駅の改札を出て直進1分※駅構内
URL:http://www.yurindo.co.jp/store/center/
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日本の古本屋メールマガジンその402 2024.9.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋」事業部
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  https://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部・編集長:藤原栄志郎

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懐かしき古書店主たちの談話 第8回

懐かしき古書店主たちの談話 第8回

日本古書通信社 樽見博

『日本古書通信』の魅力は後半の古書目録欄にあると、ずっと言われてきた。編集者としては前半の記事に神経も労力も使っているわけで、八木福次郎はよく「目録で売れていると言われるのは編集者として恥なんだ」と言っていた。長い読者で執筆者でもあった辞書研究家で収集家の惣郷正明さんが「古書通信編集部の人数は少ないけれど、裏に大勢の人々がかかわって
出来ているんだよ」と話してくださったことがある。大勢の人々とは古書目録を作り掲載料を払ってくれる古書店のことを指している。その通りだったと思う。

 仕事に慣れてきた三十代になって、雑誌は季節の美味しい様々な料理を盛る器。だから
大きくて深みもある大皿が良い雑誌で、盛り付けをするのが編集者の仕事だろうと思うようになった。しかしそんな悠長なことを考えていたのは、目録掲載希望者が多かった時代である。
掲載軒数が四十店から三十店、二十店と徐々に減り、十店を割り現在のように三、四店と
なっては、必死に記事の充実を図るしかないが、広告料が入らない以上、編集にお金が使えない。殆ど原稿料なし僅かな謝礼のみで執筆をお願いするのは辛いのだが、それでも喜んで
書いて下さる方が多いのは本当に有難いことで、それがもう十年以上も続いている。

 編集の仕事の外に、読者やその関係者からの依頼で蔵書処分の仕事も続けてきた。蔵書が
膨大であれば、若い古本屋さんたちの力を借りることになる。先日もエレベーター無しの公団住宅五階から七千冊以上の蔵書を処分する依頼があり、二日間で十人分のお手伝いをお願いした。彼らのスムーズで無駄のない仕事ぶりに感心すると共に、実に楽しそうに作業されているのが印象的であった。膨大な古書の山に対すると自然にファイトが湧いてくる、それが古本屋の性なのだろう。

 今回も前書きが長くなったが、平成二(一九九〇)年に「往信・返信」と題して親しい間柄の古本屋さんの往復書簡を連載したことがある。大阪の浪速書林 梶原正弘さんと札幌・
弘南堂書店 高木庄治さん、本郷の森井書店 森井健一さんと福岡・葦書房 宮徹男さん、京都・キクオ書店 前田司さんと神田・八木書店 八木壮一、旭川・尚古堂 金坂吉晃さんと横浜・
一艸堂石田書店 石田友三さん、練馬・石神井書林 内堀弘さんと神戸・黒木書店 黒木正男さん、神田・吾八書房 今村秀太郎さんと大阪・リーチ書店 廣岡利一さん、東京・安土堂書店
八木正自さんと英国・Cフランクリン書店 コリン・フランクリンさん、神田・玉英堂書店
斎藤孝夫さんと熊本・舒文堂河島書店 河島一夫さんの九回である。

 中で玉英堂の斎藤孝夫さんが次のように語っているのが注目される。
「このごろ少し壁にぶつかっています。一生懸命働いて、売買の取引高が次第に大きくなってきて、果たして自分に残るものは何なのか。今度の決算で信じられない程の税金を払いました。まるで自分と店の人の給料と、そして税金のために苦労して働いているような気がしました。税金を払うつもりで宣伝費をもっと掛けようか・・・などと真剣に考えています。

せっかく古典籍の重要性・価値を知り、魅力を感じ始めたのですから、世界に誇りうるこの
貴重な文化財をもっともっと世間の方々に知って貰うことが、これからの私たちの重要な使命だと思います。(略)商売として古書業界は、大きく発展する業界とは思えませんが、好きな書物を扱って生活できるのですから、素晴らしい仕事に恵まれた僕らは、幸せなのかもしれませんね」

 同じことを直接私に話されたこともあった。古本屋としての実力はもちろん、本当に正直で真っすぐな方であった。この連載で取り上げた中野書店 中野智之さんと孝夫さん二人の早世は残念極まりないことであった(平成26年没71歳)。

 往復書簡の中でも異彩は尚古堂金坂さんと、一艸堂の石田さんである。二人とも一際個性的で業界ではいわば土地のボス的な存在、文学的なところも共通していた。

 尚古堂さんは「日本古書通信」目録欄の常連で、送られてくる原稿の文字は豪快で踊るような達筆、時々判読できない文字があり電話で確かめたこともある。しばらくして金坂さんが
宮柊二に師事する歌人であると知った。往復書簡で意外なことを書いている。

「去る二月十七日夕方六時からの通夜に出かけるために、その日の朝の便で旭川空港を飛び
立ちました。翌日は葬儀。東京中野にお住いの平沢さんでした。中央線沿線の組合の方々は、彼のことを米さん、米さんという愛称でよんで、その実直な人柄を愛し親しんで、通夜や葬儀の折も彼の生前の人徳をたたえては悲しんでおられました。平沢さん行年六十五歳。

信州の田舎から上京し、街の片隅に古書を商いながら誠実に生きてきた、名もない一庶民の
生涯の最後に、私はどうしても参列したかった。いいしれぬおもいを胸にいだきながら野辺の送りをしてきました。同業の方々、何人かは翌十九日の中央市会に当然出席するものと
おもっておられただろうが、私は失礼致しました。ずっとホテルの一室にこもって彼のことをおもっていたかったからでございます」

 平沢書店さんと金坂さんがどんな関係であったかは分からないが、古本屋としての生き方に共通するものがあったのだろう。平沢さんは店を持たず、セドリと即売会を主としていた。
当時の組合員名簿を見たら、取扱いは民俗資料とある。他の往復書簡に頻出する反町茂雄さんなどの話題に金坂さんとしては違和感があったに違いない。平沢さんを私は直接知らないが
古書会館即売会の人気店の御一人だったと思う。裏見返しに「平沢書店」のラベルが貼られた本が、私の書棚にも何冊かはあるはずである。

 一九九五年終戦五十年を機に「古本屋の戦後」という連載を企画した。金坂さんにはその
六回目にご寄稿頂いた。その回想によれば、昭和三十年末、東京での生活に尾羽うち枯らして奥様の故郷・北海道岩見沢に移住、偶然目に入った某生命保険の外務員募集に応じて炭鉱を
中心に見事な成績を上げる。やがて幹部への期待がかかったところで、内勤サラリーマンに
なるのを避けて滝川市で古本屋を始める。

やがて旭川に移るが、その間にも人脈を広げ市立図書館建設や、国学院北海道短大の誘致
設立、さまざまな文化グールプの創設運営にも係り、いわば土地の名士になっていく様子が
さらっと書かれている。北海道古書籍組合連合会の設立にも尽力、この年の大市会を旭川で
開催している。
想像するに金坂さんは天性のオルガナイザーであり、東京で尾羽うち枯らした活動も、その
卓越した才と無関係ではないような気がする。平沢書店さんとの関係もその頃からのものだろうか、古本屋を選んだのも平沢さんの影響だったのではないだろうか。

 今手元に金坂さんの第一歌集『晨』がある。昭和五十三年十一月の刊行。私の入社は昭和
五十四年一月だったから、その直前である。昭和五十八年に『凍』、平成元年に『昏』を出されている。『凍』(確か「しばれ」と読む)発行の折だったかその前に来社され、これから
宮柊二先生の所に行く。先生はそんなに急いで歌集を出すべきでないとおっしゃられるのだが、無理にお願いするのだ、と話された記憶がある。『晨』にも宮柊二を詠んだ作品が多い。

古本屋とはよろしきものならむ柊二の原稿を市にて購へり
白秋の本の扉に宮柊二書かれしはこれわすれな草の歌
売りに来し古書に柊二の歌集あり祖父が読みしと少年答ふ

他の歌集に、ある日店に来て書棚を眺める宮柊二の幻影をみたというような作品もあった。

雑本の類なれども売り払ふ人のさびしさ購ひつつ思ふ
雪まみれになり来し学生の欲りし本値切られながら我は微笑む
なども金坂さんの古本屋としての生き方が感じられる作品である。

 金坂さんは地元を愛し、街の古本屋であり続けることに矜持を持っていたのだろう。
連載「往信・返信」の金坂さんの相手は、横浜の一艸堂石田書店の石田友三さんである。
この連載ではそれぞれのお顔の写真を掲載したが(前田さんと八木の回のみ青空ふるほん
まつり風景)、二人は共に髯を蓄えられている。

その石田さんを著名な古本屋にしたのは、昭和五十七年に刊行された『街の古本屋入門』
(コルベ出版)である。石田ではなく「志田三郎」名義。この本の広告を石田さんから依頼
されたが、名前を混同して誤植してしまい、𠮟責の電話を頂いた。私の応対に「樽見さん、
これは正式な抗議です」と強く注意されてしまったことを覚えている。
 
 
8
 
 
石田さんが伊勢佐木町のビルに店を移されたのは何時だったか、神奈川県の古書組合長を
務められていた頃だったろうか。オープンして間もなく伺った。店内に大きめのテーブルが
ありお客との対話を大切にしたいからと話された。

往復書簡に「私が古本屋になるときに自分で決めた原則の一つに、愛蔵される書物よりも読む本をということがありました。つまり単価的にいうなら天井知らずの正反対、貧しい古本屋を自ら決定づけたようなものです。しかし私は、その原則を変更する必要をいまでも認めません。(略)そのせいでか、活字復権なる標語を掲げた横浜中心部における営業は、漫画も雑誌も追放してやってみたが見事失敗、現在の店はいわば都落ちの結果となりました。それでも
原則の変更はありません」とある。

『街の古本屋入門』を読んで古本屋になった人は少なく無い。光文社文庫をはじめ何度も形を変えて広く読まれ続けた。現在ではネット販売が大きな比重を占めるようになって、余程立地が良くない限り街の古本屋は立ち行かない。良い本さえ揃えればお客はどんな不便な所でも
来てくれると考えていた古本屋は多かったし事実そうだった。ネット社会がそれを変えたともいえるが、ネットで美味しいと評判になれば、驚くような山の中のレストランやカフェにも人々は押しかける。ただ古本屋には毎日毎週通い続けてくれる常連客が必要であり、評判の
カフェのようなわけには行かない点があるように思う。

『街の古本屋入門』を改めて読み直すと、実に懇切丁寧な解説で、随所に石田さんの読書家の片鱗が伺える。読書家石田の成果は一九九五年刊行の『ヨコ社会の理論―暮らしの思想とは
何か』(影書房)に結実する。この本の出版記念会が確か新宿曙町で開かれ出席した。

直接お会いしたのはこの時が最後かもしれない。ただ石田さんの個人誌『一石通信』は
ずっと送って頂いていたし、拙著『戦争俳句と俳人たち』(二〇一四・トランスビュー)が
出て朝日新聞の書評欄で取り上げられたのを読まれ、祝いのお電話を頂き「手元に日野草城の短冊があるから贈るよ」と言われた。

「玉菊の衰ふること忘れしや」

 この短冊は額に入れて私の部屋に飾っている。
 金坂、石田のお二人は、共に豪快にして細心、時に厳しい面を見せるが、優しい方で
あった。
 
 

(「全古書連ニュース」2024年7月10日 第501号より転載)

※次回は10月号に掲載します

日本古書通信社
https://www.kosho.co.jp/kotsu/

Copyright (c) 2024 東京都古書籍商業協同組合

2024年8月24日号 第401号

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☆INDEX☆
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1.宮沢賢治と映画館の音楽
                          柴田康太郎

2.『教職実践演習-幼稚園教諭・保育士・保育教諭を目指すために-』
            古川寿子(聖徳大学幼児教育専門学校教授)

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
━━━━━━━━━【自著を語る(331)】━━━━━━━━━━━

宮沢賢治と映画館の音楽
(『映画館に鳴り響いた音 戦前東京の映画館と音文化の近代』)

                          柴田康太郎

〇『セロ弾きのゴーシュ』の映画館
 宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』の主人公ゴーシュは、「町の活動
写真館でセロを弾く係り」である。しかし、ゴーシュが「活動写真館」で
はたらく様子は描かれていない。

『セロ弾きのゴーシュ』を読み直したとき、私はこの物語が「活動写真館」の
様子が少しも描かれないことに戸惑ってしまった。拙著『映画館に鳴り
響いた音』を準備しながら映画館の音の歴史を調べていたので、肩透かしを
くらったような具合だった。
 
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=15788
 
 
映画館に鳴り響いた音 戦前東京の映画館と音文化の近代
柴田康太郎 著
春秋社 刊
9,680円(税込)
ISBN:9784393930496
 
好評発売中!
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393930496.html
 
 

━━━━━━━【大学出版へのいざない21】━━━━━━━━━

『教職実践演習-幼稚園教諭・保育士・保育教諭を目指すために-』
              古川寿子(聖徳大学幼児教育専門学校教授)

 教職実践演習が平成22年度入学生から新設され、4年次秋学期の必修
科目として位置付けられた。

学生が入学から教職課程の学習と様々な学びで身に付けた力を結び付け、
保育者として必要な資質・能力が身についたかを、養成機関の教員像や
到達目標に照らして最終的に確認するものであり、学生が、今まで学んで
きたことを確認したり補完したりしていかれるように、保育者として確認
しておくべき内容を収めた教科書であり、全学年を通じた「学びの軌跡の
集大成」として位置付けられるものである。
 
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=15774
 
 
教職実践演習-幼稚園教諭・保育士・保育教諭を目指すために-
塩 美佐枝・古川 寿子・河合 優子・重安 智子・関口 明子・井口 厚子 著
聖徳大学出版会 刊
1,760円(税込)
ISBN:978-4-915967-57-3

好評発売中!
https://www.seitoku.jp/daigaku/shuppannkai/index2_01.htm
 
 

━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。
 
「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━━━

トークライブ『紙の本と、出版の未来』
企画・主催・司会進行:SPF syndicate ベアナガタ(永田勝徳)

トークライブ予約(会場観覧/ライブ配信視聴)受付中!
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/287251

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「大学出版へのいざない」シリーズ 第22回

書名:平和国家の戦争論ー今こそクラウゼヴィッツ『戦争論』を読むー
著者名:植村秀樹(流通経済大学法学部教授)
出版社名:流通経済大学出版会
判型/製本形式/ページ数:A5判/上製/360頁
税込価格:4,400円
ISBNコード:978-4-911205-01-3
Cコード:3031

好評発売中!
https://www.rku.ac.jp/about/data/organizations/publication/

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━━
8月~9月の即売展情報

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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全古書連は全国古書籍商組合連合会(約2,000店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジン その401・8月24日

【発行】
東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋」事業部
東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
URL  https://www.kosho.or.jp/

【発行者】
広報部・編集長:藤原栄志郎

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20240825_cover_kindergarden

『教職実践演習
-幼稚園教諭・保育士・保育教諭を目指すために-』
【大学出版へのいざない21】

『教職実践演習-幼稚園教諭・保育士・保育教諭を目指すために-』

古川寿子(聖徳大学幼児教育専門学校教授)

 教職実践演習が平成22年度入学生から新設され、4年次秋学期の必修科目として
位置付けられた。

学生が入学から教職課程の学習と様々な学びで身に付けた力を結び付け、保育者として必要な資質・能力が身についたかを、養成機関の教員像や到達目標に照らして最終的に確認するものであり、学生が、今まで学んできたことを確認したり補完したりしていかれるように、保育者として確認しておくべき内容を収めた教科書であり、全学年を通じた「学びの軌跡の集大成」として位置付けられるものである。
 
 2019(令和元年)年に第1版を発行し、5年が経過した。幼稚園教育要領等の改変があり、
それに伴って法令も新しく変わったり、表・グラフ等を最新のものに変えたりする必要が出てきたため、時代に合った教科書にしたいと考え、この機に、最新の情報等を載せて実際に役立つものにし、学生が、自信をもって保育に携われるようにしたいと考え改訂を行った。
 
 はじめに、幼稚園の役割と教師の使命を5つのカテゴリーに分け、自分の力量を「聖徳大学幼稚園教職課程 履修カルテ」を載せて、必要な資質・能力について自己評価ができようにした。
 次に、改訂が行なわれた幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領等を理解するため、それぞれの目的や教育・保育の基本について解説を試みている。
 
 さらに、実践に必要な、教育課程・指導計画・評価についてまとめた。平成30年の改訂で「社会に開かれた教育課程」の実施を目指している。それを受け、全体的な計画や家庭や地域と共有するグランドデザインやコミュニティ・スクールを新たに加え、学生が最新の情報が得られるようにした。また、実践に於いて重要な指導計画の作成の手順や3歳未満児の指導計画や3歳児以上の教育課程・指導計画の例を載せた。今後、授業や保育現場で実際に指導計画を書く時の参考になるようにしている。
 
 特に、子どもの健康や安全を図ることは教育・保育の目標である。そこで、安全教育と安全管理について、安全計画例や災害時の対処や体制の例、チェックリスト等を挙げている。
また、リスク・マネジメントや乳幼児の怪我や事故の実態を最新のものに書き換えた。
さらに、感染症の対策についても書き加えている。さらに、実践に役立つようにした。
 
 また、現代の教育課題について、新たに「虐待防止」を加え、「いじめ」「食育」「幼児期運動指針の理解と幼児期の運動指導」の4項目を取りあげた。将来保育に携わる学生は、現代の教育課題について理解し、保育をする中でしっかりと対応できる力が求められる。実践に生かし、将来を担う子どもに「生きる力」を育てる実践が行えるようにしてほしいと考えている。
 
 また、特別支援教育についても、合理的配慮を新たに書き加えた。さらに海外から帰国した幼児や日本語の習得に困難のある幼児の指導について書かれている。実践の場で、特別に支援の必要な幼児への対応について考えられるようにしている。
 
 要領・指針の今回の改定では、小学校教育との円滑な接続を図ることを大切にしている。
幼保小の連携について、「架け橋プログラム」の実践事例を掲載して、連携について学生が
参考にできるようにした。また、幼児指導要録についての役割や記入方法についても書いている。
 
 最後に、家庭・地域の連携である。保護者から相談してきたときの事例を載せ、学生がどのように保護者と関わり信頼関係を築いたらよいかを考えるようにした。また、家庭・地域と
より良い関係を育むにはどうしたらよいかを載せている。
 
 以上のように、保育を目指す学生にとって必要な資質・能力を身に付けられるような内容を載せている。この教科書を学ぶことで、各自が不足している知識や技能等を自覚し、補い、
自信をもって保育に携われることを願っている。

 
 
 
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教職実践演習-幼稚園教諭・保育士・保育教諭を目指すために-
塩 美佐枝・古川 寿子・河合 優子・重安 智子・関口 明子・井口 厚子 著
聖徳大学出版会 刊
1,760円(税込)
ISBN:978-4-915967-57-3
 
好評発売中!
https://www.seitoku.jp/daigaku/shuppannkai/index2_01.htm
 

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宮沢賢治と映画館の音楽
『映画館に鳴り響いた音 戦前東京の映画館と音文化の近代』

宮沢賢治と映画館の音楽
(『映画館に鳴り響いた音 戦前東京の映画館と音文化の近代』)

柴田康太郎

『セロ弾きのゴーシュ』の映画館

 宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』の主人公ゴーシュは、「町の活動写真館でセロを弾く
係り」である。しかし、ゴーシュが「活動写真館」ではたらく様子は描かれていない。
『セロ弾きのゴーシュ』を読み直したとき、私はこの物語が「活動写真館」の様子が少しも
描かれないことに戸惑ってしまった。拙著『映画館に鳴り響いた音』を準備しながら映画館の音の歴史を調べていたので、肩透かしをくらったような具合だった。

 物語はある日の「ひるすぎ」、ゴーシュら楽団員たちが「町の音楽会へ出す第六交響曲の
練習」をする場面から始まる。最初から映画館ではなく音楽会のための練習について書かれており、そのあとも映画にかかわる仕事をする様子にはふれられていない。しいてあげると
「休んで六時にはかっきりボックスへ入ってくれ給たまえ」という練習終わりの楽長のことばが、映画館の日常をうかがわせるくらいである。この物語が書かれたころの平日の映画館は、夕方から上映を始めることが多かったからだ。

 宮沢賢治の童話作品はたいてい架空の土地を舞台にしており、晩年になるにしたがい主人公の名前も和名ではなくなり、現実の生活を意識させる描写は回避されている。映画館の仕事などという現実をつよく感じさせる労働が描かれていないのは賢治の作品としては当然ともいえる。しかし、この物語はゴーシュが彼の家を訪れる動物たちとの対話をとおしてチェロの腕を上達させるというものだから、あえてゴーシュを映画館の音楽家にする必要はないようにも
感じられる。しかしおそらく、賢治にとってはそれが自然だったということなのだろう。

1928年の神田日活館

 宮沢賢治は1928年6月19日付の詩作品「神田の夜」で神田の町の夜を幻想的に素描して
おり、その最後を「日活館で田中がタクトをふってゐる」と結んでいる。神田の日活館は神田神保町の古書店街にあった映画館だが、ここでも賢治は映画にはふれずに、音楽演奏にだけ
ふれている。当時の神田日活館の新聞広告には、現代劇と時代劇の映画作品のタイトルとともに、総合曲《謎のトランク》という曲の演奏が予告されており、田中豊明という指揮者の名前が記されている。賢治が言及した「田中」である。

 そもそも映画館になぜ音楽家がいるのだろうか。映画は1890年代に発明されてから1920年代後半まで音をもたなかった。しかし、世界各地で上映された「サイレント映画」も無音で
上映されたわけではない。映画は世界各地で伴奏音楽の生演奏とともに上映されており、日本ではさらに弁士と呼ばれる語り手の声もともなっていた。映画館に音楽家がいたのは、サイレント映画の伴奏音楽にとって必要不可欠だったからである。1924年の神田日活館の写真を見ると、内装のモダンなデザインに驚かされるが、スクリーンの左には弁士用の演台、手前にはオーケストラ・ボックスがある。賢治はこの映画館で演奏をする田中の姿を目にしていたのだろう。
 
〇神田日活館(『建築写真類聚』1924, 6)
20240825_kandanikkatsu
 
 
 サイレント時代の映画館には、自前の楽団に映画の伴奏音楽を生演奏させるだけでなく、
日常的に映画上映の合間に余興演奏を行なわせるものがあった。ある世代の者たちの回想には映画館で音楽を聴いて育ったという複数の発言があるくらい、映画館には音楽会場としての
側面があったようだ。銀座にあった金春館の観客のひとりは、あまりに音楽が好きなので映画そっちのけで音楽を聴いてしまう者、新宿の武蔵野館に通った観客のなかには、映画の上映中に気になった曲が流れると席を立って曲名を確かめに行っていたと回想している者もいる。

映画館は映画を観る場所であるが、100年ほど前の古い資料から映画館で音楽を楽しんでいるひとが多くいたことにおどろかされる。「神田の夜」で賢治が映画館にふれながら映画ではなく音楽だけにふれているのも、映画館の音楽が関心を集めた時代の反映といえるかもしれない。

映画館の音楽と宮沢賢治

サイレント映画の時代、日本各地の映画館には小さなオーケストラがあり、映画館の楽団には、ゴーシュのように上手いとはいえない音楽家が少なからずいるものだった。賢治が
ゴーシュを「町の活動写真館でセロを弾く係り」にしたことは、賢治にとっても読み手に
とっても、最も身近に感じられる音楽家だったのだろう。

 しかし、賢治がゴーシュを日本の現実の延長にゴーシュを位置づけていたわけではない。『セロ弾きのゴーシュ』は賢治の1933年に亡くなったあと発表されたため執筆年代が定かではないが、日本では1930年代前半までサイレント映画の時代がつづいており、この作品が
サイレント映画時代に書かれたことは確かである。だが「活動写真館」という言葉は、すこし古い言葉である。映画はもともと「活動写真」と呼ばれていたが、1920年代前半には次第に「映画」という語が一般化していた。賢治は映画館を「活動写真館」と呼ぶことで、物語を「現在」から遠ざけ、いつともいえぬ時代にしているように感じられる。

 また、当時の映画館に響いたのは西洋の音楽だけではなかった。1928年に賢治が訪れた
神田日活館は日本映画の上映館であり、時代劇も上映されていた。この時期の時代劇には
和洋合奏」と呼ばれる三味線と西洋楽器の和洋折衷アンサンブルで長唄などの日本音楽の楽曲が演奏されていた。神田日活館を訪れた賢治も現代劇で西洋の音楽を耳にするとともに、
時代劇では和洋合奏を耳にしていたはずだ。

 『セロ弾きのゴーシュ』と「神田の夜」には一文しか映画館のことが書かれていない。
しかしその時代背景をさぐっていくと、現在とは異なる映画館や音楽文化の姿が見えてくる。そしてそのような時代をふまえて読み直してみると、たった一文の記述からも、賢治がどのような時代を生き、どのように物語を創作したかが浮かび上がってくるのである。
 
 
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映画館に鳴り響いた音 戦前東京の映画館と音文化の近代
柴田康太郎 著
春秋社 刊
9,680円(税込)
ISBN:9784393930496

好評発売中!
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393930496.html

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2024年8月8日号 第400号

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       古書市&古本まつり 第139号
。.☆.:* 通巻400・8月8日号 *:.☆. 。
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━━━━━━━━━【調べる古本⑥ 最終回】━━━━━━━━━

調べる古本⑥ 最終回

古本とデジタルの融合あるいはエフェメラ論
書物蔵

魂の双子が書いた『もっと調べる技術』(皓星社、先月出たばかり)でも
特筆大書されていたけれど、国会図書館(NDL)がデジタルコレクション
(電子図書館のこと)を2022年末から大規模化・リニューアルして、
ヴァーチャルだけど、みんなの家の隣に帝国図書館が建った。

それで、みんな(?)が古い本をいっしょうけんめい古本で集める欲が
低下したように感じられる。すでに研究書のたぐいの古書価は軒並み下落して
しまっていたけれど、今まで大学図書館や県立図書館でゲットできなかった類の
明治大正昭和の実用書なども、今度のデジコレ大拡大でずいぶん参照できるようになった。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=15794

※当連載は隔月連載です

━━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見 番外編】━━━━━━━━━━

『REKIHAKU』特集「蔵書をヒラク」を読む
南陀楼綾繁

本メルマガで「書庫拝見」を連載しはじめて、2年以上が経つ。図書館や
資料館、文学館などの一般には公開されていない「閉架書庫」に入り、
その本棚に並ぶ貴重な資料やコレクション(文庫)を見せていただく。
そして、その空間を守っている方にお話を聞くというものだ。7月までに
24館を紹介してきた。現在、その前半を単行本にまとめる作業中だ。

そんななか、国立歴史民俗博物館の研究誌『REKIHAKU』の特集が
「蔵書をヒラク」だと知り、すぐに入手した。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=15796

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

X(旧Twitter)
https://twitter.com/kawasusu

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『REKIHAKU 特集・蔵書をヒラク』
国立歴史民俗博物館・工藤航平・箱崎真隆 編
発行:国立歴史民俗博物館
発売:文学通信
価格:1,200円(税込)
ISBN:978-4-86766-055-3

好評発売中!!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-86766-055-3.html

━━━━━━━━━【書庫拝見 書籍化のお知らせ】━━━━━━━━━

毎月10日配信号で好評連載中・南陀楼綾繁氏「シリーズ書庫拝見」が
本になります!『書庫をあるく アーカイブのかくれた魅力』(仮)は
今秋刊行予定です。乞うご期待!

『書庫をあるく アーカイブのかくれた魅力』(仮)
南陀楼綾繁 著/皓星社 刊/価格未定

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━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。

「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964

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「コショなひと」始めました

YouTubeチャンネル「東京古書組合」
https://www.youtube.com/@Nihon-no-Furuhon-ya

今回は更新ありません

━━━━━【8月8日~9月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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丸善博多店古本まつり

期間:2024/08/09~2024/09/08
場所:丸善博多店(JR博多シティ8F)
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フィールズ南柏 古本市

期間:2024/06/19~2024/08/04
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場
(JR南柏駅東口すぐ)
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高円寺200円均一古本フェスタ

期間:2024/08/10
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=1158
------------------------------
第37回 下鴨納涼古本まつり

期間:2024/08/11~2024/08/16
場所:下鴨神社 糺の森にて
URL:https://kyoto-koshoken.com/
------------------------------
川崎古本まつり

期間:2024/08/15~2024/08/21
場所:アゼリア・サンライト広場 JR川崎・京急川崎駅直結
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm
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BOOK DAY とやま駅

期間:2024/08/15
場所:富山駅南北自由通路(あいの風とやま鉄道中央口改札前)
URL:https://bookdaytoyama.net/
------------------------------
第7回 Vintage Book Lab(ヴィンテージ・ブック・ラボ)

期間:2024/08/17~2024/08/18
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=830
------------------------------
阪神夏の古書ノ市

期間:2024/08/21~2024/08/26
場所:阪神梅田本店 8階催事場
大阪市北区梅田1丁目13番13号
URL:https://web.hh-online.jp/hanshin/contents/hsst/hsst05/detail/2024/07/2024_1.html
------------------------------
ハンズ町田・古本市

期間:2024/08/22~2024/09/10
場所:町田東急ツインズ・イースト館7Fイベントスペース
小田急線・JR町田駅徒歩1分
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm
------------------------------
BOOK & A(ブック&エー)

期間:2024/08/22~2024/08/25
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=843
------------------------------
ぐろりや会

期間:2024/08/23~2024/08/24
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:http://www.gloriakai.jp/
------------------------------
第52回 古本浪漫洲 Part.1

期間:2024/08/29~2024/08/31
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/
------------------------------
紙魚之會

期間:2024/08/30~2024/08/31
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=604
------------------------------
杉並書友会

期間:2024/08/31~2024/09/01
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=619
------------------------------
第52回 古本浪漫洲 Part.2

期間:2024/09/01~2024/09/03
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/
------------------------------
第52回 古本浪漫洲 Part.3

期間:2024/09/04~2024/09/06
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/
------------------------------
第111回 彩の国所沢古本まつり

期間:2024/09/04~2024/09/10
場所:くすのきホール
(西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場)
URL:https://tokorozawahuruhon.com/
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フジサワ古書フェア

期間:2024/09/05~2024/10/02
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場
JR・小田急藤沢駅南口フジサワ名店ビル4階
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm
------------------------------
東京愛書会

期間:2024/09/06~2024/09/07
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:http://aisyokai.blog.fc2.com/
------------------------------
第151回 倉庫会 古書即売会

期間:2024/09/06~2024/09/08
場所:名古屋古書会館 2階 名古屋市中区千代田5-1-12
URL:https://hon-ya.net/
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五反田遊古会

期間:2024/09/06~2024/09/07
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=567
------------------------------
高円寺均一まつり

期間:2024/09/07~2024/09/08
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
------------------------------
第52回 古本浪漫洲 Part.4

期間:2024/09/07~2024/09/09
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/
------------------------------
第52回 古本浪漫洲 Part.5(300円均一)

期間:2024/09/10~2024/09/12
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/
------------------------------
書窓展(マド展)

期間:2024/09/13~2024/09/14
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=571
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♭立川フロム古書市ご案内♭

期間:2024/09/13~2024/09/24
場所:フロム中武 3階バッシュルーム(北階段際)
立川駅北口徒歩5分 ビッグカメラ隣
URL:https://mineruba.bookmarks.jp/saiji.htm
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好書会

期間:2024/09/14~2024/09/15
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=620
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調べる古本⑥ 最終回
古本とデジタルの融合あるいはエフェメラ論

調べる古本⑥ 最終回 古本とデジタルの融合あるいはエフェメラ論

書物蔵

 魂の双子が書いた『もっと調べる技術』(皓星社、先月出たばかり)でも特筆大書されていたけれど、国会図書館(NDL)がデジタルコレクション(電子図書館のこと)を2022年末から大規模化・リニューアルして、ヴァーチャルだけど、みんなの家の隣に帝国図書館が建った。
 それで、みんな(?)が古い本をいっしょうけんめい古本で集める欲が低下したように感じられる。すでに研究書のたぐいの古書価は軒並み下落してしまっていたけれど、今まで大学
図書館や県立図書館でゲットできなかった類の明治大正昭和の実用書なども、今度のデジコレ大拡大でずいぶん参照できるようになった。
 
 だから、去年だったか、長崎県に出張した際に、市内に唯一残っている古本屋さんから、
デジコレ拡大で商売あがったりになった、というクレームを聞かされて同情したことがある。実際、わちきみたいに古本しか趣味のない人だと古本屋が少なくなるとさみしいったらありゃしないからねぇ。
 
 でも考えようによってはまだまだ活路はあると思うのだ。NDLデジコレが明らかに手薄な
紙メディアというものもあるし。あそこの広報誌には策士がいたのだろう、「国立国会図書館にない本」なんてな断続連載があって、あるパターンにはまる本っぽいものは納本されないのだと明かしている。

地方小出版、自費出版

 たとえばあそこがいちばん得意にしている本(図書館界でいう「図書」)は、たしかに古本屋さんのメイン商品であるけれど、「国会図書館にない本」なんてザラにある。書かれている「ない理由」には留保をつけたいが、礫川全次『雑学の冒険:国会図書館にない100冊の本』(批評社、2016)という本もあるぐらいだ。
 
 先々週だったか、自分のGoogleアラートを見ていたら、全然おぼえのない著者と本の
タイトルが登録されていた。タイトルはともかく、出版社はちょっと怪しげな……。
 ・平沢一『人と本』(アルマス・バイオコスモス研究所、1999)
 ふとそれで検索すると、アマゾンにだけ1冊出品されていた古本を注文してみた。送られてきた本を見たら、ああ!『書物航游』(中公文庫、1996)の平澤さんかぁ……。書物エッセーの好きならこの中公文庫はみんな知っているよね。あの書物エッセーの続編が地元で出ていたんです。自分はどこかでそれに気づいてGoogleアラートに登録し(そして忘れ)ていたというわけである。改めて調べると、地元金沢の県立図書館と大学図書館にしかないレアもの。
 

限定頒布もの――総会屋名簿

 何年か前、業界紙(紙誌)の歴史を調べようとしたら、総会屋雑誌(取り屋)のこともわからないといけないとわかり、では総会屋のことを調べるには、ということで総会屋さんの主題書誌を作ったことがあった。その後、発見したのは総会屋名簿『㊙名簿』(1976)。
 
どうやら各大企業の総務課に販売されたものが何種類かあったらしい。ネットで担当者だった人にそんな話を聞いたことがある。中を見ると、ふつう(?)の出版社の出版人――たとえばトンデモ竹内文書研究で有名だった林信二郎――も立項されている。項目には人物名、生年月日、経営会社、刊行物タイトルなどが書かれているが、参照形(別名立項)が「といわれている」などと極めて面白い。
 
 マル秘㊙でないものも含め、昭和元禄華やかなりし頃の業界紙誌業界を調べるのに必須の
レファレンス本と言えよう。
 
soukaiya1
 
soukaiya2
 

地図

 古い地図は見ているだけで楽しいし、実は戦前のことを調べている場合には万事につけ、
役に立つ。
 いつの週末古書展だったか、佐藤昌次『最新大東京明細地図 町界・丁目界・番地入 6版』(日本統制地図、1942)を拾ったのでしばらく壁に懸けておいたが、東京市全部が地番入で参照できるので、戦前の話を読む際にはとっさに役に立つ。いま日本の古本屋を見ると、2000円から5000円くらいで買える。
 そういえば、いつも行く高円寺のあたりはどうなっているだろうかと見ると、こんな感じ。
 
seibu1
 
 ちょうど今、ネットで使える地形図DB「今昔マップon the web」が、現在地との
対照する際に便利なので西部古書会館はどこいらへんになるのか試してみるとこんな感じ
 
seibu2
 
 この調子だと、中央線沿線に住んでいた文士たちを訪ねる散歩もできそうね。
ちなみに今も細々と残っている「看板地図」(むかしはブリキ版にかかれていた)に
似ている地図に「商工地図」というものが戦前あった。それが現在、NDLデジコレで
見られるので高円寺のあたりを示すとこんな感じ(北が上になるように回転させた)。
商工地図は古本で1万円前後で売られているようだ。
 
seibu3
 

自分向きのスクラップブック

 これまた用事の合間を縫って古書展へ行ったら、月の輪さんがスクラップブック(貼り込み帳)を大量に出品していた。あわてて自分の関心ある主題のものがないかチェックして「発禁物語」「書物展望」といった背文字が書いてあるものを買い込む。1冊1000円程度だった。
 
scrap book1
 
 中を読んでみると、全国紙各紙の新聞切抜きが貼り込んである。新聞DBはいろいろ
あるが、各紙を特定ジャンルの事柄で総覧するというのは、実はけっこう手間がかかる。
こうやってそのものズバリの新聞切抜き帳があるときわめて効率的。
 
scrap book2
 

エフェメラ

 他にもいわゆる「本」に限らず、本屋のブックカバー(書皮)を買って、戦前有名だった
書店「三昧堂」の地番を知ったり、昭和19年に海をわたってもたらされた南京維新政府の
国立図書館館報を買ったり、ひとことで言って「エフェメラ」に類するものの収集に乗り出してから、古書趣味に広がりができた。
 
 ウィキペディアに「エフェメラ(ephemera)は一時的な筆記物および印刷物で、長期的に使われたり保存されることを意図していないものを指す。」とある。「一過性資料」などとも訳されたが、要するに古本の世界でいう「一枚もの」や「紙もの」と言われるものいろいろのこと。
 本を集めていた際には、その時々の正統なものが集まるけれど、エフェメラ集めに手を
広げると、その事物の周辺やその時代の背景がなんとなく感じられてくるから楽しい。
 

デジタル化と古本趣味

 日月堂さんが雑誌『望星』2023年10月号に「古本屋ですけど、本棚はありません」という文章を載せていた。エフェメラもデジタル化されると古書価が下がってしまうと指摘しているけれど、私の知る限り、日本の図書館は伝統的にエフェメラを軽視してきたので、なかなかそうもならないのではないかしらん。
 前記の東京の地図みたいに、デジタル化でその利便性や存在を知って、古書展などで買ってみる(古書業界的には買ってもらう)というのも一つの道のような気がするし。
 
 以前、このメルマガ連載で「古本の読み方」をやった際、観点をズラすと面白く古本を楽しめるし、それで飽きたら、収集対象のメディア形態をズラすとよいよ、と述べた(「古本読書史と古本に飽きたときの展開法(古本の読み方5最終回)」)。エフェメラもまた、本でないものの一種だろう。そして……
 

集め手から書き手へ――同人誌出します

 エフェメラに囲まれていると、石神井書林さんのいう時代のしずくに囲まれることになるので、なんとなくそれについての感興がわきおこってくる。それで結構ブログ記事を書いたし、今年の夏、コミケでそれを集大成した同人誌『あったかもしれない大東亜図書館学』を出すことにした。コミケ残りは懇意の出版社から通販をしてもらうかもしれない。
 
dojinshi
 
 本の集め手から、書き手へ移行するのも、ひとつの趣味と思っている。
 
 
書物蔵
本格的古本歴は19年ほど。興味は日本図書館史から近代出版史へ移行し、今は読書史。
共書に『本のリストの本』(創元社、2020)がある。
X(旧Twitter)https://twitter.com/shomotsubugyo (2009年~)
 
 
※シリーズ【調べる古本】は今回が最終回です。
ご愛読ありがとうございました。
 

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「書庫拝見」番外編
『REKIHAKU』特集「蔵書をヒラク」を読む 

「書庫拝見」番外編
『REKIHAKU』特集「蔵書をヒラク」を読む  国立歴史民俗博物館 2024年6月刊

南陀楼綾繁

 本メルマガで「書庫拝見」を連載しはじめて、2年以上が経つ。図書館や資料館、文学館などの一般には公開されていない「閉架書庫」に入り、その本棚に並ぶ貴重な資料やコレクション(文庫)を見せていただく。そして、その空間を守っている方にお話を聞くというものだ。
7月までに24館を紹介してきた。現在、その前半を単行本にまとめる作業中だ。
 
 そんななか、国立歴史民俗博物館の研究誌『REKIHAKU』の特集が「蔵書をヒラク」だと
知り、すぐに入手した。特集のリードには、「ヒラク」には「蔵書そのものの実態を明らかにするため、記録史料や書籍類をもとに丁寧に読み解くこと【披く】」「古代から近現代まで、多分野の幅広い視角から“蔵書”のあらゆる面に迫ること【開く】」「『蔵書文化』という新たな学際的なテーマを提起すること【拓く】」「このような研究成果を紹介することで、読者の皆さんの日々の生活が豊かになることに少しでも繋げること【啓く】」の4つの意味を込めたとある。9編の論文・コラムが掲載されているが、これまで取材した館で見聞きしたのとイメージが重なることも多く、興味深く読んだ。
 
 本特集の編集を担当した工藤航平氏の総論「蔵書文化ことはじめ」によれば、「蔵書」とは「その人固有の〈知〉を表象したもので、蔵書を深堀りすることで〈知〉の形成・継承のプロセスを解き明かすことができる」という。しかし、竹原万雄「旧家に伝来した書籍保存の課題」にあるように、歴史学では手書きの古文書が重視され、書籍の史料的価値が低く見られていた。「とくに一見して印刷物とわかる書籍は、他所に残存している可能性が高い=『希少価値が低い』と判断され」たのだ。それが2000年代以降、「書籍を文書と同様に史料として
扱い、地域の遺された多種多様な書籍に注目して、書籍がもつ社会的な影響力の解明や、
読者・社会の変容を描く研究が行われるようになった」(「蔵書文化ことはじめ」)。
 
 江戸時代以前の蔵書は、正倉院献納宝物から古代の蔵書を探った小倉慈司「古代天皇の
宝庫」
、金沢文庫の形成・継承をたどる貫井裕恵「中世鎌倉 武家と寺家のアーカイブス」にあるように、特権階層が持つものだった。それが江戸時代になると、読み書きできる層が広がり、版本・写本が流通するようになったことで、個人が蔵書を持つ時代が現れた。彼らは独自のネットワークを持ち、借りた本を写して蔵書を増やし、会読(読み合わせ会)やコレクションの交換会によって知識の質を高めていった(岡村敬二『江戸の蔵書家たち』講談社選書メチエ)。「書庫拝見」の松阪(江戸時代は「松坂」)の本居宣長記念館や射和文庫の取材でも、本居宣長や竹川竹斎が江戸や京都の最新情報をいち早く手に入れ、またそれを他の人に伝えていたことが判った。伊勢における蔵書家のネットワークについては、菱岡憲司『大才子・小津久足』(中公選書)に詳しい。
 
 小池淳一「書物と民俗」は、民俗学において調査の対象外とされがちだった書物が、生活の中にどのように根付いていたかを、沖縄や福島の例をもとに論じている。そこでは本が擬人化されたり神聖視されたりするのだ。民俗学と書物については、川島秀一『「本読み」の民俗誌』(勉誠出版)がある。気仙沼地方には「本読み」「小説読み」と呼ばれる人たちがおり、彼らに読んでもらうために蔵書を持つ家もあった。書物は共有され、語られ、改変されながら伝えられるものであったのだ。
 
 山中さゆり「松代藩真田家の本箱」は、松代藩の蔵書を収めた「本箱」がテーマだ。
その本箱には複数の貼紙があり、書籍目録と照合すると多くのことが判るという。一方、
菅谷壽美子「池波正太郎の書斎」は、『真田太平記』の著者でもある池波が、書斎でしばしば手に取った書物を紹介する。小粥祐子「日本住宅における『知を形成する空間』」は、江戸城本丸御殿のどの部屋で将軍が本を読んだかを推理している。
 
 特集最後の岡村龍男「『羽田八幡宮文庫旧蔵資料』の郷土資料としての再構築」は、羽田八幡宮の旧蔵書が豊橋市図書館に所蔵された経緯をたどるもの。羽田八幡宮文庫は1848年(嘉永元)に宮司の提案で生まれたもので、誰でも利用できた。貸出箱の蓋の裏には、貸出冊数や
貸出日数、弁償責任などの規則が書かれているという。「書庫拝見」で取材した宮城県図書館にも「青柳文庫」が所蔵されている。江戸の富豪・青柳文蔵が献上した書籍と維持資金をもとにして1831年(天保3)に設立したもので、「日本初の公共図書館」と云われる。
 
 岡村氏は「文庫資料のような様々な来歴を持つ資料群をいっしょくたに分類してしまうと、文庫資料それぞれが持っていた『図書館蔵書となる前』の秩序や性格がわかりにくくなってしまう」と指摘する。幸い、私が取材した図書館や資料館では、「旧蔵書」はひとつの塊りとして別置されており、多くの場合、その来歴を示す資料も残されている。それによって、どんな人たちが旧蔵書を築き、守り、受け継いできたかというドラマを私なりに描くことができるのだ。そして、日本近代文学館や長岡市立中央図書館・文書資料室の回で触れたように、古書業界の人々もこの「来歴」に深く関わっている。
 
どこから読んでも面白い特集だったが、「蔵書」にはまだまだヒラクべき要素があるはずだ。第2弾を期待したい。
 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)
 
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。
 
X(旧Twitter)
https://twitter.com/kawasusu
 
 
==========単行本化のお知らせ==========
 
10日配信号で好評連載中・南陀楼綾繁さんの「シリーズ書庫拝見」が
本になります!『書庫をあるく アーカイブのかくれた魅力』(仮)は
今秋刊行予定です。乞うご期待!
 
『書庫をあるく アーカイブのかくれた魅力』(仮)
南陀楼綾繁 著/皓星社 刊/価格未定
 
 
==========今回ご紹介した書籍==========
 
cover_REKIHAKU
 
 
『REKIHAKU 特集・蔵書をヒラク』
国立歴史民俗博物館・工藤航平・箱崎真隆 編
国立歴史民俗博物館 発行
文学通信 発売
1,200円(税込)
ISBN:978-4-86766-055-3
 
好評発売中!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-86766-055-3.html
 
 

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