破棄する前に1
恩田逸夫『宮沢賢治論』と『小沢俊郎 宮沢賢治論集』

破棄する前に1
恩田逸夫『宮沢賢治論』と『小沢俊郎 宮沢賢治論集』

三昧堂(古本愛好家)

 古本好きの常で、買うほどには読まない。私もその典型的な一人である。勿論本はかなり読むほうだが、少しでも興味がわけば買ってしまい、ついでにその関連の本まで手を伸ばし、
積ん読山は高い山脈と化していく。幸い田舎住まいで子供たちは独立して家を出ており、家内と二人だけだから本を置くスペースは十分にある。妻の時々口にする苦情と、お父さん死ぬまでにはこの本なんとしてよね、という気の強い娘の説教さえ聞き流せば問題はいまのところない。
 
2年ほど前に両親を看取った八畳の和室と広い縁側を書斎に変えた。北向きの6畳間を書斎兼書庫にしていたが、この部屋は冬寒すぎて使えないし、本だらけで何も出来ない。母の残した裁ち板を机に改造して部屋の真ん中に据え周囲を書棚にした。北側は窓で南側の縁側の戸を開ければ、夏場でも涼しい。その前に1000冊ほどの蔵書を知り合いの古本屋に処分した。
すっきりした書斎を自慢したが、書店主は言ったものだ。「駄目ですよ、本を少し整理するとそれ以上に増えますから」。まことにその通り、今や書棚の前はまた積ん読山脈となってしまった。
 
 週三日勤務になって家で過ごす時間も増え、この書斎で過ごすのは心休まる至福の時間である。積ん読山を時々整理して処分して良いものと、段ボール箱に入れて物置部屋や使っていない押し入れに仕舞うものを分類する時もある。執筆に関連する物は机の周囲に揃える。書棚は完璧ではないがテーマごとに整理してある。この数年ある執筆テーマの関連で宮沢賢治の研究書がたまってきた。近代文学研究書の中で最も数が多いのは漱石だろうが、賢治も半端ではない。私にとって賢治は中心テーマではないからさほどの量ではないが、その賢治関連書の書棚にある『宮沢賢治論・1・人と芸術 恩田逸夫』(東京書籍)という、いつ買ったか記憶にない本が目にとまった。
 
様々な研究者の賢治論を集めた本だろうし、端本だから必要ないかなと開いてみた。するとこの本は恩田逸夫の没後に出された初めての賢治関連の単著で三冊からなるものと分かった。編者の原子朗と小沢俊郎は知っていたが恩田のことは全く知らなかった。私が賢治関連書で最初に読み通したのは、堀尾青史氏の『年譜宮澤賢治伝』(中公文庫・1991)だったが、書棚に並んでいるのは中村稔、天沢退二郎、入沢康夫、古いところでは佐藤勝治や小田邦雄の本である。最初に書いたように本を買うばかりで未読の本が多いから、賢治研究書を読んでいれば当然恩田の名も知っていたのだろう。ただ、手元にある草野心平編『宮澤賢治研究』(昭和33・筑摩書房)にも、宮澤賢治全集別巻『宮澤賢治研究』(昭和44・筑摩書房)にも恩田の論考はなく、河出書房新社の『文芸読本 宮澤賢治』(昭和52)にも収録されていない。
 
『新文芸読本 宮澤賢治』(1990)に唯一、「詩篇「春と修羅」の主題と構成」という10頁の論考が収録されていた。その執筆者紹介は「一九一六年東京生まれ。東京大学文学部国文科卒業。明治薬科大学教授。跡見学園短大・武蔵野女子大学講師。著書に『宮沢賢治論』全三冊(東京書籍)、『北原白秋』(清水書院)。七九年児童文学会賞受賞。七九年八月歿」とある。『北原白秋』は生前唯一の単著ということになろう。賢治研究者としては知る人ぞ知るといった感じの方であったのかもしれない。
 
 しかし、この『宮沢賢治論1』巻末に収められた小沢俊郎氏の「回想 恩田逸夫と宮沢賢治」を読んで衝撃的ともいえる感動を覚えた。この回想は小沢の病床での執筆で、恩田の『宮沢賢治論』全三冊同時刊行が1981年10月27日であるが、翌年3月14日に61歳で亡くなっており、絶筆に近いものであったのだ。それによれば、恩田と小沢は東大で昭和21年5月入学の同期、恩田は最年長で30歳、水戸高校を経て京大文学部哲学科在学中に陸軍入営、大陸で転戦し昭和21年復員、陸軍では中隊長だった。京大には戻らず、東大国文学科に専攻を変えて入学。恩田の卒論は「年少文学論攷」であった。児童文学はまだ研究の対象ではない時代であったが、その論攷の中で宮沢賢治を取り上げた。卒業半年後に「宮沢賢治友の会」が発足、ここから小沢も共に賢治研究の道を進むことになった。

「宮沢賢治友の会」は当初『宮沢賢治全集』を出していた十字屋書店をバックに研究誌「四次元」を発行していたが、十字屋が手を引き、佐藤寛が発行人となった。恩田は実質的なプロモーターとなり編集を主導した。友の会を「宮沢賢治研究会」に変更、賢治を近代文学の研究対象に据える方向に導いた。恩田は戦後賢治が広く読まれるようになる中で間違いなく賢治研究の先駆者であったのだ。
 
 小沢は恩田の研究の特色として「組織的研究」「細心緻密と総体的把握」をあげている。
その上で「実証的ということが、悪くすると些末主義に堕することがある。山に入って山を見失う場合である。恩田さんの場合にその心配はまったくなかった。つねに大きく賢治の全体像を描くことを念頭に置いていたからである。目配りの行き届いた緻密な作業の一方で、大胆に賢治思想の核心をつかもとしていた。」
 
 資料集めに邁進するうちに研究から逸れてコレクターのようになってしまうことは少なくない。恩田はその落とし穴にはまらずにすんだのだ。そして一時停滞していた宮沢賢治研究会の活動を復活蘇生させ、202号で終刊(昭和43・11)した「四次元」に変わり「宮沢賢治研究」を発刊(昭和44・4)する。しかし昭和54年8月、63歳で亡くなる。周囲から著書の刊行が切望されていたが、最晩年「宮沢賢治研究 執筆目録」(「明治薬科大学研究紀要」
8号)のみを残して研究の集成は果たさなかった。そして没後、小沢と原子朗が遺稿集『宮沢賢治論』全三冊の編纂を任されるのである。
 
 同書の原子朗の「解説」に依れば、当初編集は原一人に依頼されたが、恩田の研究を網羅すれば優に5冊に及ぶものになってしまう。何を選ぶべきかそれは賢治研究の同行者小沢以外に頼る人物はいないと判断した。その時小沢は病気療養の身であったが、収録可否のリストは届けられ、原の案と付き合わせて刊行に漕ぎつけたとのことであった。
『宮沢賢治論』はA5判で1「人と芸術」390頁、2「詩研究」414頁、3「童話研究その他」401頁の大著である。全部で70編の論考が収められている。芭蕉は生前に自らの句集を刊行せず、それに倣う俳人もいたが、恩田もまるで自分の賢治研究は生涯行きつくことはないという思いでもあったのだろうか。
 
 そんな恩田の生涯を知ると第一巻しかない『宮沢賢治論』3冊を揃えたくなった。ところが2,3とバラバラに買うより3冊揃いで求める方が安いと分かり、結局第一巻はダブってしまった。
 
 恩田の同行者小沢俊郎も戦場からの帰還者であった。広島の高等師範学校を出て青森で教員となり、兵役に続いて結核の闘病生活を経た後、東京大学国文科に入学している。先の
「回想」の中で東大に入学した昭和21年「この年度の特色は、東大ではじめて旧制高校以外の「傍系」出身者にも門戸を開放したことだった。そのため、年齢も経歴も種々雑多な者が入学した。私も、既に教職にあったが、受験の機会が与えられたのを幸い、新しい時潮の中で学び直そうとした一人だった」と書かれている。死に直面する戦場から戻り、恩田と小沢が出会う歴史の不思議である。
 
 ところで、書棚に『小沢俊郎 宮沢賢治論集 1』(有精堂・1987)があり、これも今まで開くことのなかった本だった。この本も没後に栗原敦、杉浦静の編集で刊行された本で全3冊。これまた3冊まとめて買う方が安くて、第一巻がタブってしまった。
 
 その第三巻「文語詩研究・地理研究」の巻末に、奥様小沢和子さんの「賢治研究の傍らで」が収められている。その中に次の一文があった。「恩田さんは昭和五十四年急逝された大学時代からの友人で、同じ賢治研究の道を歩いておられました。原子朗さんと共にその論文を編んだこの本は昭和五十六年も末近くに出版されました。出版社の方が見本を届けに京都まで来られたときには、もう明日の命も知れぬ容態でしたから事のなりゆきをはらはら見守るばかりでした。この本の出版については、間もなく入沢康夫さんが新聞のコラムにお書きになり、その文章を読んだ病床で涙していた姿を思い出します。」
 
 偶然と言うべきか、その入沢のコラムの切り抜きが『宮沢賢治論1』に挟まれていた。1981年12月7日の朝日新聞に掲載された「日記から」というコラムである。全文引用して
拙文のまとめとしよう。
「待望久しかった故恩田逸夫氏の『宮沢賢治論』全三冊(東京書籍)が刊行された。昭和二十四年から一昨年までの三十年間に、雑誌・紀要その他に、氏が発表された賢治論は、その総数二百五十編にのぼる。恩田氏の賢治研究の特質は、あえて一口に言えば、的確・堅実な実証的手続きと、単なる考証に安住せぬ本質への深い読みとの、見事な合致にあった。二百五十編の中には、賢治研究の水準を、一歩も二歩もおしすすめる上で大きな役割を果たしたものが、多々含まれている。
 
ところが、この恩田氏は、その研究をついに一冊の単行書にまとめられることなく、世を去られた。ここにも、氏の研究に対するきびしさ、潔癖さを見るおもいがする。私は、そうした
恩田氏の態度を、フランスのネルヴァル研究家フランソワ・コンスタンの態度と重ねて考えることがある。コンスタンも、五十年にわたって、研究上欠かせない貴重な論考を雑誌等に発表しつづけながら、それらをなかなか本にまとめようとせず、ようやくそれが一巻の書物として刊行されると、ほどなくこの世を去ってしまった。今回の『宮沢賢治論』には、恩田氏の全業績の中から七十編が、小沢俊郎、原子朗両氏によって選定、編集されている。巻末に付された両編集者の「回想」「解説」も、心を打つ、すぐれた文章だ。」
 
 本はまた増えたが『宮沢賢治論』捨てずに良かった。賢治と戦場から帰還復学した研究者にまつわる古本の話をもう一回続けたい。
 
 
※シリーズ古書の世界「破棄する前に」は随時掲載いたします。
 
 

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2024年11月25日号 第407号

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☆INDEX☆
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1.『戦前モダニズム出版社探検—金星堂、厚生閣書店、椎の木社ほか』
                           高橋輝次

2.『在日コリアン翻訳者の群像』
                          斎藤真理子

3.『大正大学出版会から「地域人ライブラリー」創刊』
      渡邊直樹(大正大学客員教授・大正大学出版会 編集長)

4.『最小の病原—ウイロイド』
                  佐野輝男(弘前大学名誉教授)

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━━━━━━━━━━【自著を語る(333)】━━━━━━━━━━

『戦前モダニズム出版社探検—金星堂、厚生閣書店、椎の木社ほか』
                            高橋輝次

 私は今まで出した古本エッセイ集でも、近代日本の出版社やその編集者の
仕事に注目し、限られた資料をもとに種々探索した成果を発表してきた。
今度の本も論創社刊の『編集者の生きた空間』(2017年)に続く出版史が
中心の本である。
 
 ここでは第一次世界大戦後、欧州で興った新しい思想、文学、美術の潮流
(未来派、立体派、表現派、ダダ、シュルレアリスムなど)の影響を受け、
日本でも大正末から昭和初期にかけて春山行夫編集の『詩と詩論』や北園克衛
編集の『レスプリ・ヌーボウ』を始めとするモダニズム文学や詩、美術の創作
活動が盛んになる頃、いち早くその動向に注目して彼らの活動を陰で支援した
出版社群があった。
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=17502
 
 
『戦前モダニズム出版社探検
—金星堂、厚生閣書店、椎の木社ほか』
高橋輝次 著
論創社 刊
3,300円(税込)
ISBN:978-4-8460-2405-5(Cコード:0095)

好評発売中!
https://ronso.co.jp/
 
 
━━━━━━━━━━【自著を語る(334)】━━━━━━━━━━

『在日コリアン翻訳者の群像』
                           斎藤真理子

 京都に遊びに行ったら、できてしまった本である。
 前々から作家の黒川創さんに「しばらくこっちに滞在して翻訳もやったら
いいじゃないですか」といわれていて、それはいいなとずっと思っていた。
そしていよいよ今年実行することになったのだが、そうこうするうちに
「せっかく来るなら何か話しなさいよ、編集グループSUREで本にするから」と
いう運びになった。ありがたいことである。
 
 では、テーマを何にしようかという段で思いついたのが、「昔、朝鮮半島の
文学を翻訳していた人たちの多くは在日コリアンだったな」という思い出だ。
私はこれらの大先輩たちに大いに恩義がある。そこで、私が二十代のころに
読んだ本を中心に、どんな作品がいつごろ翻訳されてきたか、ざっと歴史を
振り返ってみたらどうかと思ったのだ。
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=18104
 
 
在日コリアン翻訳者の群像
斎藤真理子 著
2,640円(税込)
編集グループSURE 刊
電話・FAX:075-202-9522

好評発売中!(購入は下記よりご確認ください)
https://www.groupsure.net/post_item.php?type=books&page=240922zainichi
 
 
━━━━━━━━━━【自著を語る 番外編】━━━━━━━━━━

『大正大学出版会から「地域人ライブラリー」創刊』
         渡邊直樹(大正大学客員教授・大正大学出版会 編集長)

 大正大学出版会では11月5日、地域創生に寄与する書籍シリーズ
「地域人ライブラリー」を創刊しました。「地域人ライブラリー」は、
2015年9月に創刊し2023年5月の第89号まで、別冊2冊を
含め91冊を全国の書店で販売してきた雑誌『地域人』の記事をもとに
編集する新たな書籍シリーズです。
 
 雑誌『地域人』は「地に生きる、地を生かす」をコンセプトに、地域を
元気にする「地域人」の様々な活動、先進事例を解説・論評を加えて紹介し、
地域創生のためのテキストとしても活用していただいてきました。
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=18108
 
 
「生きものを甘く見るな」/養老孟司 著
 四六判 並製本 208頁/ISBN:978-4-909099-84-6
 
「生きるための農業 地域をつくる農業」/菅野芳秀 著
 四六判 並製本 240頁/ISBN:978-4-909099-85-3
 
「本」とともに地域で生きる/南陀楼 綾繁 著
 四六判 並製本 296頁/ISBN:978-4-909099-86-0
 
「地域人ライブラリー」創刊
 大正大学出版会 刊
 各1,980円(税込)
 
 
好評発売中!
https://www.tais.ac.jp/guide/research/publishing/chiikijin_list/
 
 
━━━━━━━━━━【大学出版へのいざない24】━━━━━━━━━

『最小の病原—ウイロイド』

                    佐野輝男(弘前大学名誉教授)

 “ウイロイド”—この聞き慣れない名称は、1920年代北米から流行が
拡がった塊茎がやせ細るジャガイモの病気から発見された病原につけ
られた造語で、それは菌類や細菌はもちろん、ウイルスよりさらに
小さな病原であった。発見から50年、本書はウイロイド研究の進歩を
この分野を専門とする著者が独自の観点からまとめたものである。

 第Ⅰ章では本邦のウイロイド研究の幕開けとなったホップ矮化病に
ついて、まず、発生当時の状況とそれが世界に例をみない新病害であった
こと、なぜそんな奇病が突如日本に出現したのか? 背後に潜む伝染源の
探索とその結果見えてきたホップ矮化病発生の謎が解き明かされる。
 
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=17637
 
 
最小の病原-ウイロイド
佐野輝男 著
弘前大学出版会 刊
3,465円(税込)
ISBN:9978-4-910425-16-0(Cコード:3045)

2024年12月20日発行予定
https://hupress.hirosaki-u.ac.jp/books/p14560/
 
 

━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。
 
「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━━━

書名:「書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力」
著者名:南陀楼綾繁
出版社名:皓星社
判型/ページ数:A5判並製/256頁
税込価格:2,530円
ISBNコード:978-4-7744-0840-8

2024年12月13日発行予定
https://libro-koseisha.co.jp/history_culture/978-4-7744-0840-8/

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「大学出版へのいざない」シリーズ 第25回 最終回

書名:張載思想研究 ― 宋明理学の中の「太虚」説
著者名:山際明利
出版社名:北海道大学出版会
判型/製本形式/頁数:A5判/上製/328頁
税込価格:11,000円
ISBNコード:978-4-8329-6899-8
Cコード:3010

2024年12月10日発行予定!
https://www.hup.gr.jp/items/92342089

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『在日コリアン翻訳者の群像』

『在日コリアン翻訳者の群像』

斎藤真理子

 京都に遊びに行ったら、できてしまった本である。
 前々から作家の黒川創さんに「しばらくこっちに滞在して翻訳もやったらいいじゃないですか」といわれていて、それはいいなとずっと思っていた。そしていよいよ今年実行することになったのだが、そうこうするうちに「せっかく来るなら何か話しなさいよ、編集グループSUREで本にするから」という運びになった。ありがたいことである。
 
 では、テーマを何にしようかという段で思いついたのが、「昔、朝鮮半島の文学を翻訳していた人たちの多くは在日コリアンだったな」という思い出だ。私はこれらの大先輩たちに大いに恩義がある。そこで、私が二十代のころに読んだ本を中心に、どんな作品がいつごろ翻訳されてきたか、ざっと歴史を振り返ってみたらどうかと思ったのだ。
 
 今、現代韓国の小説や詩が日本でずいぶんたくさん読まれるようになった。しかし少なくとも二〇一〇年代前半ぐらいまでは、韓国文学に興味を持つ読者は本当にごくわずかだった。もっとさかのぼれば、金芝河(キム・ジハ)など強い政治的メッセージを持つ文学者のものが集中的に訳された時代があり、尹興吉(ユン・フンギル)という作家に関心が集まった時代もあり、それよりずっと前には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の文学ばかりが翻訳されて、大韓民国には見向きもされない時代があった。どんな作品が選ばれ翻訳されるかは、どちらかというと政治的な理由で決定されることが多く、こうした縛りが解けたのは、韓国の民主化を経た一九九〇年代以降と言ってよいのではないだろうか。
 
 二、三の例外を除けばお世辞にも読者が多いとはいえないそれらの翻訳を、長い間、在日コリアンの翻訳者たちが担ってきた。理由は明白で、そもそも日本人でそんなことをやろうとする人がいなかったからだ。日本人の文芸翻訳者が本格的に登場するのは七〇年代からである。
 
 戦前からのキャリアということでいうと、在日コリアンとはいえないが金素雲(キム・ソウン)というビッグネームがいる。一九四〇年に出された短編集を見ると、作家の金史良(キム・サリャン)が李光洙(イ・グァンス)の翻訳を手がけていたりもする。一九四五年の解放後は許南麒(ホ・ナムギ)、姜舜(カン・スン)、安宇植(アン・ウシク)、李丞玉(イ・スンオク)など、在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)の文化芸術担当だった人々が旺盛に仕事をした。この中のかなりの人が後にそこから離れ、別の道を歩むようになるが、これは在日作家と同じだ。翻訳の世界の中にも否応なく南北分断があった。
 
 私が八〇年代に古書店を回って買い集めた、リアルタイムの韓国を感じさせる文芸書は、
姜舜と安宇植の翻訳によるものが多かった。また、金素雲が手がけた全五巻の『現代韓国文学全集』や、岩波文庫に入っている金素雲と許南麒の翻訳も一生けんめい読んだ。何しろ絶対数が少なかったので、コンプリートしようと思えばできたのである。
 
 それに比べたら現在は、毎月出る韓国文学の新刊書を全部読むなんてまずできない。韓国文学の普及のために活動している一般社団法人「KーBOOK振興会」の調べによれば、二〇一六年に日本語に翻訳出版された韓国文学関連書は二二冊だったそうだが、二〇二一年には八七冊に増えている(二〇二二、二三年もさらに増えたそうだ)。
 
 だからとても単純に比較などできないが、今も多くの在日コリアンやニューカマーの翻訳者・出版関係者が文学の紹介に力を尽くしており、こうした人々の姿には、今も昔も共通の
面影がある。つまり、読者が多かろうが少なかろうが、それが必要な仕事と信じて翻訳・出版に向かう静かな情熱のようなものである。
 
 さまざまな翻訳者の来歴を追ううちに、皮千得(ピ・チョンドゥク)という韓国の有名な
英文学者・随筆家と、ある文芸同人誌に集まった在日文学青年たちの出会いを見つけたのが、この本を作りながら迎えたクライマックスだった。雑誌の名前は『プルシ』(「火花」という意味)、一九五七年に立て続けに三号出して休止になってしまった、きわめて洗練された詩の同人誌である。ここに姜舜や安宇植、また後に黒人文学の研究者となる黄寅秀(ファン・インス)らが集まり、朝鮮半島の現代詩に加えて、レールモントフやディラン・トマス、ラングストン・ヒューズなどのすばらしい日本語訳が並ぶのだが、そこに尹東柱の詩「自画像」の英訳がさらりと混じっていたのである。この英訳が、皮千得のものだった。
 
 当時、『プルシ』のメンバーが在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)に近い民族学校の教員たちだったことを考えれば、この出会いはなかなか興奮させられることなのである。この興奮を共有してくれたのは、レクチャーの場に立ち会ってくださった黒川創さん、歴史家の水野直樹さんをはじめ一握りの方々にすぎないが、一緒に「えーっ」と驚くことができて嬉しかった。
 
 一方で刊行後、諸先輩方から「あの人は入れてほしかった」「あの人が何で入ってないの」といった声を多々頂戴したのには驚いた。九〇年代以降の翻訳書にはあまり言及しなかったため、こうなることはある程度予想していたが、予想以上に早く、予想以上にたくさんのご意見をいただいたのである。その理由を考えてみるに、多くの方が、翻訳という地味な仕事について「報われてほしい」という気持ちを持っていらっしゃるのではないかと思われた。それが
確認できたので、幸せな本である。
 
 それとともに、この本こそは「日本の古本屋」の存在がなければできなかったことも書いておきたい。かつて読んだが九一年に留学するときに手放してしまったあの本、この本を次々にインターネット古書店で買い集め、途中で思わぬ掘り出し物も多々あった。その意味でも収穫の多い本だった。

 
 
20241125_zainichi_cover
 
在日コリアン翻訳者の群像
斎藤真理子 著
2,640円(税込)
編集グループSURE 刊
電話・FAX:075-202-9522
 
好評発売中!(購入は下記よりご確認ください)
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南陀楼本 カバー帯

『大正大学出版会から「地域人ライブラリー」創刊』

『大正大学出版会から「地域人ライブラリー」創刊』

渡邉直樹(大正大学客員教授・大正大学出版会 編集長)

 大正大学出版会では11月5日、地域創生に寄与する書籍シリーズ「地域人ライブラリー」を創刊しました。「地域人ライブラリー」は、2015年9月に創刊し2023年5月の第89号まで、別冊2冊を含め91冊を全国の書店で販売してきた雑誌『地域人』の記事をもとに
編集する新たな書籍シリーズです。
 
 雑誌『地域人』は「地に生きる、地を生かす」をコンセプトに、地域を元気にする「地域人」の様々な活動、先進事例を解説・論評を加えて紹介し、地域創生のためのテキストとしても活用していただいてきました。現在、雑誌『地域人』は休刊していますが、「地域創生」はいまも日本が取り込むべき課題であることは変わりません。『地域人』で8年間にわたり蓄積したコンテンツをもとに企画した「地域人ライブラリー」は、地域創生を進めるうえでのヒントとなる貴重な資源となるでしょう。
 
 その第一弾として、以下の3冊を11月5日に同時発売いたしました。
 
 『生きものを甘く見るな』養老孟司
 『生きるための農業 地域をつくる農業』菅野芳秀
 『「本」とともに地域で生きる』南陀楼綾繁
 
 「日本の古本屋」の場をお借りして、この中の1冊、『「本」とともに地域で生きる』をご紹介いたします。雑誌『地域人』では特集、連載を含めて、地域に根差した本屋さん・図書館・ローカルメディアなど、本がある場所と、それに携わる人たちの活動をたびたび取り上げてきました。たとえば、こんな特集です。「本屋が楽しい まちが楽しい!」(第50号)、「本屋は続くよ」(第75号)、「こんな図書館のあるまちに住みたい」(第33号)、「図書館とまちづくり」(第42号)、「ローカルメディアと地域おこし」(第22号)。
 
 全国で展開する「一箱古本市」の生みの親であり、本をこよなく愛するライターの南陀楼綾繁さんには、『地域人』の「本」に関わる特集の多くに企画段階から関わっていただきました。また連載ページ「コアコア新聞」内の人気コラム「ローカルメディア力」の取材と執筆もしていただきました。それらの記事をまとめて1冊の書籍となったのが、『「本」とともに
地域で生きる』なのです。
 
 既存の出版社・取次・書店など「出版業界」は、インターネット、SNSなどの隆盛に押され、読書に親しむ人数も時間も減少し、市場も縮小してビジネスとしては苦戦が続いています。しかし、そんななかでも「本」を愛する人たちの新たな動きが全国各地で出てきています。
 確実に売れると見込んだ本しか既存の出版社が出さないのなら、自ら企画して少部数から
スタートして低予算で本や雑誌をつくり、確実に収益もあげる。そうした出版活動。
「軽出版」や「AIによる雑誌つくり」などもはじまっています。
 
 また本屋さんや図書館もイベント、カフェ、物販、学習スペースなど地域の人たちが集まる交流の場としての役割も大きくなっています。
 こういった本を愛する人々の動きに後押しされるように、「出版業界」も、書店、図書館、出版社の間にかつてはあった「塀」が低くなり、「本」の現在と将来のために、交流するようになってきました。南陀楼さんも次のように書いています。

 本を販売する本屋、本を所蔵する図書館、本を発行する出版社は、いわば兄弟のような関係でありながら、長い間、交わることが少なかった。さらに本屋については、新刊書店と古本屋は別の業界になっていた。しかし、2000年代に入ってから、お互いを隔てていた壁が少しずつ溶け出してきた。それは、売り上げのピークを迎えた1996年を経て、右肩下がりが続く
出版業界の危機感から生まれたものであった。

 この本には、山陰から「本の世界」を見つめてきた永井伸和さん(今井書店グループ元相談役)、リブロの店長、統括マネージャーを経て独立し、東京の荻窪で「本屋 Title」を開業した辻山良雄さんへのインタビューにはじまり、全国の特色ある34の本屋、7図書館、49のローカルメディアが取材・紹介されています。
 『地域人』の特集タイトルの通り。本屋が楽しいまちは楽しいまち! そして、本屋は続くよ!

「地域人ライブラリー」では、第一弾の3冊に続き、来年以降も、次のようなテーマの本を
企画しています。
『地域創生の10年をふりかえる 2014~2024』、『食から始まる地域再生』、『自然と文化を活かした地域づくり』(タイトルは仮題)。
巻頭インタビューをテーマごとにまとめた、各界の著名人による「地域創生」への提言集。『ウェル・ビーイングで地域を生きやすくする』、『文化・芸術で地域に貢献する』、『地域を支える衣食住の取り組み』(仮題)など。
順次、刊行していきますので、乞うご期待。
 
 それと同時に、現在、大阪の丸善ジュンク堂梅田店などで『地域人』バックナンバーフェアも開催中です。この機会に『地域人』のバックナンバーにも目を通していただけると幸いです。
在庫も号によっては、まだ少々ありますので、「日本の古本屋」はじめ、古書店でもぜひお求めください。
 
 
 養老本 カバー帯    菅野本 カバー帯    南陀楼本 カバー帯
 
 
「生きものを甘く見るな」/養老孟司 著
 四六判 並製本 208頁/ISBN:978-4-909099-84-6
 
「生きるための農業 地域をつくる農業」/菅野芳秀 著
 四六判 並製本 240頁/ISBN:978-4-909099-85-3
 
「本」とともに地域で生きる/南陀楼 綾繁 著
 四六判 並製本 296頁/ISBN:978-4-909099-86-0
 
地域人ライブラリー 
大正大学出版会 刊
各1,980円(税込)
 
好評発売中!
https://www.tais.ac.jp/guide/research/publishing/chiikijin_list/

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『戦前モダニズム出版社探検
―金星堂、厚生閣書店、椎の木社ほか』

『戦前モダニズム出版社探検―金星堂、厚生閣書店、椎の木社ほか』

高橋輝次

 私は今まで出した古本エッセイ集でも、近代日本の出版社やその編集者の仕事に注目し、
限られた資料をもとに種々探索した成果を発表してきた。今度の本も論創社刊の『編集者の
生きた空間』(2017年)に続く出版史が中心の本である。

 ここでは第一次世界大戦後、欧州で興った新しい思想、文学、美術の潮流(未来派、立体派、表現派、ダダ、シュルレアリスムなど)の影響を受け、日本でも大正末から昭和初期に
かけて春山行夫編集の『詩と詩論』や北園克衛編集の『レスプリ・ヌーボウ』を始めとする
モダニズム文学や詩、美術の創作活動が盛んになる頃、いち早くその動向に注目して彼らの
活動を陰で支援した出版社群があった。列挙すれば、金星堂、厚生閣書店、椎の木社、第一
書房、白水社、創元社、紀伊國屋書店出版部、プラトン社、砂子屋書房、赤塚書房、山本
書店、ボン書店、武蔵野書院、野田書房などなどである。このうち、プラトン社、第一書房、ボン書店についてはすでに調査の行き届いた名著が出ている。戦前の創元社については、大谷晃一『ある出版人の肖像』や私も『ぼくの創元社覚え書』(龜鳴屋)を出している。

紀伊國屋書店出版部についても、以前、同書店のPR誌に内堀弘氏が「予感の本棚」を連載されたが、まだ本にまとまっていない。実は、私も旧著『古書往来』(みずのわ出版)の中で、同社から昭和8年以来、2年程出ていた文芸雑誌『行動』の編集長、豊田三郎の自伝的小説
『新しき軌道』(協和書院)の一部を引きつつ、出版部の実態を紹介したことがある(編集者に野口冨士男がいた)。

 今回、私は例によって古本展や目録で見つけた一冊の本や雑誌をきっかけにして、金星堂、厚生閣書店、椎の木社に関心をもち、おぼつかぬ足どりながら探索を続け、その成果を
日録風に綴ってみた。例えば、金星堂社主、福岡益雄や編集者、松山悦三、飯田豊二、
伊藤整(!)、町野静雄、吉田一穂『海の聖母』の装幀者、亀山巌、川端の『伊豆の踊子』の装幀や金星堂発行の『文藝時代』の装画を描いた吉田謙吉や同誌の表紙を飾った「アクション」の画家たち。厚生閣在社時代の春山行夫の仕事の実態。さらに椎の木社主宰の百田宗治とその同人詩人たちの仕事、とくに左川ちか、高祖保の作品活動など、盛り沢山に登場させ、
紹介している(400頁ある!)。

 探索の過程で、金星堂のPR誌『金星』や『金星堂ニュース』の内容を部分的ながら紹介できたこと、また金星堂の編集者でアナキストでもあった飯田豊二の生涯と仕事を比較的詳しく追跡できたことを秘かに自負している。ただ、正直に言って、難解と見なされている内外の
モダニズム文学、詩については不勉強で付け焼き刃的にしか読んではいないので、誤りや
勘違いがあるかもしれない。

 本書を読み返してみると、詩の引用などは多少しているが、それよりも新しい文学運動を担った文学者や出版人、編集者、画家たちの人物像人間関係に、より焦点を当てて紹介している文章が多いのに気づいた。そういえば、むろん私のよりずっと体系的で卓越した文章だが、山口昌男氏の一連の精神史の執筆スタイルとも一寸似通ったところがありはしないか、と僭越ながら思っている私である。

 例えば、吉田一穂と亀山巌の微妙な関係や『椎の木』の主宰者、百田宗治をめぐる室生犀星、伊藤整、春山行夫、北園克衛、左川ちか、高祖保、岩佐東一郎らの暖かい交流ぶりなどである。その人脈の豊かさには驚かされる。これらの文章を通して、私は亀山や百田の再評価を促したつもりである。

 出版史としては他にも、私が40過ぎまで在社した創元社の戦前、文芸出版社としての歩みを、二代目社長矢部文治氏の遺稿エッセイ集をお借りしながらたどっている。また同社東京
支店編集部(校閲部)にいた松村泰太郎―横光利一と親交があった―の珍しい小説も紹介することができた。

 さらに巻頭には「種村季弘の編集者時代」を収めている。これは種村氏が東大独文科を卒業後、光文社に入社して3年間程、編集者として働いた頃の数々のエピソードを氏のエッセイ集から探し出してまとめたもので、種村氏の仕事へのアプローチとしては異色のものではないかと思っている。なお、校了後、氏は東大在学中の後半に「東大新聞」の編集者として1年間
務めていたことが判明した。(詳しくは、本書校了後に新たに書いた余話的な文章とその他の雑文、計10篇をまとめて出した私家版の小冊子『「モダニズム出版社の探検」余話』中の一文を参照して下さると有難い。ご希望の方はFAX 078-841-6161まで)

 私は研究者でも文芸評論家でもなく、一介の古本好きの元編集者にすぎないので、その
書き方は社史や評伝、研究書のように時系列に沿ったまとまったものでなく、話は収穫ごとにあっちこっちに飛び、古本が古本を呼ぶ脱線した話も多い。元々、近代出版史の資料は数少なく、謎も多いので、その探検は難行となる。私の入手できた資料だけでは当然限界がある。

そこで、今回も曾根博義氏を始めとする多くのすぐれた近代日本文学や美術史の研究者たちの先行研究を大いに援用させていただき、感謝している。また古本で入手が困難な資料については日本近代文学館や神奈川近代文学館にコピーをお願いして種々お世話になった。
本書が古本好きな読者はもとより、編集者の仕事や出版史に関心をもつ方々に広く読まれ、
少しでも楽しんでもらえたら、望外の喜びです。

 
 
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戦前モダニズム出版社探検
―金星堂、厚生閣書店、椎の木社ほか
高橋輝次 著
論創社 刊
3,300円(税込)
 
好評発売中!
>https://ronso.co.jp/

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『最小の病原—ウイロイド』
【大学出版へのいざない24】

『最小の病原—ウイロイド』

佐野輝男(弘前大学名誉教授)

 “ウイロイド”—この聞き慣れない名称は、1920年代北米から流行が拡がった塊茎がやせ細るジャガイモの病気から発見された病原につけられた造語で、それは菌類や細菌はもちろん、
ウイルスよりさらに小さな病原であった。発見から50年、本書はウイロイド研究の進歩をこの分野を専門とする著者が独自の観点からまとめたものである。

 第Ⅰ章では本邦のウイロイド研究の幕開けとなったホップ矮化病について、まず、発生当時の状況とそれが世界に例をみない新病害であったこと、なぜそんな奇病が突如日本に出現したのか? 背後に潜む伝染源の探索とその結果見えてきたホップ矮化病発生の謎が解き明かされる。病原体というものは病気を起こすことで人々にその存在を知られ世に姿を顕わす。
しかし、彼らは常に病気を起こす存在ではなく、異なる宿主では特段の症状を示さず温存されている。日本に発生したホップ矮化病の背後には世界中で栽培されている無症状の宿主の存在があったのである。 

 第Ⅱ章はウイロイドの基本的性状に焦点を当てている。その本体はわずか数百ヌクレオチドの独自のタンパク質情報さえ担わない小さな環状1本鎖RNAである。しかしそれにもかかわらず、一旦宿主植物の細胞内に侵入すると、全てを宿主の機能に依存して自己複製し、感染細胞から隣接細胞、そして全身へと拡がる。そして、正常な代謝を攪乱して宿主を重篤な病的状態に陥らせ、深刻な農業上の被害を起こすのである。わずか400字詰め原稿用紙1枚程度の遺伝暗号文字(塩基配列)で構成されるRNAの鎖であるが、その中に存在する局所的な塩基配列や特異な分子構造に、複製、植物体内の移動、病原性発現に関わる機能、さらには多様な塩基変異を生み出して様々な宿主に適応する分子進化まで、多才な生物的機能を発揮する要素が詰め込まれていることが理解されるだろう。

 第Ⅲ章は農作物生産の障害となるウイロイド病の伝染・流行を食い止めるための防除法の
進歩と課題を解説している。有効な防除薬剤のない現状、国際的な植物検疫、危険なウイロイドに感染していない健全植物の育成、早期発見のために開発された様々な診断法、ウイロイド抵抗性作物の開発戦略など、多岐にわたる対策を網羅して解説を加えている。

 ウイロイドはジャガイモの病気から発見され、農作物の病原として研究が発展してきたが、第Ⅳ章ではウイロイドの有効利用の試みを紹介している。ウイロイド病の特徴の一つは植物が矮化することである。この性質を農業上の有用形質ととらえ、カンキツ類の矮性栽培に利用しようとする試みがなされたのである。たとえ個々の樹体は小さくなっても密植栽培することで、作業性の向上を図り且つ単位面積当たりの収穫量を上げることができるというのである。

 最終第Ⅴ章はウイロイドとウイロイド病の起源を論じた章である。この奇妙な病原RNAは
どこから来たのだろうか?最小の病原であるウイロイドは、最小の複製体(レプリコン)でもある。生命誕生前の原始地球にはRNAの世界が存在したと考えられている。今、生命の遺伝情報の伝達と機能発現はDNAとタンパク質に担われているが、その出現前、これらの機能は原始的とはいえ両者を併せ持つRNAが担っていたというのである。ウイロイドはタンパク質情報を担わない自己増殖する機能性RNAで、複製にリボザイムというRNAの触媒機能を利用している。すなわち、生命誕生前の原始生命が具備したと考えられる特徴を有することからRNAワールドの生き残りではないかと考えられるのである。

本章では、まず、これまでに提案されたウイロイド起源説を解説し、次に、高等植物でしか
見つかっていないウイロイドであるが、最近、ウイロイドと構造的(環状1本鎖RNA)および機能的(リボザイム)特性を共有する多様なRNA種が様々な生物界から発見されている現状を紹介し、急速に拡大しつつある新たなウイロイド様RNAの世界の将来像を展望している。

 このように本書は、ウイロイドという極小の複製体の分子構造、自己複製・増殖・移動機能、病原性発現機構から診断・防除、利用、そして分子進化と起源まで、ウイロイドとウイロイド病研究の全貌を描いたものである。先日、ある会合でウイロイドに関連した話をした際に、フィリピンの農学系大学院留学生から「ウイロイドという名前を初めて聞いた。あなたがこの研究をするきっかけは何か」という質問を受けた。フィリピンではココヤシを枯らすウイロイド病が大流行した歴史がある。まだまだウイロイドは馴染みの薄い病原のようだ。植物病理学、ウイルス学のほか、生物学、農学、微生物学、感染症学、進化生態学などに関心のある読者にも手に取っていただければ幸いである。
 
 
 
【書影】viroid_cover_frontback_fin02_240818
 
 
『最小の病原-ウイロイド』
佐野輝男 著
弘前大学出版会 刊
3,465円(税込)
ISBN:978-4-910425-16-0
(C3045)
 
2024年12月20日発売予定
https://hupress.hirosaki-u.ac.jp/books/p14560/

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2024年11月11日 第406号

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 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
          古書市&古本まつり 第142号
      。.☆.:* 通巻406・11月11日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見30】━━━━━━━━━━

室蘭市図書館 市民が寄贈した美術書と受け継がれた蔵書 
                           南陀楼綾繁

 9月20日の午前中に、JR室蘭駅に着いた。
 室蘭は港の町である。駅からすぐ近くに室蘭港がある。
 明治中期以降、日本製鋼所、輪西製鐵場(現・日本製鉄)などが設立され、
「鉄のまち」として発展してきた。
 
 この日は6時45分に羽田空港を発ち、新千歳空港、南千歳から函館本線の
特急で東室蘭、そこで室蘭本線に乗り換える。途中、白老駅を通る。2020年に
開館した〈ウポポイ(民族共生象徴空間)〉の最寄り駅だが、車窓からそれらしき
施設は見当たらなかった。
 

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=17790
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。
 
 
X(旧Twitter)
https://twitter.com/kawasusu
 
 
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━━━━【『書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力』】━━━━

全国各地の図書館・資料館の、利用者が普段は入ることができない
閉架書庫に足を踏み入れ、そこで出会った本や資料を紹介するとともに、
書庫内を知り尽くす「ヌシ」のような館員の皆さんに、資料の管理や
活用について取材してきました。全国各地にある15館の図書館・資料館の
魅力の源泉に迫ります!

毎月10日配信号で好評連載中・南陀楼綾繁氏「シリーズ書庫拝見」が
本になります!『書庫をあるく アーカイブのかくれた魅力』は
2024年11月下旬発行予定です。乞うご期待!

『書庫をあるく アーカイブのかくれた魅力』
南陀楼綾繁 著/皓星社 刊/2,530円(税込)/2024年12月中旬
https://libro-koseisha.co.jp/history_culture/978-4-7744-0840-8/
 

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━━━【「令和6年度 古典籍展観大入札会」開催のお知らせ】━━━

古典籍展観大入札会は90年以上続く、年に一度国内最大級のオークション
です。出品品目は江戸時代以前を中心とした版本・写本、それに古筆、
古文書、古地図、錦絵など和漢古典籍が約2,000点並びます。この
オークションではすべての出品物が一般のご来場者の皆様にも、実際に
手にとって間近で見ていただくことができます。

〔一般公開(プレビュー〕
 2024年11月15日(金)10:00~18:00
 2024年11月16日(土)10:00~16:30
 会場:東京古書会館
 主催:東京都古書籍商業協同組合 東京古典会

 東京古典会
 https://www.koten-kai.jp/index/
 

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━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。

「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964

 
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━━━━━【11月10日~12月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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ハンズ横浜・古本市

期間:2024/10/29~2024/11/27
場所:横浜モアーズ6階ハンズ横浜店イベントスペース
 最寄駅:横浜駅西口駅前
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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ショッピングタウンあいたい古本市

期間:2024/11/01~2024/11/30
場所:ショッピングタウンあいたい3階特設会場
 最寄駅:横浜市営地下鉄センター北駅3番出口直結
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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第33回紙屋町シャレオ古本まつり

期間:2024/11/09~2024/11/17
場所:広島市中区紙屋町シャレオ中央広場
URL:https://twitter.com/koshohiroshima

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西武本川越PePeのペペ古本まつり

期間:2024/11/12~2024/11/25
場所:西武新宿線 本川越駅前 ペペ広場

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第11回南大沢古本まつり

期間:2024/11/13~2024/11/19
場所:京王相模原線南大沢駅前
  ~ペデストリアンデッキ~三井アウトレット前特設テント

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秋の古本まつり

期間:2024/11/14~2024/11/25
場所:ジュンク堂書店福岡店 2階 MARUZENギャラリー

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第192回 神戸古書即売会

期間:2024/11/15~2024/11/17
場所:兵庫県古書会館 神戸市中央区北長狭通6-4-5
URL:https://hyogo-kosho.com/

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第4回 高円寺優書会

期間:2024/11/16~2024/11/17
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=726

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第2回 えべっさん古本まつり

期間:2024/11/22~2024/11/27
場所:西宮神社 兵庫県西宮市社家町1-17
URL:https://x.com/Kosyoken_Hyogo

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趣味の古書展

期間:2024/11/22~2024/11/23
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.tokyo

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中央線古書展

期間:2024/11/23~2024/11/24
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=574

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歳末古本掘り出し市

期間:2024/11/27~2024/12/02
場所:岡山シンフォニービル1F  自由空間ガレリア

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浦和宿古本いち

期間:2024/11/28~2024/12/01
場所:さくら草通り(JR浦和駅西口 徒歩5分 マツモトキヨシ前)
URL::https://twitter.com/urawajuku

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五反田遊古会

期間:2024/11/29~2024/11/30
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=567

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西部古書展書心会

期間:2024/11/29~2024/12/01
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=563

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和洋会古書展

期間:2024/11/29~2024/11/30
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=562

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第112回 彩の国所沢古本まつり

期間:2024/12/04~2024/12/10
場所:くすのきホール 西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場
URL:https://tokorozawahuruhon.com/

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歳末赤札古本市

期間:2024/12/05~2024/12/08
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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書窓展(マド展)

期間:2024/12/06~2024/12/07
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=571

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港北古書フェア(12月)

期間:2024/12/11~2024/12/25
場所:有隣堂センター南駅店店頭ワゴン販売 
   センター南駅の改札を出て直進、右前方※駅構内
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2024/12/12~2024/12/15
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=843

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BOOK DAY とやま駅

期間:2024/12/12
場所:富山駅南北自由通路(あいの風とやま鉄道中央口改札前)
URL:https://bookdaytoyama.net/

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新興古書大即売展

期間:2024/12/13~2024/12/14
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=569

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フィールズ南柏 古本市

期間:2024/12/14~2024/12/27
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場  
   柏市南柏中央6-7(JR南柏駅東口すぐ)

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反町古書会館展(12月)

期間:2024/12/14~2024/12/15
場所:神奈川古書会館1階特設会場 横浜市神奈川区反町2-16-10
   東神奈川駅徒歩7分・反町駅徒歩5分 
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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第24回 つちうら古書倶楽部 師走の古本市

期間:2024/12/14~2024/12/22
場所:茨城県土浦市大和町2-1 パティオビル1F
URL:https://x.com/tsuchiura5401

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日本の古本屋メールマガジンその406 2024.11.11

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 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋」事業部
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
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室蘭市図書館
市民が寄贈した美術書と受け継がれた蔵書 【書庫拝見30】

室蘭市図書館 市民が寄贈した美術書と受け継がれた蔵書 【書庫拝見30】

南陀楼綾繁

 9月20日の午前中に、JR室蘭駅に着いた。
 室蘭は港の町である。駅からすぐ近くに室蘭港がある。
 明治中期以降、日本製鋼所、輪西製鐵場(現・日本製鉄)などが設立され、「鉄のまち」として発展してきた。
 
 この日は6時45分に羽田空港を発ち、新千歳空港、南千歳から函館本線の特急で東室蘭、
そこで室蘭本線に乗り換える。途中、白老駅を通る。2020年に開館した〈ウポポイ(民族
共生象徴空間)〉の最寄り駅だが、車窓からそれらしき施設は見当たらなかった。
 
 室蘭駅では二人が出迎えてくれた。
 ひとりは地元在住の東海法夫さん。もうひとりは秋田からやって来た天雲成津子さんで、
この連載の第24回「秋田市立土崎図書館 3人の同級生が遺したもの」にも登場する。
 東海さんの運転で、〈室蘭市図書館〉に向かう。途中、商店街を通るが、シャッターの
降りたままの店が多い。
 
 中心部から少し離れたところに、〈DENZAI環境科学館・室蘭市図書館〉はあった。
2階建てで、1階に図書館、2階にプラネタリウムなどを備えた環境科学館がある。
 
01_front-of-DENZAI
★DENZAI環境科学館・室蘭市図書館
 
「室蘭のプラネタリウムは道内でも早くからあったはずです。私も子どもの頃に行きました」と、東海さんが云う。
 もっとも、そのプラネタリウムがあったのはこの建物ではない。この地には以前、〈室蘭市青少年科学館〉と市立室蘭図書館があったが、建物の老朽化のために閉館し、2021年12月に複合施設としてオープンしたのだ。
 
 同館には「えみらん」という愛称があるが、その由来は「Environment(環境)、Science museum(科学館)、Library(図書館)と、室蘭の「らん」を組み合わせたもの。「えみ」は「笑み」につながり、みんなが笑顔で楽しく使う施設となるよう願いを込めた」とのこと。うーん、こういう館名、最近やたらと多いなあ。
 

『本の話』からの出会い

 館内は新しく広い。ここを見学するのは後回しにして、事務室の奥にある一室に案内してもらう。そこで待っていたのが、山下敏明さんだった。
 
02_Mr.Toshiaki-Yamashita
★山下敏明さん
 
「お久しぶりです。はじめまして」という妙な挨拶になってしまったが、これには理由が
ある。
 
 いまから20年前、私は古本情報誌の『彷書月刊』で「ぼくの書サイ徘徊録」という連載を持っていた。当時、個人のホームページで本について書いている人を見つけ、できる限りお会いして紹介するものだ。ブログが登場する以前の話である。
 その第6回「ウェブで出会った北海道の『生き字引』」(2001年12月号)で、山下さんのことを書いたのだ。
 
「蔵書票」で検索したところ、「本の話」というページを見つけた。その博識と話の持って
行き方のうまさにうなり、他の回も読んだ。「室蘭民報」に連載したものを、誰かがアップしているらしい。
興味を持って、取材を申し込んだ。ご本人から几帳面な読みやすい字で、回答をいただき、
それをもとに記事を書いた。
 
 その後、2004年に室蘭民報社から『本の話』が刊行され、『本の話 続』が2010年に刊行された。1冊目が200回、2冊目が171回で、各冊ざっと1000冊が取り上げられている。
文学、歴史、哲学、政治、科学と広い範囲におよんでいる。
 
03_honnohanasi
★『本の話』正・続
 
 その後は、たまに検索してサイトの連載が続いていることを確認する程度だったが、今年
はじめに意外な出会いがあった。
 先ほど登場した天雲成津子さんが秋田市で運営する会員制私設図書館〈本庫 HonCo〉に
案内され、建築家の西方里見さんと妻の耿子さんに会った。
 
「山下敏明さんをご存じですよね?」と云われて驚く。なんと、ネット上に「本の話」を
アップしていたのは西方さんたちだったのだ。そういえば、記事にも「西方設計」の名前を
記しているのだが、すっかり忘れていた。
 西方里見さんは、室蘭工業大学に在学中、図書館の司書だった山下さんと親しくなり、結婚する際に山下さんに仲人を務めてもらったという。
 
「私の記事に『誤字が多い』って書いちゃってますね」と云うと、「子どもたちに入力してもらっていたから間違いが多いんです。すみません」と謝られる。いやいや、あのサイトがなかったら、私が山下さんを知るのはずっと遅れただろうから、感謝するしかない。なお、
「室蘭民報」「本の話」の連載は現在も続いており、先日900回を突破した。
 その後、西方さんから室蘭市図書館で山下さんとトークをしてほしいという依頼があり、
それだったら、同館で「書庫拝見」の取材もしたいと申し出て、いまここにいるわけだ。
 

美術書を集める〈ふくろう文庫〉

 山下敏明さんは1936年(昭和11)生まれで、今年9月に88歳を迎えたが、いまだに記憶力はたしかだ。
 室蘭に生まれた山下さんは、子どもの頃から本好きだった。両親が本屋でツケで買わせてくれたことから、小学生でいっぱしの蔵書家に。
 明治学院大学卒業後、商社を経て、室蘭工業大学附属図書館に勤務。工学書以外が貧弱だったが、蔵書を充実させた。また、同館を一般に開放する際、市民に蔵書の面白さを伝えるために、「本の話」の連載を始めた。
 
 また、学生ともよく付き合い、西方夫妻を含め何組かの仲人を務めた。いまでも慕う教え子は多く、そのなかに冒頭の東海法夫さんやトークの司会をした根元邦篤さんもいる。
 室蘭工業大の定年退職後、1998年に市立室蘭図書館の副館長に招かれる。
 
当時の蔵書は貧弱で、全道のなかでも購入する予算も少なかったんです。それで蔵書を増やすために、1999年に〈ふくろう文庫〉を設立しました。市の予算に頼らずに、市民から出産、結婚、進学、退職、死亡と人生の節目を記念して寄附していただくことを考えました。
千円でも二千円でも金額の多寡に応じて本を選びます。本には誰それの何々記念による寄贈と入ります」と山下さん。
 
 本そのものを寄贈するのではなく、購入費を寄付するというのが重要だ。
 本がたくさんあるから寄贈したいという声は多いが、図書館の蔵書として受け入れたいと
いう本はわずかだ。以前だと、地元の名士の蔵書をまるごと受け入れて「◎◎文庫」と冠する例は多かったが、いまはスペース的にも人員的にもとてもそんな余裕はない。
 
 しかし、ふくろう文庫では、図書の購入資金を寄贈してもらい、館が購入する本を選ぶ。
それも、普通に流通している本ではなく、美術書、それも精緻な複製本を中心に収集しているのだ。
「岡倉天心は『美術は人生の華』だと云っています。美術書はそれを読む人の人生を潤すもので、時流によって廃れることはありません」と、美術書に特化した理由を山下さんは話す。
 
 寄付を受けると、山下さんはその額に合う美術書を探す。費用を節約するためもあって、
古書店を利用する。以前は全国から古書目録を取り寄せて、細かくチェックしていたが、
付き合いのあった古本屋の閉店が続いているのが悩みの種だ。
 購入した本の見返しには、蔵書票を貼り、寄贈者の名前と寄贈した理由を書く。「どんな人が寄贈してくれたのかを、手に取った人に知ってほしいんです」と山下さん。自分の祖父が
寄贈した本を見に来た人もいるという。本が思い出のよすがになるというのは、素敵な話だ。
 
04_Fukuro-Bunko-bookplate
★ふくろう文庫の蔵書票
 
 見返しには、山下さんが「北海道新聞」に連載していた(現在は休載)蔵書紹介の記事
など、関連記事も貼り付ける。利用者の理解を高めるためだ。
 ふくろう文庫には、現在までに約200人が約6000万円を寄付し、約7000点が収集されて
いる。現在は、ボランティアが運営している。
 ふくろう文庫という名前は、ローマ神話で知恵を司る女神ミネルヴァの肩にとまっているのがふくろうであることに由来する。
 

出版文化を反映する複製本

 山下さんの案内で書庫に入る。
 ふくろう文庫の棚には、大型本が多い。
 ジャンルを無視して、目についた本を挙げると、『釈尊絵伝』(学研)、『手漉和紙大鑑』(毎日新聞社)、『烏丸光広』(小学館)、『レオナルド・ダ・ヴィンチ解剖手稿』(岩波
書店)などなど。
 
05_Mr.Yamashita
★『釈尊絵伝』を示す山下さん。下の棚には『手漉和紙大鑑』が。
 
 
06_Anatomical-Manuscripts
★『レオナルド・ダ・ヴィンチ解剖手稿』
 
 『覆刻渡辺崋山真景・写生帖集成』(平凡社教育産業センター)を出してもらったが、
崋山の写生帖が1冊ずつ精巧に再現されており、木箱に収められている。
 
07_Watanabe's-sketchbooks
★『覆刻渡辺崋山真景・写生帖集成』の一巻
 
 古い時代のものばかりかと思えば、関野凖一郎の版画集『櫓太鼓』(中央公論社)、
『伊東忠太見聞野帖 清国』(柏書房)などもある。
 
08_Chuta-Ito's-Records
★『伊東忠太見聞野帖 清国』
 
 これらの多くは、1960~1980年代に刊行されている。複製には写真、製版、印刷、製本
などで最高の技術が使われており、現在ではこういった豪華本を刊行するのは難しい。また、それを購入できる図書館や大学、愛書家がいたということでもある。
 ふくろう文庫からは、日本の出版文化の高いレベルを感じることができるのだ。
 また、蔵書票を愛する山下さんらしく、関連書の並ぶ棚もある。
 
09_Bookplate-shelf
★蔵書票の棚
 
 一緒に書庫に入った西方さんや根元さんは、自分が寄贈した本を出して眺めている。それぞれに記念の理由があるそうだ。
「先日も、『書道芸術』全20巻・別巻4(中央公論社)を寄贈した室蘭工業大卒で私の仲間が、『最後の別れ』だと見にいらしていました」と山下さんは話す。
 なお、閲覧室にはふくろう文庫の常設コーナーがある。そちらに並べる本は書庫からひんぱんに入れ替え、テーマ別の展示も行なう。8月には1階の多目的室で、『弘法大師行状絵巻』『両界曼荼羅』の複製の展示も行なった。
 
010_Exhibition-Corner
★ふくろう文庫の展示コーナー
 
 あちこちにふくろうの置物があるのは、山下さんがコツコツと集めたもの。「私のふくろう好きを知って寄贈してくださる方もいるんです」と笑う。
 
011_Owl-Figurine
★ふくろうの置物
 

受難の室蘭図書館史

 通路を挟んだ反対には、ふくろう文庫以外の蔵書がある。
 ゆっくり見る時間はなかったが、戦前や終戦後の本が並ぶ一角は、じっくり眺めると面白い本に出会えそうだ。
 
012_Essays
★古い随筆本が並ぶ棚
 
 棚の上の方に、中性紙函が重ねられている。「あれは私が救った本なんです」と、山下さんは話す。
 
013_Neutral-paper-box
★和本を収めた中性紙函
 
 山下さんは前の図書館で、未整理の和本約1000冊を発見。それらは下駄箱のような函に
入れられていた。不要なので廃棄すべきという声があるなか、山下さんが調べると、その中に
貴重書があることが判った。
 
 「青地林宗『気海観瀾(きかいかんらん)』は、日本初の物理科学書です。遠藤通『救荒便覧』は飢饉に対する政策を論じたもので、4冊揃いはほかに所蔵されていません」
 
014_kikaikanran
★『気海観瀾』
 
015_kyukobenran
★『救荒便覧』
 
 これらの和本には「倶楽部図書館蔵書」「室蘭区教育会図書館」の蔵書印がある。
 
016_Ex-library-stamp
★蔵書印
 
 ここで、室蘭の図書館の歴史を平林正一「市立室蘭図書館受難史」(『室蘭地方史研究』)によって見ていこう。
 鉄鋼業の繁栄を背景に大正初期に設立された室蘭倶楽部は、室蘭駅前の区立公会堂の一室に図書室を設けた。その後、1921年(大正10)に在郷軍人分会建物内に〈室蘭区教育会図書館〉が設立され、翌年の市制執行により〈室蘭市図書館〉となった。
 1927年(昭和2)に社会館の2階に開館。1941年(昭和16)、市役所本庁舎の全焼により、社会館が仮庁舎となり、図書館は休館した。同年、別の場所で仮開館したが、戦争の高まりによってふたたび休館した。
 
 終戦後、1948年に室蘭商工会議所の一部で再開するが、1951年の市立病院の火事で商工会議所が入院病棟となり、また移転した。ほかの施設よりも図書館の順位が低かったことは、
行政の無理解から来るものだろう。
 その後、図書館を必要とする声が高まり、1958年に3階建ての新館を設立。やっと独自の
施設を持てたのだ。同館は全道で最古の建物だったという。先に見たように、同館は老朽化のため、2021年3月で休館し、現在の図書館に移った。
「市立室蘭図書館受難史」には、ほかにも、思想取り締まりによる蔵書の押収、戦時中の蔵書疎開、GHQによる閲覧禁止図書、〈室蘭CIE英語読書室〉があったことなど、興味深い事項が並ぶが、ここでは触れない。
 
 それにしても、タイトル通り「受難」だらけの図書館だったのだ。
 山下さんが、初期の図書館の蔵書印のある和本を見つけ出したのは、受難続きのなかでの
ちいさな奇跡だと云えるかもしれない。
 取材を終えた後、郷土資料のコーナーの棚をざっと見る。『室蘭地方史研究』をはじめ、
地元で発行されている研究誌や私刊本が多く、ひと通り眺めるのに1時間かかった。
 その奥には郷土資料の書庫があり、室蘭や北海道に関する資料が並んでいた。
 
017_Archives-of-local-materials
★郷土資料の書庫
 

港の文学館も面白い

 翌朝、駅近くの〈室蘭市港の文学館〉を見学した(以下、『むろらん港の文学館読本』などを参照)。
 同館は1988年に市立室蘭図書館の附属文学資料館として開館。2004年に図書館から分離し現在の名称になった。そして、2013年に元ビールレストランの建物に移転。赤煉瓦の建物で遠くからでも目立つ。
 
018_apperance
★港の文学館外観
 
019_entrance
★港の文学館入り口
 
 ここにはプロレタリア文学者の葉山嘉樹、アイヌ研究の知里真志保、ノンフィクション作家の久田恵ら、出身やこの地に縁のある文学者の展示が数多くある。
 東日本を旅したイザベラ・バードも1878年(明治11)に室蘭を訪れ、「室蘭は絵のように美しい小さな町である」と『日本奥地紀行』で書いた。
 室蘭からは八木義徳、三浦清宏、長嶋有の3人の芥川賞作家を輩出している。このうち八木は、他の文学者とは別に、奥に〈八木義徳記念室〉が設けられている。著書や原稿、色紙、
写真などが豊富だ。同館の展示は手づくり感があって、堅苦しさがないのがいい。なお、同館は、八木や三浦の旧蔵書も所蔵している。
 
020_Yagi-Memorial-Room
★八木義徳記念室
 
 同館では「港の文学館叢書」として、1997年に『八木義徳書誌』を刊行している。これは1986年に八木義徳文学研究会の土合弘光が編んだ『心には北方の憂愁 八木義徳書誌』が
基になっている。八木は、同書が刊行された際の喜びをエッセイで書いている。 
このあと、室蘭の人々にはなじみぶかい測量山に建てられた八木義徳文学碑も見学した。
 
021_literary-monument
★八木義徳文学碑
 
 久しぶりに読み返したくなって、翌日トークイベントを行なった札幌の〈円錐書店〉で
八木の本を2冊買った。
 また、〈秀痴庵文庫〉は実業界で働きながら、雑誌の創刊号などを蒐集した田中秀雄のコレクション。特別に見せていただいたが、文芸同人誌やプロレタリア雑誌に混じって、戦後の
カストリ雑誌や官能雑誌もあるのが面白い。「秀痴庵」という号は、私の好きな何でも蒐集家の池田文痴庵を思わせて親しみが持てる。
 
「港の文学館叢書」の第2巻として、2000年に『田中秀痴庵文庫書誌』を刊行している。
今回は駆け足だったが、この書誌を手にじっくりこの文庫を見学したい。
 
024_syuchian
★秀痴庵の棚
 
 午後にはふたたび室蘭市図書館に行き、「本好き二人によるトークショー」(やや恥ずかしいタイトルだが)に臨んだ。40人以上が集まってくれ、山下さんのテンションも大いに盛り上がった。
 
022_talkevent
★トークの様子
 マイクを持っているのは天雲成津子さん
 
 公共図書館の新設が話題になる一方で、その運営の在り方はあまり注目されていないのが
現状だ。室蘭市図書館には今後とも、市民の力によるふくろう文庫と、受難を経て受け継がれた蔵書を守ることを前提に、新たな図書館づくりに取り組んでほしい。その際には、港の文学館とのコラボレーションも考えてみてはどうでしょう。
 最終日の朝、室蘭駅に行くと、10月1日から無人化すると表示があった。その後の変化を
確かめるためにも、またこの町に来たいと思う。
 
023_muroranstation
★室蘭駅

 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

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2024年10月25日 第405号

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1.企画展「写真植字の百年」
                 印刷博物館 学芸員 本多真紀子

2.『言葉を越えた対象との出会い』
       川島 彬(日本学術振興会特別研究員PD・慶應義塾大学)

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━━━━━━━━━━【学芸員登場シリーズ】━━━━━━━━━━

企画展「写真植字の百年」
                   印刷博物館 学芸員 本多真紀子

9月21日(土)から企画展「写真植字の百年」がはじまりました。写真植字は、
1924年7月24日に日本で最初の特許が出願されました。本展覧会では、写真
植字発明から100年を振り返り、写真植字について、その歴史、役割、歴史、
仕組み、さらに書体デザインをご紹介します。

現在のようにデジタルフォントが用いられる以前は、印刷文字は活字か写真
植字が主流でした。中でも、日本語においては膨大な金属活字を用いる活版
印刷に代わって、写真工学的な原理を使って印字する写真植字が登場した
ことは、活版印刷の煩雑さを解消する画期的な出来事でした。
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=17330
 
 

━━━━━━━【大学出版へのいざない23】━━━━━━━━━

『言葉を越えた対象との出会い』
(〈善〉のイデアと非命題的なもの―プラトン『国家』)

         川島 彬(日本学術振興会特別研究員PD・慶應義塾大学)

 プラトンの主著『国家』は謎に満ちた書物である。同対話篇はソクラテスの
「僕は下って行った(κατέβην)」という言葉から始まる。ソクラテスが
アテナイ市から下った先の外港ペイライエウスは、対話が設定されている
年代の後、ペロポネソス戦争終結後の混乱期に、三十人政権の手による
惨劇の舞台となった場所である。冒頭のソクラテスの言葉は、外の世界を見た
元囚人の洞窟への「下降」が語られる、第七巻の「洞窟の比喩」を暗示する。

 他のすべてのイデアを超越しつつ、それらに可知性と実在性をもたらす
〈善〉のイデア──これこそが「学ぶべき最大の事柄(μέγιστον μάθημα)」で
あるとも言われる──
 
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=17321
 
 
〈善〉のイデアと非命題的なもの―プラトン『国家』篇研究―
川島 彬(日本学術振興会特別研究員PD・慶應義塾大学) 著
東北大学出版会 刊
4,950円(税込)
ISBN:978-4-86163-397-3(Cコード:3011)
第20回 東北大学出版会若手研究者出版助成刊行図書

好評発売中!
https://www.tups.jp/book/book.php?id=481
 
 
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━━━【「第64回東京名物神田古本まつり」開催のお知らせ】━━━

およそ130軒の古本屋が軒を連ねる世界最大の古書の街 “東京・神田神保町 ”
街じゅうが古本と人で埋め尽くされる待望の季節が今年もやってまいりました。

靖国通り沿いに100台を超えるワゴンを並べ、書店と書棚に囲まれた
約500mにおよぶ「本の回廊」が出現します。古書好きにはたまらない
11日間になること間違いなし。古書を片手に神保町散策。みなさまの
お越しを心よりお待ちしております。

〔青空掘り出し市〕
 【期 間】 2024年10月25日(金)~11月4日(月・祝)
 【時 間】 10:00~18:00(最終日は~17:00 ※雨天中止)
 【会 場】 神田神保町古書店街(靖国通り沿い・神田神保町交差点)

 BOOK TOWN じんぼう
 https://jimbou.info/

 ★最新情報はこちら
 神田古本まつり公式X(旧Twitter)
 https://twitter.com/kanda_kosho

━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。
 
「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━━━

書名:「戦前モダニズム出版社探検 金星堂、厚生閣書店、椎の木社ほか」
著者名:高橋輝次
出版社名:論創社
判型/ページ数:四六/408頁
税込価格:3,300円
ISBNコード:978-4-8460-2405-5
Cコード:C0095

2024年11月8日発売予定
https://ronso.co.jp/

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「地域人ライブラリー」
大正大学創立100周年(2026年)を記念して、2024年11月に「地域人
ライブラリー」を創刊。「地に生きる、地を生かす」をコンセプトに
発行してきた雑誌『地域人』(2015年9月〜2023年5月)の連載や
特集を再構築した新シリーズで、その理念を踏襲し、地域創生に
資する書籍シリーズを発行していきます。

「生きものを甘く見るな」/養老孟司 著
「生きるための農業 地域をつくる農業」/菅野芳秀 著
「本」とともに地域で生きる/南陀楼 綾繁 著

書名:地域人ライブラリー
編集長:渡邊直樹
出版社名:大正大学出版会

2024年11月5日創刊
https://www.tais.ac.jp/guide/research/publishing/

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書名:在日コリアン翻訳者の群像
著者名:斎藤真理子
発行・発売:編集グループSURE
判型/製本形式/頁数:四六判/並製/160頁
価格:2,640円(税込)

好評発売中!
https://www.groupsure.net/

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「大学出版へのいざない」シリーズ 第24回

書名:最小の病原-ウイロイド
著者名:佐野輝男(弘前大学名誉教授)
出版社名:弘前大学出版会
判型/製本形式/頁数:A5判/上製/350頁
税込価格:3,465円
ISBNコード:978-4-910425-16-0
Cコード:3045

近日出版予定
https://hupress.hirosaki-u.ac.jp/

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━━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━━
10月~11月の即売展情報

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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日本の古本屋メールマガジン その405・10月25日

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東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
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『言葉を越えた対象との出会い』
(〈善〉のイデアと非命題的なもの
ープラトン『国家』篇研究ー)【大学出版へのいざない23】

『言葉を越えた対象との出会い』

川島 彬(日本学術振興会特別研究員PD・慶應義塾大学)

 プラトンの主著『国家』は謎に満ちた書物である。同対話篇はソクラテスの「僕は下って行った(κατέβην)」という言葉から始まる。ソクラテスがアテナイ市から下った先の外港
ペイライエウスは、対話が設定されている年代の後、ペロポネソス戦争終結後の混乱期に、
三十人政権の手による惨劇の舞台となった場所である。冒頭のソクラテスの言葉は、外の
世界を見た元囚人の洞窟への「下降」が語られる、第七巻の「洞窟の比喩」を暗示する。

 他のすべてのイデアを超越しつつ、それらに可知性と実在性をもたらす〈善〉のイデア──これこそが「学ぶべき最大の事柄(μέγιστον μάθημα)」であるとも言われる──の構想が語られるのも、プラトンの対話篇中、「洞窟の比喩」を含む『国家』中心巻(第五〜七巻)の文脈においてのみである。しかし「洞窟の比喩」、先立つ「太陽の比喩」、両者を架橋する「線分の比喩」のいずれも、従来大きな解釈論争の的となってきた。プラトンの意図するところは、比喩によって、そして対話篇という形式そのものによって、いわば二重に隠されている。だがこれらの比喩は、ソクラテスが哲学者とはいかなる者なのか、哲学とはいかなる営みなのかを最高原理たる〈善〉と結びつけて語る文脈の内にある。およそプラトン哲学に関心があるすべての人にとって、避けては通れない重要箇所であるのは間違いない。

 本書が目指したのは、その(ある意味では)極めて難解な『国家』という対話篇をプラトンの認識論に即して読み解くことである。

 第一章で、『国家』第五巻末尾の議論(同対話篇ではここではじめて「イデア論」が登場する)に解釈を与えながら全般的な読み筋を提示し、続く諸章でその読み筋を肉付けしていく、という方針を取った。その際、プラトンが論じる「知識(ἐπιστήμη)」、あるいはそれと
対比される「思いなし(δόξα)」の、直観的側面や非命題的側面を強調した。プラトンは「知識」や「思いなし」などの認識状態を、それと相関するさまざまな対象──それぞれ異なる程度の実在性を有する──に応じて区別しているのであり、その内実は命題(主述の構造を持つ文)の形で書き尽くすことはできない。これは同時に、プラトンが議論している「知識」や「思いなし」を、ある特定の命題を知ったり信じたりすることとして解する、現代英語圏で顕著な解釈路線への抵抗の試みでもある。

 以上のような読み筋をとろうと決めたのは、哲学とは何かそのようなものだという実感が、筆者にはあったからである。何か新しいもの、素晴らしいものと出会うことによって、人生は転換を迎え、先へと進む。筆者にとってそれは、高校時代のプラトンやデカルト、安部公房との出会い、大学進学以降の仙台、バークレー、東京などでのさまざまな人々との巡り会いであった。言葉のやり取りによってもたらされる、言葉を越えた対象との出会いという発想を
プラトン哲学の根幹に見出すことは、テクスト的に十分可能であるだけでなく、意味があると思えたのだ。

 本書は2020年に東北大学に提出した博士論文が核となっているが、大幅な加筆・修正を施した。種々の制約から、博論では論じ切れなかった点がいくつもあったためである。実を言えば、プラトンで博論を書こうと決心したのは、高校生の頃だった。当時の筆者には、薄暗い教室で一斉に受験勉強に励む自分たちの姿が、洞窟の囚人の姿に重なって見えていたのかもしれない。本書を上梓することによって、高校生の自分との約束をようやく果たすことができた──そんな気がしている。

 
 
 
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『〈善〉のイデアと非命題的なもの
―プラトン『国家』篇研究―』
川島彬 著
東北大学出版会 刊
4,950円(税込)
ISBN:978-4-86163-397-3
(C3011)
第20回 東北大学出版会若手研究者出版助成刊行図書
 
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