大阪古書組合百年史書影

まもなく発売開始!『大阪古書組合百年史』

まもなく発売開始!『大阪古書組合百年史』

『大阪古書組合百年史』編纂委員会
坂本卓也(一冊堂)

 2022年の7月より編纂を開始した『大阪古書組合百年史』が、昨年末に無事完成しました(現在予約受付中)。
 2年半にわたる編纂活動となりました。大阪古書組合としては、創立以来初めて完成させる
組合史となります。
 21名の編纂委員、そして6名の編集部員。また、40名を超える組合員に原稿の執筆、
座談会への出席をお願いしました。さらに多くの方々から資料の提供を受け、それらがすべて
合わさって今回の『大阪古書組合百年史』へと実を結びました。

 大阪古書組合の創立は1924(大正13)年7月26日でした。発会式を行った場所は大阪
中之島の中央公会堂。この度百周年を記念して行う講演会、式典の会場も、百年前と同じ中央
公会堂を選びました。
 大阪古書組合の創立と同時に創刊された「大阪古書月報」には、発会式の模様が次のように
記述されています。

「幾多の波乱重畳を経来りしも、遂に其の発会式を今日大正十三年七月二六日大阪中央公会堂に於て挙行するに至れり。当日は炎天下将に華氏九十五度を突破するにも拘はらず、熱誠なる
組合員は正午頃より陸続と会場に詰め懸け、さしも曠々とした場も釜中に在る如く蒸暑く、
何となく緊張の気分は漲り、来会者は開会前既に百を以て数えられた。午後一時を過ぐる頃、
満場の拍手に迎へられて会員森谷清松氏先づ壇に登り開会を宣し、茲に始めて大阪古書組合
発会式の幕は切って落された。」

 発会式当日に報告された組合加入者総数195名。ちなみに当時の記録では、東京組合の
加入者は580、京都組合120、神戸組合80だったそうです。
 大阪古本界の推移」(高尾彦四郎)に次のように書かれています。「明治初年以降本屋の
最も多く集まって居たのは心斎橋筋でありました。私が業界に入った頃はその数が余程少なく成っておりまして凋落を見せておった頃であります。寧ろ中心は北区の福島界限であった様です。即ち教育の普及に依る学校の新設などの関係で、当時は主として重点は北方面にあったからでもあり、福島より浄正橋筋にわたって古本屋が集団の形態をとっておりまして、大阪に
於ける中心の観がありました。

(略)さて時勢の変遷と共に大正十年前後頃より古本屋の中心は北より南へと移って参りまして、日本橋筋に古本屋が多く成ったのも主として南方面に多数の新設学校が増設又は移転の
結果、交通上からも地理的に見ても当然の事でありまして、松葉書店、杉山書店は共に北より
移住せられたのであります。」(昭和11年5月)

 大正、昭和、平成、そして令和へと続く大阪古書組合の歴史。その百年の歩みを一望した
『大阪古書組合百年史』は、大きく5つの編に分かれ、さらに資料編、年表、組合員名簿などが掲載されます。
 本書の柱となる第1編は、創立以来の通史である「大阪古書組合史」。この他、第2編の
大阪の交換会の歴史、第3編即売会の歴史、第4編古書目録の歴史が続きます。第5編では、
現役組合員の寄稿文、座談会の他、過去の「大阪古書月報」から、選りすぐりの文章と座談会を収録しています。

 先ほども申し上げた通り、大阪古書組合は創立と同時に、組合機関誌である「大阪古書月報」を創刊しました(創刊号のタイトルは「大阪古書組合月報」)。その後現在に至るまで通算で
550に近い号数の「月報」を発行し続けています。
 また重要なことは、これまで発行された「月報」は、ほぼ100%に近い形で組合に保存されていることです。

 『大阪古書組合百年史』は、この「月報」を基礎資料とし、最大の拠り所にして作成されました。百年にわたる営々たる努力で「月報」をつくり続けた先人の熱意、そして欠号を執念深く探しだし、大切に保管しつづけてきた尽力がなければ、今回の組合史はこのような形で完成させることはできませんでした。「月報」編集に携わった先輩諸氏に、この場をお借りして心からの
敬意を表するものです。

 大阪の古本屋、そして大阪古書組合の苦闘の歴史をぎっしりと詰め込んだ『大阪古書組合百年史』。古書をこよなく愛し、古書に憑りつかれた古本屋たちの物語です。
多くの皆様方のお手元に届くことを願ってやみません。
 
 
大阪古書組合百年史書影
 
書名:『大阪古書組合百年史』 創立百周年記念誌
発行元:大阪府古書籍商業協同組合
判型/ページ数:A5判/746頁※限定1,000部
販売価格:8,000円(税込) 
予約限定価格7,200円(税込)送料600円
予約期間:令和7年1月1日~1月31日まで

令和7年1月1日より予約受付中!
https://www.osaka-kosho.net/news/2027/

Copyright (c) 2025 東京都古書籍商業協同組合

本とエハガキ① エハガキを買って集める歴史

本とエハガキ① エハガキを買って集める歴史

小林昌樹

エハガキを集める趣味

 それまでヤフーオークション(以下、ヤフオク)でちらほら見かけていたのだが、2006年ごろ、本についてのエハガキを集めたら面白いだろうと気付いた。
 ちょうどその頃にヤフオクで「簡単決済」というヤフオクが代行で支払いを済ませてくれるシステムが導入され、お金のやりとりが簡単になったことも大きなきっかけである。
 本自体を写したエハガキ、本屋開店の記念エハガキ、図書館開館記念エハガキ、ただ本を
読んでいるだけの姿を写したエハガキなどなど、数千枚集まったので何回かにわけてちょっと
みなさんに紹介しようと思う。

写真の戦前エハガキは自由に使える

 ちなみにエハガキは、絵画のはがきと、写真のはがきに分けられるが、私の場合、史料としてのエハガキに興味があるので写真エハガキを中心に話したい。写真エハガキの場合、1956(昭和31)年までに公表された写真の著作権は現在、すべて消滅しているので、ネットでの
紹介や議論に無条件で自由に使用できるのも嬉しいところだ。絵画のエハガキだとそうはいかない。

買って集める

 本のエハガキを紹介する前に、エハガキ自体の歴史、それもエハガキを買って集める趣味のことを極く簡単にエハガキで説明する。
 私製はがきの発行が許可されたのは1900(明治33)年で、同時に民間出版のエハガキが出回り始めるのだが、実際にエハガキを集める趣味がブームになったのはそれより少し後、日露戦争の頃からという証言が残っている。
 【図1-1】を見てほしい。「神田郵便局戦役紀年絵葉書発売光景」(交通学館発行)と題されたエハガキで割と有名なものである。1905(明治38)年、日露戦争の記念エハガキが郵便局から売り出されて数千人が列をなしている写真を載せたエハガキだ。エハガキが大ブームになっていたことがよくわかる。

図1-1
【図1-1】「神田郵便局戦役紀年絵葉書発売光景」(1906)

エハガキを「読む」

 せっかくなのでこのエハガキを細かく読んでみよう。
 キャプションから場所は神田、写真の構図とキャプションから木造二階屋にならんで右に
尖塔つきの白い大きな洋館が神田郵便局だとわかる。写真エハガキは何が映っているか、
キャプションから明示されるのが非常にありがたい。たまに骨董市などでアルバムから
剥がされた古写真が売られているが、裏に説明の書き入れがないと何かわからないので手が
出せない。
私はエハガキの一番の史料価値はキャプションが(写真とセットで)あることだと思っている。
 写真の枠にあしらわれている絵も凝っている。写真の上段は各種エハガキを手に取るおそらくご婦人の手や、アルバムが描かれている。下段は記念の消印を押印する郵便局員だ。

エハガキの発行年は印字されないが

 日本のエハガキは発行年がわからないことになっている。
 ここでは、記念に押印された青色スタンプ「祝日米階梯電線開通記念/39-8-1」から、
発行日は写真が撮影された翌年、1906(明治39)年であることがわかる。映っている事物やスタンプの日付から発行年がわかることがある。

絵葉書屋という業種

 【図1-1】は官製エハガキの発売風景だったので郵便局でそれが買えたことが一目瞭然である。それに対して私製エハガキは、もちろん小間物屋でも買えたろうが、戦前は「絵葉書屋」という専門店が成立していた。
 【図1-2a】は、ありがちな土産もの用名所エハガキの一枚だが、横浜の伊勢崎町の商店街だということがわかる。商店街の右端に「エハガキ問屋/トンボヤ」が映り込んでいることがわかるだろうか。太い丸煙突に「ヱハカキ」と白く描かれている。

図1-2a
【図1-2a】「横浜伊勢崎町通」

 年代はにわかには判らない。自転車が映り込んでいることから大正期のような気がするが、こういう場合には裏(正式には表面)を見ることになっている。

図1-2b
【図1-2b】「横浜伊勢崎町通」表面

 【図1-2b】は「横浜伊勢崎町通」表面だ。残念ながら消印の年月が読めない。また貼付された切手、一銭五厘は1899年から1932年のはがき料金だったので年代が広すぎる。そこで
従来から言われている表面の様式パターン【表1-1】に当てはめることになる。

【表1-1】様式による年代推定表(あくまで目安)
※ブログ「レトロの小部屋」を参考にしました。
 
 通信欄の罫線が1/2の部分にあり、「郵便はかき」の表記が「が」でなく「か」であることからパターンc、つまり1918年から1933年までに発行されたらしいと判る。
 「トンボヤ」の隣に建っている「書肆勉強堂」が、1910(明治43)年の『日本信用録』に出てくること、トンボヤ自体が、1917(大正6)年の『横浜社会辞彙』に吉村清が経営する
絵葉書屋として出てくること、二軒先の大店が土蔵造りの「店蔵」になって江戸式であることから、横浜が壊滅した関東大震災(1923年)以前の撮影と思われる。1918〜1923年の発行と見たい。

絵葉書屋とは

 適宜写真を取り、エハガキに仕立て売り出す「絵葉書屋」という職種があった。各種百科
事典には(ウィキペディアにさえ)出ず、『日本国語大辞典』に項目があるくらいだが、新聞データベースなどを検索すると、やはり日露戦争あたりから出現し、さきの大戦時になくなったようである。

 【図1-3】は仙台名所エハガキの一枚「東一番町の賑ひ」だが、左に大きく絵葉書屋が映り込んでいる。看板を読むと、こんな感じだ。「人物並景色/出張撮影御依頼ニ応ス/佐藤絵葉書店/写真部」「陸軍御用/仙台写真版印刷所/佐藤絵葉書店」。
 写真店とことなり、人物や景色を出張して撮影してくれ、エハガキを作ってくれるというわけだ。大口の顧客に現地の陸軍があったこともわかる。

 表面の形式はパターンcで、1918〜1933年のエハガキだが、往来の人物の服装や傘の形から、なんとなく、大正期のように思われる。佐藤絵葉書店は明治末から佐藤徹二によって経営されていたようだ(『仙台市案内』大内励三、1911)。

図1-3
【図1-3】「(仙台名所)東一番町の賑ひ」

様々なところで売られたエハガキ

 しかし、絵葉書店でだけエハガキは売られたわけでもなかった。もう二枚ほど紹介する。
 【図1-4a】は表がパターンbなので1907〜1918年ごろの神戸市のエハガキである。右端に「油絵絵葉書/綿谷□□/書籍雑誌商」という看板の商店が見える。確証が取れないが、綿谷奈良松がやっていた綿谷盛文堂という書店の可能性がある(『神戸市要鑑』1909、『帝国
信用録 第25版』1932)。

図1-4a
【図1-4a】「神戸多聞通七丁目」(1907〜1918年ごろ)

 スキャンしたものを拡大してみると【図1-4b】、縦5枚、横7枚で並べられているエハガキ掛けを立ち見している人がいるのがわかる。

図1-4b
【図1-4b】書店・綿谷盛文堂か

 【図1-5】は川越で「エハガキとレターペーパー」を売っていた「早川アサヒ堂」が真ん中に映り込んでいる。表面の形式はパターンcだが、キャプションから川越に市制が施行された1922(大正11)年に発行されたことが判る。このエハガキは「(早川アサヒ堂発行)」と
印刷されているので、この絵葉書屋は小売をするだけでなく、エハガキを発行していることが判る。実際、写真エハガキで絵葉書屋や書店が映り込んでいる場合、そのエハガキを発行している店であることが多い。

【図1-5】「(川越市制記念)志義町通りの実況(1922年か)
【図1-5】「(川越市制記念)志義町通りの実況」(1922年か)

エハガキの本

 エハガキの歴史について、いくつか文献を紹介する。
 エハガキの世界史については、次の細馬宏通の本がいちばんしっかりしていて読みやすい。
・細馬宏通『絵はがきの時代 増補新版』青土社、2022

 日本の写真エハガキについては、あまり有名でないが、次の展覧会図録がいちばん視野が
広く、本文もフルカラーで良い。20年以上前の本だが、古書でも買えるし、博物館からもまだ買えるようだ。アカデミックなエハガキ研究については本書巻頭論考を書いた佐藤健二の研究を追っていくと学術研究が追いかけられる。
・[東京都]新宿区立新宿歴史博物館編『巷(ちまた)の目撃者:絵はがきがとらえた明治・大正・昭和:新宿歴史博物館特別展図録』[東京都]新宿区教育委員会、1999

 次の本はコレクターによる絵のエハガキを含めた全体のカタログ的解説。
・生田誠『麗しき日本絵葉書100の世界』日本郵趣出版、2009

エハガキ収集の超略史

 本の収集史に興味がある延長線上で、エハガキ収集史にも興味がある。最初の大ブームが
日露戦争時にあったことは有名な話だが、その後の収集趣味の展開はよくわからない。
収集側、つまり受容者/消費者側でなく生産/流通側からの研究は、出版史研究の一環で金沢文圃閣が『絵葉書関係資料コレクション-出版/流布/収集』を出し始めたところである。

 戦前は絵葉書屋があってエハガキを買えたし、明治期には『ハガキ文学』『絵葉書世界』といった専門雑誌があって、それで連絡をとりコレクターが交換をしていたようだ(『巷の目撃者』参照)。この時代のことは残された専門雑誌などをこれから総覧すれば追々わかることだろう。その後は「趣味誌」をたどらねばならないが、これもまた散逸が激しい。

 エハガキ収集趣味が途絶えたのは戦中期のことと思われる。これはあらゆる趣味が中断したからと考えてよいが、戦後途絶えてしまったようだ。戦前エハガキの主題の広さ――ほぼありとあらゆる事柄が絵になり写真になりしている――は戦後、復活しなかった。大正期から写真画報類が流通しはじめ、ビジュアル資料のニーズがそちらへ奪われたからかもしれない。

 実は戦中期、明治新聞雑誌文庫を創った宮武外骨が膨大な枚数のエハガキを集め、それから選りすぐった2万8千枚を230冊のアルバムに編成したが(金丸弘美編『宮武外骨絵葉書コレクション』無明舎出版、1997)、これも氷山の一角ということになる。

 小森孝之『絵葉書:明治・大正・昭和』(国書刊行会、1978)といった先駆例はあるが、おそらく1970年代が古エハガキがいちばん価値が落ちていた時代と思われる。箱一つ分でもさして古書価が付かなかったとどこかで読んだ憶えがある。これは絵画エハガキを中心にしたものだが、フランス人のフィリップ・バロスによるエハガキ展覧会が1992年にそごう美術館で開催され、エハガキの再評価につながったようだ(そごう美術館編『絵はがき芸術の愉しみ展:忘れられていた小さな絵 フィリップ・バロスコレクション』朝日新聞社、1992)。

趣味団体、日本絵葉書会ができたのが2002年のことだった。
 
 

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破棄する前に2
色川大吉氏と『宮澤賢治名作選』

破棄する前に2
色川大吉氏と『宮澤賢治名作選』

三昧堂(古本愛好家)

 前回取り上げた恩田逸夫と小沢俊郎氏に続き、同じく戦場・軍隊から大学に復学した研究者の宮沢賢治との関りについて続けたい。

 日本近代史・思想史研究者色川大吉氏の『わだつみの友へ』(同時代ライブラリー164、1993)は、学徒出陣から復学した当時の若者・研究者の心情を伝える名著である。しかも
宮澤賢治が当時彼らにどう読まれていたかもわかって興味深い。

 色川氏は昭和19年夏、大学に籍をおいたまま海軍に入隊し、土浦航空隊に配属になる。
その入隊前に読んでいた本について、同書の「汚辱の時代」に書いている。「入隊の直前まで、私たちがどんな本を読んでいたか。日記から拾ってゆくと慄然とする。ハウスホッパー(佐藤壮一郎訳)『太平洋地政学解説』、アドルフ・ヒトラー『演説集』『ナチス国家
原理』、エス・ニールス(久保田栄吉訳)『ユダヤ議定書』、四天王延孝『ユダヤ思想及
運動』、それにローゼンベルクやシュペングラーの著書、由良哲次らの日本国体合理化の
『実践哲学』等々であった」「シオニズムの恐ろしさを信じこみ、人類の救主としてナチスを支持しながら、大量虐殺の心理的な準備をしていたのかと思うと、ほとんどいうべき言葉を
失う」と。
 
そして「いっぽうで私たちは生命的なものを求めていた。ゲーテの『ウイルヘルム・マイスター』、ヘッセの『デミアン』、カロッサやロダンやブールデルやベートーベンなどのエッセイや書簡集、そしてもっとも自然な形で、もっとも温かく私たちの心に浸みていた宮沢賢治の思想。入隊の前日、私は賢治の『雁の童子』を読んで、その透き透るようなヒューマニズムに深く深く打たれた」と。

 戦前、賢治の童話は、『注文の多い料理店』もしくは文圃堂書店の全集(昭和9~10年)か十字屋書店版全集(昭和14~19年)、羽田書店の松田甚次郎編『宮澤賢治名作選』(昭和14)、八雲書店の1冊だけ刊行された「宮沢賢治作品集」『フランドン農学校の豚』(昭和18)で読めたが、文圃堂版全集と『注文の多い料理店』は当時でも学生には手が出なかっただろう。羽田書店版『宮澤賢治名作選』には「雁の童子」も収録されている。八雲書店版には未収録である。

 色川氏は2017年、第27回宮沢賢治賞・イーハトーブ賞を受賞し、「宮沢賢治の国際主義と非戦思想―戦中派世代に深い影響」と題した記念講演をされている(『イーハトーブの森で
考える―歴史家から見た宮沢賢治』河出書房・2019に収録)。そこで「わたしは戦争中から宮沢賢治の作品は読んでいました。賢治は昭和八年に亡くなっているんですね。わたしはそれから十年後の、昭和十八年に東京大学文学部に入って、そのとき松田甚次郎さんが編纂されていた『宮澤賢治名作選』という本を読んだのです。これを同級生で読み合い、勉強会もやっていた」と話している。賢治童話は子供の読み物の域を超えて大学生に熱心に読まれていたことがわかる。

 「雁の童子」は、賢治が興味を抱いていた、中央アジア西域での古代都市発掘という状況を基に描いた「輪廻転生」の物語で法華経思想が非常に色濃い作品である。色川氏が「透き透るようなヒューマニズム」を読み取ったのはどんな点だろうか。小埜裕二氏は「慈悲と空間―
宮沢賢治「雁の童子」論」(上越教育大学紀要25巻・平成18)で、「賢治は現実世界を
〈修羅の世界〉と観じ、そこから救われよう、人々を救おうとする童話作品を創りだしていく一方、「天の童子」の思いに見られるような、現実世界の生あるものに情愛のまなざしを向ける慈しみの目をもっていた。
 
仏教が説く、業によって無限に転生を繰り返す、気が遠くなるような輪廻転生の理法のなかに〈再会の喜び〉をあじあわせる〈繰り返される因縁〉の存在を提示することは、(略)「天」へと昇り、仏の世界へ近づいていこうとするものにとっての救いとなる」と書いている。死を覚悟せねばならなかった当時の学生達には切実な思いで読まれたのだろう。文学に限らず芸術品は受容される時代状況の中で意味合いを変える。

 色川氏は『わだつみの友へ』で同期入学、しかも同じ土浦航空隊に配属された青村真明という若くして亡くなった歴史家について書いている。まさに親友と呼べる存在だったようだ。
昭和28年肺結核により29歳で亡くなるのだが、翌年研究者仲間によって『青村真明遺稿集』(同刊行委員会・日本近代史研究会)が刊行される。この本は幸い「日本の古本屋」で入手出来た(有難いサイトである!)。

 遺影、刊行のことば(服部之総が書く予定だったが病気で叶わず、日本近代史研究会として代筆)、論稿7編、書簡70通、追憶として27名の追悼文(母青村武子、色川、小西四郎、松島栄一、遠山茂樹、吉沢忠、宮川寅雄など)、年譜が収められている。

 書簡には色川氏宛ての12通が収められているが、昭和21年2月21日の書簡に次の様な件がある。「兄が六日附で出した葉書昨十一日午後着いたので今日早速神田へ行った所、兄の依頼の賢治全集時既に遅し二、三日前に交換して行ったと云う光明堂(三光堂の隣)主人の話。
後の祭りで空しく長蛇を逸してすごすご帰ってきた。誠に期待に応えられず済まなく思う。
罪は何にあるか知らぬが縁がなかったものと諦めてくれ。尚新聞広告で承知かと思うが建設社内の日本読書組合で近刊予定になっている賢治全集(全八巻)でも申し込まれたら如何。
 
俺も一週一回位神田へ行くが賢治全集は珍本で容易に見当たらず、少なくとも俺の見た限り
去年の十月から今日まで名作選といい全集の一部といい本屋の交換棚に出たことがない始末だ。小生も名作選を求めているが縁がないのか遭遇しない」。ここで言っている全集は文圃堂版ではなく十字屋版であろうが、この時代は入手困難であったことがわかる。十字屋の戦後版は昭和22年からの刊行である。日本読書組合版『宮澤賢治文庫』全6冊は昭和21年12月からの刊行であった。
 
光明堂という古本屋は知らないが三光堂はつい最近まであった新刊書店(日本文芸社ビルの隣)である。交換棚というのは当時古本が不足して購入するためには交換する古本を持っていく必要があったのだ。全ての古書店がしていたわけではないと思う。ともかくも当時良質の
古書は不足していたのである。古本屋にとっては絶好機だが商品の仕入れも難しかったのだろう。

 色川氏は戦時中に『宮澤賢治名作選』を友人と読み合い勉強会も開いたと書いている。彼らは当時同書をおそらくそれぞれに所持していたが、出征する際に処分したり、蔵書を戦災で焼失したのであろう。

 去る11月に神奈川近代文学館で開かれていた「安部公房展」を見てきた。展示入口に三浦
雅士氏の言葉があって、安部の最後の作品『カンガルーノート』と賢治の『銀河鉄道の夜』は対応しているとあり、そうなんだと思ったが、安部が保管していた文庫本が展示され、その中に古色を帯びた新潮文庫『宮澤賢治集』があった。これは昭和24年7月刊行の古谷綱武編集の文庫である。この文庫、当時の読者の渇を癒したことだろうと思う。阿部は1924年、色川は1925年の生まれである。

 恩田や小沢の参加した宮沢賢治研究会の機関誌「四次元」第2巻9号(昭和25年10月)に「宮澤賢治についてのアンケート」が掲載されている。新居格、正富汪洋、荻原井泉水、古谷綱武、串田孫一など29名が回答している。質問は4項目で1番目が「宮沢賢治を知った動機」である。岡本潤や竹内てるよは、自らも同人だった「銅鑼」でと答えているが、竹下数馬、
小沢俊郎、阿部次郎、藤森朋夫、恩田逸夫の4名は、『宮沢賢治名作選』もしくは羽田書店の本でと回答している。小沢俊郎氏が「尊敬する一先輩より推薦されて「風の又三郎」(羽田書店)を読んでから」と書いているのは、恩田が「高等学校の時、盛岡出身の友人が「名作選」を持っていたので始めて彼の名を知りました」と回答しているから、恩田から『名作選』を教えられ「風の又三郎」を読んだのであろう。戦時中から終戦直後にかけて宮沢賢治が受容されていく中で『宮澤賢治名作選』の果たした大きさを感じる。

 ところで、恩田、小沢両氏には賢治の童話に関する論稿が少なくないが、タイトルに「雁の童子」をあげているものは無さそうである。恩田逸夫著『宮沢賢治論』3「童話研究他」に「宮沢賢治と天の童子」があり、恩田氏の賢治研究のキーワードともいえる「まことのちから」の視点から取り上げられているが「雁の童子」が中心テーマではない。『小沢俊郎 宮沢賢治論集』3冊には収録がない。「雁の童子」を論じたものとして先に小埜裕二氏の論考を
紹介したが、分銅惇作には「「雁の童子」―旅の意識と信仰の課題」と題したとした論稿
(双文社『宮沢賢治作品論』収録・昭和56)があり、未見だが杉浦静氏に「『雁の童子』序説―天人、壁画の中の子供らの系譜」(「国文学解釈と鑑賞」第53巻2号・1988)があるが、「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」などに比べれば論稿数は多くないようである。しかし、出征直前の色川氏のこころを揺さぶったのは「雁の童子」であった。
 
 
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〇金子民雄『宮沢賢治と西域幻想』

 ここからが「破棄する前に」に関する事項になるが、『動乱の中央アジア探検』『東ヒマラヤ探検史』『ヘディン伝』などの著書のある金子民雄氏に『宮沢賢治と西域幻想』(中公文庫・1994。元版1988白水社版の増補改訂版)がある。西域好きの金子さんが、語弊があるのを承知で言えば強引に賢治と西域を結び付けて論じた本だろうと思っていた。しかし小埜氏の論考を読んで、以前ブックオフで買ったこの文庫を持っていたのを思い出した。書庫からようやく見つけ出して中をみて、恐らくこの著書が「雁の童子」に関する最も詳しく重要な文献であると、素人なりに直観した。

 巻頭「西域童話三部作」に次のように書いている。「西域童話というのは、いつごろからか賢治の作品研究者によって仮に呼ばれるようになったもので(略)賢治は自分から「西域
童話」とは言わなかったが、「西域異聞」という名称では呼んでいた。それは、現在、草稿で遺されている童話「雁の童子」の原稿の題名の右方に、赤インクで「西域異聞〔とも云ふべき(削除)/三部作中に/属せしむべきか〕と、記入してあったことによる」(略)「西域童話の三部作を、どれとどれに限定して呼んだのかということを記していない。
 
しかし、これは明らかに前後の事情から、「マグノリアの木」「インドラの網」「雁の童子」の三作品を、こう呼んだらしいことが推測される」「賢治が一生のうちに書いた、ざっと
百四十篇の童話の中の草稿のまま遺された作品で、最も完成度の高いものは、もしかするとこの三篇の西域童話だったかもしれない」と。さらに「「雁の童子」が注目されるのは、西域を扱った賢治の童話の中で、最も完成度が高いからである。もしこの童話がなかったら、改めて、賢治の西域童話を論ずるだけの価値があるかどうか疑わしいほどである」とまで書いている。

 この文庫の表紙に印刷された翼のある「壁画の童子」が中心となって語られるのが「雁の童子」の話であり「天を飛ぶ雁が地上に落下し、鳥から人間になった子供を主人公にしたところが、新鮮であり、この種の西域作品としては最終的な完成品だったといえよう」とも書かれている。

 色川氏は死を覚悟したような心情に中で「雁の童子」の本質と、賢治作品の中に占めるこの作品の位置を読みとったのであろう。
『宮沢賢治と西域幻想』捨てずに良かった。

 
 
※シリーズ古書の世界「破棄する前に」は随時掲載いたします。
 
 

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福島県立図書館
たゆまぬ収集と情報発信の歩み【書庫拝見32】

福島県立図書館 たゆまぬ収集と情報発信の歩み

南陀楼綾繁

 暑さがやっと和らいだ2024年10月3日の朝、福島市に着いた。
 まず訪れたのは、〈本と喫茶 コトウ〉だ。店主の小島雄次さんとは開業前からの知り合いである。
 2017年に別の場所に店舗を開いたが、今年9月末に県庁通りに移転した。老舗眼鏡店、
レコード店、ギャラリー、食堂などが入るビルの2階で、元は花屋だった場所。開店から1週間も経っていないのに、もう何年もこの場にあったようになじんでいた。

 そこからバスに乗り、「県立美術館入口」という停留所で降りる。2分ほど歩くと、左手に福島県立美術館、右手に福島県立図書館が見えてくる。遠目にもかなり大きな建物なのが判る。

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★福島県立図書館外観

 階段を上がって中に入る。出迎えてくれたのは、司書の吉田和紀さんと橋本栄理子さん、
梅津直美さんの3人だ。
 このうち吉田さんとは2021年、『ダ・ヴィンチ』で10年後の被災地の「本のある場所」をめぐる記事を書いた際の取材でお会いしている。

 福島県立図書館では2011年3月11日の地震で壁面の強化ガラスが崩壊し、利用者と職員が避難した。その後、復旧作業を行いながら、移動図書館専用の図書を県内の自治体に提供した。また、ライフラインや避難所の情報をサイトにアップした。

 翌月には震災関連の資料を集める方針を立てて収集を始め、2012年4月に「東日本大震災 福島県復興ライブラリー」として「地震・津波」、「福島第一原発事故」、「メディア・
報道」「放射線・除染」など16テーマ別に分類し、館内で閲覧できるようにした(テーマ毎に図書館分類法で配列)。2021年の取材時には1万3602タイトルだったが、「いまでは1万5385タイトルまで増えています」と、吉田さんは話す。

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★東日本大震災 福島県復興ライブラリー

 福島第一原発の事故により全町避難した浜通り(沿岸部)にあった図書館4館のうち、
富岡町と浪江町の図書館は再開したが、大熊町と双葉町では図書館がないままだ。13年が
過ぎても、震災の爪痕は消えていないのだった。

あづま号が地域をつなぐ

 同館にはこれまで2度ほど訪れているが、郷土資料の充実ぶりには驚かされてきた。
 県立図書館の役目としては当然に思えるが、所蔵資料の豊富さだけでなく、情報発信にも
力を入れている。
 そのことを強く感じさせるのが、『福島県郷土資料情報』だ。1986年創刊当初は年2、
3回、現在は年1回、紙とPDFで発行している。郷土資料や福島県に関連する著者の著作の
収書報告、貴重書の解題などを掲載する。

 最新号の第64号(2024年3月)では、前号に続き、「福島県関係書誌の紹介 主題編
総索引」を掲載。キーワードから関連する書誌を見つけることができる。
 福島県は福島市や郡山市のある中通り、沿岸部の浜通り、そして内陸の会津と、大きく3つの地域に分かれる。距離があるだけでなく、歴史や文化においてもそれぞれの特色がある。
その3地域に関する資料を総合して提供することが、県立図書館の役割なのだ。

 距離の遠さをカバーするために生まれたのが、移動図書館「あづま号」だ。1954年から
各地を巡回する。
 初期には県の財政緊縮を受けて、十分に巡回できなかった時期があり、「『あづま号』は
忘れた頃にやって来る」と云われた時期もあるそうだ(『福島県立図書館50年誌』)。
 しかし、あづま号はその後も走りつづけ、図書館未設置町村の読者を支えている。

 また、地域行政資料も積極的に収集する。
「以前は貸出、保存、館内利用という目的で、各3部を収集していましたが、現在はスペースの問題もあり、貸出と保存で各2部を収集しています」と、橋本さんは云う。
 これらは館内の「福島県行政資料コーナー」で利用できる。また、『県内行政機関発行資料一覧』という目録も発行している。
 こういった活動を通じて築かれてきた県内の図書館とのネットワークが、東日本大震災と
いう未曽有の災害においても、大きな力を発揮したのだ。

朝河貫一と図書館

 同館の歴史については、あとで触れるが、現在の館は1984年7月に、福島大学経済学部の
跡地に移転・開館したものだ。ちょうど40周年を迎えたところに取材に訪れたわけだ。
 書庫は半地下の1フロアで、2281㎡とかなり広い。
「完成した当時の蔵書数は約40万冊でした」と、吉田さんが説明する。その後、何度か集密書架を増設したが、蔵書は増えつづけ、現在では約121万冊に達している。「開館時、100万冊の収容量があると云われましたが、はるかに超えていますね」と苦笑する。

 では、いよいよ書庫に入っていこう。
 まず案内されたのは、朝河貫一の資料を所蔵する部屋だ。
 資料保存のために温湿度管理がされているのだが、体格のいい吉田さんは先輩から「お前が入ってくると温度が上がるから入って来るな」と云われたという。ひどい。もっと暑苦しい
私が入ったので、申し訳ない気持ちになる。

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★朝河貫一資料のファイルケース

 朝河貫一は1873年(明治6)、二本松市に生まれた歴史学者。福島尋常中学校では特待生となった。
「彼は英和辞書を毎日二頁ずつ暗記した。そして暗唱したものは、一枚ずつ食べるか破り捨てていき、ある日、ついにカバーだけになったので、それを校庭の西隅の若桜の根元に埋めたのであった。貫一は皆に『辞書喰い』というあだ名を奉られてしまった」(阿部善雄『最後の「日本人」 朝河貫一の生涯』岩波書店・同時代ライブラリー)

 東京専門学校(現・早稲田大学)卒業後、アメリカのダートマス大学に留学。のちイェール大学の歴史学講師となる。それとともに、同大学の東アジア図書館部長となり、日本における日本関係図書の収集に尽力する。日本に帰国していた1年半の間に、イェール大学図書館と
アメリカ議会図書館のために多くの資料を集めた。

「歴史・文学・経済方面では、東大史料編纂所・国書刊行会・吉川弘文館発行の叢書類は必ずこれを買い求め、その他、古書店や所有者から求めた資料・図書も多く、また筆写を依頼して作った写本も少なくなかった。さらに幾度か関西方面への収集旅行を重ね、すでに絶版になった稀覯本や未刊資料などを入手するため、かなりの苦心を払ったということだった」(『最後の「日本人」』)
 その一方で、「天下の孤本(こほん)となっているような稀覯書は、日本から持ち出さないことを原則とした」という。

 このように、朝河はアメリカの図書館で日本学の資料を充実させた恩人だった。
 朝河は日露戦争以後、日本の外交に対して鋭い批判を行なった。生涯をアメリカで暮らし、1948年に74歳で死去する。
 研究関係の資料はイェール大学図書館に保管されたが、私的な資料は遺族に返還されたのち、1984年に同館に寄贈された。このほか、イェール大学から寄贈された書簡なども含め、約2800点の資料がある(『福島県立図書館所蔵 朝河貫一資料目録 改訂版』)。

 記録魔だった朝河は、自筆かタイプで作成された書簡の控えを残していた。なかでも重要なのが、「天皇宛大統領親書案」の控えだ。

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★天皇宛大統領親書案

 朝河は1941年(昭和16)の日米開戦に際して、ルーズベルト大統領から天皇に送る親書の案を書いた。実際に親書は送られたが、その文章は朝河の案から大きく変えられており、日米はもう戦争状態に入っていた。
 書簡のほかには、写真帖や住所録なども所蔵されている。

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★朝河貫一写真帖

 同館では、1984年の移転開館時に「朝河貫一博士展 福島と二つの祖国」を開催。
その後も、展示や講演会を開催している。

会津暦と養蚕

 次に、メインの書庫に案内していただく。1フロアなので、とにかく広い。同じサイズの
書棚が整然と並んでいるので、自分がいまどこにいるのかが判らなくなりそうだ。

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★書庫

 窓際に並ぶファイルケースには地域資料のうち、古文書などが収まっている。そのなかにあったのが「会津暦」だ。江戸時代、会津若松にある諏訪神社で発行した暦が、北関東や
越後、秋田など広い範囲で用いられたという。

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★会津暦
 
 
 別のケースから取り出されたのは、『天明三年 養蚕日誌』。養蚕に関する様々な
記録が記されている。
 福島県では養蚕が盛んで、同館でも多くの資料を所蔵している。『蚕糸の光』という
雑誌のバックナンバーも並んでいた。

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★(左)『天明三年 養蚕日誌』   ★(右)『蚕糸の光』
 
 
 次に向かったのは、福島県出身の作家のコーナー。久米正雄、吉野せい、草野心平らの
著作が並ぶ。
 芥川賞作家の中山義秀は現在の白河市生まれで、同市に〈中山義秀記念文学館〉がある。
榊山潤は神奈川県生まれだが、妻が二本松生まれで戦時中にこの地に疎開している。

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★(左)中山義秀の棚           ★(右)榊山潤の棚
 

戦争文献の佐藤文庫

 さらに奥に行くと、特殊文庫が並ぶ一角がある。
 最初に見たのは「佐藤文庫」。郡山市の実業家である佐藤伝吉が集めた、戦争関係の
資料約1万3000冊のコレクションだ。

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★佐藤文庫

 佐藤が少年の頃、乃木希典大将が陸軍大演習のために来県し、佐藤家に宿泊したことが
きっかけで、軍人に関心を持った。
 第一次大戦時にはソ連図書輸入商社〈ナウカ社〉の大竹博吉に依頼して、ロシア関係の
戦争文献を入手したという。ナウカ社は神保町にあったロシア専門書店の前身である。
 佐藤は「人類の歴史は戦争の記録につながるものであり、戦争の真実を知ることなしには
真の平和も希求されがたい」という信念を持ち、戦争に関する資料ならなんでも購入した。
「東京での書物集めのために、自家用車2台を乗り潰したという逸話がある」(菅野俊之
「戦争資料の宝庫・佐藤文庫」、『図書館雑誌』2005年7月号)から凄い。

 このコレクションが同館に寄託されたのは1961年で、当時館長だった桑原善作からの
熱心なアプローチに佐藤が応えたものだった。
「この移送作業に終日立ち会われた佐藤さんの寂しげな姿に、筆者らは今さらのように、
年来のご愛着はなみなみならないものであったことを思い知らされたのである」と、『佐藤
文庫目録』のあとがきで桑原は記す。

 佐藤文庫には、源平合戦からベトナム戦争までに関する国内の刊行物だけでなく、英・独・仏・露などの書籍、雑誌があり、新聞、号外、錦絵、写真帖、画帖などと幅広い。
ここにしかない資料を見るために、吉村昭、古山高麗雄、井出孫六らも来館したという。

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★日露戦争関係の本が並ぶ棚

 佐藤文庫の名前が知られるようになったのは、日清戦争100周年に当たる1994年だった。同文庫所蔵の旧陸軍参謀本部編纂の『明治二十七八年日清戦史』の稿本を調べた歴史学者の
中塚明氏が、日清戦争の発端が日本軍の謀略だったことを示す記述を発見したのだ。参謀本部にあったはずの資料を佐藤が入手した経緯は不明だという。

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★『明治二十七八年日清戦史第二冊決定草案』
 
 ほかにも、シベリア出兵時の写真帖や、松山市にあった俘虜収容所の記録など、
貴重な資料が多い。

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★(左)『西比利亜派遣軍記念写真帖』   ★(右)『松山収容露国俘虜』

 
 特殊文庫にはほかに、漢籍を集めた「佐藤清太文庫」、福島民友新聞記者で
俳人でもあった富士崎放江が江戸期の文芸随筆を集めた「放江文庫」などがある。 
 仏文学者・評論家の中島健蔵の蔵書「中島文庫」は、著名な作家からの献呈本が多い。
小島信夫『アメリカン・スクール』にも署名があった。

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★小島信夫『アメリカン・スクール』

 
 同文庫は中国や南方関係の資料が多いのも特徴だ。中島は陸軍に徴用されて
マレーに派遣されていた時期がある。

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★中島文庫の中国関係の棚

 
 特殊文庫のなかでも特にユニークなのが、「井筒文庫」だ。井筒平は浪江町生まれで、福島
民友新聞社の記者となる。井筒は愛犬家として知られ、犬や動物に関する資料を収集した。
雑誌『愛犬の友』のバックナンバーや、動物研究者・平岩米吉の『犬の生態』など、棚を眺めているだけで面白い。

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★(左)井筒文庫         ★(右)平岩米吉『犬の生態』

 

詩人が遺したもの

 特殊文庫で最近受け入れられたのが、「長田弘文庫」だ。
 長田弘は福島市生まれ。弟は翻訳家の青山南さんだ。早稲田大学卒業後、第一詩集『われら新鮮な旅人』を出版。詩人・エッセイストとして活躍する。2015年、75歳で死去。
 長田の蔵書は「福島の図書館に寄贈したい」という遺志を受けて、遺族から同館に寄贈された。職員が何度か自宅を訪れて、蔵書の運搬を行なった。
 資料の総数は8519冊。詩集をはじめとする文学、芸術、哲学、歴史など多岐にわたる。
もちろん、自身の著作もある。

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★長田弘文庫

 海外文学の棚には、カフカ、ブレヒト、ベンヤミンなど、影響を受けたであろう作家の
著書が並ぶ。洋書も多い。
「著作で引用したり参照したりしたと思われる本も多くあります」と、橋本さんは話す。
長田弘を研究するうえで、欠かせない資料だと云えるだろう。

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★海外文学の棚

 詩人と云えば、同館には「福島県詩人文庫」もある。
 福島市の詩人で1997年に亡くなられた高橋新二が『福島県史』の詩史の項を執筆する際の参考資料として集めた、県内で発行された同人誌や詩集など約1200冊を寄贈。その後も
収集を続け、現在では約2500冊のコレクションになっている。
 なお、高橋新二は〈文洋社〉という古本屋を営んでいた時期があると、ある人から教えて
もらった。

乱歩が通った図書館

 書庫の見学と資料の閲覧に時間がかかり、同館を出た頃にはすっかり暗くなっていた。
 激しい雨のなか、駅前のホテルに入り、何気なく画家で、古本についての著作も多い林哲夫さんのブログを開いたら、「旧福島県立図書館」というキャプションのついた写真が目に飛び込んできて驚いた。

『駱駝の瘤 通信』という雑誌に掲載された菅野俊之「螺旋階梯の図書館と乱歩」という
エッセイの紹介だった。
 菅野俊之さんという名前には覚えがある。以前、関わっていた同人誌『舢板(サンパン)』に寄稿していた人だ。私が出していた古書目録愛好フリーペーパー『モクローくん通信』の
読者でもあった。そして、菅野さんは福島県立図書館の職員だった方なのだ。
 その場で、さきほど訪れた館の橋本さんから菅野さんに連絡していただき、後日、同誌の
コピーを送っていただいた。

 同文によれば、江戸川乱歩は1945年(昭和20)6月に、縁故を頼り、福島県の伊達郡
保原町に疎開。このとき、蔵書も同地に搬送している。

「乱歩は体調を崩していたが少し落ち着くと、近世の同性愛伝説として有名な湘南江の島
稚児ヶ淵心中の白菊丸の出自が奥州信夫郡だったことを思い出し、三里ほど離れた福島市の
県立図書館へ通って、この伝説調べに夢中となった。当時、保原から福島市までは路面電車が走っていた。電車に揺られ、徒歩で県庁近くの旧県立図書館に着く。彼は同館の郷土資料を
博捜し、白菊丸伝承の箇所を片っ端からノートに書き写した」
 誌面には、当時の同館の写真が載せられている。ドーム屋根の建物で、螺旋階段のある
建物は、いかにも乱歩好みだと、菅野さんは書いている。

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★江戸川乱歩が通った時代の福島県立図書館
 (『福島県立図書館50年誌』。福島県立図書館提供)

 福島市に最初に図書館ができたのは、1908年(明治41)開館の福島市立図書館だった。
その後、県立図書館を設置すべしという声を受けて、市立図書館の蔵書を引き継ぐかたちで
紅葉山公園内に開館したのが、1929年(昭和4)10月だった。
 乱歩が通ったのは、この図書館だったのである。

 同館は1958年、松木町の現在、福島市立図書館がある場所に移転・開館。鉄筋コンクリート造3階建てで、書庫は5層あった。『福島県立図書館50年誌』は、「当時としては東北一の図書館と誇れるものであった」と記している。
 そして、先に述べたように、1984年に現在地に移転するのだ。

 東京に戻ってからも、菅野さんからはメールや手紙で多くのことを教わった。同館退職後も、『ふくしまと文豪たち』(歴史春秋出版)や編著『福島県関係書誌の書誌』(工房ポチ&アプリコット)を刊行し、地元の歴史や文学を探究している。

 菅野さんら過去の、そして現在の職員が地道に郷土資料を集め、整理し、発信することで、いまの福島県立図書館はある。
 東日本大震災という未曽有の災害もいずれは歴史のひとつになる。そのときも、同館はこの歩みを続けているはずだ。
 
 
福島県立図書館
〒960-8003 福島県福島市森合字西養山1番地
 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

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2025年1月10日 第410号

■■■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■
 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
          古書市&古本まつり 第144号
      。.☆.:* 通巻410・1月10日号 *:.☆. 。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━【大阪の古本屋 百年の歴史を探る
   『大阪古書組合百年史』発行のお知らせ】━━━━━━━

大阪府古書籍商業協同組合は、1924年7月26日に大阪市中央公会堂
にて発足式を行い、昨年7月26日に創立100周年を迎えました。
100周年記念事業の一環として2025年2月1日に『大阪古書組合
百年史』を刊行いたします。ただ今予約販売を承っておりますので、
ぜひ多くの皆さまに覧いただければ幸いです。
詳細は大阪古書組合のホームページをご確認ください。

書名:『大阪古書組合百年史』 創立百周年記念誌
発行元:大阪府古書籍商業協同組合
判型/ページ数:A5判/746頁※限定1,000部
販売価格:8,000円(税込) 
予約限定価格7,200円(税込)送料600円
予約期間:令和7年1月1日~1月31日まで

令和7年1月1日より予約受付開始
https://www.osaka-kosho.net/news/2027/

 
━━━━━━━━━━【新シリーズ 本とエハガキ】━━━━━━━━━━

本とエハガキ(1)
エハガキを買って集める歴史
                            小林昌樹

■エハガキを集める趣味
 それまでヤフーオークション(以下、ヤフオク)でちらほら見かけていたのだが、
2006年ごろ、本についてのエハガキを集めたら面白いだろうと気付いた。
 ちょうどその頃にヤフオクで「簡単決済」というヤフオクが代行で支払いを
済ませてくれるシステムが導入され、お金のやりとりが簡単になったことも
大きなきっかけである。
 本自体を写したエハガキ、本屋開店の記念エハガキ、図書館開館記念エハガキ、
ただ本を読んでいるだけの姿を写したエハガキなどなど、数千枚集まったので
何回かにわけてちょっとみなさんに紹介しようと思う。

 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=18994
 
 
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━━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見32】━━━━━━━━━━

福島県立図書館 たゆまぬ収集と情報発信の歩み
                          南陀楼綾繁

 暑さがやっと和らいだ2024年10月3日の朝、福島市に着いた。
 まず訪れたのは、〈本と喫茶 コトウ〉だ。店主の小島雄次さんとは
開業前からの知り合いである。
 2017年に別の場所に店舗を開いたが、今年9月末に県庁通りに移転した。
老舗眼鏡店、レコード店、ギャラリー、食堂などが入るビルの2階で、元は
花屋だった場所。開店から1週間も経っていないのに、もう何年もこの場に
あったようになじんでいた。

 そこからバスに乗り、「県立美術館入口」という停留所で降りる。2分ほど
歩くと、左手に福島県立美術館、右手に福島県立図書館が見えてくる。
遠目にもかなり大きな建物なのが判る。
 

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=18839
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。
 
 
X(旧Twitter)
https://twitter.com/kawasusu
 
 
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━━━━【『書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力』(皓星社)
     刊行記念トークイベント 開催のお知らせ】━━━━━━━

「日本の古本屋メールマガジン」連載をまとめた『書庫をあるく』の刊行を
記念して、著者の南陀楼綾繁さんと、日本近代文学館で2024年秋の特別展
「編集者かく戦へり」の編集委員をつとめた評論家の武藤康史さんが、図書館・
文学館・資料館の「書庫」に潜る楽しさや、文庫・コレクションなど特殊な
蔵書の魅力を語り合います。
古本好きの方々も図書館に駆け付けたくなるはず!

《出 演》南陀楼綾繁:ライター・編集者
     武藤康史:評論家
《日 時》2025年2月8日(土)14〜16時
《会 場》東京古書会館7階会議室 千代田区神田小川町3-22
《参加費》参加無料
《定 員》60名※定員に達し次第、締め切りさせていただきます
《お申し込み》https://forms.gle/hNiCFBCxCYJSmgJt7
《お問合せ》皓星社お問合せフォームよりお送りください
《主 催》株式会社 皓星社 

詳細はこちら https://libro-koseisha.co.jp/info/20241225/

 

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━━━━━━━━━━【シリーズ古書の世界】━━━━━━━━━━

破棄する前に2
色川大吉氏と『宮澤賢治名作選』
                       三昧堂(古本愛好家)

 前回取り上げた恩田逸夫と小沢俊郎氏に続き、同じく戦場・軍隊から大学に
復学した研究者の宮沢賢治との関りについて続けたい。
 日本近代史・思想史研究者色川大吉氏の『わだつみの友へ』(同時代ライブ
ラリー164、1993)は、学徒出陣から復学した当時の若者・研究者の心情を伝える
名著である。しかも宮澤賢治が当時彼らにどう読まれていたかもわかって興味深い。

 色川氏は昭和19年夏、大学に籍をおいたまま海軍に入隊し、土浦航空隊に配属に
なる。その入隊前に読んでいた本について、同書の「汚辱の時代」に書いている。
「入隊の直前まで、私たちがどんな本を読んでいたか。日記から拾ってゆくと慄然とする。
 

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=18389
 
 
※シリーズ古書の世界「破棄する前に」は随時掲載いたします。
 
 
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━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。

「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964

 
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━━━━━【1月10日~2月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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TOKYO BOOK PARK 吉祥寺(1階エントランス)

期間:2024/12/28~2025/01/26
場所:吉祥寺パルコ1階エントランス 武蔵野市吉祥寺本町1-5-1

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TOKYO BOOK PARK 吉祥寺(2階会場)

期間:2024/12/28~2025/01/13
場所:吉祥寺パルコ2階 武蔵野市吉祥寺本町1-5-1

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立川フロム古書市

期間:2025/01/05~2025/01/16
場所:フロム中武 3階バッシュルーム(北階段際)
立川駅北口徒歩5分 ビッグカメラ隣
URL:https://mineruba.bookmarks.jp/saiji.htm

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第53回 古本浪漫洲 Part.1

期間:2025/01/09~2025/01/11
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場) 新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://furuhonromansu.kosho.co.jp/

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東京愛書会

期間:2025/01/10~2025/01/11
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 
URL:http://aisyokai.blog.fc2.com/

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イービーンズ 古本まつり

期間:2025/01/10~2025/02/16
場所:イービーンズ 9F杜のイベントホール
URL:https://www.e-beans.jp/event/event-14922/

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オールデイズクラブ古書即売会

期間:2025/01/10~2025/01/12
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12
URL:https://hon-ya.net/

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アクロスモール新鎌ヶ谷古本市

期間:2025/01/10~2025/01/26
場所:アクロスモール新鎌ヶ谷 
   1F中央エレベーター前&中央エスカレーター前
   千葉県鎌ケ谷市新鎌ヶ谷2-12-1

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大均一祭

期間:2025/01/11~2025/01/13
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=622

------------------------------
第8回ジュンク堂新春古書展

期間:2025/01/11~2025/02/11
場所:ジュンク堂書店那覇店1F レジカウンター横 
   沖縄県那覇市牧志1-19-29

------------------------------
第10回 昆陽古本まつり

期間:2025/01/11~2025/01/19
場所:イズミヤショッピングセンター昆陽 2階催事場 
   兵庫県伊丹市池尻1-1

------------------------------
第53回 古本浪漫洲 Part.2

期間:2025/01/12~2025/01/14
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場) 新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://furuhonromansu.kosho.co.jp/

------------------------------
第53回 古本浪漫洲 Part.3

期間:2025/01/15~2025/01/17
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場) 新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://furuhonromansu.kosho.co.jp/

------------------------------
さんちか古書大即売会

期間:2025/01/16~2025/01/21
場所:神戸三宮 3番街さんちかホール
URL:https://hyogo-kosho.com/

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フジサワ古書フェア

期間:2025/01/16~2025/02/12
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場 JR藤沢駅南口・フジサワ名店ビル4階
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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フルホンニュー天神西通り古本まつり

期間:2025/01/16~2025/01/27
場所:ジュンク堂書店福岡店 2階 MARUZENギャラリー
   福岡県福岡市中央区大名1丁目15-1 天神西通りスクエア

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趣味の古書展

期間:2025/01/17~2025/01/18
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.tokyo

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萬書百景市 in 高円寺

期間:2025/01/17~2025/01/19
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=1179

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第53回 古本浪漫洲 Part.4

期間:2025/01/18~2025/01/20
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場) 新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://furuhonromansu.kosho.co.jp/

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第53回 古本浪漫洲 Part.5(300円均一)

期間:2025/01/21~2025/01/22
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場) 新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://furuhonromansu.kosho.co.jp/

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浦和宿古本いち

期間:2025/01/23~2025/01/26
場所:さくら草通り(JR浦和駅西口 徒歩5分 マツモトキヨシ前)
URL:https://twitter.com/urawajuku

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和洋会古書展

期間:2025/01/24~2025/01/25
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=562

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中央線古書展

期間:2025/01/25~2025/01/26
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9  
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=574

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第34回紙屋町シャレオ古本まつり

期間:2025/01/25~2025/02/02
場所:広島市中区紙屋町シャレオ中央広場
URL:https://twitter.com/koshohiroshima

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西部古書展書心会

期間:2025/01/31~2025/02/02
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=563

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港北古書フェア

期間:2025/02/01~2025/02/15
場所:有隣堂センター南駅店店頭(ワゴン販売) 
   横浜市営地下鉄 センター南駅より徒歩1分
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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フィールズ南柏 古本市

期間:2025/02/07~2025/02/27
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場  
   柏市南柏中央6-7(JR南柏駅東口すぐ)

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杉並書友会

期間:2025/02/08~2025/02/09
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=619

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日本の古本屋メールマガジンその410 2025.1.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋」事業部
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  https://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部・編集長:藤原栄志郎

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2024年12月25日 第409号

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☆INDEX☆
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1.『蔵書になる喜びと責任』
 (「書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力」)
                          南陀楼綾繁

2.『張載思想研究 ― 宋明理学の中の「太虚」説』
             山際明利(苫小牧工業高等専門学校教授)

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━━━━━━【自著を語る(335)】━━━━━━━━━━

『蔵書になる喜びと責任』
(「書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力」)

                            南陀楼綾繁

 今月半ばに『書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力』(皓星社)を刊行した。
「日本の古本屋メールマガジン」で現在も連載中の「書庫拝見」より、その
前半に掲載した記事を収録したものだ。

本書では、15の図書館・文学館・資料館を取材している。全体を3章に分けた。
《地域の知を育てる》には、県立長野図書館、伊那市創造館、宮城県図書館、
長岡市立中央図書館・文書資料室、釧路市中央図書館・釧路文学館が登場。
《遺された本を受け継ぐ》には、東洋文庫、国立映画アーカイブ、草森紳一蔵書、
大宅壮一文庫、遅筆堂文庫が登場。
《本を未来へ》国立ハンセン病資料館、長島愛生園神谷書庫、大島青松園、
新潮社資料室、日本近代文学館が登場する。
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=18740
 
 
『書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力』
南陀楼綾繁 著
皓星社 刊
2,530円(税込)
ISBN:978-4-7744-0840-8

好評発売中!
https://libro-koseisha.co.jp/history_culture/978-4-7744-0840-8/
 
 

━━━━━━━━【大学出版へのいざない25 最終回】━━━━━━━

『張載思想研究 ― 宋明理学の中の「太虚」説』

                山際明利(苫小牧工業高等専門学校教授)

 張載(横渠先生)は北宋の儒者。日本人にとっては終戦の詔勅に使われた
「万世の為に太平を開く」という言葉(『張子語録』)によって親しい思想家です。
先ごろ(2020年)生誕一千年を迎えました。本書は張載の人物、思想、影響に
ついて探求した、史上初の日本語の専著です。
 
 張載は一般に朱子学の先駆者として知られますが、その思想内容について
仔細に検討すると、単に「朱子に影響を与えた人」というだけでは済まない、
独特な個性が明らかになってきます。
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=18509
 
 
張載思想研究 ― 宋明理学の中の「太虚」説
山際明利 著
北海道大学出版会 刊
11,000円(税込)
ISBN:978-4-8329-6899-8(Cコード:3010)

好評発売中!
https://www.hup.gr.jp/items/92342089
 
 
※「大学出版へのいざない」は今回が最終回です。
 ご愛読ありがとうございました。
 
 
━━━━【『書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力』(皓星社)
     刊行記念トークイベント 開催のお知らせ】━━━━━━━

「日本の古本屋メールマガジン」連載をまとめた『書庫をあるく』の刊行を
記念して、著者の南陀楼綾繁さんと、日本近代文学館で2024年秋の特別展
「編集者かく戦へり」の編集委員をつとめた評論家の武藤康史さんが、図書館・
文学館・資料館の「書庫」に潜る楽しさや、文庫・コレクションなど特殊な
蔵書の魅力を語り合います。
古本好きの方々も図書館に駆け付けたくなるはず!

《出 演》南陀楼綾繁:ライター・編集者
     武藤康史:評論家
《日 時》2025年2月8日(土)14〜16時
《会 場》東京古書会館7階会議室 千代田区神田小川町3-22
《参加費》参加無料
《定 員》60名※定員に達し次第、締め切りさせていただきます
《お申し込み》https://forms.gle/hNiCFBCxCYJSmgJt7
《お問合せ》皓星社お問合せフォームよりお送りください
《主 催》株式会社 皓星社 

詳細はこちら https://libro-koseisha.co.jp/info/20241225/

━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。
 
「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━━━

書名:『大阪古書組合百年史』 創立百周年記念誌
発行元:大阪府古書籍商業協同組合
判型/ページ数:A5判/746頁※限定1,000部
販売価格:8,000円(税込) 
予約限定価格7,200円(税込)送料600円
予約期間:令和7年1月1日~1月31日まで

令和7年1月1日より予約受付開始
https://www.osaka-kosho.net/news/2027/

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「古本屋ツアー・イン・ジャパン 2024年総決算報告(仮題)」

古本屋ツアーインジャパン 小山力也
http://furuhonya-tour.seesaa.net/

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━━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━━

2024年12月~2025年1月の即売展情報

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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日本の古本屋メールマガジン その409・12月25日

【発行】
東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋」事業部
東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
URL  https://www.kosho.or.jp/

【発行者】
広報部・編集長:藤原栄志郎

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『張載思想研究 ― 宋明理学の中の「太虚」説』

『張載思想研究 ― 宋明理学の中の「太虚」説』

山際明利(苫小牧工業高等専門学校教授)

 張載(横渠先生)は北宋の儒者。日本人にとっては終戦の詔勅に使われた「万世の為に太平を開く」という言葉(『張子語録』)によって親しい思想家です。先ごろ(2020年)生誕
一千年を迎えました。本書は張載の人物、思想、影響について探求した、史上初の日本語の
専著です。
 
 張載は一般に朱子学の先駆者として知られますが、その思想内容について仔細に検討すると、単に「朱子に影響を与えた人」というだけでは済まない、独特な個性が明らかになってきます。島田虔次先生は一方では「張載の思想は朱子学に吸収されてしまった」(『中国革命の先駆者たち』)と述べつつ、他方では「中国に於ける最も傑出した唯物論哲学者」(「中国
近世の主観唯心論について」)と評価されました。多様な解釈を許容する単純ではない思想の真面目に迫るべく、長年継続してきた研究の成果を纏めたのが本書です。
 
 張載はしばしば「気の思想家」と呼ばれますが、しかし張載は気の本体として太虚という
概念を唱え、修養の目的を虚と一体化することに置きました。虚の顕現が天地という世界で
あり、聖人とは天人合一の境地に至った人ということになります。張載の思想はむしろ「虚の
思想」と呼ぶべきものだと言って良いでしょう。
 
 朱子は張載の「一気の聚散による万物の生滅」という観念に大きな影響を受けましたが、
万物の本体には張載の「虚」ではなく二程子の「理」を据えて理気哲学を構築しました。換言すれば、張載の虚気渾然の哲学から虚の要素を排除して理気一貫の哲学に作りかえました。
朱子は張載思想の影響を受けつつその核心部分を排除したことになるわけですが、反面から言えば、世界を解釈するための思考の具として大々的に張載の思想を取り入れたことにもなります。
 
 朱子に排除された虚気渾然の思想は、しかし忘れ去られることなく宋明理学思想に影響を
与え続けました。良知を説く王陽明の論理には張載の太虚説との強い類似が見られます。影響関係と見なすのは早計かもしれませんが、両者に共通する思考の基盤があったことは間違いないでしょう。
 
 上記の論点それぞれについては既に先学の研究業績が存在します。本書は特に楠本正継
『宋明時代儒学思想の研究』(広池学園事業部、昭和37年)から大きな恩恵を受けました。
しかしこれらの論点を綜合して張載思想の全体像を描き出した日本語の著述は本書が史上初めてのものとなります。特に『大学』の「格物」に対する張載の解釈が近世儒学思想に長く影響した可能性があること、また張載および張載の門弟、呂大臨の人間観が、朱子学官学化の背後にあって儒学思想に連綿と影響し続けたことなどを明らかにしたのは本書の重要な特色です。
 
さらに中国共産党指導部による張載への言及を分析し、現代中国の政治思想状況を宋代の政治思想状況との相似形で捉えるという観点を提示しました。いわば一千年の時を経て「朱子学にも、陽明学にも、習政権にも影響を与え続ける哲学者」の面目を明らかにしたのは世界に先駆ける本書の特色と申されましょう。
 
 本書は博士論文の書籍化であり、既発表の論文を用いて構成した箇所が多いのですが、纏めるに当っては全て一から見直しました。その結果、参考文献一覧に思いがけず多数の書籍名を掲出する必要が生じ、印刷物としての書籍を手許に置いておくことの重要性を再認識しました。三島復『王陽明の哲学』(大岡山書店、昭和17年版)を掲出した際には、かつて何の気なしに古書店で入手した本に今お世話になること、また三島復の父、三島中洲に関して先師松川健二の論著に『山田方谷から三島中洲へ』(明徳出版社、平成20年)があることを思い、何か書籍との奇縁といったことを感じたものです。
 
 筆者は平成11年、文部省(当時)在外研究員に採用され、北京市清華大学に滞在しました。同年秋、張載の故地である陝西省郿県横渠鎮で開催された国際学会に出席して口頭発表を行ない、張載墓、張載祠(横渠書院)を見学しました。学会で荻生徂徠の第九代後裔、荻生茂博先生と面識を得ましたが、数年後、早すぎる逝去の報を聞いたのは誠に残念なことでした。
 
この時、北京への帰路を利用して洛陽南郊の関林(関羽墓)、白園(白楽天墓)、程氏墓、
邵雍墓を巡りました。平成30年、国際学会に招待されて横渠鎮を再訪し、基調講演を行なって横渠書院から名誉顧問に任ぜられました。西安からさらに西の奥にある横渠鎮を複数回訪問し、煉瓦積みの寒村が近代的な建物の並ぶ街道町に変貌するのを目撃した日本人は筆者だけではないかと思われます。本書の附録として横渠鎮訪問記録二篇を写真つきで収録しました。
 
 一千年を経た古典哲学に新たな観点から光を当て、かつその現代的意義をも明らかにした
著作として、読書人のみなさまの御批正を賜れば幸いです。
 
 
 
2025_cover
 
 
『張載思想研究 ― 宋明理学の中の「太虚」説』
山際明利 著
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(C3010)
 
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※「大学出版へのいざない」は今回が最終回です。ご愛読ありがとうございました。
 
 

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『蔵書になる喜びと責任』
(「書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力」)

『蔵書になる喜びと責任』
(「書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力」)

南陀楼綾繁

 今月半ばに『書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力』(皓星社)を刊行した。
「日本の古本屋メールマガジン」で現在も連載中の「書庫拝見」より、その前半に掲載した
記事を収録したものだ。

本書では、15の図書館・文学館・資料館を取材している。全体を3章に分けた。
《地域の知を育てる》には、県立長野図書館、伊那市創造館、宮城県図書館、長岡市立中央
図書館・文書資料室、釧路市中央図書館・釧路文学館が登場。
《遺された本を受け継ぐ》には、東洋文庫、国立映画アーカイブ、草森紳一蔵書、大宅壮一
文庫、遅筆堂文庫が登場。
《本を未来へ》国立ハンセン病資料館、長島愛生園神谷書庫、大島青松園、新潮社資料室、
日本近代文学館が登場する。

 連載で最初に取材したのは、県立長野図書館と伊那市創造館。2021年12月はじめだったので、単行本が出るまでちょうど3年かかったことになる。
 取り上げたい館の候補を考えつつ、さまざまなルートで、取材に応じてくれそうな館員を探した。素晴らしい蔵書を持つ館でも、その館を知り尽くした館員に話を聞かないと、その魅力が伝わらないからだ。

 また、首都圏以外の館を取材するためには、私自身がどう動くかも重要だ。どこからも取材費が出ないので、別の取材やイベントにくっつけるしかない。
釧路市中央図書館・釧路文学館や遅筆堂文庫は、同館でのイベントに出演する前日に取材したし、釧路の翌日に帯広に移動して草森紳一蔵書を取材した。めちゃくちゃな強行軍だが、その分、印象に残る取材になった。

ある館の取材が別の館への関心へとつながることも多い。国立ハンセン病資料館の図書室の
取材では、自分がこの問題について知らないと感じ、岡山の長島愛生園神谷書庫と、香川の
大島青松園にも行った。

連載を始めた頃は、1回があまり長いと読まれないと思い、1館を前後編に分けて書いたこともあるが、途中からは、どうせ読まない人は読まないんだからと開き直って、長くても1回で書くことにした。

決して怠けているわけではないのだが、構成が見えるまでは書きはじめられないという悪癖から、締め切りを過ぎてしまう。取材先に確認していただく時間が必要だが、そのデッドラインまで引きずって、やっと編集を担当してくれた皓星社の晴山生菜さんに原稿を送る。噂では、古書組合のメルマガ担当者の夫であるKさんは「妻を泣かす気か!」と憤慨しているという。本当にすみません。

これまでメルマガやウェブでの連載をいくつかやってきたが、紙の雑誌に比べると、ほとんど反応がなかった。そんなものだろうと思っていたが、「書庫拝見」に関しては違った。会う人から「あの図書館にあんな蔵書があったんですね」「今度は◎◎を取材してくださいよ」などと云ってもらえる。読まれているのだという手ごたえを感じた。

 書籍化にあたっては、原稿に手を入れるとともに、各館にもう一度確認を取りその後の変化も加えた。その過程で、私の勘違いや思い込みを訂正することができた。また、連載時には
掲載できなかった写真も追加した。メルマガで読んでくれた人が、改めて読んでも面白い本になったはずだという自負がある。幸いにして本書が好評なら、続編を出したい。

 完成した本を各館に献本するときに感じたのは、「蔵書を取材したこの本もまた、図書館の蔵書の1冊に加わるのだな」ということだった。
 取材にあたっては、館員の話を聞くとともに、多くの資料を参照し引用した。こんどは、私の本もそういう対象になるわけだ。本書の記述が間違っていたら、引用されると間違いも踏襲されてしまう。嬉しい半面、責任も感じる。

 メルマガでの連載は、現在も継続中。毎回必死で取材と執筆の自転車操業を続けています。
ぜひお読みいただき、感想、意見、𠮟声をお寄せください。
 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)
 
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。
 
X(旧Twitter)
https://twitter.com/kawasusu
 
 
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書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力
南陀楼綾繁 著
2,530円(税込)
皓星社 刊
 
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2024年12月10日 第408号

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          古書市&古本まつり 第143号
      。.☆.:* 通巻408・12月10日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━━━【シリーズ古書の世界】━━━━━━━━━━

破棄する前に1
恩田逸夫『宮沢賢治論』と『小沢俊郎 宮沢賢治論集』
                   三昧堂(古本愛好家)

 古本好きの常で、買うほどには読まない。私もその典型的な一人である。
勿論本はかなり読むほうだが、少しでも興味がわけば買ってしまい、ついで
にその関連の本まで手を伸ばし、積ん読山は高い山脈と化していく。
 
幸い田舎住まいで子供たちは独立して家を出ており、家内と二人だけだから
本を置くスペースは十分にある。妻の時々口にする苦情と、お父さん死ぬ
までにはこの本なんとしてよね、という気の強い娘の説教さえ聞き流せば
問題はいまのところない。
 

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=18332
 
 
※シリーズ古書の世界「破棄する前に」は随時掲載いたします。
 
 
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━━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見31】━━━━━━━━━━

市立小樽文学館 逝ったものと残されたものの思いが出会う場所
                          南陀楼綾繁

 9月23日朝、札幌からJR函館本線に乗って小樽に着いた。
 昨夜泊まったゲストハウスで5時頃に目覚めてしまい、時間の潰しようが
なく、予定より早く小樽に向かったのだ。
 小樽は石狩湾に面した港湾都市で、ニシン漁で栄えた。いまは小樽運河を
はじめ見所の多い町として、観光の拠点となっている。この日も朝から駅通り
を多くの観光客が歩いていた。

 駅前のレンタサイクル屋が開くのを待って借りる。今朝は快晴。運河に
沿って走ると、海から吹いてくる風が心地よい。
 最初に向かったのは、〈小樽市総合博物館本館〉。駅から北へ、自転車で
15分ぐらいかかる。ここで観たのが、「ストーリーマップでめぐる伊藤整の
『幽鬼の街』」展だ。
 

続きはこちら
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南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。
 
 
X(旧Twitter)
https://twitter.com/kawasusu
 
 
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━━━━【『書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力』】━━━━

全国各地の図書館・資料館の、利用者が普段は入ることができない
閉架書庫に足を踏み入れ、そこで出会った本や資料を紹介するとともに、
書庫内を知り尽くす「ヌシ」のような館員の皆さんに、資料の管理や
活用について取材してきました。全国各地にある15館の図書館・資料館の
魅力の源泉に迫ります!

毎月10日配信号で好評連載中・南陀楼綾繁氏「シリーズ書庫拝見」が
本になります!『書庫をあるく アーカイブのかくれた魅力』は
2024年12月13日発行予定です。乞うご期待!

『書庫をあるく アーカイブのかくれた魅力』
南陀楼綾繁 著/皓星社 刊/2,530円(税込)/2024年12月13日
https://libro-koseisha.co.jp/history_culture/978-4-7744-0840-8/
 

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━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。

「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964

 
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━━━━━【12月10日~2025年1月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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第一回イオンタウン仙台泉大沢蚤の市
古本、古着、骨董・アンティーク雑貨、中古レコード・CD

期間:2024/11/23~2024/12/22
場所:イオンタウン仙台泉大沢 1Fモール南側特設会場

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第112回 彩の国所沢古本まつり

期間:2024/12/04~2024/12/10
場所:くすのきホール
   西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場
URL:https://tokorozawahuruhon.com/

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第3回古本通り@アルデ新大阪

期間:2024/12/06~2024/12/16
場所:アルデ新大阪 新大阪駅2階

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港北古書フェア(12月)

期間:2024/12/11~2024/12/25
場所:有隣堂センター南駅店店頭ワゴン販売 
最寄駅:横浜市営地下鉄 センター南駅
   改札を出て直進、右前方。※駅構内
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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BOOK DAY とやま駅

期間:2024/12/12
場所:富山駅南北自由通路(あいの風とやま鉄道中央口改札前)
URL:https://bookdaytoyama.net/

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2024/12/12~2024/12/15
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=843

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新興古書大即売展

期間:2024/12/13~2024/12/14
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=569

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第24回 つちうら古書倶楽部 師走の古本市

期間:2024/12/14~2024/12/22
場所:茨城県土浦市大和町2-1 パティオビル1F
URL:https://x.com/tsuchiura5401

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反町古書会館展(12月)

期間:2024/12/14~2024/12/15
場所:神奈川古書会館1階特設会場 横浜市神奈川区反町2-16-10
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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フィールズ南柏 古本市

期間:2024/12/14~2024/12/27
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場  
柏市南柏中央6-7(JR南柏駅東口すぐ)

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浦和宿古本いち

期間:2024/12/19~2024/12/22
場所:さくら草通り(JR浦和駅西口 徒歩5分 マツモトキヨシ前)
URL:https://twitter.com/urawajuku

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五反田古書展

期間:2024/12/20~2024/12/21
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

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ぐろりや会

期間:2024/12/20~2024/12/21
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:http://www.gloriakai.jp/

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第152回 倉庫会 古書即売会

期間:2024/12/20~2024/12/22
場所:名古屋古書会館 2階 名古屋市中区千代田5-1-12
URL:https://hon-ya.net/

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高円寺均一まつり

期間:2024/12/21~2024/12/22
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9

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第73回東武古書の市

期間:2024/12/25~2025/01/05
場所:東武宇都宮百貨店 5Fイベントプラザ 宇都宮市宮園町5-4

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冬の阪神古書ノ市

期間:2024/12/25~2025/01/07
場所:阪神梅田本店8階 ハローカルチャー3・4・5
URL:https://web.hh-online.jp/hanshin/contents/hsst/hsst05/detail/2024/11/post_19.html

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下町書友会

期間:2024/12/27~2024/12/28
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=572

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TOKYO BOOK PARK 吉祥寺(2階会場)

期間:2024/12/28~2025/01/13
場所:吉祥寺パルコ2階 武蔵野市吉祥寺本町1-5-1
URL:https://x.com/tokyobookpark

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TOKYO BOOK PARK 吉祥寺(1階エントランス)

期間:2024/12/28~2025/01/26
場所:吉祥寺パルコ1階エントランス 武蔵野市吉祥寺本町1-5-1
URL:https://x.com/tokyobookpark

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好書会

期間:2024/12/28~2024/12/29
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=620

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東武百貨店 栃木市役所店古書の市

期間:2025/01/02~2025/01/07
場所:東武百貨店栃木市役所店 1階  栃木市万町9-25

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杉並書友会

期間:2025/01/04~2025/01/05
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=619

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立川フロム古書市

期間:2025/01/05~2025/01/16
場所:フロム中武 3階バッシュルーム(北階段際)
立川駅北口徒歩5分 ビッグカメラ隣
URL:https://mineruba.bookmarks.jp/saiji.htm

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第53回 古本浪漫洲 Part.1

期間:2025/01/09~2025/01/11
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場) 新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://furuhonromansu.kosho.co.jp/

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アクロスモール新鎌ヶ谷古本市

期間:2025/01/10~2025/01/26
場所:アクロスモール新鎌ヶ谷 1F中央エレベーター前&中央エスカレーター前  
千葉県鎌ケ谷市新鎌ヶ谷2-12-1

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東京愛書会

期間:2025/01/10~2025/01/11
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 
URL:http://aisyokai.blog.fc2.com/

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大均一祭

期間:2025/01/11~2025/01/13
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=622

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第53回 古本浪漫洲 Part.2

期間:2025/01/12~2025/01/14
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場) 新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://furuhonromansu.kosho.co.jp/

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第53回 古本浪漫洲 Part.3

期間:2025/01/15~2025/01/17
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場) 新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://furuhonromansu.kosho.co.jp/

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日本の古本屋メールマガジンその408 2024.12.10

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市立小樽文学館
逝ったものと残されたものの思いが出会う場所【書庫拝見31】

市立小樽文学館 逝ったものと残されたものの思いが出会う場所 

南陀楼綾繁

 9月23日朝、札幌からJR函館本線に乗って小樽に着いた。
 昨夜泊まったゲストハウスで5時頃に目覚めてしまい、時間の潰しようがなく、予定より早く
小樽に向かったのだ。
 小樽は石狩湾に面した港湾都市で、ニシン漁で栄えた。いまは小樽運河をはじめ見所の多い町として、観光の拠点となっている。この日も朝から駅通りを多くの観光客が歩いていた。
駅前のレンタサイクル屋が開くのを待って借りる。今朝は快晴。運河に沿って走ると、海から吹いてくる風が心地よい。
 
 最初に向かったのは、〈小樽市総合博物館本館〉。駅から北へ、自転車で15分ぐらいかかる。ここで観たのが、「ストーリーマップでめぐる伊藤整の『幽鬼の街』」展だ。
 
1_Otaru-City-Museum,
★小樽市総合博物館本館

『幽鬼の街』と小樽の街

伊藤整は1905年(明治38)、北海道松前郡生まれ。翌年、現在の小樽市に移住し、この地で育つ。小樽高等商業学校(現・小樽商科大学)では、小林多喜二の1年下だった。この頃から詩作をはじめ、21歳で上京する。
 
『幽鬼の街』は、1937年(昭和12)に『文藝』に発表された小説。翌年、『文学界』に載った『幽鬼の村』とあわせて、長篇『街と村』(第一書房)として刊行された。
 今回の展示に合わせて刊行された冊子で、『幽鬼の街』を読んでみたが、一口に要約しづらい、不思議な手触りのある小説だ(以下、同展図録を参照)。
 
 主人公・伊藤ひとし(伊藤整の本来の読みは「ひとし」だ)が10年ぶりに故郷の小樽に帰り、街を歩く。場面が進むにつれ、過去と現在が行きつ戻りつする、突然、小林多喜二が現われるが、彼は「死人のやうな顔」をしている。小林は本作が発表される4年前に築地警察署で拷問死しているのだ。その後、生者と幽鬼がいる街を主人公がさまよう。
 
 今回の展示は、北海学園大学人文学部大学院の武田佑希子さんが2023年に発表した『幽鬼の街』をめぐるストーリーマップがきっかけになった。ストーリーマップとは地図、テキスト、画像、動画などを組みわせることができるアプリケーションだという。
 武田さんは、初出『幽鬼の街』に挿入された伊藤整手書きの小樽の街の地図やフィールドワークをもとにして、ストーリーマップを完成させた。
 小樽市総合博物館本館の展示では、そのストーリーマップを体験することができるとともに、『幽鬼の街』で描写された場所の写真などを展示するもので、臨場感があった。
 
 同作の冒頭には、小樽駅前の土産物屋が並ぶ一角が出てくるが、そこに「北海道名産アイヌのアツシ、熊の彫りもの」などと並んで、「手宮の古代文字とその因縁」とある。こういう
題名のパンフレットを売っていたのだろうか。
 博物館を出たら、隣に〈手宮洞窟保存館〉があったので驚いた。入ってみると、奥の方の壁に模様らしきものが見える。これは古代に刻まれた文様だという。幕末に発見され、明治期に榎本武揚が学界に紹介したそうだ。貴重なものだろうが、ほかに見るものもなく、ちょっと
拍子抜けするような洞窟だった。
 
 運河に沿って町なかに戻ると、〈小樽市総合博物館運河館〉がある。ここでも「『幽鬼の街』展」が開催中で、小樽の古い写真が展示されていた。
 そこからすぐのところにあるのが色内で、かつて国鉄手宮線の色内駅があった。
 
『幽鬼の街』にはこうある。
「この道をゆけば。右は色内町へ出る角で北海拓殖銀行、左は堺町の角で三菱銀行があり、その五階には小樽商工會議所がある。向角の右には小樽郵便局の低い二階建の古色蒼然たる玄関があり、左角には白亜の現代風な第一銀行小樽支店が聳えてゐる。その並びに沿つて坂を上れば、為替貯金局があり、日本銀行小樽支店が四隅に塔のある大きな姿態で蹲つてゐる。ここは商業都市小樽の中心地なのだ」
 
 このうち、現在も残っているのは日本銀行小樽支店で、現在は〈日本銀行旧小樽支店金融資料館〉として公開されている。
 そして、ここに出てくる「為替貯金局」が1952年に新築移転した「小樽地方貯金局」が、1976年に「小樽市分庁舎」となった。そこで開館したのが、今回訪れる〈市立小樽文学館〉なのである。

展覧会と図録が充実

 小樽文学館はこの建物の2階の半分を占めている。残り半分と3階には〈市立小樽美術館〉が入っている。

2_Entrance
★小樽文学館の入口

 入って左手には図録などのミュージアムショップと古本コーナーがあり、右には〈JJ‘s
カフェ〉がある。ここでお会いしたのが、玉川薫さんだ。

3_Museum-shop
★ミュージアムショップ

 私はかつて、〈徳島県北島町図書館・創世ホール〉でユニークな講演会を手がける小西昌幸さん、〈名張市図書館〉で江戸川乱歩の資料を収集し、書誌を刊行した中相作さん(当時)、小樽文学館の玉川さんを並べて、「日本三大公務員」の称号を奉ったことがある。お役所の
枠を壊す独自の活動に敬意を表したつもりだ。
 ただ、私が実際に小樽文学館を訪れたのは、そう書いたあと、「小樽論2 まち見て歩き」展が開催中の2006年1月だった。
 
 展示も素晴らしかったが、ここで発行されている図録がよかった。300円~1000円程度の買いやすい値段で、コンパクトに編集されている。その場で数冊買い、東京に帰ってから通販でも買った。
当時、玉川さんは副館長だった。久しぶりにお会いした玉川さんは、館長を経て、定年退職後も学芸員として関わる。
 
「ここは1978年開館です。私が学芸員として採用されたのが翌年の1979年なので、もう45年もここにいるわけです」と、玉川さんは笑う。その背後には、定年を迎えた際に館員から贈られたフィギュアが飾られている。

4_Tamagawa's-figure-dolls
★玉川さんのフィギュア

 まず、展示室を案内していただく。
 ここでも『幽鬼の街』展を開催中だ。文学館では、原作の草稿や初出雑誌・初版本、伊藤整の履歴などを展示する。

5_exhibition
★『幽鬼の街』展

 冊子の表紙に使われた高山美香さんの絵も飾られていた。高山さんは札幌市在住のイラストレーター。館内に飾られる小樽ゆかりの作家のミニチュア人形も、高山さんの手になるものだ。『幽鬼の街』でも原作を読み込んでイラストを描いたという。

6_Mika-Takayama's-bookbinding
★高山美香『幽鬼の街』装画

 そこから常設展示に向かうところには、伊藤整の昭和30年代の書斎が再現されている。
多くの小説や『日本文壇史』などがこの場所から生まれた。

7_Ito-Sei's-study
★伊藤整の書斎

 常設展示の手前に、無料展示スペースがある。「市民なら誰でも企画を持ち込めます」と
玉川さん。年に5、6回開催する。こことカフェ、古本コーナーはチケットを買わずに利用できる。
 館が企画する展覧会は、かつては年に10回やったこともあるが、現在は年5、6回開催する。無料展示も合わせると、年に10回以上も展示をやっているのだ。こんな文学館、ほかにはないだろう。

文学館を築いた人たち

『市立小樽文学館開館30周年記念誌』によれば、1976年に市民の間から文学館を求める声が上がり、それを受けて、翌年小樽グリーンライオンズクラブが中心となり、文学館設立期成会が結成される。同年8月に〈今井デパート〉小樽支店で「小樽文學展」を開催し、のべ7000人が訪れた。
 この活動を通じて、小樽出身やゆかりのある作家と遺族から寄贈が続いた。それらをもとにして、1978年11月に開館した。美術館の開館は翌年である。
 この時点では札幌の〈北海道文学館〉は、独立した館を持っておらず、小樽文学館は地方の文学館の先駆けだった。
 
 玉川さんは福井市生まれ。北海道大学で国語学を専攻し、卒業後は東京の出版社で働いていたが、公募により文学館に採用される。
「設立期成会に勤務し、開館時から学芸員だった先輩が木ノ内洋二さんです」と、玉川さんは云う。
木ノ内さんは小樽市生まれで、明治大学を中退後、小樽に帰ってきた。文学に造詣が深く、
古本屋に入りびたったという。澁澤龍彦と交流し、稲垣足穂の『少年愛の美学』には「Y.K氏」として登場するという。
「詩人として詩集も残しています。世の中にはすごい人がいるんだなと思いました」と、玉川さんは振り返る。
 木ノ内さんは2002年まで小樽文学館に勤め、2005年に亡くなる。追悼文集『詩人・木ノ内洋二』の編集後記で、玉川さんは「木ノ内さんは、私のただ一人の先生であった」と記している。
 
 同館の最初の企画展は「並木凡平 生活をうたう」。並木は小樽新聞で口語短歌を推進した歌人。このとき4ページの図録というか小冊子を発行した。その後も展覧会ごとに小冊子を
発行している。
 1986年には、設立期成会が発展するかたちで「小樽文学舎」が発足。文学館の友の会的な組織で、会員の会費をもとに図録・グッズなどを制作する。この売り上げが館の支えになっているのだ。
 1990年代になると、展示の小冊子もページ数が増え、図録になっていく。その最初は1993年の「海の聖母 詩人・吉田一穂」展だろうか。その後、「小熊秀雄と池袋モンパルナス」展、「あがた森魚二〇〇一年一〇〇一秒」展、「伊藤整の『日本文壇史』」展など、ユニークな企画の展覧会が増えていく。
 
 1999年の「昭和歌謡全集・北海道編 流行歌に見る民衆史の深層」展の図録は230ページというボリュームで、表紙の根本敬の絵にインパクトがあった。この展示は観てみたかった。
 そして、亡くなった小笠原克館長のあとを受けて、2000年に日本近代文学研究の亀井秀雄さんが館長に就任。毎月、講座を行なうなど、文学館を発展させるために熱意を注いだ。
「亀井館長は『文学館と文学舎は両輪の存在だ』と話されていました」と、玉川さんは話す。亀井さんは文学館は文学研究者だけが集まる場所ではなく、「市民が自分たちの物語を作る場所なのだ」と書いている(「小樽文学館という場所で」、『WEB大学出版』第58号)。
 
 2002年には「小樽・札幌喫茶店物語」を開催。喫茶店主の座談会、嶽本野ばらの講演、
あがた森魚のライブと盛りだくさん。企画に協力した沼田元氣さんの喫茶店案内本まで出て、東京でも話題になった。
 このとき、会場内に植草甚一の蔵書や愛憎品を飾った〈J.J’s カフェを会場に仮設。それが展示終了後に常設のカフェになったわけだ。

8_JJ's-cafe
★JJ‘sカフェ

「このカフェをドネーション(寄付)制にして、誰でも使えるようにしようと提案したのが
亀井館長でした」と、玉川さん。
14年間、館長を務めた亀井さんだが、がんに罹り、2014年に退職。そのあとの館長になったのが、玉川さんだった。
 2021年に玉川さんが定年を迎えると、同館で学芸員を務めていた日本文学研究者の亀井
志乃さんが館長となる。志乃さんは亀井秀雄さんの息女である。
「今回の『幽鬼の街』展では、伊藤整研究者の内山景一朗さんが小樽の街の風景を解説してくださっています。それによって、作品が立体的に感じられます。こういう個人の記憶を記録して、今後の展覧会につなげていきたいと思います」と、亀井さんは語った。
 

小林多喜二と古本バザー

 小樽文学館の所蔵資料は、開館時には約3、4万点だったが、現在は約9万点まで増えている。近年は、医師で詩人の河邨文一郎、劇作家の八田尚之らの資料が遺族から寄贈された。「展覧会を開催することが、関係資料の寄贈につながることも多いです」と、玉川さんは説明する。
 
 いよいよ、玉川さんの案内で書庫に入る。
 書庫は2層になっているが、もともと1フロアだったため、広いとは云えない。その隅々まで資料が置かれている。
「伊藤整資料」と書かれた棚にも、アルバムなどさまざまなモノがある。リストには、原稿、写真、書簡のほかに、カメラ、テープレコーダー。鳥打帽、机、鞄、パイプなどが見える。

9_Shelves-about-Ito-Sei
★伊藤整資料の棚

 このなかには、伊藤が訳した『チャタレイ夫人の恋人』(小山書店)が「猥褻文書」か否かを問う裁判の資料が含まれる。
 東京地裁のラベルが貼られた『チャタレイ夫人の恋人』には、伊藤整による書き込みが多くある。裁判後に伊藤に戻されたものだろうか。

10_Lady-Chatterley's-Lover-Vol.1  11_Ito's-wrote
★チャタレイ夫人の恋人』上巻(左)と伊藤の書き込み(右)

「池田壽夫(横山敏男)旧蔵書」と題された棚に並ぶのは。戦前日本文学の書物たち。久野豊彦、阿部知二、佐左木俊郎らの「新鋭文学叢書」(改造社)、室生犀星『弄獅子』(有光社)などが見える。池田は1920年代から30年代にかけて、プロレタリア文学運動の理論家として活躍した。
 何気なく目をやった先には、徳永直『赤い恋以上』(内外社)があった。ちょうど再読していた紀田順一郎の古本屋ミステリ『古書収集十番勝負』(創元推理文庫)では、「プロレタリア作家としては別格級の人気があるし、その初版本の中でも最も少ないものだ」と評されている。そのかなりの美本がここにあるとは!

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★池田壽夫(横山敏男)旧蔵書の棚
 
 
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★『赤い恋以上』などが並ぶ棚

 池田が遺した資料には、プロレタリア運動団体の規約や活動報告、ガリ版刷りのニュースなどもある。そのなかの『1932年3月10日発行日本プロレタリア作家同盟東京支部組織部ニュース』第4号には「国内に於ける各芸術団体の革命競走の先頭を切れ!」という見出しが躍る。
 2019年に開催した「いまプロレタリア芸術が面白い!」展では、これらの資料が存分に
生かされた。

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★『日本プロレタリア作家同盟東京支部組織部ニュース』

 プロレタリア文学といえば、小林多喜二関係の資料も書簡、原稿、旧蔵書など多い。
 1929年(昭和4)に小林が『中央公論』編集長の雨宮庸蔵に送った手紙には、小説『不在地主』が掲載時に、作者が最重要とする部分が削除されたことへの無念の思いが綴られる。この作品の舞台が小樽なのだ。
 この書簡は1997年に札幌の古書店が130万円で売りに出したもので、当時の小笠原克館長は「小樽に里帰りさせたい」という思いから、古本バザーの売上を頭金として購入を決めた。その後、「小林多喜二の手紙を小樽に!」基金を設立。全国から寄付があり、半月で目標額に達した。それを記念して、「届いた手紙 小林多喜二『不在地主』の発表をめぐって」と題する緊急企画展を開催した(『市立小樽文学館報』第17号、1998年3月)。

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★小林多喜二 雨宮庸蔵宛書簡

「小林多喜二では、これも大きな宝物です」と、玉川さんが見せてくれたのが、小林多喜二のデスマスク石膏原型だった。
 小林が築地署で拷問死した翌日の深夜に作成されたもので、警察が取り返しに来ることを恐れ、短時間で制作された。それが遺族の手に渡され、守られてきた。
 
 1998年の書簡購入運動などで小林家と連絡を取っていた玉川さんは、この貴重なデスマスクをしかるべき施設に託したいという相談を受けて、いちどは日本近代文学館を薦めた。
 
 しかし、玉川さんはこう考える。
「他の文学館は知らぬ、この小樽文学館で年月を重ねるうちに私に実感されるようになってきたのは、ここが〈逝ったものと残されたものの思いが錯綜し、沈殿していく特別な場所〉ということである。(略)私は、〈多喜二のデスマスク〉は小樽文学館で預かりたい、と考え直した。調査研究のために預かるのではない。公開展示するつもりもない。理解されにくいと思うが、〈多喜二のデスマスク〉をここで預かるのは必然なのである。これが小樽文学館というものの、本当の、存在理由なのである」(「言っておかなければならぬこと」、『市立小樽文学館報』第19号、1999年3月)
 その結果、小林家は小樽文学館に寄託することを決めた。
 このデスマスクからは、たしかに小林の無念さが伝わる。「逝ったものと残されたものの
思いが錯綜」する資料なのだ。

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★小林多喜二のデスマスク石膏原型

豊富なアイデアを生かす

次に向かったフロアには、さらに多くの文学者の資料があった。
 岡田三郎は、庁立小樽中学校の出身。徳田秋声に師事し、小説家として注目される。岡田が新聞に連載した小説の切り抜きが貼られたスクラップブックには、編集者と思われる赤字が入っている。単行本の原本に使われたのか。

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★岡田三郎のスクラップブック

 児童読み物作家(本人の呼び方)の山中恒は、子どもの頃、私が最初に著者として名前を
覚えたひとだ。小樽生まれで、著作や蔵書、掲載誌を寄贈している。なかでも貴重なのは、
テレビドラマのシナリオ。ガリ版を綴じたものもある。

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★山中恒の旧蔵書

 そのほか、詩人の吉田一穂、郷土史研究者の小寺平吉、地質学者の井尻正二らの資料がある。
 すでに展覧会で紹介された文学者もいるが、まだ紹介されていない人物も多い。この場所でいつか来るかもしれない出番を待っているのだ。
 同館はスペースも予算も十分とは云えないが、展覧会や図録には豊富なアイデアが盛り込まれている。
 
 このところ、千代田区小川町の〈東京古書会館〉で、泡坂妻夫展、連城三紀彦展、小栗虫太郎展などが相次いでいるが、これらは小樽文学館で開催したものをコンパクトにして巡回するものだ。小樽にしょっちゅう行けない身には、嬉しい連携だ。
 
 同館では10月から「貸本小説と貸本屋の世界」展を開催中。同時開催は「マンガ家・つげ義春と調布」展だ。
「数年前に若い学芸員が入って、おもしろい企画を考えてくれます」と、玉川さんは嬉しそうだ。もちろん、玉川さん自身もまだまだやりたい企画があるという。
 一方で、小樽文学舎の活動は、市民を文学に親しむ機会をつくってきたし、カフェや古本
コーナーも町のスポットとして定着している。
 
 ちなみに、古本コーナーはカフェと同じくドネーション制。取材を終えた私は、さっそく
棚に張り付いて、文庫本を10冊近く手にしたのだった。
 
 
 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

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https://twitter.com/kawasusu
 
 

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