2019年9月10日 第282号

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 古書市&古本まつり 第80号
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━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

連載(三) 古書目録第15号『越境特集』発行予告記

                     風船舎 赤見悟

 何とか連載の最終回を迎えることができ安堵している。今回は目
下作成中の古書目録第15号『越境特集』について書く。特集タイト
ルは今のところ『混ざりあう世界-移民・植民・留学・旅行・冒険
・戦争・外交 etc.』でいく予定だ。他の候補としては『越境する人
々』『他を知り、我を知る-越境するということ』『異郷をめぐりて』
『越境者群像』等がある。

続きはこちら
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赤見 悟(あかみ さとる)
1978年、埼玉県児玉郡上里町生まれ
2005年11月、杉並区阿佐ヶ谷にて「風船舎」実店舗開業
2007年夏、実店舗を閉め、通販専門に
2009年1月、古書目録第1号発行
2019年秋、古書目録第15号「越境特集」発行予定

━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

第9回 七面堂さん 奥付のない本を探すひと

                        南陀楼綾繁

 1997年から8年間、私は『季刊・本とコンピュータ』という雑誌
の編集室にいた。それまでネットと云えば、パソコン通信しかやっ
たことのない私にとって、インターネットは深い海のようなもので、
ヒマさえあれば検索エンジンやリンク集をたどってその海にダイブ
していた。いまスマホを操作していても得られないあの頃のワクワ
クした感覚を、ときどき懐かしく思い出す。古本好きの人が開設し
たサイトもずいぶん見て、ブックマークに入れたものだ。「閑話究
題 XX文学の館」もそのひとつだった。

続きはこちら
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南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ
・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人を
つなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市
の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社刊 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

━━━━━━【横田順彌追悼展 開催のお知らせ】━━━━━━━

 SF作家・横田順彌(1945-2019)。その業績は、ひとことでは
言い表せぬほど広範かつ深いものでした。
 抱腹絶倒の「ハチャハチャSF」。実在の人物や当時の風俗を描
き抜いた「明治SF」。独自の語り口で現物より面白いと言われた
「古典SF研究」。日本SFの祖とも言われる人物の生涯を明らか
にした「押川春浪研究」。

続きはこちら
http://www.kosho.ne.jp/?p=295

【横田順彌追悼展 横田順彌・ヨコジュンのびっくりハウス】

期間 2019年10月11日(金)~19日(土)※日曜・祝日休館
時間 10時~17時
会場 東京古書会館 2階情報コーナー
   千代田区神田小川町3-22 
料金 無料

━━━━━【9月10日~10月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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吉祥寺パルコの古本市

期間:2019/08/24~2019/09/16
場所:吉祥寺パルコ 地下1階 
武蔵野市吉祥寺本町1-5-1
URL:https://twitter.com/TOKYOBOOKPARK

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第91回 彩の国 所沢古本まつり(埼玉県)

期間:2019/09/04~2019/09/10
場所:くすのきホール
西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場
URL:https://tokorozawahuruhon.wixsite.com/tokorozawahuruhon

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フジサワ古書フェア(神奈川県)

期間:2019/09/05~2019/09/18
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場
   藤沢市南藤沢2-1-1 フジサワ名店ビル7F
URL:http://www.yurindo.co.jp/store/fujisawa/

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第37回古本浪漫洲 Part3

期間:2019/09/10~2019/09/12
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:http://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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第6回 小倉駅ナカ本の市(福岡県)

期間:2019/09/10~2019/09/16
場所:小倉駅ビル内・JAM広場 (JR小倉駅 3階 改札前)

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2019/09/12~2019/09/15
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9

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書窓展(マド展)

期間:2019/09/13~2019/09/14
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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吉祥寺パルコの古本市

期間:2019/08/24~2019/09/16
場所:吉祥寺パルコ 地下1階 
武蔵野市吉祥寺本町1-5-1

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第37回古本浪漫洲 Part4

期間:2019/09/13~2019/09/15
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:http://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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第48回 鬼子母神通りみちくさ市

期間:2019/09/15
場所:雑司が谷 鬼子母神通り
URL:https://kmstreet.exblog.jp/

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第4回 御茶ノ水ソラシティ古本市

期間:2019/09/15~2019/09/21
場所:御茶ノ水ソラシティプラザ
千代田区神田駿河台4-6(JR御茶ノ水駅 徒歩1分、
東京メトロ新御茶ノ水駅聖橋方面改札直通)
URL:https://twitter.com/koshoichi

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第37回古本浪漫洲 Part5(300円均一)

期間:2019/09/16~2019/09/18
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場)
   新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:http://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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趣味の古書展

期間:2019/09/20~2019/09/21
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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新橋古本まつり

期間:2019/09/23~2019/09/28
場所:新橋駅前SL広場

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2019/09/26~2019/09/29
場所:JR浦和駅西口さくら草通り徒歩5分 マツモトキヨシ前
URL:https://twitter.com/urawajuku

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和洋会古書展

期間:2019/09/27~2019/09/28
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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五反田遊古会

期間:2019/09/27~2019/09/28
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

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京都まちなか古本市(京都府)

期間:2019/09/27~2019/09/29
場所:京都古書会館 1F 
京都市中京区高倉通夷川上る福屋町723
URL:https://twitter.com/koshomachinaka

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中央線古書展

期間:2019/09/28~2019/09/29
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9

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第9回 上野広小路亭古本祭り

期間:2019/09/30~2019/10/06
場所:永谷お江戸上野広小路 ギャラリー+スペース36  
台東区上野1-20-10 お江戸上野広小路亭1階
(「上野御徒町」・「上野広小路」駅駅 A4出口前/
 「御徒町」駅北口 徒歩3分)

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西部展

期間:2019/10/04~2019/10/06
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9

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四天王寺 秋の大古本祭り(大阪府)

期間:2019/10/04~2019/10/09
場所:四天王寺
大阪市天王寺区四天王寺1-11-18
URL:http://kankoken.main.jp/

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港北古書フェア(神奈川県)

期間:2019/10/07~2019/10/16
場所:有隣堂 センター南駅店
   横浜市営地下鉄 センター南駅
URL:http://www.yurindo.co.jp/store/center/

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2019/10/10~2019/10/13
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9

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城南古書展

期間:2019/10/11~2019/10/12
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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第21回 八王子古本まつり

期間:2019/10/11~2019/10/15
場所:八王子駅北口ユーロード
URL:http://hachiojiusedbookfestival.com/

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第11回横浜めっけもん古書展(神奈川県)

期間:2019/10/12~2019/10/13
場所:神奈川古書会館1階特設会場
   横浜市神奈川区反町2-16-10

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日本の古本屋メールマガジンその282 2019.9.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:二見彰
 編集長:藤原栄志郎

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第9回 七面堂さん 奥付のない本を探すひと

第9回 七面堂さん 奥付のない本を探すひと

南陀楼綾繁

 1997年から8年間、私は『季刊・本とコンピュータ』という雑誌の編集室にいた。それまでネットと云えば、パソコン通信しかやったことのない私にとって、インターネットは深い海のようなもので、ヒマさえあれば検索エンジンやリンク集をたどってその海にダイブしていた。いまスマホを操作していても得られないあの頃のワクワクした感覚を、ときどき懐かしく思い出す。古本好きの人が開設したサイトもずいぶん見て、ブックマークに入れたものだ。「閑話究題 XX文学の館」もそのひとつだった。

 このサイトは「地下本」の書誌を載せたものだ。この場合の地下本の定義は、「公刊する事を前提としていない出版物の内、性を主題として扱っているもの」となるらしい。艶本、 好色本、春本などとも呼ばれるものだ。
私も地下本らしきものは即売展で見かけていたが、あまり手に取ることはなかった。しかし、このサイトでは梅原北明、酒井潔、伊藤竹酔ら戦前のコレクター文化とも関係の深い人々や、彼らが発行した雑誌について詳しく記されていた。

 その後もときどき覗いていたが、SNSが主流になってからはあまり見なくなった。最近見に行くと、しばらく更新が止まっているようだ。七面堂究斎と名乗る主は最近どうされているのだろう? と思って、取材を申し込んだ。
「仕事をしていたときは、サイトを更新するのが息抜きになっていたんですが、定年で退職すると、いつでも作業ができると思うとかえってやる気が落ちるんですよね(笑)。地下本について前に書いた原稿もアップしなければと思っているんですが……。ツイッターなどはやってないですね」と、七面堂こと佐々木宏明さんは云う。

 佐々木さんは1953年、足立区生まれ。父は帽子職人だった。小学生の頃から本好きで、周囲もそれを知っていたという。
「小学校の担任が辞めるときに、他の級友には小説の本を上げていましたが、私だけ『社会科年鑑』をもらいました。そういう本が好きだと思われたのでしょうか」
 マンガ雑誌も好きだった。読んだら近所の古本屋で売って、週100円のこづかいの足しにしていた。立ち読みして、「出てけ!」と叱られたこともあるという。

 中学になると、小説ではなく雑学系の本にハマり、宇宙人や古代史、奇術、占いなどあれこれ読む。占いについては、易経について調べたり文化祭で占いをしたりした。また、奇術については、大人になってから日本奇術連盟に入り、カードマジックを研究した。「興味を持つと、つい深いところまで行ってしまうんです」と笑う。
 その頃、新刊書店で『千一夜物語』を見つける。河出書房から出たリチャード・バートン訳の全7巻本だが、高くて手が出なかったので、古本屋でバラで集めた。これがエロスの世界への入り口となる。

 工業高校を卒業し、汎用コンピュータの会社に入って保守部門に配属される。のちに別の会社に移るが、そこもコンピュータ系だった。この経験が書誌やサイトづくりに生かされる。
 就職してしばらくは本を読む時間もなかったが、28歳ごろに『地下解禁本』を読み、地下本に興味を持つ。
「編者の小野常徳は警察のOBだった人で、この前に『発禁図書館』も出しています。『地下解禁本』には芥川龍之介が書いたと云われる『赤い帽子の女』や、『О嬢の物語』などが入っていました。それで、ここで紹介されているような地下本が実際に手に入らないかと思って、神保町の古書店の棚をじっくり見て、戦後の発禁本である『蚤の浮かれ噺』と『バルカン戦車』を見つけて買ったんです」

 ちなみに、「地下本」と「発禁本」の違いは、摘発されたかどうか。法律を無視して出版した段階では前者だが、摘発されると後者になる。
「地下本の全体像を把握するのは、とても難しいです。活字版はまだ見当がつきますが、ガリ版で発行されたものとなると判りません。奥付がないので、発行年代を確定しにくいです。刊行案内や会員通信のチラシが一番確かです。『袖と袖』という題で知られているテキストは、最も多く発行されていますが、『痴狂題』というタイトルになっていたりする」

 その後、古書展や古書目録でも地下本を探しはじめる。一回の目録でまとめて買うことにより、七面堂さんが地下本を集めていることが認知されるようになった。
「山の本に強い文京区のある古書店は、私が地下本を注文するようになると、その方面だけで自家目録を出した。配布する前に私に見せてくれたので、60万円ほどまとめて買いました。もっとたくさん買いたかったが、予算が足りませんでした(笑)」

 この中で買ったのが、伊藤晴雨が石版刷りで刊行した『論語通解』だった。五十部限定の私家版だが、性文化研究家の高橋鐵が所蔵する本のみの天下一本とされていた。七面堂さんは目録の中にこの本が違う題名で載っているのを見つけたのだ。

 この調子で買いまくった結果、木造の家の床が本棚ごと抜けたという。
最初は集めた地下本を読んでいたが、タイトルが異なっていても同じテキストであることを確認することが主になっていく。もはや、エロスが動機ではなくなっている。パソコンのカード型データベースで、一冊ごとの書誌項目を入力して管理した。
1987年からは〈進和文庫〉という古本屋が出していた『IGNORANCE SIMPLE REPORT』で、「高資料」と呼ばれる性記録文献についての研究を発表する。作家の龍胆寺雄がこの資料にどういう関わりがあったかなどを検証した。

 そして、これまでの地下本データをもとにHTMLの勉強を兼ねて2000年につくったのが、「閑話究題 XX文学の館」というサイトだった。
「コレクションが溜まってくると人に見せたくなるという、コレクター心理からですね(笑)。本当は雑誌を発行したかったのですが、やり方も判らないし、サイトなら広く公開できるので。それと前年に別冊太陽の『発禁本』が刊行されたこともありました。発禁本研究家の城市郎さんのコレクションをもとにして、図版も多く収録していました。でも、地下本の現物にあたってみると、少し違うところがあると知らせたかったという理由もありました」

 七面堂という名前にしたのは、「しちめんどうくさい、という意味もありますが、当初、古川柳、奇術、古代史、占いなど自分が好きなテーマごとに七種類のサイトをつくりたかったんです。でも、地下本だけで手いっぱいになってしまった」

 最初のコンテンツは少なかったが、手に入れた地下本について判ったことを書いていくうちに、どんどん詳細になっていった。
「地下本はどの版が正統なのかを確定しにくく、Aという版とBという版の現物を比べてみるしかありません。その難しさが集めて、調べるようとする原動力になっているのかもしれません。サイトでは同好の士からの反応があるのが嬉しかったですね。アクセス数は一番多かった時期で月に1000件ぐらいでした」

 これまで集めた地下本は単行本が3000冊くらい、雑誌は20~30種。それ以外の本も2000冊以上所蔵している。
「すべての地下本をコンプリートするのは不可能ですが、見たことがないものがあとから出てくるから、なかなか蒐集をやめられません(笑)。いつかはそれらをまとめて書誌として刊行したいと思っているので、全部取っています。ただ、必要なときに出てこなくて困ることも多いです」

 コレクションを継ぐ人もいないため、いずれは国立国会図書館などに寄贈し、研究の材料にしてほしいと考えている。
「地下本を集めるようになったのは、誰もそれが『本』だと認めていなかったから。だったら、自分で集めてやろうと決意したんです。でも、自分ひとりではやりきれなかったので、後世に託したいんです」

インタビューの際に、七面堂さんは持参した地下本の一冊ずつについて、丁寧に説明してくださった。私のような門外漢がそれを引き写すよりも、「XX文学の館」には詳しく解説されているので、ぜひそちらを読んでいただきたい。
そして、いつかは地下本の書誌が刊行されることを願う。「奥付のない本」を網羅したその書誌には、七面堂さんの名前と発行日を記した奥付がつくはずだ。

「閑話究題 XX文学の館」
http://kanwa.jp/xxbungaku/index.htm

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)などがある。

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『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
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連載(三) 古書目録第15号『越境特集』発行予告記

連載(三) 古書目録第15号『越境特集』発行予告記

風船舎 赤見悟

 何とか連載の最終回を迎えることができ安堵している。今回は目下作成中の古書目録第15号『越境特集』について書く。特集タイトルは今のところ『混ざりあう世界-移民・植民・留学・旅行・冒険・戦争・外交 etc.』でいく予定だ。他の候補としては『越境する人々』『他を知り、我を知る-越境するということ』『異郷をめぐりて』『越境者群像』等がある。

 今回もあるお客さんからお売り頂いたいくつかの品々をきっかけに特集を決意した。昨今の世界状勢から鑑みてなかなかタイムリーな特集かもしれないが、あくまでも自分が楽しめ、そして商略ありきの特集であり、大それた事は考えていない。しかし、作成中の目録の事について書くのは非常に難しい。何せまだ完成していないのだから下手なことは書けない。基本的に「単に商売としてやっているだけ」なので、知的な事は書けないし、ここで披露するような作成中の面白いエピソードも特に無い。

 そこで、目録の宣伝を兼ね、掲載予定の極一部の品を勝手ながら紹介したい。本来営利目的のような原稿はご法度なのかもしれないが、今回この原稿はやむを得ず引受けているので、そのくらいの我がままは許して頂きたい。

 まず、今号は「日本から海外へ」「海外から日本へ」という全二部構成から成っている。前者は「ブラジル」「アメリカ」「ハワイ」「ドイツ」「イギリス」「満州」「朝鮮」「台湾」「南洋」等々の項目を立て、商品およそ1500~2000点を掲載予定。以下、そのほんの一部。

・在ブラジル日本人移民「S.T氏」の自筆書簡一括 1933~1939年
・「在米邦人」自筆葉書1100余通 1900年頃~1940年頃
・日系人収容所「ハートマウンテン移住センター」内発行週刊新聞40部
・在仏国リヨン日本領事・小西孝太郎氏宛自筆葉書221通 1899年・1900年
・軍艦「鬼怒」乗組員旧蔵アルバム六冊 昭和3~5年頃
・SPレコード「現地録音南方攻略戦記」全十枚一組 台湾放送協会編 戦中
・花蓮港方面に於ける「生蕃征伐」関連私製写真帖 明治末
・満洲国興安南省王爺廟「国立興安学院」関連資料一括
・「川上音次郎君帰朝土産 戦地実況写真」五枚 明治27年
・陸軍軍医・宇木碩太郎、清国駐留時代アルバム三冊 明治36~38年

 後者は「在日外国人」「内地へ」「来日音楽家」「基督教がやってきた」「米軍/進駐軍」「引揚者」「帰国者群像」等の項目を立て、商品およそ1000点を掲載予定。以下、そのほんの一部。

・音楽家「Jachimek,Franz Karl」1869年来日時に横浜より送った独語書簡
・フレデリック・スタール関連「納札」他貼込帖三冊 大正期~昭和後期
・板東俘虜収容所内「徳島オーケストラコンサート」プログラム 1917年6月10日
・箱根松坂ホテル「外国人宿泊者名簿」二冊 明治32年~昭和20年
・東京都中野区々政係旧蔵「進駐軍事故」に関する内部資料綴一括 昭和21~28年
・朝鮮火薬製造株式会社海州工場終戦後の工場並に従業員引揚脱出詳記 戦後
・江文也作曲「台湾の舞曲」スコア 昭和11年
・崔承喜舞踊作品第一回発表会プログラム+チラシ 昭和9年
・興亜讃美歌 昭和18年
・矢田一嘯肉筆水彩画入『香椎宮幻燈原図並図解』+『香椎宮幻燈解説畧』 明治36年

 巻末に「付録」として、特集には入らない以下の品々も掲載予定。

・添田唖蝉坊作「新流行歌集」第一編/第二編揃 大正12年10月
・松竹キネマ蒲田撮影所『蒲田週報』全262号揃(合本2分冊) 大正14~昭和6年
・通俗教育『活動画報』第一号 明治45年 ※映画雑誌です
・幼児教育家・内山憲尚自筆日記五冊 昭和2~6年
・株式会社大日本東京野球倶楽部定款 昭和9年

 むむむ…、これは頗る面白そうな目録ではないか(笑)。発行は11月中を予定しているので、ご興味をお持ちの方は800円分の切手を同封の上弊舎宛(〒158-0081東京都世田谷区深沢4-17-2-101)に郵送でお申込みください。尚、現金でのご購入はお断りさせて頂いておりますので予めご了承ください。
 目録の完成はまだまだ見えてこないが、とにかく私は今この連載が終えられる事に大きな喜びを感じている。さあ、仕事に戻ろう。

風船舎古書目録第15号『越境特集』イメージ画像
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赤見 悟(あかみ さとる)
1978年、埼玉県児玉郡上里町生まれ
2005年11月、杉並区阿佐ヶ谷にて「風船舎」実店舗開業
2007年夏、実店舗を閉め、通販専門に
2009年1月、古書目録第1号発行
2019年秋、古書目録第15号「越境特集」発行予定

Copyright (c) 2019 東京都古書籍商業協同組合

2019年8月23日 第281号

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☆INDEX☆
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
1.古書市場が私の大学だった      青木正美
2.『日本国民のための愛国の教科書』の“トリセツ”
                       将基面 貴巳
3.『本屋がアジアをつなぐ』について     石橋毅史

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━━━━━━━【自著を語る(228)】━━━━━━━━━

古書市場が私の大学だった

                               青木正美

 四月で八十六歳、二十(はたち)で始めた古本屋も六十五年にな
る。「よく生きにけり」だ。
 かたわら『古本屋五十年』他の自叙伝、調べた限りの明治以後の
業界史、個性ある先輩たちの伝記、日記関連本など四十冊余りの本
を書いた。今度の『古書市場が大学だった』では、生涯を通じての
私の思いを、末尾に書下しているが私の本音である。

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━━━━━━━【自著を語る(229)×版元ドットコム】━━━━━

『日本国民のための愛国の教科書』の“トリセツ”

                     将基面 貴巳

 この小文をお読みになる方々には「日本人が日本を愛するのは自
然で当然のことだ」とお考えになる方が少なくないのではないでし
ょうか。あるいは、そのような意見をメディアで見かけたことがあ
ると思います。私の最新刊『日本国民のための愛国の教科書』(百
万年書房)は、「自分の国を愛することは当然だ」という一般通念
が、実は、歴史的にも哲学的に成り立たないことを論じるものです。

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『日本国民のための愛国の教科書』 将基面 貴巳 著
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━━━━━━━━【自著を語る(230)×版元ドットコム】━━━━

『本屋がアジアをつなぐ』について

                      石橋毅史

 言論・表現の自由が脅かされつつある、といわれることが多くな
りました。
いまの僕には、なんともいえません。すくなくとも書店空間におい
ては、まだ言論の自由は生きているように思えます。
 ある書店を例に挙げます。新刊書を売る、小さな書店です。
その店は、ナショナリズムを押しだした月刊誌2誌を平積みしてい
ます。店長によれば、この類の雑誌の客は、毎号、きちんと買いに
来るそうです。しかも、老後の生き方についてのエッセイだとか、
書籍も一緒に買ってくれる人が多い。

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『本屋がアジアをつなぐ』石橋毅史 著
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━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『街灯りとしての本屋 
    11書店に聞く、お店のはじめ方・つづけ方』
田中佳祐 著  竹田信弥 構成
雷鳥社刊 本体1600+税 好評発売中!
http://www.raichosha.co.jp/bcitylight/index

「世界が、先に驚いた。」 あの春画展から4年
驚きの内幕を描くドキュメンタリー

文化記録映画「春画と日本人」
監督・撮影・編集・製作著作:大墻敦(2018年/87分/カラー/16:9)
2019年9月28日(土) ポレポレ東中野にてロードショー 

2019年秋 大阪・第七藝術劇場、京都シネマ、
名古屋・シネマスコーレ公開決定 順次全国公開

「春画と日本人」上映情報
https://www.shungamovie.com/showtimes

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

8月~9月の即売展情報

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 次回は2019年9月中旬頃発行です。お楽しみに!
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全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその281 2019.8.23

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:二見彰
編集長:藤原栄志郎

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aikoku

『日本国民のための愛国の教科書』の“トリセツ”

『日本国民のための愛国の教科書』の“トリセツ”

将基面 貴巳

この小文をお読みになる方々には「日本人が日本を愛するのは自然で当然のことだ」とお考えになる方が少なくないのではないでしょうか。あるいは、そのような意見をメディアで見かけたことがあると思います。私の最新刊『日本国民のための愛国の教科書』(百万年書房)は、「自分の国を愛することは当然だ」という一般通念が、実は、歴史的にも哲学的に成り立たないことを論じるものです。

この本は、もう一冊、別の書物を執筆した副産物です。『愛国の教科書』と同時発売となる『愛国の構造』(岩波書店)は、現代パトリオティズム(愛国主義)論を歴史的・哲学的に分析する学術書ですが、この本を仕上げる段階に入った頃、愛国心の問題は、政治思想の専門家だけでなく、広く一般読者にも考えてもらう必要があると痛切に思うようになりました。実際、現代日本では、道徳教育の一環として「国を愛する心」が教えられています。しかし、愛国心教育の結果、「国を愛すること」が「自然だ」「当然だ」「単純だ」と思うだけに終わっているならば、愛国心について考えを深めたことになりません。中学生でも理解できる平易な「教科書」が必要だと考えたゆえんです。

歴史を遡ってみると、日本人が愛国心を持つようになったのは、明治時代、それも1890年代以降のことにすぎません。つまり、1880年代以前の日本人にとっては、愛国心を持つことは「自然」どころか、愛国心とはどのようなことか全くわからなかったのです。また、愛国心を哲学的に考え直してみると、それほど「単純」でも「当然」でもないことが浮かび上がってきます。たとえば、愛国心とは、文字通り、国を愛することですが、その愛とは無条件に溺愛することだとはかぎりません。また、国に忠誠心を抱くといっても、不正や腐敗が横行する国に忠実であることは道徳的に正当だと言い難いでしょう。さらに、国を誇りに思うといっても、国に関するありとあらゆることを常に誇りに思うことであるわけがありません。そんな完全無欠な国はどこにも存在しないし、自分の国を誇りに思うならば、国の欠点や過失に関して羞恥心や怒りの感情を抱くことになるはずです。このように、愛国心とは決して「単純」なことではないのです。

しかも問題はそれにとどまりません。そもそも、「自分の国を愛するのは当然で自然なことだ」というような物言いは、一見したところ素朴で無垢な感情の表れのように見えます。しかし、このような言葉づかいは、実のところ、民衆扇動(デマゴギー)のレトリックなのです。「当然だ」「自然だ」「単純だ」と断言するなら、その意見は異論を許しません。こうして反対論を封じ込めてゆく結果、異なる意見を持つ人々を排斥することとなります。「愛国心“当然”論」の正体は極めて危険なのです。

『国民のための愛国の教科書』は、過去十数年にわたって国の道徳教育の一環として行われている愛国心教育や通俗的な愛国心に関する言説への「解毒剤」として読んでいただきたいと願っています。



aikoku

『日本国民のための愛国の教科書』将基面 貴巳
発行 百万年書房 価格 1,680円+税 好評発売中!
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ajia

『本屋がアジアをつなぐ』について

『本屋がアジアをつなぐ』について

石橋毅史

 言論・表現の自由が脅かされつつある、といわれることが多くなりました。
いまの僕には、なんともいえません。すくなくとも書店空間においては、まだ言論の自由は生きているように思えます。
 ある書店を例に挙げます。新刊書を売る、小さな書店です。
その店は、ナショナリズムを押しだした月刊誌2誌を平積みしています。店長によれば、この類の雑誌の客は、毎号、きちんと買いに来るそうです。しかも、老後の生き方についてのエッセイだとか、書籍も一緒に買ってくれる人が多い。

 創価学会の人たちも、ありがたい客だそうです。「人間革命」シリーズの新しい巻が出るとなれば、黙っていても百冊近い予約が入る。発売されたらすぐに買いに来るので、忘れずに発注しておく。ただ、売場には出さない。棚に並べてもらえませんかと出版社から請われるたびに、やんわりと断っているそうです。

 ナショナリズムも創価学会も大嫌い、という客も多い。来るたびに憲法九条の大切さについて三十分ほど話していく人も、何人かいる。上記の客層に比べると財布のひもは固いものの、店長はそうした人たちが求めそうな本もたくさん用意しています。
 もっとも多いのは、政治にも社会問題にもほとんど関心のない客です。そもそも、さほどの読書家ではない客が多い。時間をかけずに作れる料理の本、ラクに痩せられるダイエットの本、子どもが読むヒーローものの雑誌や漫画なども欠かせません。きっちり仕入れて、目立つ場所に並べておく。

 残ったわずかなスペースでは、店長が個人的に推したい本、応援している作家の本を置く。店長を慕う客から、なにか薦めてよと言われることがある。そのために必要なのです。
 その書店は駅前の小さな商店街にあり、町ではいろんな人たちが肩を寄せあって暮らしています。試行錯誤の結果、そうした全方位的な品揃えの書店をやっているわけです。

 この書店を、良いとか悪いとかいいたいのではありません。ただ、日本の言論の現状を総合しているとはいえるでしょう。言論を扱う場でありながら、右も左も無関心も、さらに子どもまで引き寄せている。インターネット、新聞、テレビを見ていると、すべてが一堂に会することは稀になっています。このような書店は、より特異で、貴重な存在になってきています。あるいは、現在もっとも自由なメディアなのかもしれません。

 本書では、韓国、台湾、香港、日本で、そうした書店の「自由」を求めて生きる本屋の話をまとめました。国や時代によって、求める「自由」のかたちは違っていました。なかには、強い権力によって人生を奪われた本屋もいました。
とはいえ、根っこのところは同じではないか?
自由な言論を発する人たち。それを享受する人たち。間に立って商いをする「本屋」の存在は、これからますます重要になると思います。



ajia

『本屋がアジアをつなぐ』 石橋毅史 著
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daigaku

古書市場が私の大学だった

古書市場が私の大学だった

青木正美

 四月で八十六歳、二十(はたち)で始めた古本屋も六十五年になる。「よく生きにけり」だ。
 かたわら『古本屋五十年』他の自叙伝、調べた限りの明治以後の業界史、個性ある先輩たちの伝記、日記関連本など四十冊余りの本を書いた。今度の『古書市場が大学だった』では、生涯を通じての私の思いを、末尾に書下しているが私の本音である。定時制高校の二年すら終えていないのを、これらの本まで書かせてくれたのが古書市場→特に”明治古典会”だったからだ。そこは例えれば、あの弘文荘・反町茂雄校長の許、文学堂内藤勇、木内書店木内民夫、不思議な先輩、杉浦台紀教授連のいる古書の実践大学だった。

 今回私が「日本古書通信」に三十数年間の連載分から八十四篇をまとめたものだが、右の”学校”のことは度々出てくる筈だ。ともあれ本は漱石、藤村、龍之介への思いや古本屋ならではのエピソードから始まる。特に「小学校さえ出ていない」と自称した窪川いね子(のちの佐多稲子)、室生犀星、小山清など学歴などものともせず独自の文学を極めた人達には、いつか自分を重ねてしまっていたかも知れない。

 また、昭和三十四年創刊(学燈社)の「みどり」は”作家訪問欄”に注目、「石原慎太郎と湘南高校」「古本屋になりたかった開高健」「二十三歳の大江健三郎」を書いた。この時点での高校の旧友、本人の生の声を若い記者が取材文章にしたもので、のち三人が大成しているだけに出色の出来上りだった。
 そしてもっとも読んで頂きたいのは、八十四篇中の(60)「古山高麗雄氏と話したこと」(78)「つげ義春さんと会う」の二篇だ。あの太平洋戦争下、もう伝説となった文学青年のグループに「悪い仲間」があった。当時の世相からは、不良青年たちとも見えた彼等の中から戦後安岡章太郎と古山という二人の芥川賞作家が生まれてしまう。中には戦没者もいた彼らだが、縁あって私はその何人かと知り合い取材、『「悪い仲間」考』(平19/古通)を出す。文章(60)は、古山氏の亡くなる一か月前に氏と一時間余り電話で語り合った記録。

 一方、文章(78)の場合は平成十二年、私が調布市のつげ氏が指定された駅前喫茶店で、延々三時間対話した日の日記を、”訪問記”として二回にわたって載せたものだ。つげ氏、「何しろ、立石は出ちゃってから行ってないんです。いい思い出は全くない。子供の頃、駅の改札口でキャンデー売りとかね。あれが一番辛かった。でもよくあんなこと駅が許してくれてましたね。・・・・ええ、母が死ぬまで青戸で暮らしてたんで、去年まで京成線に乗ってました。堀切を通過中はここに青木さんがいるんだなんて・・・でも立石へはねえ」

 私は、最後にお聞きした。「今目の前にしているつげさんと、熱狂的なファンに支えられた”つげ義春”という巨人とはものすごく乖離していると思うんですが?」
 氏は答えている。

 「私は本来、マンガ家とか画家とか思われたくないんです。好きな画家も、強いて言えばレオナルド・ダビンチ、もしくはそれ以前の名もない絵の職人さんなんです。それは手塚治虫さんくらいの天才なら、ああいう風に扱われても仕方ないですけど、赤塚不二夫さんみたいにテレビで顔を売っているのはね? あれでは電車も乗れません・・・」
 最後、思わずつげさんとの出合いを長々と写してしまったように、面白いことは受け合いです。
 どうか読んでみて下さい。



daigaku

『古書市場が私の大学だった―古本屋控え帳自選集』青木正美 著
日本古書通信社刊 定価:2160円 好評発売中!
https://company.books-yagi.co.jp/archives/news/5573

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2019年8月9日 第280号

■■■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■
 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
 古書市&古本まつり 第79号
      。.☆.:* 通巻280・8月9日号 *:.☆. 。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

初旬に(10日前後)全国で開催されている古本展示即売会など、
イベント情報をお送りします。お近くで開催される際は、ぜひ
お出掛け下さい。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

連載(二) 古書目録第12号
  『マッカーサーがやってきた 1945-1952(1972)』回想記

                     風船舎 赤見悟

 今回は2016年発行の弊店にとっては二度目の総特集となる古書目
録第12号「マッカーサーがやってきた 1945-1952(1972)」につ
いて書こうと思う。タイトルの通り「連合国軍占領期の日本」特集
である。
 「占領期」関係は特集を組む以前にも多少は取り扱っていたが、
特集を組む決意をしたのはあるお客さんからお売り頂いたいくつか
の品々がきっかけだった。例えば以下の品。

続きはこちら
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赤見 悟(あかみ さとる)
1978年、埼玉県児玉郡上里町生まれ
2005年11月、杉並区阿佐ヶ谷にて「風船舎」実店舗開業
2007年夏、実店舗を閉め、通販専門に
2009年1月、古書目録第1号発行
2019年秋、古書目録第15号「越境特集」発行予定

━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

第8回 神保町のオタさん 「本のすき間」を探るひと(後篇)

                        南陀楼綾繁

 授業よりも超能力やUFOのサークル活動に夢中だったという「神保
町のオタ」さんは、大学卒業後、京都で就職する。入社してしばら
くは忙しかったことから、SF関係からは離れていたという。
「それでも、栗本薫の『グイン・サーガ』シリーズは読み続けてい
ましたね。ヒロイック・ファンタジーが好きなんです」

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=5087

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ
・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人を
つなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市
の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社刊 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

━━━━━【8月9日~9月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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第7回 上野広小路古本祭り

期間:2019/08/05~2019/08/11
場所:永谷お江戸上野広小路 ギャラリー+スペース36
台東区上野1-20-10 お江戸上野広小路亭1階(地下鉄
上野御徒町・上野広小路駅A4出口、JR御徒町北口徒歩3分)
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第28回 東急東横店 渋谷大古本市

期間:2019/08/06~2019/08/13
場所:渋谷駅 東急東横店 西館8階催物場
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城北古書展

期間:2019/08/09~2019/08/10
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
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オールデイズクラブ(名古屋)

期間:2019/08/09~2019/08/11
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12
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第32回 下鴨納涼古本まつり(京都府)

期間:2019/08/11~2019/08/16
場所:下鴨神社糺の森 京都府京都市左京区下鴨泉川町59
URL:http://koshoken.seesaa.net/index-4.html
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阪神夏の古書ノ市(大阪府)

期間:2019/08/14~2019/08/20
場所:阪神百貨店梅田本店 8階催場 大阪市北区梅田1-13-13
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港北古書フェア(神奈川県)

期間:2019/08/14~2019/08/23
場所:有隣堂センター南駅店店頭
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フィールズ南柏の古本市(千葉県)

期間:2019/08/22~2019/09/01
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場 柏市南柏中央6-7
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ぐろりや会

期間:2019/08/23~2019/08/24
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:http://www.gloriakai.jp/
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立川フロム古書市

期間:2019/08/23~2019/09/01
場所:立川駅北口徒歩5分フロム中武(ビッグカメラ隣) 
   3階バッシュルーム(北階段際)
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好書会

期間:2019/08/24~2019/08/25
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2019/08/29~2019/09/01
場所:JR浦和駅西口さくら草通り徒歩5分マツモトキヨシ前
URL:https://twitter.com/urawajuku
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紙魚之會

期間:2019/08/30~2019/08/31
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
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杉並書友会

期間:2019/06/22~2019/07/15
場所:有隣堂伊勢佐木町本店 横浜市中区伊勢佐木町1-4-1
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第8回 上野広小路古本祭り

期間:2019/09/02~2019/09/08
場所:永谷お江戸上野広小路 ギャラリー+スペース36
台東区上野1-20-10 お江戸上野広小路亭1階(地下鉄
上野御徒町・上野広小路駅A4出口、JR御徒町北口徒歩3分)
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第91回 彩の国 所沢古本まつり

期間:2019/09/04~2019/09/10
場所:くすのきホール
   西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場
URL:https://tokorozawahuruhon.wixsite.com/tokorozawahuruhon
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第37回古本浪漫洲 Part1

期間:2019/09/04~2019/09/06
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2 TEL03-3354-6111
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フジサワ古書フェア

期間:2019/09/05~2019/09/18
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場
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東京愛書会

期間:2019/09/06~2019/09/07
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:http://aisyokai.blog.fc2.com/
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倉庫会(名古屋)

期間:2019/09/06~2019/09/08
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12
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「名古屋骨董祭」 第2回 名古屋古書即売会(名古屋)

期間:2019/09/06~2019/09/08
場所:吹上ホール 名古屋市千種区吹上2丁目6-3
   地下鉄・吹上駅5番出口徒歩5分
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大均一祭

期間:2019/09/07~2019/09/09
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
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第37回古本浪漫洲 Part2

期間:2019/09/07~2019/09/09
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場)
   新宿区歌舞伎町1-2-2
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反町古書会館展(神奈川県)

期間:2019/09/07~2019/09/08
場所:神奈川古書会館1階特設会場
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第37回古本浪漫洲 Part3

期間:2019/09/10~2019/09/12
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場)
   新宿区歌舞伎町1-2-2
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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2019/09/12~2019/09/15
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
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書窓展(マド展)

期間:2019/09/13~2019/09/14
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
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第37回古本浪漫洲 Part4

期間:2019/09/13~2019/09/15
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場)
   新宿区歌舞伎町1-2-2 TEL03-3354-6111
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第48回 鬼子母神通りみちくさ市

期間:2019/09/15
場所:雑司が谷 鬼子母神通り
URL:https://kmstreet.exblog.jp/
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第4回 御茶ノ水ソラシティ古本市

期間:2019/09/15~2019/09/21
場所:御茶ノ水ソラシティプラザ 千代田区神田駿河台4-6 
JR御茶ノ水駅 徒歩1分、東京メトロ新御茶ノ水駅聖橋方面改札直通

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━━━【映画『ガーンジー島の読書会の秘密』上映のお知らせ】━━━
          
1946年、終戦の歓びに沸くロンドンで暮らす作家のジュリエットは、
一冊の本をきっかけに、“ガーンジー島の読書会”のメンバーと手紙を
交わすようになる。ナチに脅えていた大戦中は、読書会と創設者である
エリザベスという女性の存在が彼らを支えていた。本が人と人の心を
つないだことに魅了されたジュリエットは、読書会について記事を書こ
うと島を訪ねるが、そこにエリザベスの姿はなかった。メンバーと交流
するうちに、ジュリエットは彼らが重大な秘密を隠していることに気付く。

ジュリエットが魅せられたガーンジー島の読書会の“秘密”とは-?

8月30日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー。

上映予定はこちらからどうぞ。

株式会社 キノフィルムズ
http://dokushokai-movie.com/

☆★[公開記念キャンペーン1-映画をより楽しむために-]☆★

映画の公開にあわせて8月16日(金)より「日本の古本屋」で
特集コーナーを設置します。

◇特集第1弾 8/16-8/29 映画「ガーンジー島の読書会の秘密」公開間近!
 『イギリス、ヨーロッパ文学』&『ヨーロッパの戦争、戦線』

◇特集第2弾 8/30-9/12 映画「パターソン」公開!
 『読書会、愛書家』&『イギリス、ヨーロッパ映画』

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次回メールマガジンは8月下旬に発行です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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を希望された方にお送りしています。
ご不要な方の解除方法はメール下部をご覧下さい。
【日本の古本屋】は全国950書店参加、データ約600万点掲載
の古書籍データベースです。

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 次回は2019年8月下旬頃発行です。お楽しみに!
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全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその280 2019.8.9

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:二見彰
 編集長:藤原栄志郎
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第8回 神保町のオタさん 「本のすき間」を探るひと(後篇)

第8回 神保町のオタさん 「本のすき間」を探るひと(後篇)

南陀楼綾繁

 授業よりも超能力やUFOのサークル活動に夢中だったという「神保町のオタ」さんは、大学卒業後、京都で就職する。入社してしばらくは忙しかったことから、SF関係からは離れていたという。
「それでも、栗本薫の『グイン・サーガ』シリーズは読み続けていましたね。ヒロイック・ファンタジーが好きなんです」

 オタさんが本格的に古本屋通いをはじめたのは、30代に入った頃だった。当時、神保町には『SFマガジン』のバックナンバーを揃えている古本屋があり、上京するたびに買いに行ったという。その際、すずらん通りにあった〈書肆アクセス〉に入った。地方・小出版流通センターが直営する書店で、地方出版やミニコミを扱っていた(2007年に閉店)。ここで古本好きのための雑誌『彷書月刊』を見つける。毎号、ユニークな特集を組んでいた。
「私が買ったのは、『サンカの本・その世界』という特集の号でした(1990年9月号)。それから毎月買うようになり、後ろのページに載っている古書目録を眺めていました。そこから、老舗の『日本古書通信』の存在を知り、そちらも購読するようになったんです」

 それがきっかけで、オタさんの古本屋めぐりがはじまった。出張で地方に行く際に、『全国古本屋地図』の該当ページを切り取って持っていき、その地の古本屋を回った。
「札幌の〈弘南堂書店〉、神保町の〈叢文閣書店〉、熊本の〈舒文堂河島書店〉のように、地方文献や民俗学関係を扱っている古本屋が好きでしたね。明治期の移民、キリスト教、開拓などに興味があったし、事物起源の本も好きでした」
 地元である京都ではどうだったか。
「私の在学中、京大の周辺には十数店の古本屋がありましたが、当時はあまり行っていませんでした。その頃の自分に古本屋、特に均一台の重要性を教えてやりたかったです(笑)。それらの店に通うようになって、未整理の山から『アメージング・ストーリーズ 日本語版』(誠文堂新光社)を一冊数百円で拾い出したりしました。学生の時に、知恩寺で開かれる秋の古本まつりにも行きましたが、まだ視野が狭かったようであまり買えませんでした。均一台も『どうせろくなものはないだろう』と素通りしていました。その面白さを知ったのは、岡崎武志さんや山本善行さんのエッセイからでだいぶ後になります」

さまざまな書誌を扱う東京の〈早川図書〉の目録を入手し、『新渡戸稲造文庫目録』(北海道大学)も買った。掲載されている本のデータを読むだけで楽しかったという。
 オタさんは、本を読むときには真っ先にあとがきと参考文献を読む。そこで知った本を古本屋で見つけ、また参考文献から新しい本を見つける……というように、いもづる式に興味の範囲が広がっていった。

 2005年1月、オタさんはブログ「ジュンク堂書店日記」を開始する。
「このジュンク堂は神戸・三宮のサンパル店のことですね。専門書が充実していて、かなり買い込んだ記憶があります。当時もいまも、ネットでは本は買わず、店舗で買っています。古本は『日本の古本屋』でときどき買っていますが。
 ブログをはじめたのは、当時、『電車男』などネット発信の書籍化がはやっていたので、自分もやってみようと思ったからだと、オタさんは云う。
 最初はタイトル通り、ジュンク堂の思い出や新刊の紹介を書いていたが、書物蔵さん(当時は書物奉行)がコメントを書き込むようになると、読者の目を意識して次第にマニアックな方向に踏み込んでいった。
「たとえば、文学者の日記を読んでいると、文学とは畑違いの何者か判らないけったいな人が出てきます。その人の経歴を調べて、ブログで紹介しました。その分野の研究者の目が届いていないだろう資料を見つけるのが、好きなんですよね。個人全集の別巻や日記篇を読んでいると、そういうネタが拾えるんです」

 同じ年の12月には、はてなダイアリーに移行し、「神保町系オタオタ日記」と改名。
「アキバ系がはやっていたので対抗しました(笑)。このタイトルのせいで、東京に住んでいると思っている人が多かったです」
 びっくりしたのは、元の「ジュンク堂書店日記」も翌年一杯は頻繁に更新されていることだ。どこから、その熱意が生まれるのか?
「本と本の間に挟まっている片々たる冊子が好きなんです。人が見ないもの、ひっそりと埋もれているものを探したい」とオタさんは云う。「本のすき間」を探ることに情熱を傾けているのだ。

 初期の「オタオタ日記」に出てくる固有名詞を拾ってみる。櫻澤如一、藤澤親雄、鈴木庫三、スタール、島田翰、朝倉無声、木呂子斗鬼次……。知らない名前のオンパレードだ。著名人でもかならず意外な角度から攻めてくるので、読み落とせない。
「このブログを通して黒岩比佐子さん、小谷野敦さん、佐藤卓己さんらと知り合うことができました。彼らの著書や論文に引用されたり、参考文献として挙げてもらったりしました。もっとも、小谷野さんは匿名を否定しているので、『久米正雄伝』で参考にしつつも『名前は出せない』と云われましたが」
 その後、母が亡くなり、父の看病をしていたため、半年ほど休んだ時期はあるが、現在までブログを続けている。

 そんなオタさんだが、「私は蒐集分野とか探究書などはべつにないんですよ」と笑う。「知らない本に出会うために古本屋に行っているだけで。だから、古本屋通いに終わりはないんです」
 その場にこの数年で手に入れた古本をいくつか持ってきていただいたが、たしかに、見事にジャンルがバラバラだ。
『百人一趣』上・下(1946)は、名古屋で『土の香』という民俗雑誌を発行していた土俗趣味社から出たもので、斎藤昌三、中山太郎、尾崎久弥、宮尾しげをらが寄稿している。
「巻頭の柳田國男の文章は、筑摩書房の定本全集に入っていますが、出典や発行年月が間違っています。下巻に『古本販売目録に就いて』を書いている呉峯生は、約4000冊の古書目録を集めたコレクターです」
 先日、大阪の〈文庫櫂〉で見つけたという城市郎『発禁本・秘本・珍本』(河出i文庫)は、著者旧蔵本で本人の書き込みがある。また、知恩寺の古本まつりの均一台で手に入れた同人誌『新人壇』(1960)には阿部昭や実相寺昭雄が書いている。先週の大阪古書会館の即売展では『ワセダ・ミステリ』創刊号を買っている。
 最近では書籍よりも紙モノに重点が移り、図書館に所蔵されていない非売品の小冊子や絵葉書に手が伸びるという。ますます「すき間」へと入り込んでいるわけだ。
「絵葉書は裏面の絵柄が注目されやすいですが、表面の通信面には面白い人の名前が見つかることがあります。小山展司から山名文夫への絵葉書を入手したんですが、小山はデザイナーで森山大道が教わった人らしいですね。人と逆のところに注目すると、面白い発見があるんです」

 オタさんが住んでいる家は木造で、本は二階に置いている。床が抜けないように分散して置くため、本棚がほとんどなく、床に積むか段ボール箱に入れている。紙モノは紛れ込みやすいので、カンで探しているそうだ。そのテーマに興味がなくなると、古本屋で処分する。
「SFや歴史の本はずいぶん売ってしまいましたね。硬めなものは〈書砦・梁山泊〉、やわらかめなものは〈古書善行堂〉に引き取ってもらうことが多いです」

 オタさんは地道に集めて、調べたことを、惜しげもなくブログで書く。
「自分で本を書こうという気持ちはないんですか?」と訊くと、「私はブログで充分です」と答える。本の「すき間」にあるものを見つけたら、あとはご自由に使ってくださいということだろうか。私自身も何度もこのブログに助けられている。
「神保町系オタオタ日記」には「自称『人間グーグル』」のサブタイトルがある。
「善行堂で買ったスエデンボルグ著、鈴木大拙訳の『天界と地獄』に、英文の書き込みがありました。それによると、アメリカ人の牧師からKusuichi Onoに贈られたものでした。この人物が気になったのですが、どうやって調べたらいいか判りませんでした。ところが、グーグルブックスで検索するとヒットし、東洋電機技手の小野楠一だと判明したんです。会社からイギリスに派遣されたのですが、日本に帰ってから亡くなったようです。これじゃあ、人間グーグルもお役御免ですかね」
 そう笑うオタさんだが、そもそもオタさんがこの本を買って書き込みに注目したから、この結果が得られたのだ。いくらネットの大海に膨大な情報が漂っていても、知識と興味と情熱を持つ人間がいなければ、何も生まれない。
 オタさんにはもうしばらく、「人間グーグル」として働いてもらいたい。私たちに役に立つことも、まったく役に立たないこともたくさん教えてもらいたいからだ。

神保町系オタオタ日記
https://jyunku.hatenablog.com/

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)などがある。

ツイッター
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『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
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連載(二) 古書目録第12号『マッカーサーがやってきた 1945-1952(1972)』回想記

連載(二) 古書目録第12号『マッカーサーがやってきた 1945-1952(1972)』回想記

風船舎 赤見悟

 今回は2016年発行の弊店にとっては二度目の総特集となる古書目録第12号「マッカーサーがやってきた 1945-1952(1972)」について書こうと思う。タイトルの通り「連合国軍占領期の日本」特集である。
 「占領期」関係は特集を組む以前にも多少は取り扱っていたが、特集を組む決意をしたのはあるお客さんからお売り頂いたいくつかの品々がきっかけだった。例えば以下の品。

・吉田茂自筆書簡
・巣鴨プリズン拘留中の後藤文夫宛書簡類一括
・幽囚の曲-戦犯歌謡曲集
・極東国際軍事裁判所労働組合機関誌
・昭和25年「幻の国際野球スタジアム」建設資料
・米国奈良軍政府記念誌
・上野地下道の実態-生きている

 コンセプトとして占領期時代に発行・印刷・記録されたものしか使わないこと、そして全体の並びは「時系列順」と早々に決めた。何故か直感的にそれが面白いと思った。あえて言葉にするならば「紙史料で見る占領期年表」だろうか。それを狙った。プロローグ的な意味を込め、目録は「昭和20年1月1日」から幕を開けようと考えた。

 特集を決意してからは古書市場で占領期時代のものを血眼になって探した。ジャンルや形は問わなかった。目録上が様々なジャンルで入り乱れ、混沌としていればいるほどあの時代に相応しいと考えていた。また、どんなに細やかな冊子や紙片であれ、占領期のものであれば、あの時代特有の雰囲気や匂いが明確に刻印されていることは間違いないからだ。といってもこれはどの時代でもいえることだろう。時代からは逃れられないのだ(それはおそらくこんな駄文ですら…)。そこが面白い。だから、いつか同じようなコンセプトで、例えば「明治期」や「大正期」「高度成長期」の目録を作ってみたいと秘かに思っている。

 ただ、いわゆる「戦後」のものなので、それなりに市場には出て来るが、如何せんこの時代のものは紙質が良くないので状態は悪いものが多かった。そこは少しネックだった。しかし、「枠」を決めて市場で入札するのはとてもスリリングで面白く、また、それまで目に入らなかったアレやコレがとても光って見え、新鮮な気持ちで市場を楽しめた。市場がマンネリ化して楽しめないという同業諸氏には「枠買い」をお勧めしたい。無論、未知のジャンルにも突っ込むので数多の失敗は覚悟しておいた方がいい。

 限られた資金と期間の中で運よく蒐集する事が出来た品々の内、特に印象深いのは、「あるBC級戦犯宛の直筆寄せ書き帳」「横浜マッカーサー劇場上映プログラム」「日米会話手帳」「ある進駐軍兵士旧蔵アルバム」「連合軍専用臨時列車時刻表」「未逮捕戦犯人名簿」「進駐軍用東京近辺電話帳」「ある傷痍軍人の自筆日記・草稿」「GHQ専属理容師・田中知彦氏旧蔵アルバム」等だろうか。とりわけ、マッカーサーの後任として連合国軍最高司令官の任に就いたリッジウェイや極東国際軍事裁判の裁判長を務めたウェッブらの直筆サイン入色紙を含む「GHQ専属理容師・田中知彦氏旧蔵アルバム」は、仕入れ資金も残り僅かという頃に奇跡的に古書市場に出現したものだった。その絶妙なタイミングに私は勝手な使命感と運命的なものを感じ、高ぶる気持ちそのままに気合と意地で何とか落札。最後の最後に目録の一番の目玉商品を仕入れる事が出来たのは、何か不思議な縁を感じてとても興奮した。余談ではあるが、当時たまたま弊店が所蔵していた『理容文化』という雑誌に「田中知彦GHQを語る」と題した記事が収録されており、田中氏とリッジウェイらとの親密な交流を裏付ける事が出来たのも奇妙な偶然だった。

 目録上には時代の雰囲気と匂いをより濃厚に、そして立体的にするため、所々に「昭和20年9月20日:教科書の『墨塗り』開始」「昭和22年1月1日:新聞記事や見出しの横書きが、この日の誌面から左横書きとなる」「昭和23年1月26日:帝銀事件」「昭和25年1月19日:アメリカから帰国した田中絹代が羽田空港で『日本語がうまく話せなくて』と語る」等といった当時ならではのエピソードを商品と商品の間に散りばめた。

 また、雑誌を始め各掲載品からの引用も数多く試みた。引用してみた気付いた事は「編集後記」の面白さだ。「編集後記」には、やれ「金が無い…」「闇市で…」「誰々が死んだ…」等といった当時の生々しい状況が赤裸々に綴られていた。ある時代を浮かび上がらせるには「編集後記」のみを纏めて一冊の本にしたら面白いかもしれないとその時思った。

 発行後は嬉しい事にそれなりの反響があった。あるお客さんからは「語る目録」と評された。とても勇気づけられたのは、一定のジャンルで固まっていない、という目録としてはある意味掟破りで非常に見づらい誌面構成にも拘らず、お客さんは隅々まで目を通して自身の好みの品を探し出して注文をくれたことだ。やはりお客さんの情熱は売る側の情熱をはるかに凌駕している。そして「紙」の目録はまだまだ強いと感じた。

 誰よりも手強いであろう同業者の反応もまずまずだったように思う。あの「目録馬鹿(天才)」月の輪書林さんからは、労いの意味を込めてだろう、とある高級中華料理屋で御馳走をして頂いた。同席してもらった我が師匠・石神井書林さんは「月の輪が奢るのは極稀」と、その珍事に驚いていた。目録屋としてちょっぴり認めてくれたのかも知れないと、この時はとても嬉しかった。

 一つ心残りがあった。この目録は「マッカーサーがやってきた」8月末に半ば強引に発行したのだが(そのため雑な部分が多々ある)、奥付としてそのことを記録しなかったことだ。今回ここに記せたことを少し嬉しく思う。

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風船舎古書目録第12号『マッカーサーがやってきた 1945-1952(1972)』
A5判 全302頁 残部ナシ ■右の画像は裏表紙

赤見 悟(あかみ さとる)
1978年、埼玉県児玉郡上里町生まれ
2005年11月、杉並区阿佐ヶ谷にて「風船舎」実店舗開業
2007年夏、実店舗を閉め、通販専門に
2009年1月、古書目録第1号発行
2019年秋、古書目録第15号「越境特集」発行予定

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