2019年7月25日 第279号

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☆INDEX☆
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1.古本屋ツアー・イン・ジャパンの2019年上半期活動報告
                古本屋ツーリスト 小山力也
2.「特殊文庫」をひらく
勉誠出版『書物学』編集部 吉田祐輔
3.『古本屋散策』              小田光雄
4.古本好きの財布のヒモの結び加減   カラサキ・アユミ

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━━━━━━━【古本屋ツアー・イン・ジャパン】━━━━━━━

「古本屋ツアー・イン・ジャパン2019年上半期報告」

          古本屋ツアー・イン・ジャパン 小山力也

 相も変わらず東京にのたくり、古本を買って暮している。日々、
ご近所への小さな旅を繰り返し、お眼鏡に適った古本を働き蟻のよ
うにせっせと家に運び込んでいる。その代わりに、もはや不要と思
った本は、スパッと思い切りドシドシ手放しているので、各部屋に
蔓延る本の山は山として、さほどその形を変えることはない。それ
だから、『ほぼ本の中で生活する』という馬鹿げたスタイルに変化
もなく、今年もあっという間に半年が過ぎてしまった…。

続きはこちら
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小山力也

2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている
場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・
ジャパン』管理人。「フォニャルフ」の屋号で古本販売に従事する
ことも。古本屋に関する著書ばかりを出し続けており、それらの出
版社や形状は違えど、全部を並べたらいつしか“日本古本屋大全集”
となってしまうよう、秘かに画策している。西荻窪の古本屋さん全
店を紹介するフリーペーパー『西荻窪古本屋マップ』を作成し、
各店舗で配布中。
「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。

http://furuhonya-tour.seesaa.net/

━━━━━━━━━━━【自著を語る番外編】━━━━━━━━━

「特殊文庫」をひらく

            勉誠出版『書物学』編集部 吉田祐輔

特殊文庫(とくしゅぶんこ)――この甘美な響きを耳にしたことが
ある方はそう多くはないかもしれない。最新の『広辞苑』第7版に
も立項はない。しかし、実は、日本にはこの「特殊文庫」なる機関
が各所に存在しているのである。
ごく簡単に言い表すならば「特定分野の書物をコレクションする図
書館」となるが、特殊文庫は、そのコレクションのみならず、それ
ぞれに特殊でドラマティックな歴史を有しており、深く知れば知る
ほどにその魅力に引き込まれることとなる。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=5067

『書物学』書物学 第16巻 特殊文庫をひらく
―古典籍がつなぐ過去と未来
勉誠出版 刊 定価1575円(税込み)好評発売中
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&cPath=18_55&products_id=101018

※デジタル版(販売価格1000円) 
http://e-bookguide.jp/item/bs5852071600/

五文庫連携展示

東京・神奈川の五つの特殊文庫で東洋の叡智に触れる千年の旅
──知の宝庫をめぐり、珠玉の名品と出会う 特殊文庫の古典籍

詳しくは
https://www.gotoh-museum.or.jp/classic.html  をご覧下さい。

━━━━━━━━━━━【自著を語る(227)】━━━━━━━━━

 『古本屋散策』

                    小田光雄

 『古本屋散策』は『日本古書通信』に2002年から18年にかけて、
同タイトルで連載した200編を集成し、一本にまとめたものである。
 このように長く連載していると、話が古本のことゆえに、どうし
てもかつて古本屋で買い求め、読んだ本が中心になってしまう。そ
のためにまだ学生だった1960年代から70年代にかけての本への言及
が多い。また連載中にも馬齢が重なり、それらの時代も半世紀前で、
時が流れても、学成り難しと実感してしまう。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=4995

『古本屋散策』 小田光雄 著
論創社 定価:4800円+税 好評発売中!
http://ronso.co.jp

━━━━━━━━━【古本乙女の独り言④】━━━━━━━━━━

古本好きの財布のヒモの結び加減

                    カラサキ・アユミ

私は古本のある場所に行ったら手ぶらで帰る事はほぼない。
財布に入っていたら入っている分全てを綺麗に残さず美味しく使え
る、と言うか使ってしまう私である。心踊るモノにお金を使うのは
楽しい。
ここ最近何かと身辺が忙しく、まとまった自由な時間が無い状況が
続いたせいもあり、我が古本欲は最高潮に達していた。「古本を漁
りたい!!」ただただ暇さえあれば心の中で咽び叫んでいた。

続きはこちら
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ツイッター
https://twitter.com/fuguhugu

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『古書市場が私の大学だった―古本屋控え帳自選集』青木正美 著
日本古書通信社刊 定価:2160円 好評発売中!
https://company.books-yagi.co.jp/archives/news/5573

『日本国民のための愛国の教科書』 将基面 貴巳 著
百万年書房刊 価格 1,680円+税 好評発売中!
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784991022197

『本屋がアジアをつなぐ』 石橋毅史 著
ころから刊 価格:1,700円+税 8月15日発売予定
http://korocolor.com/

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

7月~8月の即売展情報

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその279 2019.7.25

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:二見彰
編集長:藤原栄志郎

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sansaku

『古本屋散策』

『古本屋散策』

小田光雄

 『古本屋散策』は『日本古書通信』に2002年から18年にかけて、同タイトルで連載した200編を集成し、一本にまとめたものである。
 このように長く連載していると、話が古本のことゆえに、どうしてもかつて古本屋で買い求め、読んだ本が中心になってしまう。そのためにまだ学生だった1960年代から70年代にかけての本への言及が多い。また連載中にも馬齢が重なり、それらの時代も半世紀前で、時が流れても、学成り難しと実感してしまう。

 それでも書き続けていると、私たち戦後生まれの世代にとって幸いだったのは、多くの日本、外国文学全集、思想大系、それらの新しいシリーズやアンソロジーなどが出されていたことであろう。まだ当時は岩波文庫、新潮文庫、角川文庫がメインだったし、文学や思想に関しては限られていたので、その代わりの役割を全集や大系やアンソロジーが務めていたことになる。

 『古本屋散策』において言及した主なものを順番に挙げてみる。桃源社『世界異端の文学』、河出書房『人間の文学』、集英社『世界文学全集』『世界の文学』、学藝書林『全集・現代文学の発見』『全集・世界文学の発見』『ドキュメント日本人』、平凡社『世界名詩集大成』『現代人の思想』などである。

 これらの他にタイトルは挙げたけれど、章を立てて論じられなかったのは、筑摩書房の『現代日本思想大系』や『戦後日本思想大系』で、この二つのシリーズは全巻ではないけれど、図書館にも常備されていたし、大半を読んでいる。とりわけ前者では松田道雄編『アナーキズム』、橋川文三編『超国家主義』、後者では吉本隆明編『国家の思想』、埴谷雄高編『革命の思想』などは忘れ難い。もちろんこちらもまだ十代だったので、理解に関しては赤面物だというしかないし、タイトルからしても、そのような時代だった。また友人たちの下宿やアパートの本棚にも、この二つのシリーズの何冊かが必ず見出されたのである。それらの類書も多く出版されていたことはいうまでもないだろう。

 日本は1970年代半ばに初めての消費社会を迎えようとしていたが、まだサブカルチャーは正面から論じられていなかったし、現在のような文庫や新書全盛の出版市場ではなかった。だからこそ、多くの日本、外国文学全集、思想大系、それらの新しいシリーズやアンソロジーも刊行され、次代の読者を育てていたといえよう。
 しかしその一方で、それらを担っていた河出書房が1968年、筑摩書房が78年に倒産し、そうした書籍による出版がもはや成立しない状況を浮かび上がらせていた。また商店街から郊外へと消費社会が移行したことで、80年代には書店の郊外店化も全盛となり、さらにコンビニも加わることで、出版市場もそれに伴い、ドラスチックに変容してしまった。その事実はもはや全集や大系類の読者がいなくなってしまったことを告げているし、近代出版業界も行き着くところまできてしまったように思われる。

 『古本屋散策』は1960年代から70年代の本を中心としているが、当然のことながら、現在も含め、流動する出版状況の中で書き継がれてきた。そのような時代のニュアンスを伝え、たとえ一冊であっても、読者を喚起させ、読むという行為に誘うことができれば、それだけでも幸いに思う。また読切200編、600ページゆえに、少部数高定価になってしまったので、版元のためにも図書館にリクエストをお願いしたい。



sansaku

『古本屋散策』 小田光雄 著
論創社 定価:4800円+税 好評発売中!
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☆古本乙女の独りごと④ 古本好きの財布のヒモの結び加減

☆古本乙女の独りごと④ 古本好きの財布のヒモの結び加減

カラサキ・アユミ

私は古本のある場所に行ったら手ぶらで帰る事はほぼない。
財布に入っていたら入っている分全てを綺麗に残さず美味しく使える、と言うか使ってしまう私である。心踊るモノにお金を使うのは楽しい。

ここ最近何かと身辺が忙しく、まとまった自由な時間が無い状況が続いたせいもあり、我が古本欲は最高潮に達していた。「古本を漁りたい‼︎」ただただ暇さえあれば心の中で咽び叫んでいた。会えなければ会えぬほどに燃え上がる恋の炎の如し…。最寄駅に隣接する新刊書店にはコンビニ感覚で頻繁に立ち寄っていたものの、一向に私の心の隙間は埋められる事はなかった。不思議なもので新刊を買い続けても何冊新刊を買い求めても古本を買う時と同じあの高揚感は得られないのだ。一冊の本と出会った際の喜びは味わえるものの、やはり古本買いの時のワクワク感には程遠い。つくづく自分は〝探す〟という行為が好きなんだなと感じる。

そして待ちに待った念願の終日予定の無い日が到来。ここ数日の状況から見れば自分にとって大変貴重な一日である。おまけに気候は穏やかお天道様は優しく輝いている。絶好の古本日和だ。よし、腹が減っては戦はできぬ、朝飯を食べたら早速古本屋行脚に繰り出すぞルルルンルン。と、トーストを焼き目覚ましの熱い珈琲を淹れる。普段ほとんどじっくり観る事のないテレビをつけ、イチゴジャムをトーストに塗りながら眺める。年金・税金・保険・所得……なんだか己の先々の事を考えなさいよ的なニュースばかりが目に耳に入ってくる。支度を済ませ「よし、行くか。」と玄関に座り靴紐を結びながらにわかにジワジワと得体の知れぬ感情が私の中で騒めき始めた。「大丈夫か…?このまま行ってしまっても良いのだろうか私…。」(※この〝大丈夫だろうか〟というニュアンスは読み手の方々にご想像していただきたい。)

ところが古本屋の前に到着した瞬間、「いや、これでいい…。間違いなくこれでいいんだ。」と道中の暗雲立ち込めたる沈鬱な葛藤も霧が晴れるように一瞬にして消え失せ、屋外の均一棚を見始めたのであった。
将来に備え国民各自貯蓄せよと国が強く促している昨今、そのような注意喚起を右から左に受け流し馬耳東風状態、何が何でもさてはさておき自らの欲求を満足させる事に一投入魂する、明日食う米が無くとも目の前の古本を買ってしまう、そんな私に小さな葛藤が芽生えた或る日の休日風景であった。この葛藤は古本趣味の人間誰しもが通る通過点なのかもしれない。
だが葛藤があったとてそれでも変わらず私の財布の紐はユルユルである事は一向に変わらないのではあるのだが…

otome4
『全古書連ニュース』より転載

karasaki4
東京古書組合発行 『古書月報』より転載

hibi
『古本乙女の日々是口実』皓星社
価格1,000円+税
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「古本屋ツアー・イン・ジャパン2019年上半期報告」

「古本屋ツアー・イン・ジャパン2019年上半期報告」

古本屋ツアー・イン・ジャパン 小山力也

 相も変わらず東京にのたくり、古本を買って暮している。日々、ご近所への小さな旅を繰り返し、お眼鏡に適った古本を働き蟻のようにせっせと家に運び込んでいる。その代わりに、もはや不要と思った本は、スパッと思い切りドシドシ手放しているので、各部屋に蔓延る本の山は山として、さほどその形を変えることはない。それだから、『ほぼ本の中で生活する』という馬鹿げたスタイルに変化もなく、今年もあっという間に半年が過ぎてしまった…。

 一月は西荻窪「にわとり文庫」の百円均一大会からスタート。お年玉として、明治の押川春浪本を手に入れる。阿佐ヶ谷では元貸本屋の古本屋「ネオ書房」が突然閉店半額セールをスタート。貴重な本がびっくりするような安値で供されることがあるので、毎日のチェックが欠かせなくなる。この日は偕成社文庫「水曜日のクルト」を50円で入手する(さらにその後、矢川澄子の仁木悦子宛献呈署名本や、仁木の旧姓本名である大井三重子宛の仁木悦子署名本なども入手)。上井草では古本も売るグラノーラ販売店「井草ワニ園」が、グラノーラを売りながらもさらに古本を増やし、ルックスがほとんど古本屋さんと化しているのに苦笑する。下高井戸では老舗「豊川堂」の営業再開(週末のみ)を喜ぶが、荻窪では変な名前チェーンの「象のあし書店」が地域の人々に絶大に惜しまれながら閉店し、阿佐ヶ谷では住宅の一部をお店としていた「あきら書房」がひっそりとシャッターを下ろしてしまっていた。

二月は谷中の「古書信天翁」の悲しみの閉店から始まり、西日暮里の「古書ほうろう」移転セールや龍ヶ崎の超巨大古書モール「竜ヶ崎古書モール」閉店セール(相変わらずの本の海であったが、停められっ放しのエスカレーターなどが悲しかった…)を駆け抜けるとともに、谷保の渋い商店街に出現した古本も取り扱うひとり出版社「小鳥書房」や西荻窪の小公園横に出現していたビールと古本と書斎の店「BREW BOOKS」の開店を祝う。三月は三鷹に新鋭「りんてん舎」が出現し、同地の先輩「水中書店」同様、詩歌に店内に百均棚を備えるほどの強さを発揮し、三鷹を新たな文学の街へと導き始めている。さらに西荻窪には「benchtime books」という製本と古本の店が出現。薄暗い中二階の奥では店主が、古本より製本作業に熱中しながら日々を過ごしている。また神保町では特殊古本屋「マニタ書房」が閉店するが、棚の一部を下北沢「古書ビビビ」に移植し、その名を残している。「虔十書林」は富士見坂からすずらん通りに移転し、新たな形態で営業をスタートさせている。

そして先述した阿佐ヶ谷の「ネオ書房」が前触れなく突然閉店。その後テレビ番組の企画で、お店の本を全部フリマで売り尽くすイベントにチャレンジしていた…。この月の掘出し物は、西荻窪で百円で見付けた野溝七生子「女獣心理」オリジナル本。裸本で背が傷んではいたが、外棚の片隅に見つけた時は、激しく胸がときめていしまった。四月は高円寺のガード下で、「都丸書店」がお店の一部を縮小するのを目撃し、自由が丘「東京書房」の移転にも駆け付ける。また西千葉の激安店「鈴木書房」が閉店セールを始めていたのでたくさん買うつもりで見に行くが、運悪く定休日で購買意欲の行き場を激しく失う。経堂「遠藤書店」は、朝日新聞でもその閉店を惜しまれながら美しく幕引き。国分寺には「七七舎2号店」跡に若者の思想と文化を独自の視点で並べる「早春書房」が開店。そして一箱古本市のついでに立ち寄った西日暮里「書肆田高」では濃厚な詩の森に迷う。

これで東京には「水中書店」「古書ソオダ水」「田高」「りんてん舎」と、若手詩歌店四天王が華々しく出揃ったことになる。この月の掘出し物は、三鷹で函ナシの「ですぺら/辻潤」と国分寺で朝日ソノラマ「女王蜂/中島河太郎」をともに千円で買ったことであろうか。五月は町田の昭和遺産的仲見世商店街に開店していた「EUREKA BOOKS」を訪れると同時に、突如閉店してしまった古本屋ビル「高原書店」の、本が店内にギッシリ残ったままの悲しい姿を眺めて涙する。そんな悲報を振り払うように、リニューアルオープンした国分寺「七七舎」では、古本盟友・岡崎武志氏とともに一日店長&トークショーを行ったりもした。六月は西荻窪「古書音羽館」で行われた師匠である高原書店に愛と感謝を込めての15%オフセールで古本を買い、高円寺では一階がギャラリーで二階が店舗の「えほんやるすばんばんするかいしゃ」が、一階にすべての機能を移しつつ店主も未知の新たな営業形態で再スタートする!という非常に前のめりな生き方を選択したのに面食らう。

早稲田では二階店舗の「丸三文庫」が西早稲田交差点近くの路面店に移転し、早稲田の新しい顔となる、さらに西荻窪には吉祥寺から移転し古本屋として復活を遂げた「トムズボックス」が開店し、絵本好きの耳目を集める。そして鎌倉では、古都に新しい風を吹かせた「books moblo」がその役目を終え惜しまれながら閉店したが、駅西側に新たに開店していた一軒家古本屋「古書 アトリエ くんぷう堂」が、奇跡的にその血と役割を受け継いでいるように感じ取る。この月の掘出し物は、保谷で見付けた百円の小村雪岱「日本橋檜物町」。函が壊れかけていたが、ちゃんと雪岱の木版画が巻頭にあったので、自然と店頭で笑顔がこぼれてしまった。

 とこのように過ごして来た半年であるが、中央線沿線の古本屋さんの充実度には、やはり見逃せないものがある。後半戦も引き続きこの辺りでのたくって生きて行くのであろうが、そろそろ何処かに遠出したいと言う気持ちも頭をもたげて来ている。とりあえずは仙台駅近くに開店した「古本あらえみし」や宇都宮に復活開店した「analog bokks」でも見に行きたいものだ。そして阿佐ヶ谷のすでに閉店した「ネオ書房」であるが、なんと評論家の切通理作氏が店舗と屋号をそのまま引き継ぎ、独自のお店を開店予定とも伝えられている。まだまだ色々不思議な風が吹き荒れそうな、2019年の古本界である。



小山力也
2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。「フォニャルフ」の屋号で古本販売に従事することも。古本屋に関する著書ばかりを出し続けており、それらの出版社や形状は違えど、全部を並べたらいつしか“日本古本屋大全集”となってしまうよう、秘かに画策している。西荻窪の古本屋さん全店を紹介するフリーペーパー『西荻窪古本屋マップ』を作成し、各店舗で配布中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。
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「特殊文庫」をひらく

「特殊文庫」をひらく

勉誠出版『書物学』編集部 吉田祐輔

特殊文庫(とくしゅぶんこ)――この甘美な響きを耳にしたことがある方はそう多くはないかもしれない。最新の『広辞苑』第7版にも立項はない。しかし、実は、日本にはこの「特殊文庫」なる機関が各所に存在しているのである。
ごく簡単に言い表すならば「特定分野の書物をコレクションする図書館」となるが、特殊文庫は、そのコレクションのみならず、それぞれに特殊でドラマティックな歴史を有しており、深く知れば知るほどにその魅力に引き込まれることとなる。

このたび、東京・神奈川に所在する5つの特殊文庫が手を携え、「特殊文庫の古典籍―知の宝庫をめぐり珠玉の名品と出会う」という画期的な連携展示が行われることとなった(https://www.gotoh-museum.or.jp/classic.html)。
『書物学』第16巻では、この連携展示とタイアップし、日本における書物蒐集の歴史において、また、書物を軸とした学問の形成において、欠くことの出来ない大きな存在である「特殊文庫」の魅力を、実地に深くかかわってきた方々によって伝えていただくこととした。

同書巻頭には今年創立七十周年の記念の年を迎える大東急記念文庫の村木敬子先生より、「特殊文庫」、そして、この連携展示開催のきっかけともなった「特殊文庫連絡協議会」の営みを伝える序言を頂戴した。「過去の書物から叡智を汲み出す営みが再び広く求められる時代が到来することを信じ、私たちは手を携え、それらを守り伝える手段を探り続ける必要があるだろう。」と特殊文庫の矜持を示す一文で締めくくられるこの文章につづき、それぞれの特殊文庫の運営に携わられている先生方に、大東急記念文庫・東洋文庫・斯道文庫・金沢文庫・静嘉堂文庫という5つの特殊文庫の歴史とそのコレクションの特色、そして今回の連携展示の見どころを、豊富なカラー写真を交えつつ、紹介していただいた。書物を愛する人々にとって垂涎の古典籍が並ぶこのパートは、まさに特殊文庫の底力を伝えるもの。

さらに、世界屈指の東洋学の拠点たる東洋文庫の歩みとともにあり、現在文庫長を務められている斯波義信先生、斯道文庫に務められた経験があり、特に漢籍に通暁されている高橋智先生、金沢文庫に長く勤務し学芸課長として展示企画・執筆に八面六臂の活躍をされてきた西岡芳文先生という、特殊文庫の伝道者ともいえるお三方による、貴重な鼎談を収めた。困難に満ちた特殊文庫の来し方、かつての文庫の番人たち、特殊文庫の未来像など、その話題は多岐にわたり、書物、そして書物が伝えてくれる人びとの営みへの愛着を随所に感じることのできる素晴らしい内容となった。

各文庫で行われる展示をより深く知るための副読本として、また、「書物を守り、伝えていく」という人びとの営為を理解する一冊として、ぜひ本書を紐解いていただければ幸いである。
なお、展示期間中、各文庫では蔵書印を模したスタンプを捺すことができる。本書巻末には印譜となるページも用意してあるので、ぜひご利用いただければありがたい。
(斯道文庫の展示は既に会期を終えてしまっておりますが、大東急記念文庫(五島美術館)の会場にて、スタンプを捺印することが出来ます。)



syomotugaku

『書物学』書物学 第16巻 特殊文庫をひらく―古典籍がつなぐ過去と未来 勉誠出版 刊  定価1575円(税込み)好評発売中
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※デジタル版(販売価格1000円) 
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2019年7月10日 第278号

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 古書市&古本まつり 第77号
      。.☆.:* 通巻278・7月10日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

初旬に(10日前後)全国で開催されている古本展示即売会など、
イベント情報をお送りします。お近くで開催される際は、ぜひ
お出掛け下さい。

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━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

連載(一)
 古書目録第10号『青春狂詩曲-近代教育の諸相』回想記

                     風船舎 赤見悟

 原稿の依頼を断りきれなかったため、僭越ながら自店の古書目録
のことについて書かせて頂く。文責は私を推した月の輪書林さんに
ある。
 これまでに弊店は古書目録を14冊(号)発行してきた。第1号を発
行したのは2009年。既にインターネット全盛で、「日本の古本屋」
や「Amazon」「ヤフオク」も勿論存在した。言わば本を売る手法は
いくらでもあった。そんな時代に何ゆえ手間も経費も大きくかかる
古書目録なんぞの発行を思い立ったか、その理由については既に
『日本近代文学館』第274号に駄文を書いた(これも断りきれなった)
のでここでは省きたい。

続きはこちら
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赤見 悟(あかみ さとる)
1978年、埼玉県児玉郡上里町生まれ
2005年11月、杉並区阿佐ヶ谷にて「風船舎」実店舗開業
2007年夏、実店舗を閉め、通販専門に
2009年1月、古書目録第1号発行
2019年秋、古書目録第15号「越境特集」発行予定

━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

古本マニア採集帖
第7回 神保町のオタさん 「本のすき間」を探るひと(前篇)

                      南陀楼綾繁

 この連載をはじめる前、もしこの人に出てもらえたら……と最初
に思い浮かべたのが、「神保町のオタ」さんだった。まったく知ら
ない人なのに、ブログやツイッター上では10年以上前からやり取り
がある。以前は「ジュンク堂書店日記」、現在は「神保町系オタオ
タ日記」と題するブログでは、初めて聞く人名や書名のオンパレー
ド。著名な作家についても、古本屋や即売会で拾った思いもかけな
い資料を持ち出して、新鮮な角度で攻めてくる。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=5018

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ
・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人を
つなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市
の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社刊 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

━━━━━【7月10日~8月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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有隣堂イセザキ本店チャリティワゴンセール(神奈川県)

期間:2019/06/22~2019/07/15
場所:有隣堂伊勢佐木町本店 横浜市中区伊勢佐木町1-4-1

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東京愛書会

期間:2019/07/12~2019/07/13
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:http://aisyokai.blog.fc2.com/

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第176回 神戸古書即売会(兵庫県)

期間:2019/07/12~2019/07/14
場所:兵庫県古書会館 一階・二階
神戸市中央区北長狭通6-4-5

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好書会

期間:2019/07/13~2019/07/14
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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有隣堂センター南・港北古書フェア(神奈川県)

期間:2019/07/14~2019/07/23
場所:有隣堂センター南駅店店頭ワゴン販売

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天満屋アルパーク古本まつり(広島県)

期間:2019/07/17~2019/07/22
場所:アルパーク天満屋 1階センターコート
   広島市西区井口明神1丁目16-1

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趣味の古書展

期間:2019/07/19~2019/07/20
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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たにまち月いち古書即売会(大阪府)

期間:2019/07/19~2019/07/21
場所:大阪古書会館(大阪市中央区粉川町4-1
URL:http://www.osaka-kosho.net/sokubai/

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京都マルイ夏の古本市2019(京都府)

期間:2019/07/20~2019/07/23
場所:京都マルイ1階店頭
(屋外・四条通側の屋根のあるスペース)

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2019/07/25~2019/07/28
場所:JR浦和駅西口さくら草通り徒歩5分マツモトキヨシ前
URL:https://twitter.com/urawajuku

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和洋会古書展

期間:2019/07/26~2019/07/27
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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五反田遊古会

期間:2019/07/26~2019/07/27
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

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中央線古書展

期間:2019/07/27~2019/07/28
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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さんちか古書大即売会(兵庫県)

期間:2019/08/01~2019/08/06
場所:神戸・三宮さんちか3番街「さんちかホール」

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我楽多市(がらくたいち)即売展

期間:2019/08/02~2019/08/03
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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杉並書友会

期間:2019/08/03~2019/08/04
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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第28回 東急東横店 渋谷大古本市

期間:2019/08/06~2019/08/13
場所:渋谷駅 東急東横店西館8階 催物場

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城北古書展

期間:2019/08/09~2019/08/10
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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オールデイズクラブ(愛知県)

期間:2019/08/09~2019/08/11
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12

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第32回 下鴨納涼古本まつり(京都府)

期間:2019/08/11~2019/08/16
場所:下鴨神社糺の森 京都府京都市左京区下鴨泉川町59
URL:http://koshoken.seesaa.net/index-4.html

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日本の古本屋メールマガジンその278 2019.7.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:二見彰
 編集長:藤原栄志郎

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第7回 神保町のオタさん 「本のすき間」を探るひと(前篇)

第7回 神保町のオタさん 「本のすき間」を探るひと(前篇)

南陀楼綾繁

 この連載をはじめる前、もしこの人に出てもらえたら……と最初に思い浮かべたのが、「神保町のオタ」さんだった。まったく知らない人なのに、ブログやツイッター上では10年以上前からやり取りがある。以前は「ジュンク堂書店日記」、現在は「神保町系オタオタ日記」と題するブログでは、初めて聞く人名や書名のオンパレード。著名な作家についても、古本屋や即売会で拾った思いもかけない資料を持ち出して、新鮮な角度で攻めてくる。
 これだけ活発に発信しているのに、この人の個人的なことは一切判らない。関西在住らしいが、頻繁に東京に来ているようでもある。あまりに謎なので、私は一時「オタさん架空説」を唱えていた。オタさんは実在せず、彼と最もネット上でやりとりのある書物蔵さん(本連載の2回目に登場)の変名だという見解だ。そのやり取りも自作自演……。「なんでそんなこと、わざわざするんですか?」という知人のもっともな疑問にも、「あの人(書物蔵さん)ならやりかねないから」と答えた失礼な私だ。

 神保町のオタさん、その人についに対面したのは、2016年の大阪だった。森之宮で開催された一箱古本市に出店したとき、同じ敷地でやっていた古書即売会でばったり書物蔵さんに会った。そのとき、「この人がオタさんです」と紹介されたのだ。二人並んでいたことで、私の妄想は粉砕された。ただ、二人の風貌にはかなり共通するものがあった(まだ云うか)。

「じつは、書物蔵さんにはじめて会ったのもその1年前なんです。千代田図書館で『古書目録のココが好き』という展示がありましたよね。その関連の、かわじもとたかさん(1回目に登場)、国会図書館の鈴木宏宗さんと南陀楼さんが出るトークを見に行ったんです。このとき、会場で書物蔵さんにある本を渡す約束をしていたんですが、なんだか会う勇気がなくて黙って帰りました。その翌日、あらためて高円寺の西部古書会館で待ち合わせて、会ったんです」とオタさんは云う。
オタさんの住む京都でも面が割れていなかったらしく、〈古書善行堂〉のブログでは「桂のKさん」として登場しながら、店主の山本善行さんがその人がオタさんだと気づいたのは、だいぶ後だったらしい。
 だから、オタさんが謎の存在だと思っていたのは、私だけではなかったのだ。

 神保町のオタさんは1959年、福島県只見町に生まれた。父はダムの建築に携わっていた。2歳で、父の転勤により静岡県清水市(現・静岡市清水区)に住み、ここで18歳まで暮らす。4つ上の兄がいたため、家には子ども向けの世界文学全集があった。小学生になるとそれを引っ張り出して読んだ。
「『小公子』がとくにお気に入りでした。主人公のセドリックは寡黙で上品さがあり、『こういう人になりたい』と思いました。私の最初の憧れの人です」
 その一方、テレビっ子であり、『スーパージェッター』『宇宙少年ソラン』『怪奇大作戦』などを観まくった。クリスマスに、枕元に『鉄人28号』のアニメ絵本が置かれていたときは嬉しかったという。

 小学校では学校の図書室で、講談社や小峰書店のSFシリーズ、ポプラ社の江戸川乱歩、ルパン、ホームズを読んだ。「講談社から出た『見えない生物バイトン』(エリック・F・ラッセル)が好きでした」。また、当時は清水市に貸本屋が何軒かあり、父が時代小説や推理小説を借りるのに、一緒に行っていた。
「古本屋にも父に連れられて行きました。〈山一書店〉といって、雑誌やエロ本の多い店でした。大人になってから、ここで知切光歳の『天狗考』上巻を買いました。下巻が刊行されなかったものです」
 また、静岡市の浅間神社の参道にある〈駿河書房〉は、正月から店を開けるので、ここでマンガを買うのが楽しみだった。のちに、じつはこの店に幻想文学がよく揃っていることを知る。

 新刊書店では〈戸田書店〉に通った。のちに全国展開するが、発祥は清水なのだ。2階建てで、ギャラリーを併設し、清水の文化の発信地だった。オタさんはここで、運命的な出会いをする。
「創元推理文庫で出た、エドガー・ライス・バローズの『火星のプリンセス』を買ったんです。武部本一郎の表紙イラストに惹かれました。ヒロインのデジャー・ソリスが、私の初恋の人です。それで一気にスペース・オペラにハマりました。中学生の頃には、『宇宙英雄ペリー・ローダン』シリーズのファンクラブの創設メンバーになったほどです。当時は『マルペ』と呼ばれて、いまのオタク的な存在でしたね。会報も出ていました」
 また、中学3年で半村良のファンクラブ(半村良のお客になる会)に入り、機関誌に投稿が載ったことも。
「『SFマガジン』は中学から読んでいたし、『奇想天外』も新人賞に投稿しようとしたことがあります(笑)。新刊書店の〈谷島屋書店〉にはハヤカワSFシリーズが並んでいて、よく買いました。あの銀背が新刊なのに古本っぽくて好きでした」
 そうやって、中学、高校とSFにまみれて過ごすのであった。

 1978年、オタさんは京都大学に入り、京都で下宿生活をはじめる。
「入学してすぐに、UFO(ユーエフオー)超心理研究会に入りました。小学生の頃は考古学者になりたくて、デニケンの古代史ものを読みました。大学の頃に『ムー』が創刊されましたが、最初は子どもっぽい誌面だったので無視していましたね。この研究会にいた、のちに宗教学者になる吉永進一さんが高校の先輩で、いろいろ教えてもらいました。大阪の〈天牛書店〉やデパートの即売会にも連れていかれました。あれが、古本屋への本格的な目覚めでした」
 UFO(ユーエフオー)超心理研究会は、大文字山でUFOの観測会も行った。また、『宇宙波動』という機関誌を出しており、オタさんはそこに人類学者の鳥居龍蔵以降の異端考古学の系譜をたどる記事を書いた。
 一方で、SF熱も続いていた。当時は筒井康隆が唱えた「SFの浸透と拡散」にあたる時期で、映画『スター・ウォーズ』やアニメ『機動戦士ガンダム』があり、少女マンガでは萩尾望都らがSF的作品を描いた。サンリオSF文庫で次々に未訳の作品が出たこともあり、「新刊を追いかけるだけでも忙しかった」とオタさんは笑う。この辺の感じは、まだ中学生だった私にもよく判る。
「京大のSF研究会にも入って、機関誌もつくっていました。ぼくたちがつくったのは『よい子の宇宙人』というタイトルです。SF大会にも参加しましたよ。もっとも、1年で退会しましたが。また、幻想文学研究会に入り、そこでのちに英文学者になる横山茂雄さんと読書会をやったりした。横山さんは稲生平太郎として幻想小説も書いています」
 さらに、吉永さん、横山さんとオタさんでオカルト研究団体「近代ピラミッド協会」を結成。機関誌『ピラミッドの友』を発行し、オタさんは日本における巨石遺跡研究史を書いている。この頃から、研究史や学者の系譜に関心を向けているところは、オタさんらしい。

 
「授業よりもサークル活動に熱心でしたね」とオタさんは笑うが、ゼミで教わったマックス・ヴェーバー研究者の教授もオカルトへの理解が深かったというから、もはや、すべてがオカルト尽くしなのだ。なんと怪しくも豊饒な大学生活なことか!
オタさんはなぜ、そこまでオカルトにのめり込んだのだろうか?
「考古学もそうですが、失われたものや不思議なものを再生・復元したいという願望があったからです。タイトルに『謎』とか『不思議』とか『秘密』が付く本ばかり読んで、父に『もっと現実的な本を読んだらどうだ』とよく怒られました」

 そして、ここまでのオタさんの探究心が、古本屋通いと結びつくことで、別の方向に大きく展開するのだが、とても1回では書ききれないので、次回に続きます。

神保町系オタオタ日記
https://jyunku.hatenablog.com/

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

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『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

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連載(一)古書目録第10号『青春狂詩曲-近代教育の諸相』回想記

連載(一) 古書目録第10号『青春狂詩曲-近代教育の諸相』回想記

風船舎 赤見悟

 原稿の依頼を断りきれなかったため、僭越ながら自店の古書目録のことについて書かせて頂く。文責は私を推した月の輪書林さんにある。
 これまでに弊店は古書目録を14冊(号)発行してきた。第1号を発行したのは2009年。既にインターネット全盛で、「日本の古本屋」や「Amazon」「ヤフオク」も勿論存在した。言わば本を売る手法はいくらでもあった。そんな時代に何ゆえ手間も経費も大きくかかる古書目録なんぞの発行を思い立ったか、その理由については既に『日本近代文学館』第274号に駄文を書いた(これも断りきれなった)のでここでは省きたい。ご興味をお持ちの奇特な方は同号をお読み頂きたい。いや、別に読まなくても結構です。単なる行きがかり上仕方なくというのが最大の理由である(前述の通り私は押しに弱く流されやすい性質なのだ)。

 10年で14冊なので発行ペースとしては随分と遅い。しかし、その2009年は三回も目録を発行している。それがいつしか年に二回の発行となり、ここ最近は年に一回と徐々にペースダウン。「年一でよく食えるね」と言われることもあるが、それを補ってくれるのがこの「日本の古本屋」である。ありがたや。

 弊店は取扱ジャンルとしては一応「音楽と暮らし」を掲げている。ただ、飽きっぽい性格ゆえ頻繁によそ見をして他分野をつまみ食いしてしまう。10号は「教育(青春)」特集だし、12号は「占領期」特集といった具合だ。まあ一応両者ともに広義な「暮らし」という意味で問題ないのかもしれない(「音楽」も混ぜ込んでいるし)。というわけで今回は2014年に発行の弊店にとっては初の総特集を組んだ10号について書こうと思う。

 特集タイトルは『青春狂詩曲-近代教育の諸相』だ(同名の映画があるらしいが未見である)。核となる大半の教育文献はNさんという稀代の教育文献コレクターの旧蔵書だった。氏はベテランの古本屋さん達の間ではつとに有名で、都内で毎週のように行われている古書即売会では「教育」に少しでも関係がある文献であれば毎回狂ったように大量に購入していたという。そんな氏がお亡くなりになって、その蔵書がある時期の古書市場に三カ月近くにわたって出品され続けた。それは「もう勘弁して下さい」と願わずにはいられないほどの量だった。ある日の市場ではワンフロア全てが氏の蔵書だったこともある。それも、ご丁寧にとても細かく仕分けて出品されていたので、全ての入札を終えた頃にはフルマラソンを完走しきったかのようにヘトヘトになった(その証拠に入札直後、当時定期的に通院していた病院で行った尿検査ではタンパクが検出されて糖尿病かと焦ったものだ)。

 それまで「教育」といえば、「女学生の自筆日記」や「外地の学校資料」「児童の慰問手紙」といった「曲者」しか扱ったことがなかった弊店であったが、何故だかよく分らないが、この口を遮二無二買いまくった。おそらく「儲かる」「面白い」と後先考えず直感的に思ってしまったのだろう。これは私の悪い癖だ。それにしても今思えば無謀にもほどがある…。そして、いつしか金は尽き、自宅は教育文献で足の踏み場も無いほどの「戦場」と化した。

 それからは古本屋にとっては何よりも大事な市場にも通わず(正確には金銭的な面で通えず)、自宅に籠って妻と二人で目録を書きまくるという地味で平坦、そしてゴールの見えない日々が続いた。とにかく尋常でない量である。書いて、書いて、書いて、書きまくった。頭の中には絶えず「いつまで続くぬかるみぞ」という語句が踊っていた。目録作成の楽しさよりも、本当に完成するのかという不安の気持の方が遥かに勝っていた。目録上に「夏休み」や「放課後」といった項目を立てたのは、そんな自分を少しでも解放したかったからかもしれない。その様な状況下で、元来怠け者である私にとって、最大の武器となったのは「金が無い」ということに尽きると思う。要は「背水の陣」である。後には引けない。やるしかなかった。大きな声では言えないが、この時「金が無い」は大きな強みだった。

 半年以上の引き籠り生活を経て、何とか完成にこぎつけることが出来たのは、Nさんの圧倒的なコレクションのおかげでもある。Nさんの「人生」を賭けたコレクションと真向から対峙して、勝手ながらNさんの期待に応えたい、負けたくない、そんな風に思っていた。
 また、一見すると教育とは無関係と思われる品もよく見るとやはり教育に関係していた。一冊の「本」を多角的に捉えるということを学んだのもNさんのおかげかもしれない。目録の巻頭には「本書をN氏に捧ぐ」と、気障な一文を入れた。
 完成した目録を手して、妻と少し奇妙なことを言い合った。「Nさんが生きていたら大量の注文をくれたかなあ」と。 

huusen
風船舎古書目録第10号『青春狂詩曲-近代教育の諸相』
A5判 全446頁 残部ナシ

赤見 悟(あかみ さとる)
1978年、埼玉県児玉郡上里町生まれ
2005年11月、杉並区阿佐ヶ谷にて「風船舎」実店舗開業
2007年夏、実店舗を閉め、通販専門に
2009年1月、古書目録第1号発行
2019年秋、古書目録第15号「越境特集」発行予定

Copyright (c) 2019 東京都古書籍商業協同組合

2019年6月25日 第277号

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☆INDEX☆
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1.『書籍文化史料論』             鈴木俊幸
2.『これからはソファーに寝ころんで』を語る   岡崎武志
3.『平成音楽史』
      片山杜秀 + 山崎浩太郎 田中美登里(聞き手)
                      山崎浩太郎

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━━━━━━━━━━━【自著を語る(224)】━━━━━━━━━

『書籍文化史料論』

                     鈴木俊幸

 旧著『書籍流通史料論 序説』(2012年、勉誠出版)は、書
籍流通に関わる論考に絞ってまとめたものであるが、このたび上梓
の『書籍文化史料論』は、流通だけではなく、江戸時代から明治の
半ばまでの書籍文化史全体に及んで、これまで書きためた、また書
き下ろしの史料がらみの論考を収めた。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=4880

『書籍文化史料論』 鈴木俊幸 著
勉誠出版 定価 10,800円 (本体10,000円) 好評発売中!
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101007

━━━━━━━━━━━【自著を語る(225)】━━━━━━━━━

『これからはソファーに寝ころんで』を語る

                        岡崎武志

 創業約140年という老舗出版社、春陽堂書店から『これからは
ソファーに寝ころんで』という本が出ました。全編書き下ろしエッ
セイと写真をたくさん使った本というのは、これまでの私の著作に
なかったタイプ。そのことを意識して作った。
 古書愛好家にとっては、版元が春陽堂書店ということに、グッと
来るかも知れない。書籍小売店として出発、明治15年頃から出版に
手を染め、以来140年近い歴史を持つ出版社である。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=4973

『これからはソファーに寝ころんで』 岡崎武志 著
春陽堂書店 価格:1,944 円(税込) 好評発売中!
https://www.shunyodo.co.jp/shopdetail/000000000660/

岡崎武志的LIFE オカタケな日々
https://www.shunyodo.co.jp/blog/2019/05/okatake_1/

━━━━━━━━━━━【自著を語る番外編】━━━━━━━━

「平成音楽史」 片山杜秀 + 山崎浩太郎 田中美登里(聞き手)

                      山崎浩太郎

 この本は、平成の30年間におけるクラシック音楽の状況を、対談
形式でふり返ってみたものです。
 音楽にかぎらず、日本近代思想の語り手として、圧倒的な知識と
縦横無尽の話術をもつ片山さんとともに、衛星ラジオ「ミュージッ
クバード」の4時間番組のために話した内容をもとに、さらに追補の
対談をしてまとめました。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=4982

『平成音楽史』片山杜秀 著 山崎浩太郎 著 田中美登里 聞き手
アルテスパブリッシング 定価:1800円+税 好評発売中!

https://artespublishing.com/shop/books/86559-200-9/

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2019年上半期活動報告(仮題)
古本屋ツーリスト 小山力也
http://furuhonya-tour.seesaa.net/

『書物学 第16巻 特殊文庫をひらく』 編集部 編
勉誠出版 定価 1,620円 (本体1,500円) 予約商品
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&cPath=9_29&products_id=101018

『古本屋散策』 小田光雄 著
論創社 定価:4800円+税 好評発売中!
http://ronso.co.jp

古本乙女の独り言④
古本好きの財布のヒモの結び加減
カラサキ・アユミ

古本乙女の独り言③ はこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=4816

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

6月~7月の即売展情報

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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日本の古本屋メールマガジンその277 2019.6.25

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:二見彰
編集長:藤原栄志郎

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bunka

『書籍文化史料論』

『書籍文化史料論』

鈴木俊幸

 旧著『書籍流通史料論 序説』(2012年、勉誠出版)は、書籍流通に関わる論考に絞ってまとめたものであるが、このたび上梓の『書籍文化史料論』は、流通だけではなく、江戸時代から明治の半ばまでの書籍文化史全体に及んで、これまで書きためた、また書き下ろしの史料がらみの論考を収めた。勉誠出版の雑誌『書物学』に15回連載した「書籍文化史料片々」も併せて収めた。いずれも、書籍の文化の歴史の、書籍そのものだけではなかなか捉えられないさまざまな様相を、書籍に関わる、また関わりそうな史料を掘り出しながらあぶり出そうとしたものである。といえば、いささかかっこよく聞こえるが、どんな史料があってどう使えるのか、何が史料となりうるか、手探りしながら試みたものたちである。あぶり出せたものは、小さな局面、小さな状況に過ぎないかもしれないが、そこそこ具体的で生々しいはずである。

 出来上がった本をパラパラと繰って図版を眺めてみると、これとこれはG書店で見付けたもの、この店は年に一回は当たりがあるなとか、これはO書房に頼んで落札してもらったものだとか、これはS書店の目録から注文したもの、間に合ってよかったとか、これはT書店から他とまとめて買い入れたものだけど、まだ料理できていないものも残っているなとか、N書房の店頭ワゴンも油断なく毎週チェックすべきだなとか、ハンコ目当てに東京古書会館ではなんでもかんでも買いあさったな、とかとか、これまでの渉猟のさまざまが思い出されて懐かしい。古書会館の和本の山の中に見付けたものを、家に帰ってじっくり眺めているうちに、ひょっとしてツレがまだ山の中に混ざってはいなかっただろうかと気になって翌日早々また古書会館に出向いて見付けたものもある。それは30年ほど前のことで、ようやくこの度日の目を見たわけである。機が熟すのに時間がかかったというか、機が熟したことにしちゃう踏ん切りができたというか。

 昨年10月に松本の高美書店から出版した『信州の本屋と出版―江戸から明治へ』も、これまた30年近く心掛けてきた信濃出来の書籍・摺物の網羅的な収集が基礎になっている。質はともかく点数については、長野県立図書館や信州大学図書館所蔵のものを今では優に越えているであろう。ヤフオクや長野県内で得たものも多いが、これも神保町通いで集めたものが圧倒的に多くを占めているのであった。そんなこんな、私がこれまで続けてきた書籍文化史の研究(らしきもの)は、古書店・古書展とともにあった。これなくしては、ありえなかった。したがって、両書ともそれなりにお金をかけた本ではある。

といっても、1000円以内で入手のものがかなりの割合を占めている。これだけの金額で1世紀以上前のものがたくさん手に入るということは、それだけ豊富な蓄積を誇れる厚みのある文化であった証拠である。そして、誰でも小遣い銭で始められる研究であるということでもある。また、無駄歩きを含めて、多大の時間を掛けた本でもある。しかし、その時間とは、煩瑣な日常業務から切り離されて気ままにうろうろできる至福の時間であった。現在も、新たな研究に歩を進めるための史料獲得とモチベーション維持のために古書店歩きは欠かせないし、今後も、金曜日の神保町通いは私にとって大きな楽しみであり続けるはずである。



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『書籍文化史料論』鈴木俊幸 著
勉誠出版 定価:10,800円
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101007

sinsyu
『信州の古本屋と出版 江戸から明治へ』
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