2021年12月10日号 第336号

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 古書市&古本まつり 第107号
      。.☆.:* 通巻336・12月10日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

コロナ禍古本屋生活3  2021年が終わる

                  火星の庭 前野久美子

 倉庫の引っ越しが無事終わり、日常が戻ってきました。11月
に入ってからは宮城県の新型コロナウイルス感染者はゼロの日が
多くなり、それとともに中心部では人出が増えています。

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火星の庭ホームページ https://kaseinoniwa.com/

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『仙台本屋時間』
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━━━━━━━━━【シリーズ 古本の読み方2】━━━━━━

古本を柳田国男の「偶然記録」として読む――著者の意図や観点からズラす

                      書物蔵

 前回、古本とは時代がズレている本で、それが価値観のズレに
自動変換されるので、そこを突っ込めば楽しく読めるはずと説い
た。今回は、観点をズラシて読む読み方をご紹介する。もちろん、
新刊書でもこれは使える方法なのだけれど、特に古本について有
効なのだ。

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書物蔵
本格的古本歴は15年ほど。興味は日本図書館史から近代出版史へ
移行し、今は読書史。
共書に『本のリストの本』(創元社、2020)がある。

ツイッター
https://twitter.com/shomotsubugyo (2009年~)

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「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

ロンバルディ
古書ソオダ水
司書房
古書ドリス

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━━━━━【東京古書組合からお知らせ】━━━━━━

「東京古書組合百年史展」 開催

場所 市立小樽文学館 無料展示スペース
日時 2021年12月18日(土)~2022年2月13日(日)
時間 9時30分~17時(最終入館は16時30分まで)
休館日 毎週月曜日(1月10日を除く)
12月29日~1月3日、1月11日・12日、2月1日~4日
入場無料

ホームページ
http://otarubungakusha.com/yakata

━━━━━【12月10日~1月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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仙台イービーンズ古本まつり(レコード市同時開催)(宮城県)

期間:2021/10/22~2022/01/05
場所:イービーンズ9F杜のイベントホール
宮城県仙台市青葉区中央4-1-1

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関内・古本sevenマーケットwith文具&雑貨(神奈川県)

期間:2021/12/01~2021/12/30
場所:JR関内駅前セルテ1階

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2021/12/09~2021/12/13
場所:JR浦和駅西口 さくら草通り徒歩5分 マツモトキヨシ前

https://twitter.com/urawajuku

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歳末赤札古本市

期間:2021/12/09~2021/12/12
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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新興古書大即売展

期間:2021/12/10~2021/12/11
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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第20回つちうら古書俱楽部・師走の古本市(茨城県)

期間:2021/12/11~2021/12/19
場所:土浦市大和町2-1 つちうら古書俱楽部

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フィールズ南柏 古本(千葉県)

期間:2021/12/11~2021/12/28
場所: フィールズ南柏 モール2 2階催事場  柏市南柏中央6-7

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港北古書フェア(神奈川県)

期間:2021/12/15~2021/12/24
場所:横浜市営地下鉄 センター南駅

http://www.yurindo.co.jp/store/center/

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ぐろりや会

期間:2021/12/17~2021/12/18
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://www.gloriakai.jp/

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五反田古書展

期間:2021/12/17~2021/12/18
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

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下町書友会

期間:2021/12/24~2021/12/25
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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好書会

期間:2021/12/25~2021/12/26
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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アクロスモール新鎌ヶ谷古本市(千葉県)

期間:2022/01/05~2022/01/13
場所:アクロスモール新鎌ヶ谷 1F 中央エレベーター前
千葉県鎌ケ谷市新鎌ヶ谷2-12-1

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♭立川フロム古書市ご案内♭

期間:2022/01/05~2022/01/16
場所:立川駅北口徒歩5分フロム中武(ビッグカメラ隣)
3階バッシュルーム(北階段際)

http://mineruba.webcrow.jp/saiji.htm

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第44回古本浪漫洲 Part1

期間:2022/01/06~2022/01/08
場所:新宿サブナード2丁目催事場  新宿区歌舞伎町1-2-2

https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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東京愛書会

期間:2022/01/07~2022/01/08
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-2

http://aisyokai.blog.fc2.com/

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杉並書友会

期間:2022/01/08~2022/01/09
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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第44回古本浪漫洲 Part2

期間:2022/01/09~2022/01/11
場所:新宿サブナード2丁目催事場  新宿区歌舞伎町1-2-2

https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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第44回古本浪漫洲 Part3

期間:2022/01/12~2022/01/14
場所:新宿サブナード2丁目催事場  新宿区歌舞伎町1-2-2

https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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趣味の古書展

期間:2022/01/14~2022/01/15
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

https://www.kosho.tokyo

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第44回古本浪漫洲 Part4

期間:2022/01/15~2022/01/17
場所:新宿サブナード2丁目催事場  新宿区歌舞伎町1-2-2

https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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日本の古本屋メールマガジンその336 2021.12.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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コロナ禍古本屋生活3  2021年が終わる

コロナ禍古本屋生活3  2021年が終わる

火星の庭 前野久美子

 倉庫の引っ越しが無事終わり、日常が戻ってきました。11月に入ってからは宮城県の新型コロナウイルス感染者はゼロの日が多くなり、それとともに中心部では人出が増えています。

 先週末は、街外れにある当店でさえ今年一番の売り上げになり、うれしい反面、戸惑いを感じてしまいます。コロナの収束をまだ実感できないからかもしれません。「このまま終わってほしいけど、海外の状況を見るとそう簡単ではないだろう」というのが多くの人の考えのように思いますが、街ゆく人の浮き浮きした様子を見ると、杞憂に過ぎないのかもとさえ思えてきます。

 とはいえ、わたしの周りでもいろいろな変化を感じています。コロナ以前、通ってくれていたお客様が久しぶりに来店され、「高齢で持病があるのだからと家族に止められていたけど、やっと来られました」と言ってたくさん本を買っていかれました。「行こうと思っていたらコロナ禍になってしまって。今日初めて来ました」という若者もいます。コロナ前までの「ふつう」が徐々に戻りつつあるように感じます。

 しかし、コロナ禍になっておよそ2年という時間は余りにも長く、壊れてしまって戻らない「ふつう」もあるような気がします。一方で、それなら、また別の「ふつう」を新たに作っていけばよいのだとも思うのです。

 それで思い出すのが、今春行った古本市のことです。仙台市の一番町にある創業111年の新刊書店、金港堂さんの2階で宮城県内の古本屋10軒が集まり、開催しました。東日本大震災以降、2階が空きスペースになっていることを知ったわたしは、「ここを会場に古本市を開きたい」と思い続け、相談に伺ったのが2年前の秋でした。参加店は宮城県古書組合の加盟店。普段は古書市会を運営しているメンバーですが、古本市でタッグを組むのは初めてのことでした。その際、金港堂の藤原社長にわたしを引き合わせてくださったのが、仙台の出版社荒蝦夷を率い、現在は古本屋の店主でもある土方正志さんです。

 突然のわたしの申し出を藤原社長は快諾してくださり、翌2020年春の開催が決まりました。ところがコロナ禍で世界が一変、古本市も延期を余儀なくされました。秋はできるか、年明けかと、感染状況をハラハラ見つめながら1年後、ようやく開催にこぎつけました。

 しかし、開催直前に感染状況は悪化、宮城県は全国でワースト1位になってしまいました。決行することを決めたものの、来場者が多くても、閑散としていてもどちらも心配でした。そして迎えた古本市初日、たくさんのお客様に来ていただきました。お客様が、金港堂の2階に再び本が並んだ光景を喜んでくださったのでした。皆さんニコニコ顔、会場に流れる空気はとても温かいものでした。

 このときに感じたのは「場の力」です。お客様のなかには、幼い頃から金港堂に通ったことなど思い出をしみじみと語る方があり、会場が金港堂だからこそ、これほど多くのお客様が来場したのだと思いました。

 「場の力」に関して、もうひとつわたしの店での出来事があります。ある日の夕方、常連のお客様が放心したような表情で店に入ってきました。不審に思い近寄っていくと、視点が定まらない感じで「今、携帯に電話があって、夫が交通事故で亡くなったって」と言うのです。わたしが「ええーっ!」と絶句し言葉を返せないでいると、「朝、釣りに行って家に帰る途中だったみたい。即死だって」と言うと、くるっと向きを変え外に出て行ってしまったのです。買い物の途中だったのでしょう。手にはネギが入ったビニール袋がしっかり握られていました。

 その後、心配しながらも状況がわからず、連絡をためらっていると、1ヶ月ほど経って、お店に来てくれました。少し元気はないものの、いつも通り穏やかなMさんでした。カフェのイスに座ったので、メニューとお水を持って「こんにちは」と言うと、「実は夫が交通事故で亡くなって、しばらく来れなかったの」と言うのです。どうやらMさんは事故の連絡があった直後、店に来たことを覚えていないようでした。「少し落ち着いたから、ここで本を読んでお茶を飲みたいと思って」と微笑むMさん。わたしは「この間…」と言いかけ、続く言葉を飲み込み、「そうだったんですね」とMさんの話に合わせたのでした。

 あの時、Mさんは突然の夫の訃報に何も考えられなくなって、無意識にわたしの店に来たのかもしれないと思いました。あまりにショックな出来事に遭ったとき、最初に思い出した場所。それがこの店だとしたら、一体それは何を意味しているのだろうと、今も考え続けています。

 東日本大震災の時も、地震の直後に友人や常連さんたちが当店にやって来ました。そしてそのまま火星の庭は避難所になり、約1ヶ月間共同生活をしました。

 それができたのは、ここに本があり、本を読む場所だったからではないでしょうか。本を手に取るときだけに感じる特別な感覚。その唯一無二の感覚を味わうために、人は本屋に出かけて、本を買うことをやめないのだと思います。

 この2年間、やけっぱちになりそうなこともありました。とくにコロナ禍においての政府の醜態に近いあれこれには、正直、辟易し続けています。そんな鬱憤もあって本業以外の活動に汲々となるときもあります。でも、どんなときも誰かがお店に来てくれて、ありがたいことに売上がゼロという日がありませんでした。

わたしにできることは、この店が心地よい場所であるように本棚を整え、店内を整え、自分の体調も整え、来て下さる方を待つこと。特別なものはなくても、ただ「ふつう」にあること。何が「ふつう」かもわからなくなってきていますが、他のものと同様に、日常だって上書きされ、新しくなっていくのでしょう。それなら、更新されていく日常をできるかぎり受け入れていこう。2021年が終わろうとしている今、そんなことを考えています。

2021年11月28日(日)

火星の庭ホームページ https://kaseinoniwa.com/
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『仙台本屋時間』
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Copyright (c) 2021 東京都古書籍商業協同組合

古本を柳田国男の「偶然記録」として読む――著者の意図や観点からズラす(古本の読み方2)

古本を柳田国男の「偶然記録」として読む――著者の意図や観点からズラす(古本の読み方2)

書物蔵

 

 前回、古本とは時代がズレている本で、それが価値観のズレに自動変換されるので、そこを突っ込めば楽しく読めるはずと説いた。今回は、観点をズラシて読む読み方をご紹介する。もちろん、新刊書でもこれは使える方法なのだけれど、特に古本について有効なのだ。

■いま生きている業界/知識分野ならよいけれど
 現在、日本人はプラモデルをどこでどうやって買うものなのだろう? トイザらス? まぁ、家電量販店かネットだろう。しかし、昭和後期は百貨店や文房具屋、駄菓子屋で買ったものだった……などと、誰かがすぐ答えてくれればよいが、当事者に聞くという手法は同時代でないとできない。20年ほど前からプラモデルの歴史本も出始めたが、メーカーの歴史や製品の歴史が主であるし、専門誌や業界紙を探しても、なかなか消費者(受容者)の姿は見えてこないものである。そんなときどうすればよいか?

■(読み方)「計画記録」を「偶然記録」として読む
 そんな時には「偶然記録」を使うんだよ、と民俗学を創った柳田国男は1935年に指摘している(『郷土生活の研究法』)。「文字を筆者の計画した以外の問題を明らかにするため援用」して記録を読んでしまえばよいのだという。つまり「偶然記録」として他の用途のための「計画記録」を読んでしまえ、というのだ。具体的には……。

■(事例)謄写版って、どんなところに普及してたの?
 最近、同人誌の歴史に興味を持っている。同人誌といえば、手書き回覧誌から始まるが、その次の段階は「軽印刷」、具体的には大正期に普及した謄写版がすぐに思いつく。謄写版は戦前期、どんなところに普及していたのだろう?
 この前、古本仲間の「兵務局」*さんに本を1冊ゆずってもらった。
 ・倉本長治『腕一本で儲かる外交(改訂版)』(商店界社, 1928)
 ここで「外交」というのはdiplomacyのことではなくて戦後期の「外交さん」に近いというか、今で言う「営業職」や、訪問販売のことと言ってよい。ミシン、保険、出版物、広告、時計、印刷、服、タイプライター、レジスター、金庫、自転車などなど、40種類の売り物について、その訪問販売のやり方が書いてある実用書がこの本である。著者の取材できたものは何でも載っているのだろう、肖像画の注文販売などという、かなり珍しいものもあるが、この中に「謄写盤」(謄写版のこと)も出てきて驚いた。
 読んでみると、どうやら現在のコピー機リースに近く、謄写版の外交員はメンテナンスの仕事がメインであるらしい。「得意先の大部分は、諸官署、学校、各組合等の大きい処だけで、本店の方からその外交員が出張する前に予め挨拶状を出しておくから、その外交員は知らないその土地へ乗り込んでも気安くお得意周りが出来やうと云ふものである」(p.315)と、いささかノンキな書きぶりだが、重要なのは前半で、要するに昭和初年段階で、地方でも、諸官署、学校には普及していたが、それは「大きい処だけで」あった、とこの記事から類推できるわけである。そういえば、地方で同人誌を作った際に、学校に謄写版を借りに行った話をどこかで読んだ憶えがある。
 まぁ謄写版の歴史は田村紀雄, 志村章子『ガリ版文化史:手づくりメディアの物語』(新宿書房, 1985)を見ればあらあらわかるのだが。

■(事例・読み方)実用書をドキュメンタリーとして読む――貸本屋の場合
 上記のような開業ハウツー本は、ある種の実用書として「街の本屋」に棚差しであった。例えば、たまたま手元に、小高正芳編著『バッタ商法経営のすべて:ディスカウント・ショップの仕入れ方法から販売まで! (業種別経営実務シリーズ ; 37)』(経営情報出版社, 1984)があるが、ドギツい装丁で、バッタ屋経営術がいろいろ書いてある。
 この手のハウツー本の始めは、明治末にあり、『明治事物起原』を書いた石井研堂の『独立自営営業開始案内』第1-7編(博文館, 1913-1914)が初期では最も詳細なもの。手元に「第二編 新古書籍業、新聞雑誌取次業、絵葉書絵双紙業、貸本業」があるのでちょっとのぞいてみる。
 貸本業には三種類あるという。持ち込み式と店舗を構えるもの、そして「高等貸本」。細かく読むといろいろオモシロい。持ち込みは苦学生がさかんにやったが「この種の貸本者に限って、少し心易くなった者には、猥褻な書物や発売禁止〜〔の〕悪書を」貸して儲けようとしたから当局が厳しく取り締まったとある。なるほど、明治期、「悪書」を読みたければ持ち込み式貸本屋さんに交渉すればよかったのか、とわかる。
 高等貸本は「東京中に数十軒有り〜一種の小さい図書館のやうな観をなして」いるという。なるほど、大東京に本格的図書館が2,3館しかなくって済んだのはこのためか、とわかる。「勿論、軟かいものも備へてはおきますが、堅いものを本位として」いるとも。大多数を占める通俗貸本店では八割が「程度の低い講談物」だったなどと、蔵書構成に到るまで、手にとるようにわかるのだ。

■著者の意図や観点からズラして読む
 社会教育に並々ならぬ情熱を注いだ石井研堂は、おそらく「悪書」追放側であったろう。しかし、私のような歴史趣味家の観点で読むと、まさに彼の記述から、悪書の流通ルートがわかったわけである。彼のハウツー本は、私にとってまさに柳田国男のいう「偶然記録」となったのだ。

* https://twitter.com/truppenamt

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書物蔵
本格的古本歴は15年ほど。興味は日本図書館史から近代出版史へ移行し、今は読書史。
共書に『本のリストの本』(創元社、2020)がある。

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Copyright (c) 2019 東京都古書籍商業協同組合

2021年11月25日号 第335号

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☆INDEX☆
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
1.『古本屋的!』は『東京古書組合百年史』の姉妹本なのだ
                    稲垣書店 中山 信如
2.東京古書組合百年史 感想文

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
━━━━━━━━━━━━【自著を語る(282)】━━━━━━━━

『古本屋的!』は『東京古書組合百年史』の姉妹本なのだ

                    稲垣書店 中山 信如

『東京古書組合百年史』、もう手にとってみたかい? 読んでみた
かい? どうだい、立派な本だろう。八千円もするけど、第一章は、
まるまるあの有名な鹿島茂先生に(といったってオレの一つ上なだ
けだけど)じきじきに頼んだり、見てくれだって、プロの気鋭の装
幀家間村俊一さんに頼んで腕をふるってもらったりで、たいへんだ
ったんだ。だから、そんじょそこらの社史や業界史とちがって、
見映えがするだろう? 

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7474

『古本屋的! 東京古本屋大全』 中山信如(編著)
本の雑誌社 予価:2970円(税込)好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114663.html

━━━━━━━━【東京古書組合百年史 感想文】━━━━━━━

東京古書組合百年史について

                   ペンネーム 古書太郎

私と古書との関係についての話は非常に古い。私が飯田橋の大学に
通っていた頃、授業の合間に30分ほど歩いて神保町の古本屋さん
に通っていた。若い頃から古本には特別興味を抱いていたからであ
る。別に収集癖がある訳ではないが古書店で古本を眺めるのが好き
であった。その趣味は半世紀以上経った今でも変わらない。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7468

————————————————————-

古書店街に馳せるーー過去から未来へ

                     ペンネーム 閃

 二年ほど前から神保町の古書店街に足を運び始めた。この百年史
の中では殆ど最後の時期にあたる。神保町にある古書店はどれも歴
史を感じさせるような店ばかりであるが、その本当の歴史について
は知りようが無かった。この百年史は、私が見ることのできなかっ
た、古書店街の歴史を教えてくれるものだと思い、手に取った。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7471

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『たたかう講談師 二代目松林伯円の幕末・明治』目時美穂 著
文学通信刊 定価:2,500円(税別)好評発売中!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-66-1.html

『詩とは何か』吉増 剛造著
講談社現代新書 定価:1210円(税込)好評発売中!
https://gendai.ismedia.jp/list/books/gendai-shinsho/9784065188279


『古本マニア採集帖』  南陀楼綾繁 著
皓星社 定価:2,000円+税  発売日 2021年11月30日
https://www.libro-koseisha.co.jp/history_culture/9784774407500/

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

12月~1月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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 次回は2021年12月中旬頃発行です。お楽しみに!
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全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジン その335・11月25日

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
編集長:藤原栄志郎

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東京古書組合百年史について

東京古書組合百年史について

ペンネーム 古書太郎

私と古書との関係についての話は非常に古い。私が飯田橋の大学に通っていた頃、授業の合間に30分ほど歩いて神保町の古本屋さんに通っていた。若い頃から古本には特別興味を抱いていたからである。別に収集癖がある訳ではないが古書店で古本を眺めるのが好きであった。その趣味は半世紀以上経った今でも変わらない。百年史を読むと若い頃から行きつけていた懐かしい古書店の名前が沢山でてくる。創立の古いと言われる一誠堂、音楽関係の古賀書店、洋書の田村書店、古典の八木書店、理系の明倫館など名前を挙げれば枚挙にいとまがない。私は理系であったので明倫館とフランス文学に興味を持っていたので田村書店2階の洋書部には頻繁に通った。

この度発行された百年史には第一章が鹿島茂さんの古本屋が生き続けた克明な歴史、鹿島さんの文章や講演はいつ読んでも聴いても詳しい上に面白い。以前に読んだ神田神保町書肆街考も大変面白かった。巻頭を飾るに相応しい読み物である。古書店と云えば先ず神保町が思い浮かぶが、古本の虫である私は勿論本郷、早稲田、中央線沿線などの古本屋さんもめぐっている。従って長年買い集めた本は沢山あるが、今でも大切にしている。特に大切な本には外箱がない場合にはそれに相応しい箱を作っている。

今回の百年史には五十年史と違って箱がない。当然箱を作った。曽て製本を勉強したこともあって市販品に負けないものを作る自信はある。
古本屋さんの販売形態も百年史にあるように「日本の古本屋」というネットによる販売が増えて来た。これも時代の趨勢で当然の事なのでしょう。しかし少々老人の繰り言を言わせれて頂ければ元来本は手に取って自分でページをめくりながら読んで買うのが一番良い。

五十年史には著名な作家である永井荷風や中野重治、尾崎一雄といった方の「そとからみた古本屋」という欄があり、非常に興味深かったが、今回はそれがなかったのが残念である。作家は当然読書家であり古本あさりをしたに違いない。そのような人の経験や思いは古書店にとって非常に役立つのではないでしょうか。最後に今後の古書店の新しい時代へ向けての繁栄を心より祈念いたします。

Copyright (c) 2021 東京都古書籍商業協同組合

古書店街に馳せるーー過去から未来へ

古書店街に馳せるーー過去から未来へ

ペンネーム 閃

 二年ほど前から神保町の古書店街に足を運び始めた。この百年史の中では殆ど最後の時期にあたる。神保町にある古書店はどれも歴史を感じさせるような店ばかりであるが、その本当の歴史については知りようが無かった。この百年史は、私が見ることのできなかった、古書店街の歴史を教えてくれるものだと思い、手に取った。

 本書を通して、古書店街の本当の歴史を伺い知れた気がする。古書店街の歴史という点では、特に第一章から、今の古書店街の姿は徐々に形作られて来たものであることが分かった。それと同時に、これまでに姿を消した古書店もあったことを知った。つまり、私がたまたま目にできている「今」の古書店街は、東京古書組合の百年という時間の終着点での姿ではあるが、また他方では、その姿は変化の一時点のものに過ぎないのだとも感じられた。

 第三章の「今後の百年のために——若手インタビュー&アンケート」からは、題にある通り、今後の百年を育む土壌を紹介しているように思われた。東京古書組合の今後の歴史も何らかの変化を伴うものであろうが、ここで回答されていた方々が中心となって作り上げ、さらにその次世代へと繋いでいくのだろうと想像せずにはいられない。そうして作られる未来の古書店・古書店街の姿は、「今」と異なるものなのか、異なるのであれば一体どのようなものになるのか、このように想像してみるばかりか実際に目にしたいと思うようにもなった。

 古書店街の過去の歴史を知るために手に取ったはずの本書に、これからの古書店街の姿への好奇心を駆り立てられてしまった。これまでの古書店街の歴史は、その殆どを、本書を通して知ったが、これからの歴史は日々実見できるものであろう。未来に起こりうる変化を捉えるためにも、また古書店街へと足を向けずにはいられなさそうだ。

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furuhonyateki

『古本屋的!』は『東京古書組合百年史』の姉妹本なのだ

『古本屋的!』は『東京古書組合百年史』の姉妹本なのだ

稲垣書店 中山 信如

『東京古書組合百年史』、もう手にとってみたかい? 読んでみたかい? どうだい、立派な本だろう。八千円もするけど、第一章は、まるまるあの有名な鹿島茂先生に(といったってオレの一つ上なだけだけど)じきじきに頼んだり、見てくれだって、プロの気鋭の装幀家間村俊一さんに頼んで腕をふるってもらったりで、たいへんだったんだ。だから、そんじょそこらの社史や業界史とちがって、見映えがするだろう? 中身だって、仕上げるまでに三年と八ケ月、おりしも新型コロナ騒ぎのまっただなか、つどった編纂委員上は七十三から下は四十一歳まで総勢十五名、古い文献で歴史をおさらいしたり、ダンボールをあさって資料を集めたり、カンナンシンクの果てやっとこさ、どうにかこうにか作り上げたんだ。そんな苦労も、カラー口絵を含む七百ページ近くのボリュームを見れば、想像がつくってもんだろう。
 でも、あの『百年史』、あれでやれやれ、終った終ったなんぞと思っちゃいけないヨ。実はあの『百年史』には、まだ続きがあるんだ。そう、オイラがやった、第五章「見よ、古本屋の豊穣なる世界」の続きがネ。あの第五章、中でもチラッと書いてるけど、副題「『古書月報』寄稿傑作選寸評集」ってある通り、先行する『東京古書組合五十年史』以降に出た組合機関誌「古書月報」五十年分のなかから、オイラが傑作と認定したおもしろいものを選って集めてコメントしたもんなんだけど、ハナからあんな形にするつもりじゃなかったんだ。始めはおもしろいと思ったものをドンドン粗選りしてって、最後にそのなかからさらにイイって思ったものを選んで載せて、それで一丁あがり、おしまいってするつもりだったんだ。

 でも、いざ始めてみたら、これが予想に反しておもしろいものがゾロゾロ出てきて、第一次選考通過作的なもんだけでも、ふと気付くと三百編近く、ついでに選んだ座談会や聞き書きなんかのしゃべりものまで入れたら、三百と八十編。これを全部収録できたら、組合員同胞の持つ多様さ、幅広さ、奥深さを紹介せんとの思いもみごと達成できたんだろうけど、なんてったって与えられたページ数には限りがあり、しかもおもしろい、読ませる文はそれなりに長いものが多くって、何編もはいらないってことに気付いちゃったわけ。
 そこで傑作選最終選考の手がハタと止まり、さて弱った、どうしようと頭をかかえちゃった。しかたなく終盤にさしかかった編纂委員会の席上、恥ずかしながら正直にそう訴えると、前にも書いたけど、三年間に及ぶ傑作選びの最中オイラが書きとめたコメント、寸評の束を手にした、さる委員すなわちS書林Uの大胆なる提案、もったいないからとりあえず、まずこれだけそっくり載せちまえば、載せて終りにしちまえばとの思いつきが通り、急転直下、そうなっちまったというわけ。そしてあとは外部の然るべき出版社にでも交渉して、そっちで出してもらおうヨとなったわけ。

 オイラも、それもそうだそれがいい、そうしようそうしようとその時はその話に乗っかって、第五章はオイラが選んだ「傑作選寸評集」ということでめでたく一件落着したんだけど、でも仕上がってきた『百年史』第五章を見て、みんなもそう思ったろうけど、オイラがいくら得意のうまい言葉や言い回しでホメたり論じたりしてたって、肝心の本文そのものが載ってないんじゃカッカソウヨー、ちっともピンとこないじゃないか。ましてや同じ古本屋仲間ならまだしも、外部の一般人には、なんのことやらピンとくるはずもないじゃないかと。
 事実こんどの『百年史』、出来上りを大学時代の同人誌仲間にあげて読ませたんだが、オイラが書いた第五章、これじゃわれわれシロウトにはチンプンカンプン、なにがなんだかさっぱりわからんヨと言われちまって、ギャフン。でも、そりゃそうだ、そうかもしれない。チンプンカンプンと言い放ったヤツは、入学以来五十年以上のつきあいの気心の知れた文学仲間、オイラの書くものの意図も言い回しもこころえてくれてるはずのヤツなんだが、それに〈チンプンカンプン〉と言われて、目が覚めた。なるほどこれじゃイトも針もない。本文が載ってないんじゃ、アンバランスもいいとこ、理解不能。何度も繰り返すが、本文そのものが読めてのコメント、寸評。二つが両方一緒に読めての傑作選なんだ。そう気付くと、がぜん外部出版ばなしのほうに熱が向かった。本気になった。

 もともと意中の出版社だった、書物文化に理解ある、若い読者層にもウケのいい本の雑誌社だったが、OKをもらいゴーサインが出て、『百年史』編集の終盤、同時進行の形ですでにスタートしていたそっちの編集作業のほうにも、ますます熱がはいった。フル回転した。『東京古書組合百年史』関連出版ということで、本の雑誌社側も編集兼発行人オン自らおでましの上ジキジキに担当してくれて、おもしろくなりそう売れそうと大車輪の編集作業、ついにA5判四百ページになんなんとする大冊は、みごとここに出来上がってきた。

 ただし、ただしダヨ、ひとつだけ言っておかなきゃいけないことがある。こんどの本、オイラが最初に選んだ「古書月報」の三百八十編、あとから追加で選んだ「全古書連ニュース」の三十いくつかを足すと四百二十編近く、これをすべて収録しようとすると、『百年史』と同じくらいブ厚い本を二冊三冊作らなきゃならなくなって、とても無理。だから一冊に収めるため、本の雑誌社側と協議協議の結果、涙を飲んでしぼりにしぼった。いわく、業者以外の文は外そう。いわく、東京組合員以外の文は外そう。いわく、再録済の文は外そう。いわく、一人三編までにしぼろう。こうして単独文、座談会など百二十編ほどにしぼりこんだのが、こんどの本『古本屋的!』、サブタイトル「東京古本屋大全」。おかげで、そのぶん、もうこれ以上はムリ、限界っていうほどおもしろいものばかり詰めこめたし、読んで納得、見て満足、間違いなしってシロモノに仕上がった。だから内側つまりわれら同業者側から見ても、外側つまり外部の一般客側から見ても、おもしろいこと請け合うヨ。

 さて、かくして、この本『古本屋的!』、『東京古書組合百年史』に引きずられるようにして進められた連動企画、引きずられるようにして生まれた副産物、と始めはオレっちもそう思ってたけど、いいやそうじゃない。よくよく考えてみりゃ、『百年史』の第五章を先に読んだらこれを読みたくなる、こちらを先に読んだら『百年史』の第五章を読まずにはいられなくなる、つまり、『百年史』でオイラのシャレたコメントを読んだら中身の本文まで読みたくなる、逆に『古本屋的!』を先に読んだら、この文にオイラがどんなコメントを寄せてるか確かめたくなる、そういう不即不離のセット、ペア、切っても切れない〈姉妹本〉なんだ。

 いずれにせよこんどの二冊の本たち、今まであまりかえりみられることもなかった、過去五十年にわたる古書業界の歴史のなかに眠りつづけてた〈古本屋の豊穣なる世界〉、その幅広く奥深い魅力的な世界が、ついに姿を現してるってこと。だから同業諸兄も諸嬢も諸老も、みんなこぞって買って読んでネ。思った以上に売れれば、こんどの本には入れられなかった残る秀作たちや、今回涙を飲んで見送った東京組合員以外や再録済の傑作たちを集め直して、もう一冊出してもらえるかもしれないしネ。

 そして行く行くは最後に、東京古書組合創立百周年記念のこの年(ほんとは新型コロナで一年ズレちゃったんで、昨年だったんだけどネ)、改めて内からも外からも、古本屋世界に新たなる思いを馳せようじゃないか。

全古書連ニュース 11月号から転載


お詫びと訂正
編者と出版社との打ち合わせ不足のため、本書第1章「記憶に残る古本屋を訪ねてみよう」中の「追悼 先人に捧ぐ」の末尾に、石神井書林内堀弘氏執筆の「『えびな書店店主の記』のこと」を並列収録してしまいました。ご承知のようにえびな書店蛯名則氏はご健在で、現在も活躍中です。ご迷惑をおかけした蝦名氏、内堀氏、及び読者の皆さん方にお詫びして訂正申し上げます。

furuhonyateki

『古本屋的! 東京古本屋大全』 中山信如(編著)
本の雑誌社 定価:2970円(税込)好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114663.html

hyakunenshi
『東京古書組合百年史』東京古書組合 百年史編さん委員会
定価 8000円(税込み)
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2021年11月10日号 第334号

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 古書市&古本まつり 第106号
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━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

コロナ禍古本屋生活2 本の引っ越し編

                  火星の庭 前野久美子

 この秋に古本の在庫を置いていた倉庫を引っ越すことになった。
わたしのような古本屋に限らず本好きであれば、本の引越しがいか
に難儀か想像いただけると思う。引っ越すことが決まってからとい
うもの、頭の中から絶えず聞こえてくる「どうするんだ!倉庫の本
は?」という声に煽られていた。その声はやがて、「これからお店
をどうするつもりか?」という難問まで引き連れて来るから、さら
にやっかいだった。

続きはこちら
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火星の庭ホームページ https://kaseinoniwa.com/

Twitter https://twitter.com/kaseinoniwa

『仙台本屋時間』
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━━━━━━━━━【シリーズ 古本の読み方1】━━━━━━

ズレて、ズラして、ズラされて――時代と価値観からのスピン・オフ

                      書物蔵

■古本の買い方ならぬ読み方
 古本読書術というお題は成立するだろうか。古本の「買い方」
本には意外と「読み方」が書かれていない。それらは、買い方+
自分がオモシロいと思った古本の紹介、というパターンがほとん
どで、「なんで自分がその本をオモシロいと思えたか」「どうし
てその本がユニークだと気づけたか」といったメタな記述、つま
り、購書術ならぬ読書術はあまり見当たらないのだ。気づいた結
果は書いてあるのに、なぜ気づけたのか、プロセスがないのは、
無意識的な動作だからだろう。

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書物蔵
本格的古本歴は15年ほど。興味は日本図書館史から近代出版史へ
移行し、今は読書史。
共書に『本のリストの本』(創元社、2020)がある。

ツイッター
https://twitter.com/shomotsubugyo (2009年~)

━━━━━【11月10日~12月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2021/11/11~2021/11/14
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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南大沢古本まつり

期間:2021/11/12~2021/11/18
場所:京王相模原線南大沢駅前&ペデストリアンデッキ特設テント

https://minamiosawausedbookfes.wordpress.com/

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第183回 神戸古書即売会(兵庫県)

期間:2021/11/12~2021/11/14
場所:兵庫県古書会館 神戸市中央区北長狭通6-4-5

https://hyogo-kosho.com/

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第3回 令和 古本まつり(高知県)

期間:2021/11/13~2021/11/14
場所:高知市南御座6‐10 高知蔦屋書店 1階テラス(屋外・屋根付き)

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趣味の古書展

期間:2021/11/19~2021/11/20
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

https://www.kosho.tokyo

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名鯱会(愛知県)

期間:2021/11/19~2021/11/21
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12
電話:052-241-6232 ※JR「鶴舞駅」名大病院口より徒歩5分
※地下鉄「鶴舞駅」1番出口より徒歩6分

https://hon-ya.net/

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2021/11/25~2021/11/28
場所:JR浦和駅西口 さくら草通り徒歩5分 マツモトキヨシ前

https://twitter.com/urawajuku

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和洋会古書展

期間:2021/11/26~2021/11/27
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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五反田遊古会

期間:2021/11/26~2021/11/27
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

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中央線古書展

期間:2021/11/27~2021/11/28
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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第100回 彩の国 所沢古本まつり(埼玉県)

期間:2021/12/01~2021/12/07
場所:くすのきホール (西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場)

https://tokorozawahuruhon.com/

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関内・古本sevenマーケットwith文具&雑貨(神奈川県)

期間:2021/12/01~2021/12/30
場所:JR関内駅前セルテ1階

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書窓展(マド展)

期間:2021/12/03~2021/12/04
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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西部古書展書心会

期間:2021/12/03~2021/12/05
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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12月反町古書会館展(神奈川県)

期間:2021/12/04~2021/12/05
場所:神奈川古書会館

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2021/12/09~2021/12/13
場所:JR浦和駅西口 さくら草通り徒歩5分 マツモトキヨシ前

https://twitter.com/urawajuku

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歳末赤札古本市

期間:2021/12/09~2021/12/12
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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新興古書大即売展

期間:2021/12/10~2021/12/11
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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第20回つちうら古書倶楽部・師走の古本市(茨城県)

期間:2021/12/11~2021/12/19
場所:土浦市大和町2-1 つちうら古書倶楽部

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フィールズ南柏 古本(千葉県)

期間:2021/12/11~2021/12/28
場所: フィールズ南柏 モール2 2階催事場  柏市南柏中央6-7

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2021年10月25日号 第333号

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☆INDEX☆
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1.『近代出版史探索外伝』について    小田光雄
2.『東京の古本屋』   橋本倫史
3.詩集の芯に、イ(i)の樹木(き)の君が立って来ていた
                      吉増剛造

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━━━━━━━━【自著を語る(279)】━━━━━━━━

『近代出版史探索外伝』について

                       小田光雄

 今回の拙著はこれまでの『近代出版史探索』五冊の短編連作と異
なり、「ゾラからハードボイルドへ」「謎の作者 佐藤吉郎と『黒
流』」「ブルーコミックス論」からなる三本立てである。映画を見
始めた1960年代は雑多な三本立て上映が主流であって、それを模し
てみようと思った。

続きはこちら
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『近代出版史探索外伝』 小田光雄著
論創社刊 6000円+税 好評発売中!
https://ronso.co.jp/

━━━━━━━━━━━【自著を語る(280)】━━━━━━━━━

『東京の古本屋』

                     橋本倫史

 きっかけは、ふとした一言だった。
 大学4年生を迎えた春、単位がまだ足りなくてどの授業を履修し
ようかと頭を悩ませていたところに、同郷の友人がアパートを訪ね
てきた。ちょうどそのとき、テーブルの上に『SPA!』を広げてあっ
た。毎週購読していたわけではなく、その週はたまたま買い求めて、
テーブルに置いてあった。開いていたページには、福田和也さんと
坪内祐三さんによる対談連載「これでいいのだ!」が掲載されていた。

続きはこちら
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『東京の古本屋』 橋本倫史
本の雑誌社刊 本体2000円+税 好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114620.html

━━━━━━━━━━━【自著を語る(281)】━━━━━━━━━

詩集の芯に、イ(i)の樹木(き)の君が立って来ていた

                        吉増剛造

 “メズラシキゴイライニセッシ、コヽロオドリジャクヤクシオリ
ソロ(稀らしき御依頼に接し、心躍り雀躍し居候)”と、何処かへ
と“ウナ電(至急電報)”を打ってみたい気持が湧いて来ていた。
 これは、旧知の吉成秀夫さんからの書状での御依頼に接した折の
emotion=エモーション、“感情”と綴ろうとして、しばらく途惑っ
ていて、“emotion=エモーション”といたしましたのには、理由が
あって、…というのよりも、ここで、その“理由”が芽生(めば)
えて来ていて、それに誘われて、こう、綴っていたのだった。この
こと、後述、……。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7286

吉増剛造 詩集 『Voix(ヴォワ)』
思潮社 2800円+税 10月20日頃発売
http://www.shichosha.co.jp/newrelease/

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『古本マニア採集帖』  南陀楼綾繁
皓星社 定価:2,000円+税  発売日 2021年11月30日
https://www.libro-koseisha.co.jp/history_culture/9784774407500/

『古本屋的! 東京古本屋大全』 中山信如(編著)
本の雑誌社 予価:2970円(税込)2021年11月24日発売予定
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114663.html

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

10月~11月の即売展情報

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即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
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日本の古本屋メールマガジン その333・10月25日号

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
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【発行者】
 広報部:志賀浩二
編集長:藤原栄志郎

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コロナ禍古本屋生活2 本の引っ越し編

コロナ禍古本屋生活2 本の引っ越し編

火星の庭 前野久美子

 この秋に古本の在庫を置いていた倉庫を引っ越すことになった。わたしのような古本屋に限らず本好きであれば、本の引越しがいかに難儀か想像いただけると思う。引っ越すことが決まってからというもの、頭の中から絶えず聞こえてくる「どうするんだ!倉庫の本は?」という声に煽られていた。その声はやがて、「これからお店をどうするつもりか?」という難問まで引き連れて来るから、さらにやっかいだった。

 これまではありがたいことに同業のA書房さんが借りている倉庫に間借りさせてもらっていた。2年前、A書房さんが仙台市内で新たに倉庫を借りることになった。本の置き場に困り果てていたわたしは「少し本を置かせてもらえないでしょうか」とお願いしたところ、「いいですよ」と快諾してくれたのだった。
はじめ本は10箱だったが、すぐ50箱になった。やがて200箱、ついには300箱以上にもなっていた。これ以上甘え続けるわけにはいかないと思っていた。A書房さんがもっと交通のアクセスが良い広い倉庫に引っ越すことになったタイミングで、自力で倉庫を借りることにした。

 実はA書房さんの倉庫に間借りする前、大量の本は、あちこちに分散して置いていた。自宅マンションの4部屋のうちの2部屋と地下倉庫、仙台市内の夫の実家、福島県郡山市にあるわたしの実家の4カ所だ。自宅はとくに悲惨だった。ある時、布団を敷くスペース以外は家中すべてが本に埋め尽くされたことがあった。当時小学生だった娘の友だちが遊びに来て、昼間だというのに本で塞がれた薄暗い室内を見て「なんかこの家怖い」と言って泣出し、すぐ帰ってしまったということがあった。

 家じゅうが本だらけになっても一向にわたしが気にならないのは、子どもの頃の体験が関係している。父は筋金入りの男尊女卑の考えで、「女が本を読むと賢くなってロクなことがない」が口癖だった。そのためわたしはいつも隠れて本を読んでいた。高校生の頃、わたしが家に帰ると父が庭で何かを燃やしていた。それはわたしが押し入れに隠していた本だった。「燃えにくいな」と憎らしそうに長い棒で本をブスブスと突き刺していた。その光景があまりにも強烈すぎて、かえって本が好きになった。本に囲まれると毛布にくるまっているようなほかほかした気分になる。結果的に父はわたしの本好きの心にも火をつけたといえる。

 そうそう、今回の引越し先であるが、そもそも仙台は地方都市の割に家賃が高い。店の家賃に加えて、倉庫の家賃を払う余力はないので、間借りをしてしのいできた。さらに、今は長引くコロナ禍の影響で先行きが見えない状況にある。当店にとっては事業を拡大するなど無謀といえる。
 さて、どうしようと思案する日々が続いていたある日、一本の電話がかかってきた。旧友の皆川万葉さんからだった。彼女は、パレスチナ・オリーブという輸入販売会社を経営している。毎年1万本以上のオリーブオイルをフェアトレードで直輸入し、パレスチナの農業者の生活を支援し、情報や交流を促すなど人道支援にも力を注いでいる。当店でも販売しているそのオリーブオイルは非常に高品質で長年愛用するファンが多い。

 皆川さんは東北大学大学院在学中に、仙台で事業を始めた。しかし、震災後子どもを連れて山梨県に引っ越して行った。震災から10年が経ち、子育てが一段落する来春、仙台に戻ってくるという。「仙台で事務所と倉庫を借りなくては」と語る皆川さんに、わたしは一筋の光明を見た思いだった。思い切って「一緒に倉庫を探して借りませんか?」と提案してみた。すると、皆川さんは驚きながらも、「シェアしましょう!」と言ってくれた。大の読書家でもある皆川さんは、本の置き場の悩みにも共感してくれたのだ。

 それから3ヶ月、知り合いの不動産に依頼し、仙台市内の空き物件を見て歩いた。一階である程度広さがあり、道路にトラックが停められ、手頃な家賃という条件では、そう簡単には見つかるはずはなく、ここはと思っても断られたりもした。しかし、ついに私の店から車で10分の場所に、倉庫が借りられることになった。それからは、ひたすら本を紐で縛り、箱詰めする日々が続いている。ああ、本の落ち着く先が決まって本当によかった。今度はオリーブ・オイルと一緒だ。

 引越しをしたことで、「これから店をどうしよう」という迷いも落ち着いた。かつてのわたしのように本に飢えた人がいつか訪ねて来るかもしれない。縁あって当店に来てくれた本たちを次の方に手渡せるようきれいに整えておこう。今はお店を始めてから何度目かのスタートなのだと気持ちを新たにしている。



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