2020年1月24日 第291号

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☆INDEX☆
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1.古書業界と私の個展  高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長)
2.古本屋ツアー・イン・ジャパンの2019年総決算報告」
古本屋ツアーインジャパン 小山力也
3.古本乙女の独り言⑦ 夜行バスに揺られて  カラサキ・アユミ

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━━━━━━━━━━━【自著を語る番外編】━━━━━━━━━

 古書業界と私の個展

             高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長)

 「日本の古本屋」メルマガ読者の皆様初めまして。私は先月発行
のメルマガで個展開催の案内を紹介して頂いた高橋秀行です。なぜ
メルマガで場違いな絵画の個展案内を掲載して頂けたかと言います
と、実は私は元東京古書組合の職員でした。

続きはこちら
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『高橋 秀行 (前 東京古書組合事務局長) 個展
1月27日(月)~2月1日(土)
AM11:00 ~ PM6:30(最終日 PM4:00まで)

光画廊
東京都中央区銀座7-6-6
丸源ビル24(1階)

━━━━━━━━【2019年の古ツアをふり返る】━━━━━━━━

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2019年総決算報告

         古本屋ツアー・イン・ジャパン 小山力也

 ついに2020年になってしまった。漫画『AKIRA』の時代であり、
『ウルトラQ』のケームル人が遠い星で暮らしている時代でもある。
漠然とした未来にいつの間にか現実が追いついてしまった…そんな
殊勝なことを考えながらも、古本と古本屋さんに喜びを見出す日々
は、変わらず続いている。2019年もまったく飽きることなく戯れ続
けた、この素晴らしき知識と物質の泥沼のような世界…一瞬だが駆
け足で振り返ってみよう。

続きはこちら
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小山力也

2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売ってい
る場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン
・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚
で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑
誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。

http://furuhonya-tour.seesaa.net/

━━━━━━━━━━━【古本乙女の独り言】━━━━━━━━━

古本乙女の独り言⑦
夜行バスに揺られて

                   カラサキ・アユミ

 先日思い立って、夜行バスのチケットを取って京都に向かった。
明確な目的もなく、衝動的に冬の京都の空気が吸いたくなったとい
う漠然とした理由だった。長い長い乗車時間を経て早朝に京都駅に
到着したバスを降りると、瞬時、澄み渡った冷たい空気が身を包み
寝不足でトコロテンのようにフルフルした頭の中がシャキッとした。
地下鉄を乗り継ぎ、とりあえず鴨川に向かってみた。

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古本乙女の独り言⑥ はこちら
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https://twitter.com/fuguhugu

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『ようかん』 虎屋文庫 著 
新潮社 定価:2,420円(税込) 好評発売中!
https://www.shinchosha.co.jp/book/352951/

『本を売る技術』 矢部潤子 著
本の雑誌社 定価:1760円(税込)好評発売中!
http://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114388.html

作家・大西巨人―「全力的な精進」の軌跡展 について
            山口直孝(二松学舎大学 教授)

企画展 作家・大西巨人―「全力的な精進」の軌跡 開催

二松学舎大学会場
開催期間:2月4日(火)~3月14日(土) (日・祝 3月9日(月)休館) 
時間:10時~16時
場所:九段1号館地下3階 大学資料展示室

東京古書会館会場
開催期間:2月21日(金)~3月14日(土) (日・祝 3月9日(月)休館) 
時間:10時~17時 最終日15時まで
場所:2階情報コーナー

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

1月~2月の即売展情報

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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 【バックナンバーコーナー】

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┌─────────────────────────┐
 次回は2020年2月中旬頃発行です。お楽しみに!
└─────────────────────────┘

*☆ 本を売るときは、全古書連加盟の全国の古書店に ☆*
全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

https://www.kosho.or.jp/buyer/list.php?mode=from_banner

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日本の古本屋メールマガジンその291 2020.1.24

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:二見彰
編集長:藤原栄志郎

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古書業界と私の個展

古書業界と私の個展

高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長)

 「日本の古本屋」メルマガ読者の皆様初めまして。私は先月発行のメルマガで個展開催の案内を紹介して頂いた高橋秀行です。なぜメルマガで場違いな絵画の個展案内を掲載して頂けたかと言いますと、実は私は元東京古書組合の職員でした。

少し自己紹介させて頂くと、私は1970年(昭和45年)に東京都古書籍商業協同組合(以下、東京古書組合と略します)に職員として就職し、2008年(平成8年)に定年退職するまで38年間勤め、後半の20年間事務局長をさせていただきました。その間、18人の理事長の下で働きましたが、私が勤め始めた頃は、昭和42年に新築された神田小川町の古書会館(旧古書会館)で曜日制の市会が毎日開催され、活況に満ちていました。当時は、70年安保闘争の後で、御茶ノ水のカルチェラタンも落ち着きを取り戻し始めていました。古書業界では東京古典会の盛況期の頃で、大きな売り立てや大きな市会がホテルで開かれ、出来高も目を見張るばかりでした。三島由紀夫ブームが去り、次いで初版本ブーム、そして左翼系の本がよく売れた時代です。出版界も上り調子で空前の出版ブームと言われ、文学全集や百科事典が飛ぶように売れた時代でした。

皆さんもご存じのとおり、各古書店はそれぞれの得意分野を持ち専門性があることから、古書業界には特長が二つあります。その一つは卸、問屋が無いことです。新刊書は出版社が本を企画し、印刷所、製本、装丁に関わり上梓し、取次を通して書店に委託します。70年当時は神田のすずらん通り裏に「神田村」と呼ばれる中小の新刊取次業者の集積地がありました。強いて言えば、築地の場外市場といった趣ですが、この取次が集まる神田村が消滅したことが今日の出版業界の衰退を如実に表しています。

前述したように、古書業界には仕入れ先の問屋が無いので、仕入れは読者の持ち込みや宅買い、その他さまざまな方法で仕入れますが、それらも量的に限界があります。そこで、各古書店は専門外の自分の店で不必要な本は売り、必要な本を買う市場(交換会)を必要としました。つまり、売り手イコール買い手になるわけですが、そこには当然利害が絡みますので様々な調整が必要になり、この市場(交換会)を組合が主催することで強固な組合組織が確立されていくことになっていきます。現在、東京古書組合では創立100年を記念して「百年史」の出版を計画、進行中です。この本は古書業界の歴史ですが、読み物としても面白いので、上梓された際はぜひお読みになることをお勧め致します。

今一つは、古書業者は10年修業しないと古書店を開けないと言われていました。それは本の相場を憶えるということです。古書には定価がありませんから、本の価値を自分で判断するしかありません。需要と供給の関係で、高くては売れませんし、安くては他業者に買っていかれてしまいます。この相場を憶えることは、その業者の力量を表す指標でした。実際、古書業者には偏屈な人もいますが、総じて頭脳の明晰な人が多いのです。この古書業者の専門性に穴をあけたのがブックオフとインターネットです。

ブックオフは古書店の専門性をある部分打ち砕きました。その方法は本を定価の一割で買い、五割で売るということを明確に表に出して商売をしたことです。これは消費者にとってとても分かりやすいものであり、素人でも古書が仕入れられるので、古本はブックオフへとなり全国展開にまで至りました。

また、インターネットは相場を全国に公開することになりました。これまで専門性に隠されていた古書の相場がネットで調べられるようになり、都市と地方の古書店の格差が無くなり、古書業を営むための修業が必要なくなって、素人の業界参入が容易になりました。

古書業界の現況は、出版不況とも重なり、大変厳しい経営を余儀なくされています。この流動する環境の中で、古書組合もただ傍観していたのではなく、業界活性化の方策や研究、調査、広報活動を進め、業者の研鑽や組合組織の改変など自助努力も続けています。
しかし、残念ながら本を読む人が少なくなり、古書店に出向く人も減少し、町の書店も姿を消しつつあります。今は断捨離という名のもとに本が廃棄され、貴重な本が失われてきていて、今こそ古書業界の存在を知ってほしいと思います。

さて、本題です。私は1月27日から2月1日まで、銀座の「光画廊」で個展を開催します。私が描く絵はとても分かりやすい絵です。どちらかというと写実的で、退職してから一生懸命に描き出しました。絵画は基本的に二次元の平面に、いかにして三次元の世界を構築するか、そのための手段として明暗や色彩、線や面を用いて表現するものだと思っています。この考え方は西洋の伝統的な絵画観ですが、ルネッサンスから500年を経て、現代のIT世界で通用するのか、様々な考え方がありましょう。音楽は7つの音階でクラシックからジャズ、歌謡曲まで表現します。絵画も色彩の赤、黄、青の三原色にそれを混ぜた橙、緑、紫を加えた二次色の6色に白黒を加えた8色ですべての表現を行います。どんな現代作家もこの枠組みから逃れることはできません。その上、技量や感覚、知識も必要になりますので、なかなか絵画の世界も奥深く難しいものです。更に独自性や感動をとなると、何がなんだか訳がわからなくなります。
そんな五里霧中の結果の絵ですが、ご都合がつきましたらご高覧下さり、ご批評賜りましたら望外の喜びとするところです。

『高橋 秀行 (前 東京古書組合事務局長) 個展
1月27日(月)~2月1日(土)
AM11:00 ~ PM6:30(最終日 PM4:00まで)

takahashi

光画廊
東京都中央区銀座7-6-6
丸源ビル24(1階)
http://hikarigarou.o.oo7.jp/

Copyright (c) 2020 東京都古書籍商業協同組合

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2019年総決算報告

「古本屋ツアー・イン・ジャパンの2019年総決算報告」

古本屋ツアー・イン・ジャパン 小山力也

 ついに2020年になってしまった。漫画『AKIRA』の時代であり、『ウルトラQ』のケームル人が遠い星で暮らしている時代でもある。漠然とした未来にいつの間にか現実が追いついてしまった…そんな殊勝なことを考えながらも、古本と古本屋さんに喜びを見出す日々は、変わらず続いている。2019年もまったく飽きることなく戯れ続けた、この素晴らしき知識と物質の泥沼のような世界…一瞬だが駆け足で振り返ってみよう。

 東京近郊ではあるが、まずは新たに開店したお店を列挙してみよう。谷保の鄙びた商店街に「小鳥書房」という出版もするお店が開店。三鷹には「りんてん舎」が出現し、駅からちょっと離れていはいるが、地元民の心を素晴らしき棚造りと値段の安さで捉えている。西荻窪の「benchtime books」は製本工房と古本屋さんが一体化した変わり種。国分寺の「早春書店」は若者向けの選書が尖る、攻める姿勢が好ましい。町田の「EUREKA BOOKSTORE」は裏路地の飲屋街二階にあるが、場所柄に反してセンスの良いセレクトがピカリと光る。鎌倉「くんぷう堂」は一軒家を改装した広いお店で、女性店主の視点に、幅広く豊かで芯の通った強さを感じる。西荻窪の「トムズボックス」は吉祥寺にあった絵本屋さんが古本屋さんとして復活。武蔵境「おへそ書房」は奇妙な店名とは関係なく、子供にも大人にも優しいしっかりとした選書が際立っている。吉祥寺「BOOK MANSION」は棚貸しを基本とした、小さな固定一箱古本市と言った趣きの空間。一棚店主の個性がせめぎあう面白さがある。阿佐ヶ谷「ネオ書房」は評論家の切通理作氏が、三月に閉店したお店を引き継ぎ開店。以前とは異なる、怪獣文化やサブカル・映画に強いマニアックなお店に生まれ変わった。氏の蔵書が棚に並ぶのも大いなる魅力である。神楽坂「アルスクモノイ」は、バーカウンターも併設し、小さな印刷&製本工場が連なる地帯にオープン。「砂漠のような場所に店を出したかった。寂しいところにポツンと灯りが浮かんでいるようなお店」とは、店主の呟いた名言である。高円寺の「tata」は、行き止まり路地の元「アバッキオ」があった場所にオープンした、小さなセレクトブックショップ。武蔵藤沢の「逍遥館」は『ジョンソンタウン』という元米軍住宅の街に、その米軍ハウスの中に端正で重厚な棚を並べて年末に開店。周囲のショップが飲食店や雑貨店ばかりなので、タウン内で一際目を惹く存在になっている。他にもまだ未踏ではあるが、尾久に古本バーが出現していたり、大森にも同様の古本バーが。そして黄金町に「楕円」というお店が開店しているとの情報もつかんでいる。

 さて、新開店するお店あれば、残念ながら閉店するお店もあり。悲しいことだが、これも流れの一つなので列挙しておこう。阿佐ヶ谷では「あきら書房」と旧「ネオ書房」、それに山岳書籍の老舗「穂高書房」が店主の急逝により閉店。谷中「信天翁」、荻窪「象のあし」、龍ヶ崎「竜ヶ崎古書モール」、神保町「マニタ書房」、「東京書房 自由が丘店」、西千葉「鈴木書房」、経堂「遠藤書店」、町田「高原書店」、鳩の街「右左見堂」、鎌倉「books moblo」、神保町「りぶる・りべろ」も様々な理由で閉店となってしまった。頻繁に利用したお店、時々出向くお店、一度しか行ったことのないお店など、これもまた様々であるが、間違いなく古本屋巡りと古本買いの楽しさを支え、教えてくれたお店たちである。ここで多大なる感謝を捧げておきたい。みなさま、本当におつかれさまでした。

 またこの年は、移転したお店が多かったのが一つの特徴であった。何はともあれ、どうにか店舗を継続してくれるのは、古本屋巡りをする者にとってありがたいものである。神保町の『すずらん通り』に移転した「虔十書林」、早稲田の「丸三文庫」は路面店に。「古書ほうろう」は不忍池近くに。八王子「まつおか書房」は京王八王子駅近くに。八幡山駅前にあった「グランマーズ」は永福町にいつの間にか移転していた。また「東京書房 自由が丘店」は店舗機能の一部を宮前の倉庫に移し、時々ガレージセールを開いているとのことである。

 このように日々情報を集め、地元近くの古本屋さんを巡り歩いていると、古本者の常として、いつしか自然と定点観測ルートが組み上がって来るものである。最近のお気に入りルートを思い出してみると、まずは荻窪で「ささま書店」→「藍書店」→「竹陽書房」。吉祥寺で「一日」→「バサラブックス」→「よみた屋」。高円寺で「古書サンカクヤマ」→「DORAMA高円寺庚申通り店」→「アニマル洋子」。西武池袋線沿線の中村橋「古書クマゴロウ」→保谷「アカシヤ書店」と言ったところだろうか。基本は安くて見かけたことのない古い本が買えるお店である。私の蔵書も売る本も、これらのお店で出来ていると言っても過言ではない。

 またこの年は、古本神のひとり、ライターの岡崎武志氏と古本屋旅行ををする機会に恵まれた。夏の熱い盛りに青春18きっぷで栃木方面に赴き、栃木市駅前のハンコ屋兼業の「長谷川枕山堂」を訪れ、続いて住宅街の中の古本屋さん、御歳九十一のお母様が店番をする「吉本書店」にも赴いた。その時には女性店主とお話しさせていただき「いつまでもお店を続けて下さい」とお願いしておいた。ところがその後、台風の水害被害により、「吉本書店」は棚下まで水没し、閉店を余儀なくされてしまったのであった(ただし閉店したのは実店舖で、事務所店は今は復活し、催事に通販に再び活躍を始めている)。その被害の甚大さから、これはもう仕方のないことであるが、その後の古本屋さんたちの連携による、何日にも渡る片付け作業は、迅速で献身的で、感動を覚えるものであった。十月には、熊本の「舒文堂河島書店」の若旦那・河島康之氏の多大なる尽力により、「第50回鶴屋古書籍販売会」に合わせて開かれたトークに、岡崎氏とともに呼んでいただいた。他のトークは硬い内容なのに、こちらはいつものように面白古本トークを繰り広げ、果たして怒られないだろうかと心配したが、概ね好評だったようで、無事に役目を果たせたことに安心する。この時に『上通り』という目抜き通りに集まる、新進気鋭の「汽水社」に古書が雑本的に溢れる「天野屋」、そして熊本時代の夏目漱石も訪れた老舗「舒文堂河島書店」を見学。さらにその後は、路面電車や乗合バスやフェリーを乗り継ぎ、島原で古本屋さんにフラれ、島原鉄道で諫早に乗り込んだ後、博多へ。博多では「徘徊堂」を楽しみ、珍道中を終えて帰郷した。このようにこの古本コンビ、日本全国お出かけして、楽しい古本のお話をいたしますので、ご用命の際はご連絡をいただければ。

 最後にこの年の収穫を一冊挙げるとすれば、三鷹「りんてん舎」で購入した、新太陽社「ですぺら/辻潤」(裸本千円)を迷いなく選ぶ。今まで一度も見たことなく、憧れていた本が、突然目の前に安値で現れる衝撃! 何度味わってもやめられぬ、古本探しの醍醐味をこの身に甘受出来る瞬間である。今年もそんな古本との出会いを求めて、あちこちの古本屋さんに出没いたしますので、今年も何とぞよろしくお願いいたします!



小山力也 2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。
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☆古本乙女の独りごと⑦ 夜行バスに揺られて

☆古本乙女の独りごと⑦ 夜行バスに揺られて

カラサキ・アユミ

 先日思い立って、夜行バスのチケットを取って京都に向かった。明確な目的もなく、衝動的に冬の京都の空気が吸いたくなったという漠然とした理由だった。長い長い乗車時間を経て早朝に京都駅に到着したバスを降りると、瞬時、澄み渡った冷たい空気が身を包み寝不足でトコロテンのようにフルフルした頭の中がシャキッとした。地下鉄を乗り継ぎ、とりあえず鴨川に向かってみた。通勤ラッシュの殺気立った駅構内、スーツを着た人達が足早に進む方向とは逆に向かう自分の足を見下ろしながら静かに幸福感を噛み締めて歩いた。河原町と祇園を挟んだ四条大橋に立つと、どこまでも広がる朝焼け空と緩やかなカーブを描いて流れる鴨川が眼前に広がっていた。京都に住んだ経験もないのに不思議と懐かしい感覚が微かに胸に広がった。深呼吸をすると自分の口から煙のような真っ白い息がフワァと飛び出していった。京都に着いてからまだ数十分、既に旅の目的が果たされたような気がした。さて、今からどうしようか…と腕を組みながら、川を泳ぐ鴨の親子をしばし見つめた。

 観光地にいっても観光しようという欲があまり湧かず、まずはその土地の古本屋に行きたいと真っ先に思ってしまうのは、どの古本者にも当てはまる心理なのだろうか。暇をつぶすのは大得意の作業なので、古本屋が開店するまでの数時間、自販機で買った缶コーヒー片手に偶然通りかかった神社境内のベンチに腰掛け、何をするわけでもなく、ひたすら枯れ木をボンヤリ眺めたり野鳥のさえずりを聞きながら過ごしたのであった。なんとも贅沢な朝の時間の使い方だ。

 京都に訪れる度についつい思い出してフフフとなるのが修学旅行の記憶で、当時高校生だった自分は仲間意識を保つ事に必死だった。仲良しグループでの自由行動、よーじやのあぶらとり紙をお揃いで買ったり抹茶パフェを食べに有名茶房に並んだり、記念写真代わりにプリクラを撮ったり。これが楽しいと自分に言い聞かせながら友達と足並みを揃え笑い合いながら京都の街を歩いた。しかし通りがかりに古本屋を見つけた瞬間、皆が通り過ぎる中、自分一人店先で足を止めていたのであった。

 こうして様々な過去の思い出を振り返りながら幾つかの古本屋を巡り終えると、いつの間にか空は夕暮れ模様に変わっていた。財布と携帯とハンカチしか入っていなかった手提げ鞄は、帰路に着く夜行バスに乗り込む頃にはパンパンになっていたのであった。

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『全古書連ニュース』より転載

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東京古書組合発行 『古書月報』より転載

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『古本乙女の日々是口実』皓星社
価格1,000円+税
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/furuhonotome/

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2020年1月10日 第290号

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 古書市&古本まつり 第84号
      。.☆.:* 通巻290・1月10日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

初旬に(10日前後)全国で開催されている古本展示即売会など、
イベント情報をお送りします。お近くで開催される際は、ぜひ
お出掛け下さい。

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━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

北陸古本案内 その1
               オヨヨ書林 山崎 有邦

東京で10年営業し、金沢に移転してからも早10年が経とうとしてお
ります。今年の冬は暖かくて物足りない、一昨年の大雪の時は、な
んて会話が普通に出てくるほどになりましたし、お客さんからまと
まった蔵書を任せていただく事などもあり、徐々にこちらに馴染み
つつあるのかなと思います。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=5437

オヨヨ書林
https://oyoyoshorin.jp/

━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

第13回 井下拓也さん 人生の谷間を本で乗り切るひと

                       南陀楼綾繁

 古本屋めぐりの体験をネットで書いている人は多い。井下拓也さ
んもその一人で、2013年からFacebookで「古書店巡礼」と称して、
訪れた古本屋とそこで買った本について書いている。最近の記事に
312店目とある。東京の主要な店にはほぼ足を運んでいるのではな
いか。
「自分の見たままの印象を正直に書いています。訪れた店では礼儀
として、必ず1冊は買うようにしています」と井下さんは云う。文学
等、音楽、映画、美術などの本を中心に集めているようだ。著者の
署名本もお好きらしい。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=5435

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ
・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人を
つなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市
の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社刊 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

━━━━━【1月10日~2月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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フィールズ南柏古本市(千葉県)

期間:2019/12/23~2020/01/10
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場  
柏市南柏中央6-7

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第12回 上野広小路亭古本まつり

期間:2020/01/06~2020/01/19
場所:永谷お江戸上野広小路 ギャラリー+スペース36  
台東区上野1-20-10 お江戸上野広小路亭1階

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第38回古本浪漫洲 Part1~Part4(300円均一)

期間:2020/01/10~2020/01/22
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場) 
新宿区歌舞伎町1-2-2
※各パート毎に出展者が変わります。

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オールデイズクラブ(愛知県)
期間:2020/01/10~2020/01/12
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12 

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東京愛書会

期間:2020/01/10~2020/01/11
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 
URL:http://aisyokai.blog.fc2.com/

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京都マルイ新春古本市(京都府)

期間:2020/01/10~2020/01/13
場所:京都マルイ1階店頭(四条通側) 
   京都市下京区 四条河原町 真町68
URL:https://machimachi-books.com/index1/newyearbookfair2020.JPG

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大均一祭

期間:2020/01/11~2020/01/13
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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さんちか古書大即売会(兵庫県)

期間:2020/01/16~2020/01/21
場所:神戸・三宮さんちか3番街さんちかホール

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アクロスモール新鎌ヶ谷古本市(千葉県)

期間:2020/01/16~2020/01/26
場所:アクロスモール新鎌ヶ谷 1F 中央エレベーター前  
千葉県鎌ケ谷市新鎌ヶ谷2-12-1

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たにまち月一古書即売会(大阪府)

期間:2020/01/17~2020/01/19
場所:大阪古書会館 大阪府大阪市中央区粉川町4-1

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調布の古本市

期間:2020/01/17~2020/01/31
場所:調布パルコ5階催事場 調布市小島町1-38-1

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趣味の古書展

期間:2020/01/17~2020/01/18
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 

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和洋会古書展

期間:2020/01/24~2020/01/25
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 

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五反田遊古会

期間:2020/01/24~2020/01/25
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

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中央線古書展

期間:2020/01/25~2020/01/26
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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第21回紙屋町シャレオ古本まつり(広島県)

期間:2020/01/27~2020/02/02
場所:紙屋町シャレオ中央広場 広島県広島市中区基町地下街100-11

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2020/01/30~2020/02/02
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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我楽多市(がらくたいち)

期間:2020/01/31~2020/02/01
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 

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上野広小路古本祭り

期間:2020/02/03~2020/02/09
場所:永谷お江戸上野広小路 ギャラリー+スペース36  
台東区上野1-20-10 お江戸上野広小路亭1階

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三省堂書店池袋本店古本まつり

期間:2020/02/04~2020/02/11
場所:西武池袋本店別館2階=特設会場(西武ギャラリー)

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書窓展

期間:2020/02/07~2020/02/08
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 

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杉並書友会

期間:2020/02/08~2020/02/09
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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フィールズ南柏 古本市(千葉県)

期間:2020/02/14~2020/02/28
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場 柏市南柏中央6-7

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第6回 古書会館de古本まつり(京都府)

期間:2020/02/14~2020/02/16
場所:京都古書会館 3階 京都市中京区高倉通夷川上る

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日本の古本屋メールマガジンその290 2020.1.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:二見彰
 編集長:藤原栄志郎

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第13回 井下拓也さん 人生の谷間を本で乗り切るひと

第13回 井下拓也さん 人生の谷間を本で乗り切るひと

南陀楼綾繁

 古本屋めぐりの体験をネットで書いている人は多い。井下拓也さんもその一人で、2013年からFacebookで「古書店巡礼」と称して、訪れた古本屋とそこで買った本について書いている。最近の記事に312店目とある。東京の主要な店にはほぼ足を運んでいるのではないか。
「自分の見たままの印象を正直に書いています。訪れた店では礼儀として、必ず1冊は買うようにしています」と井下さんは云う。文学等、音楽、映画、美術などの本を中心に集めているようだ。著者の署名本もお好きらしい。

記事の印象通り、穏やかに話す好青年でエキセントリックな感じはない。会社員として働きながら、好きなことをマイペースで続けてきたという印象だ。しかし、子どもの頃からの話を聞いてみると、極度の凝り性であることが判ってきた。

井下さんは1978年に東京都で生まれ、埼玉県浦和市で育つ。会社員の父は本好きで、家じゅうに小説や歴史に関する本があふれていた。父方の親戚に真鍋鱗二郎という愛媛県在住の作家がいて、著作が出版されるとその献呈本が家に送られてきたという。
「小学1年のとき、父が子ども向けの歴史人物事典を買ってくれました。それが面白くて、図書館にある人物事典を片っ端から借りて、そこから引用してオリジナルの人物事典を手書きでつくっていました。熱中していたので、友だちが家に泊まりに来ても、作業のキリが付くところまで待ってもらったほどです(笑)。テレビやゲームには興味がなく、夜も本ばかり読んでいたので、目が悪くなりました」

母は、若い頃からバンドでボーカルをやっていた。その影響で、井下さんは4歳でピアノを習いはじめる。井下さんが幼い頃、母が入院して青森の親戚に預けられていたことがある。
「寂しくて、子ども向けの伝記をたくさん読みました。バッハやベートーベン、シューベルトらの生涯を知って、こういう人がこの曲をつくったんだと思いました」
 人物への興味はこの頃から生まれていたのだろう。

 小学生の頃は、図書館で借りた江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズを読破したり、エドガー・アラン・ポーの『赤死病の仮面』の挿絵が怖くて、熱を出して寝込んだりした。自分で雑誌をつくり、それを母のバンドが練習していたスタジオに持っていって大人に見せたという。

 しかし、中学になるとハードロックに目覚めたこともあり、本から離れてしまう。授業をさぼりがちになり、友だちと学校を抜け出して遊びに行ったこともある。高校でも音楽漬けの日々が続く。ところが、浪人生になると、本の世界に戻り、図書館の文庫コーナーを著者の50音順に片っ端から読んでいった。「自分にノルマを課したい気分だったんです」。とくに明治・大正の小説が好きになった。
 有島武郎の「生まれいずる悩み」と「惜しみなく愛は奪う」を読み、自分に正直に理想を追い求める生きかたに感銘を覚える。大学では文学部に入り、卒論は有島武郎をテーマにした。
「卒論のために作家論や作品論をたくさん読みました。調べて書くことが好きなんだと、改めて思いました」
 音楽サークルでバンドにのめり込んでいたが、一人になりたいときには研究室の書庫に籠った。本に囲まれると安心したという。

 大学卒業後は、一人で曲をつくり、小さなプロダクションに属したが、仕事としてではなく自分の音楽をつくりたいということで、会社に就職する。しかし、そこを辞めて、実家で引きこもった。
「当時は音楽を聴けない状態で、音のない本に没頭しました。家にある世界文学全集の類いを読みまくりました。ドストエフスキーの『罪と罰』を読んだときは、自分のなかで何かが変わったようでした」
 井下さんは「僕は人生にストップがかかるたびに本にハマるようです」と言う。浪人時代に続き、第二のストップも本で乗り切ることができた。

 家にある本を読み尽くし、もっと読みたくなって、ネットで知った古本屋に足を運ぶようになる。
 2010年頃、神保町の〈小宮山書店〉で三島由紀夫の初版本が並んでいるのを見て、集めようと思った。その後、都内の古本屋を回って、本を買うようになった。
「ある作家やテーマから次第に範囲が広がっていきました。三島経由で、澁澤龍彦が訳した幻想文学を読み、そこから美術やゴシックの本を読むようになりました。いまは、カミュ、カフカ、サルトルなど不条理をテーマに書いた作家が好きです」
 坂本龍一の音楽が好きで、彼が影響を受けたドビュッシーを通じて、フランス文化への興味を持ち、現代音楽に関する本も読む。映画のDVDも数千本集めている。それらすべての体験が、自分のつくる曲にも反映されていると井下さんは言う。

 2010年にいまの会社に就職してからは、仕事が終わると古本屋をめぐる。
「神保町の〈三茶書房〉で、閉店間際の時間に三島関係の本を買ったとき、店主が三島由紀夫文学館の話をしてくれました。開館の際、資料収集に関わったそうです。とっくに閉店時間を過ぎたのに、1時間ぐらい話し込んでしまいました(笑)。そのとき、文学館の初代館長だった佐伯彰一さんの話も出ましたが、家に帰ってネットを見たら、佐伯さんが亡くなったというニュースが流れていて、不思議な気分になりました」
 Facebookでは、すでになくなった古本屋の思い出も書かれている。
「池袋の〈夏目書房〉にはよく行きました。おばあさんの店主がとてもいい人でした。閉店したのが残念です」

 毎日のように買っているので、家には本が増殖し、近くに倉庫を借りた。
「『この本、欲しかった!』と喜んで買って、家に帰るとすでにあった、などはザラですね。同じ本が4冊もあったこともあります(笑)」
 読んだ本はExcelでリストに記録している。年間200冊近くは読んでいるそうだ。

 じつはこの10年間も、心身ともに不調が続き自分にストップがかかっていたと井下さんは言う。
「思うように動けないなかで、本や映画、音楽からインプットしつづけてきました。そろそろ、表現するほうにシフトを切り替えていきたいと思っています。曲だけじゃなくて、伝えかたや場のつくりかたも含めて、自分の音楽をつくろうと思っています」
 今後も古本屋通いはつづけるとのこと。本に助けられ、本から得たものが、どんな音楽となって発信されていくのだろうか。

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

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『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
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北陸古本案内 その1

北陸古本案内 その1

オヨヨ書林 山崎 有邦

東京で10年営業し、金沢に移転してからも早10年が経とうとしております。
今年の冬は暖かくて物足りない、一昨年の大雪の時は、なんて会話が普通に出てくるほどになりましたし、お客さんからまとまった蔵書を任せていただく事などもあり、徐々にこちらに馴染みつつあるのかなと思います。
移転の後、古本屋ツアー・イン・ジャパン、小山さんのご来店を待ち焦がれていましたが、なかなかお見えになられませんので致し方なく、今回は私の方で石川県の古本屋を紹介させていただきます(敬称略)。因みに、古ツアさんのブログでは、2008年6月に文学堂と明治堂が紹介され、「金沢は離れた場所に店が点在している。時間が少ないのもあったが、ダッシュで二店が限界でした。」それはその通りなのですが、街の規模自体がそれほど大きくないため、丸一日あれば街なかの古本屋は大方回れるかと思います。

まずは、創業が寛政元年という老舗中の老舗・近八書房。郷土史や仏書、和本などが隙間なく並び、古書肆然とした佇まい。古書店が登場するテレビ番組の撮影にも使われることがあるそうです。

加能屋書店(武蔵店)は、美術書・郷土史・文庫を中心とし、各分野まんべんなくバランスよい品揃えです。

金沢文圃閣は、自動車販売店の一角を利用した、“3冊で500円均一”コーナーが、文字通りのガレージセール。雑多な書籍や雑誌が堆く積み上げられ、質・量ともに「コミガレ」に勝るとも劣らず充実しています。掘り出し物も多く、ここ目当てに訪れる古書ファンも多い店です。近代書誌・書物学の文圃文献類従シリーズなど、出版も手がけています。

文学堂は、こぢんまりとした店構えで、文学書が多い。古くから続く店で(現在は2代目)、仕入れた本に、こちらの店の値札ラベルがついていることがよくあります。落ち着いた茶色で、屋号の背景に白山連峰が版画風にあしらわれた、蔵書ラベルの見本のような、たいへん洒落たデザインです。

あうん堂は今年で創業17年目というブックカフェ。在庫冊数はそれほど多くないものの、丁寧にセレクトされた本とおいしいコーヒーで、本好き・本の話好きの集う店となっています。一箱古本市など、イベントも積極的に開催されています。

高橋麻帆書店は、神保町・田村書店の洋書部にて修行。ドイツ語を中心とした稀覯書、版画等を取り扱い。店舗はなく、目録販売、ギャラリー・古書市等での展示販売などが中心です。

古ツアにも掲載の明治堂は、現在はネット販売を中心とした営業となり、店は閉まっていることが多いようです。

そして弊店ですが、最初に金沢に引っ越したときは、竪町でしたが、その後、長町にせせらぎ通り店が出来、竪町店は新竪町店に移転。絵本や文芸書をメインにしたせせらぎ通り店と、美術書とその通信販売をメインとした新竪町店の2店舗にて営業中です。

次に街なか以外の店を。一日で回るのは車がないと少し難しいかもしれません。

古書Duckbillは、深谷温泉の先、山の上の薪ストーブのある古民家にて営業。天井までの手作りの本棚に、人文・社会科学系の学術書から美術書まで、幅広い品揃えです。

古本一刻館は、コミックがメインのお店です。

古本LOGOSは、能登半島の先端、珠洲市飯田のイングリッシュ・カフェ内にて、週末のみの予約営業。今年は奥能登国際芸術祭(トリエンナーレ)の第2回目が開催されるので、それにあわせての訪問もおすすめです。

KIZUKI BOOKSは小松市。メインは中古農機具の販売ですが、併設された古本屋も絵本を中心としたなかかなの品揃えです。広めの店内にゆったりとレイアウトされた居心地のよい店です。

古本屋巡りのお供に、石川古書組合にて「石川の古書店案内」を発行しています。たいていの店で配布しておりますので、まずはこの地図を手に入れられる事をお勧めします。
また、店舗販売とは別に、北陸の古本屋有志にて合同目録『金沢書友会』を年に2回行しています(頒価300円)。郵送希望の方は文学堂または弊店までお申込みください。

次回は富山県・福井県の古本屋を紹介の予定です。

1map-omote
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オヨヨ書林
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2019年12月25日 第289号

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☆INDEX☆
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1.『東北の古本屋』
  ~大震災を乗越え地域の文化をつなぐ古本屋さんへの応援歌~
             折付 桂子(日本古書通信社編集部)
2.戦前の愛書家、古本者の全体像は本書から――
  『昭和前期蒐書家リスト―趣味人・在野研究者・学者4500人』
                 トム・リバーフィールド
3.『お弔いの現場人 ルポ 葬儀とその周辺を見にいく』
                         朝山実

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━━━━━━━━━━━【自著を語る(234)】━━━━━━━━━

『東北の古本屋』
~大震災を乗越え地域の文化をつなぐ古本屋さんへの応援歌~

             折付 桂子(日本古書通信社編集部)

 東日本大震災から8年半が過ぎた。私の故郷は福島県。神保町古
書街近くの勤務先で、崩れ落ちる本と書類の山にまみれながら、連
絡のとれない故郷に不安が募ったことを思い出す。原発事故の後に
は、故郷がなくなるかもしれないという恐怖にかられた。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=5391

『東北の古本屋』 折付桂子 著
日本古書通信社 刊 定価:1100円(税込)+送料180円
お申込はメールにて kotsu@kosho.co.jp

━━━━━━━━━【自著を語る番外編】━━━━━━━━━━

戦前の愛書家、古本者の全体像は本書から――
『昭和前期蒐書家リスト―趣味人・在野研究者・学者4500人』

               トム・リバーフィールド

 ブログ「書物蔵―古本オモシロガリズム」の記事「蒐書家(ブッ
クコレクター)人名事典の提唱及び作り方について」
https://shomotsugura.hatenablog.com/entry/20140428/p3 )に
触発され、実際に人名事典の執筆を進めている過程の副産物、それ
が本書(全174頁)である。一言でいうと、昭和前期の各種蒐書家
名簿を統合したリストで、この夏お会いした同好の士に勧められた
ことから、急ぎ同人誌として出版することにした。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=5305

『昭和前期蒐書家リスト―趣味人・在野研究者・学者4500人』
トム・リバーフィールド編 書物蔵 監修・解説
https://shomotsugura.hatenablog.com/entry/2019/11/13/075500

━━━━━━━━━━━【自著を語る(235)】━━━━━━━━━

『お弔いの現場人 ルポ 葬儀とその周辺を見にいく』

                         朝山実

 茨城県にある工場を見学するまで「霊柩車」は、自動車メーカー
が生産しているものだとおもいこんでいた。
実際は専門の工場が新車を購入して改造(後部座席を取り除き、車
輌を切断。棺を載せるため後ろに空間を伸ばし、後輪も付け替える
など)するのだと聞いて「わざわざ感」に驚いた。こちらが何も知ら
ないものだから、社長さん(もともとは歯科技工士だった)や工員さ
んたちから代わる代わるその工程を懇切丁寧に説明していただき、
それがおもしろく、小学生の頃にパン工場を社会科見学した際の焼
きたての匂いをおもいだした。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=5381

朝山実
あさやま・じつ 1956年、兵庫県生まれ。インタビューライター。
書店員などいくつか転職の末、上京。現職について30年。
著書に『イッセー尾形の人生コーチング』『アフター・ザ・レッド 
 連合赤軍 兵士たちの40年』『父の戒名をつけてみました』など。

『お弔いの現場人 ルポ 葬儀とその周辺を見にいく』 朝山実 著
中央公論新社 本体:1700円(税別) 好評発売中!
http://www.chuko.co.jp/tanko/2019/10/005242.html

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

高橋 秀行 (前 東京古書組合事務局長) 個展
1月27日(月)~2月1日(土)
AM11:00 ~ PM6:30(最終日 PM4:00まで)

光画廊
東京都中央区銀座7-6-6
丸源ビル24(1階)

「2019年の古ツアをふり返る」(仮題) 
 古本屋ツアーインジャパン 小山力也
 http://furuhonya-tour.seesaa.net/

古本乙女の独り言⑦
夜行バスに揺られて
カラサキ・アユミ

古本乙女の独り言⑥ はこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=5238

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

12月~1月の即売展情報

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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日本の古本屋メールマガジンその289 2019.12.25

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:二見彰
編集長:藤原栄志郎

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『お弔いの現場人 ルポ葬儀とその周辺を見にいく』

『お弔いの現場人 ルポ葬儀とその周辺を見にいく』

朝山実

 茨城県にある工場を見学するまで「霊柩車」は、自動車メーカーが生産しているものだとおもいこんでいた。
実際は専門の工場が新車を購入して改造(後部座席を取り除き、車輌を切断。棺を載せるため後ろに空間を伸ばし、後輪も付け替えるなど)するのだと聞いて「わざわざ感」に驚いた。こちらが何も知らないものだから、社長さん(もともとは歯科技工士だった)や工員さんたちから代わる代わるその工程を懇切丁寧に説明していただき、それがおもしろく、小学生の頃にパン工場を社会科見学した際の焼きたての匂いをおもいだした。
昔は、高級車の新車を活用したものだが、近頃は中古車を改造することが多いという。価格の問題からだ。こんなところからも葬儀業界が激安競争の中にあることがわかる。そればかりか、使い込んだ霊柩車のエンジンを付け替えリフレッシュさせたものの需要もあると聞いて、還暦こえたジブンもまだやれそうな気になった。

このほかにも話を聞きにいったのは、年末に亡くなった母親が使っていたベッドを廃棄するのはもったいないと、お正月にベッドを解体し「仏壇」に作り直したひと(音楽ユニット「明和電機」の土佐さん)。その話をすると、「すばらしい」と仏壇の謂れを説明していただいたお坊さん(脱サラして仏門に入られた)。
バブル時代は広告代理店でイベント担当をしていたが、いまは「墓じまい」の依頼に追われているという石屋さん。遺品整理で出た品々を東南アジアにリユース輸出している倉庫を見せてもらったり(北海道土産の定番だった木彫りのクマやファンシーな縫いぐるみが人気なのだとか)。行き場のない「遺骨」をゆうパックで受け取り、わずかな料金で永代供養を請け負う住職など、会って「へー」、覗いて「ほぅ」となることが多かった。
ルポのあいだ頭の中にあったのは「ひとは、なぜ弔いの儀式をするのだろうか?」だった。

じつは、取材者であるわたし自身も現在「現場」の一端にかかわっている。東日本大震災があった年の同じ月に父が亡くなり、「父の戒名」をわたしがつけたのが始まり。父がまだ元気だったころ、ベストセラーになっていた宗教学者の島田裕巳さんの『戒名は、自分で決める』という新書本のことを話したところ、「おまえがつけるんか?」と面白がっていたのをおもいだし、新幹線の車中で戒名を考えたのだった。
葬儀社を頼み、檀家だったお寺の住職に話をすると「ひとのビジネスに手をだすな」と声をあらげられ「墓は出ていってもらう」とまで言われる始末。由緒あるお寺のご住職が「ビジネス」と口にしたのには、わが耳を疑うほど驚いた。
そんなあれやこれやを『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社)にまとめたのが6年前。本書は以来もやもやっと芽生えた疑問にもとづく続編にあたる。

「現場の一端にある」というのは、阪神淡路の震災で半壊した実家を父が再建はしたものの、家族は誰ひとり住むことなく(建てた父自身も、旧実家の側の倉庫を改造したバラックの家に頑固に十数年住まいつづけた)「空き家」となった実家を相続、思案の末に「葬儀会館」として利用してもらっているからだ。
活用してもらっているのは、父の葬儀のときの霊柩車の運転手さん(当時楽天イーグルスの正捕手だった嶋選手に似ている)で、振り返ると、火葬場までの30分ほどの「助手席の座り心地のよさ」が決め手になった。
わたしの本業はインタビューして書くこと。取材の場では自身について語ることはないのだが、ゆきがかりからこの本では実家を葬儀会館にするまでの経緯も記させていただいています。お気持ちがうごくようでしたら御一読いただけましたら幸いです。

朝山実
あさやま・じつ 1956年、兵庫県生まれ。インタビューライター。
書店員などいくつか転職の末、上京。現職について30年。
著書に『イッセー尾形の人生コーチング』『アフター・ザ・レッド 連合赤軍 兵士たちの40年』『父の戒名をつけてみました』など。

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『お弔いの現場人 ルポ 葬儀とその周辺を見にいく』 朝山実 著
中央公論新社 本体:1700円(税別) 好評発売中!
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『東北の古本屋』~大震災を乗越え地域の文化をつなぐ古本屋さんへの応援歌~

『東北の古本屋』~大震災を乗越え地域の文化をつなぐ古本屋さんへの応援歌~

折付 桂子(日本古書通信社編集部)

 東日本大震災から8年半が過ぎた。私の故郷は福島県。神保町古書街近くの勤務先で、崩れ落ちる本と書類の山にまみれながら、連絡のとれない故郷に不安が募ったことを思い出す。原発事故の後には、故郷がなくなるかもしれないという恐怖にかられた。

 雑誌『日本古書通信』や『全国古本屋地図』などでお世話になった古書業界の方々も大きな被害をうけた。業界の片隅にいる自分にできることは何かと考え、2011年以来、被災地の古書店を継続的に取材し、『古書通信』誌上で、震災・津波・原発事故、そして古書にまで及んだ風評被害に負けずに頑張る古書業界の姿を伝えてきた。

 震災の年、広範囲の甚大な被害にもかかわらず、営業を辞める古書店はなかったが、徐々に様相が変っているようだ。その変化を反映した古本屋案内を作りたいと考えていた時、一昨年の岩手の古書市場で業者の方々からも他地域の様子を知りたいとの声があった。そこで、現在、古書店はどのような状況なのか、店は何軒あるのか、東北6県全体の実態を記録しようと考えた。店舗のある店は直接伺って話を聞き、地図や写真も添えて案内、無店舗の方もできるだけ特色が解るように紹介した「東北の古本屋」を連載したのが昨年のことである。

 連載が好評だったこともあり、今回1冊にまとめることにした。その後の動きを修正、加筆し、リストは各県組合に確認していただいた(掲載したのは全古書連加入の古書組合員)。カラー版にしたことで、棚の様子や店の雰囲気がよりはっきり伝わる本になったと思う。

 この詳細な案内の土台には8年間の取材の積み重ねがある。本書の後半には2011年以来の震災取材記事のダイジェスト版を収録した。阪神淡路大震災の記録は兵庫組合の記録誌があり、熊本地震の記録も残されている。本書が古本屋から見た東日本大震災の記録となれば幸いである。

 残念ながら古本屋は少しずつ減っている。全古書連組合員は今年3月現在2056軒で、20年前に比べ2割強の減少。それでも、新刊書店が半減し、日書連加盟店が激減している状況をみると、古本屋はかなり頑張っていると思う。

 ただ、実数以上に少なくなった印象を受けるのは、店の形が変ったためだろう。ネット販売の隆盛で店舗をもたない形が増えた。実際、東北6県の組合員は20年前は70数軒で殆どが店舗営業だったが、現在64軒のうち店舗は41軒(倉庫的な店も含む)で6割強。この数字はまだ高い方で、全国的には店舗率はもっと低いと思われる。駅を降りれば、地域の香りのする古本屋を何軒もはしご出来たという時代は遠くなってしまった。

 ただ、今回取材して感じたのは、それでも、少ない古本屋がしっかり地域を支えているということ。街の風景が画一化する中で、古本屋には地域のカラーが残っている。

 「たいした店じゃないよ」と謙遜されていても、話を伺ううち、言葉の端々に〈郷土への思い〉〈古本屋としての矜持〉が滲んでくる。「何十年も寝かせて売れる本もある。じっくり腰を据え地元の文化をつなぎたい」「東北の資料は白河の関を越えて流失はさせない」など、郷土への熱い思いに胸を打たれた。重厚な書籍や資料を扱う老舗だけではない。「普通の街の古本屋として地域と共に」「どんなお客様も先生」という言葉も重い。〈街の古本屋〉は一朝一夕ではなりえないから。改めて、古本屋は、本と人をつなぎ、地域に根差し文化を支えてゆく存在なのだと実感した。

 店の形は多様でいい。ただ、街には、広く深い古本の世界と出会える場があり続けてほしい。35年、業界の片隅にいて、いま強くそう願わずにはいられない。そんな思いも込めての、古本屋さんへの応援歌である。

tohoku
『東北の古本屋』 折付桂子 著
日本古書通信社 刊 定価:1100円(税込)+送料180円
お申込はメールにて kotsu@kosho.co.jp

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