2024年8月24日号 第401号

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☆INDEX☆
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1.宮沢賢治と映画館の音楽
                          柴田康太郎

2.『教職実践演習-幼稚園教諭・保育士・保育教諭を目指すために-』
            古川寿子(聖徳大学幼児教育専門学校教授)

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━━━━━━━━━【自著を語る(331)】━━━━━━━━━━━

宮沢賢治と映画館の音楽
(『映画館に鳴り響いた音 戦前東京の映画館と音文化の近代』)

                          柴田康太郎

〇『セロ弾きのゴーシュ』の映画館
 宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』の主人公ゴーシュは、「町の活動
写真館でセロを弾く係り」である。しかし、ゴーシュが「活動写真館」で
はたらく様子は描かれていない。

『セロ弾きのゴーシュ』を読み直したとき、私はこの物語が「活動写真館」の
様子が少しも描かれないことに戸惑ってしまった。拙著『映画館に鳴り
響いた音』を準備しながら映画館の音の歴史を調べていたので、肩透かしを
くらったような具合だった。
 
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=15788
 
 
映画館に鳴り響いた音 戦前東京の映画館と音文化の近代
柴田康太郎 著
春秋社 刊
9,680円(税込)
ISBN:9784393930496
 
好評発売中!
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393930496.html
 
 

━━━━━━━【大学出版へのいざない21】━━━━━━━━━

『教職実践演習-幼稚園教諭・保育士・保育教諭を目指すために-』
              古川寿子(聖徳大学幼児教育専門学校教授)

 教職実践演習が平成22年度入学生から新設され、4年次秋学期の必修
科目として位置付けられた。

学生が入学から教職課程の学習と様々な学びで身に付けた力を結び付け、
保育者として必要な資質・能力が身についたかを、養成機関の教員像や
到達目標に照らして最終的に確認するものであり、学生が、今まで学んで
きたことを確認したり補完したりしていかれるように、保育者として確認
しておくべき内容を収めた教科書であり、全学年を通じた「学びの軌跡の
集大成」として位置付けられるものである。
 
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=15774
 
 
教職実践演習-幼稚園教諭・保育士・保育教諭を目指すために-
塩 美佐枝・古川 寿子・河合 優子・重安 智子・関口 明子・井口 厚子 著
聖徳大学出版会 刊
1,760円(税込)
ISBN:978-4-915967-57-3

好評発売中!
https://www.seitoku.jp/daigaku/shuppannkai/index2_01.htm
 
 

━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。
 
「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━━━

トークライブ『紙の本と、出版の未来』
企画・主催・司会進行:SPF syndicate ベアナガタ(永田勝徳)

トークライブ予約(会場観覧/ライブ配信視聴)受付中!
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/287251

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「大学出版へのいざない」シリーズ 第22回

書名:平和国家の戦争論ー今こそクラウゼヴィッツ『戦争論』を読むー
著者名:植村秀樹(流通経済大学法学部教授)
出版社名:流通経済大学出版会
判型/製本形式/ページ数:A5判/上製/360頁
税込価格:4,400円
ISBNコード:978-4-911205-01-3
Cコード:3031

好評発売中!
https://www.rku.ac.jp/about/data/organizations/publication/

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━━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━━
8月~9月の即売展情報

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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日本の古本屋メールマガジン その401・8月24日

【発行】
東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋」事業部
東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
URL  https://www.kosho.or.jp/

【発行者】
広報部・編集長:藤原栄志郎

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『教職実践演習
-幼稚園教諭・保育士・保育教諭を目指すために-』
【大学出版へのいざない21】

『教職実践演習-幼稚園教諭・保育士・保育教諭を目指すために-』

古川寿子(聖徳大学幼児教育専門学校教授)

 教職実践演習が平成22年度入学生から新設され、4年次秋学期の必修科目として
位置付けられた。

学生が入学から教職課程の学習と様々な学びで身に付けた力を結び付け、保育者として必要な資質・能力が身についたかを、養成機関の教員像や到達目標に照らして最終的に確認するものであり、学生が、今まで学んできたことを確認したり補完したりしていかれるように、保育者として確認しておくべき内容を収めた教科書であり、全学年を通じた「学びの軌跡の集大成」として位置付けられるものである。
 
 2019(令和元年)年に第1版を発行し、5年が経過した。幼稚園教育要領等の改変があり、
それに伴って法令も新しく変わったり、表・グラフ等を最新のものに変えたりする必要が出てきたため、時代に合った教科書にしたいと考え、この機に、最新の情報等を載せて実際に役立つものにし、学生が、自信をもって保育に携われるようにしたいと考え改訂を行った。
 
 はじめに、幼稚園の役割と教師の使命を5つのカテゴリーに分け、自分の力量を「聖徳大学幼稚園教職課程 履修カルテ」を載せて、必要な資質・能力について自己評価ができようにした。
 次に、改訂が行なわれた幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領等を理解するため、それぞれの目的や教育・保育の基本について解説を試みている。
 
 さらに、実践に必要な、教育課程・指導計画・評価についてまとめた。平成30年の改訂で「社会に開かれた教育課程」の実施を目指している。それを受け、全体的な計画や家庭や地域と共有するグランドデザインやコミュニティ・スクールを新たに加え、学生が最新の情報が得られるようにした。また、実践に於いて重要な指導計画の作成の手順や3歳未満児の指導計画や3歳児以上の教育課程・指導計画の例を載せた。今後、授業や保育現場で実際に指導計画を書く時の参考になるようにしている。
 
 特に、子どもの健康や安全を図ることは教育・保育の目標である。そこで、安全教育と安全管理について、安全計画例や災害時の対処や体制の例、チェックリスト等を挙げている。
また、リスク・マネジメントや乳幼児の怪我や事故の実態を最新のものに書き換えた。
さらに、感染症の対策についても書き加えている。さらに、実践に役立つようにした。
 
 また、現代の教育課題について、新たに「虐待防止」を加え、「いじめ」「食育」「幼児期運動指針の理解と幼児期の運動指導」の4項目を取りあげた。将来保育に携わる学生は、現代の教育課題について理解し、保育をする中でしっかりと対応できる力が求められる。実践に生かし、将来を担う子どもに「生きる力」を育てる実践が行えるようにしてほしいと考えている。
 
 また、特別支援教育についても、合理的配慮を新たに書き加えた。さらに海外から帰国した幼児や日本語の習得に困難のある幼児の指導について書かれている。実践の場で、特別に支援の必要な幼児への対応について考えられるようにしている。
 
 要領・指針の今回の改定では、小学校教育との円滑な接続を図ることを大切にしている。
幼保小の連携について、「架け橋プログラム」の実践事例を掲載して、連携について学生が
参考にできるようにした。また、幼児指導要録についての役割や記入方法についても書いている。
 
 最後に、家庭・地域の連携である。保護者から相談してきたときの事例を載せ、学生がどのように保護者と関わり信頼関係を築いたらよいかを考えるようにした。また、家庭・地域と
より良い関係を育むにはどうしたらよいかを載せている。
 
 以上のように、保育を目指す学生にとって必要な資質・能力を身に付けられるような内容を載せている。この教科書を学ぶことで、各自が不足している知識や技能等を自覚し、補い、
自信をもって保育に携われることを願っている。

 
 
 
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教職実践演習-幼稚園教諭・保育士・保育教諭を目指すために-
塩 美佐枝・古川 寿子・河合 優子・重安 智子・関口 明子・井口 厚子 著
聖徳大学出版会 刊
1,760円(税込)
ISBN:978-4-915967-57-3
 
好評発売中!
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宮沢賢治と映画館の音楽
『映画館に鳴り響いた音 戦前東京の映画館と音文化の近代』

宮沢賢治と映画館の音楽
(『映画館に鳴り響いた音 戦前東京の映画館と音文化の近代』)

柴田康太郎

『セロ弾きのゴーシュ』の映画館

 宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』の主人公ゴーシュは、「町の活動写真館でセロを弾く
係り」である。しかし、ゴーシュが「活動写真館」ではたらく様子は描かれていない。
『セロ弾きのゴーシュ』を読み直したとき、私はこの物語が「活動写真館」の様子が少しも
描かれないことに戸惑ってしまった。拙著『映画館に鳴り響いた音』を準備しながら映画館の音の歴史を調べていたので、肩透かしをくらったような具合だった。

 物語はある日の「ひるすぎ」、ゴーシュら楽団員たちが「町の音楽会へ出す第六交響曲の
練習」をする場面から始まる。最初から映画館ではなく音楽会のための練習について書かれており、そのあとも映画にかかわる仕事をする様子にはふれられていない。しいてあげると
「休んで六時にはかっきりボックスへ入ってくれ給たまえ」という練習終わりの楽長のことばが、映画館の日常をうかがわせるくらいである。この物語が書かれたころの平日の映画館は、夕方から上映を始めることが多かったからだ。

 宮沢賢治の童話作品はたいてい架空の土地を舞台にしており、晩年になるにしたがい主人公の名前も和名ではなくなり、現実の生活を意識させる描写は回避されている。映画館の仕事などという現実をつよく感じさせる労働が描かれていないのは賢治の作品としては当然ともいえる。しかし、この物語はゴーシュが彼の家を訪れる動物たちとの対話をとおしてチェロの腕を上達させるというものだから、あえてゴーシュを映画館の音楽家にする必要はないようにも
感じられる。しかしおそらく、賢治にとってはそれが自然だったということなのだろう。

1928年の神田日活館

 宮沢賢治は1928年6月19日付の詩作品「神田の夜」で神田の町の夜を幻想的に素描して
おり、その最後を「日活館で田中がタクトをふってゐる」と結んでいる。神田の日活館は神田神保町の古書店街にあった映画館だが、ここでも賢治は映画にはふれずに、音楽演奏にだけ
ふれている。当時の神田日活館の新聞広告には、現代劇と時代劇の映画作品のタイトルとともに、総合曲《謎のトランク》という曲の演奏が予告されており、田中豊明という指揮者の名前が記されている。賢治が言及した「田中」である。

 そもそも映画館になぜ音楽家がいるのだろうか。映画は1890年代に発明されてから1920年代後半まで音をもたなかった。しかし、世界各地で上映された「サイレント映画」も無音で
上映されたわけではない。映画は世界各地で伴奏音楽の生演奏とともに上映されており、日本ではさらに弁士と呼ばれる語り手の声もともなっていた。映画館に音楽家がいたのは、サイレント映画の伴奏音楽にとって必要不可欠だったからである。1924年の神田日活館の写真を見ると、内装のモダンなデザインに驚かされるが、スクリーンの左には弁士用の演台、手前にはオーケストラ・ボックスがある。賢治はこの映画館で演奏をする田中の姿を目にしていたのだろう。
 
〇神田日活館(『建築写真類聚』1924, 6)
20240825_kandanikkatsu
 
 
 サイレント時代の映画館には、自前の楽団に映画の伴奏音楽を生演奏させるだけでなく、
日常的に映画上映の合間に余興演奏を行なわせるものがあった。ある世代の者たちの回想には映画館で音楽を聴いて育ったという複数の発言があるくらい、映画館には音楽会場としての
側面があったようだ。銀座にあった金春館の観客のひとりは、あまりに音楽が好きなので映画そっちのけで音楽を聴いてしまう者、新宿の武蔵野館に通った観客のなかには、映画の上映中に気になった曲が流れると席を立って曲名を確かめに行っていたと回想している者もいる。

映画館は映画を観る場所であるが、100年ほど前の古い資料から映画館で音楽を楽しんでいるひとが多くいたことにおどろかされる。「神田の夜」で賢治が映画館にふれながら映画ではなく音楽だけにふれているのも、映画館の音楽が関心を集めた時代の反映といえるかもしれない。

映画館の音楽と宮沢賢治

サイレント映画の時代、日本各地の映画館には小さなオーケストラがあり、映画館の楽団には、ゴーシュのように上手いとはいえない音楽家が少なからずいるものだった。賢治が
ゴーシュを「町の活動写真館でセロを弾く係り」にしたことは、賢治にとっても読み手に
とっても、最も身近に感じられる音楽家だったのだろう。

 しかし、賢治がゴーシュを日本の現実の延長にゴーシュを位置づけていたわけではない。『セロ弾きのゴーシュ』は賢治の1933年に亡くなったあと発表されたため執筆年代が定かではないが、日本では1930年代前半までサイレント映画の時代がつづいており、この作品が
サイレント映画時代に書かれたことは確かである。だが「活動写真館」という言葉は、すこし古い言葉である。映画はもともと「活動写真」と呼ばれていたが、1920年代前半には次第に「映画」という語が一般化していた。賢治は映画館を「活動写真館」と呼ぶことで、物語を「現在」から遠ざけ、いつともいえぬ時代にしているように感じられる。

 また、当時の映画館に響いたのは西洋の音楽だけではなかった。1928年に賢治が訪れた
神田日活館は日本映画の上映館であり、時代劇も上映されていた。この時期の時代劇には
和洋合奏」と呼ばれる三味線と西洋楽器の和洋折衷アンサンブルで長唄などの日本音楽の楽曲が演奏されていた。神田日活館を訪れた賢治も現代劇で西洋の音楽を耳にするとともに、
時代劇では和洋合奏を耳にしていたはずだ。

 『セロ弾きのゴーシュ』と「神田の夜」には一文しか映画館のことが書かれていない。
しかしその時代背景をさぐっていくと、現在とは異なる映画館や音楽文化の姿が見えてくる。そしてそのような時代をふまえて読み直してみると、たった一文の記述からも、賢治がどのような時代を生き、どのように物語を創作したかが浮かび上がってくるのである。
 
 
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映画館に鳴り響いた音 戦前東京の映画館と音文化の近代
柴田康太郎 著
春秋社 刊
9,680円(税込)
ISBN:9784393930496

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Copyright (c) 2024 東京都古書籍商業協同組合

2024年8月8日号 第400号

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       古書市&古本まつり 第139号
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━━━━━━━━━【調べる古本⑥ 最終回】━━━━━━━━━

調べる古本⑥ 最終回

古本とデジタルの融合あるいはエフェメラ論
書物蔵

魂の双子が書いた『もっと調べる技術』(皓星社、先月出たばかり)でも
特筆大書されていたけれど、国会図書館(NDL)がデジタルコレクション
(電子図書館のこと)を2022年末から大規模化・リニューアルして、
ヴァーチャルだけど、みんなの家の隣に帝国図書館が建った。

それで、みんな(?)が古い本をいっしょうけんめい古本で集める欲が
低下したように感じられる。すでに研究書のたぐいの古書価は軒並み下落して
しまっていたけれど、今まで大学図書館や県立図書館でゲットできなかった類の
明治大正昭和の実用書なども、今度のデジコレ大拡大でずいぶん参照できるようになった。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=15794

※当連載は隔月連載です

━━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見 番外編】━━━━━━━━━━

『REKIHAKU』特集「蔵書をヒラク」を読む
南陀楼綾繁

本メルマガで「書庫拝見」を連載しはじめて、2年以上が経つ。図書館や
資料館、文学館などの一般には公開されていない「閉架書庫」に入り、
その本棚に並ぶ貴重な資料やコレクション(文庫)を見せていただく。
そして、その空間を守っている方にお話を聞くというものだ。7月までに
24館を紹介してきた。現在、その前半を単行本にまとめる作業中だ。

そんななか、国立歴史民俗博物館の研究誌『REKIHAKU』の特集が
「蔵書をヒラク」だと知り、すぐに入手した。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=15796

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

X(旧Twitter)
https://twitter.com/kawasusu

cover_REKIHAKU

『REKIHAKU 特集・蔵書をヒラク』
国立歴史民俗博物館・工藤航平・箱崎真隆 編
発行:国立歴史民俗博物館
発売:文学通信
価格:1,200円(税込)
ISBN:978-4-86766-055-3

好評発売中!!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-86766-055-3.html

━━━━━━━━━【書庫拝見 書籍化のお知らせ】━━━━━━━━━

毎月10日配信号で好評連載中・南陀楼綾繁氏「シリーズ書庫拝見」が
本になります!『書庫をあるく アーカイブのかくれた魅力』(仮)は
今秋刊行予定です。乞うご期待!

『書庫をあるく アーカイブのかくれた魅力』(仮)
南陀楼綾繁 著/皓星社 刊/価格未定

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━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。

「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964

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「コショなひと」始めました

YouTubeチャンネル「東京古書組合」
https://www.youtube.com/@Nihon-no-Furuhon-ya

今回は更新ありません

━━━━━【8月8日~9月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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丸善博多店古本まつり

期間:2024/08/09~2024/09/08
場所:丸善博多店(JR博多シティ8F)
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フィールズ南柏 古本市

期間:2024/06/19~2024/08/04
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場
(JR南柏駅東口すぐ)
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高円寺200円均一古本フェスタ

期間:2024/08/10
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=1158
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第37回 下鴨納涼古本まつり

期間:2024/08/11~2024/08/16
場所:下鴨神社 糺の森にて
URL:https://kyoto-koshoken.com/
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川崎古本まつり

期間:2024/08/15~2024/08/21
場所:アゼリア・サンライト広場 JR川崎・京急川崎駅直結
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm
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BOOK DAY とやま駅

期間:2024/08/15
場所:富山駅南北自由通路(あいの風とやま鉄道中央口改札前)
URL:https://bookdaytoyama.net/
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第7回 Vintage Book Lab(ヴィンテージ・ブック・ラボ)

期間:2024/08/17~2024/08/18
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=830
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阪神夏の古書ノ市

期間:2024/08/21~2024/08/26
場所:阪神梅田本店 8階催事場
大阪市北区梅田1丁目13番13号
URL:https://web.hh-online.jp/hanshin/contents/hsst/hsst05/detail/2024/07/2024_1.html
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ハンズ町田・古本市

期間:2024/08/22~2024/09/10
場所:町田東急ツインズ・イースト館7Fイベントスペース
小田急線・JR町田駅徒歩1分
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm
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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2024/08/22~2024/08/25
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=843
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ぐろりや会

期間:2024/08/23~2024/08/24
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:http://www.gloriakai.jp/
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第52回 古本浪漫洲 Part.1

期間:2024/08/29~2024/08/31
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/
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紙魚之會

期間:2024/08/30~2024/08/31
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=604
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杉並書友会

期間:2024/08/31~2024/09/01
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=619
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第52回 古本浪漫洲 Part.2

期間:2024/09/01~2024/09/03
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/
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第52回 古本浪漫洲 Part.3

期間:2024/09/04~2024/09/06
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/
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第111回 彩の国所沢古本まつり

期間:2024/09/04~2024/09/10
場所:くすのきホール
(西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場)
URL:https://tokorozawahuruhon.com/
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フジサワ古書フェア

期間:2024/09/05~2024/10/02
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場
JR・小田急藤沢駅南口フジサワ名店ビル4階
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm
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東京愛書会

期間:2024/09/06~2024/09/07
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:http://aisyokai.blog.fc2.com/
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第151回 倉庫会 古書即売会

期間:2024/09/06~2024/09/08
場所:名古屋古書会館 2階 名古屋市中区千代田5-1-12
URL:https://hon-ya.net/
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五反田遊古会

期間:2024/09/06~2024/09/07
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=567
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高円寺均一まつり

期間:2024/09/07~2024/09/08
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
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第52回 古本浪漫洲 Part.4

期間:2024/09/07~2024/09/09
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/
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第52回 古本浪漫洲 Part.5(300円均一)

期間:2024/09/10~2024/09/12
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2
URL:https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/
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書窓展(マド展)

期間:2024/09/13~2024/09/14
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=571
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♭立川フロム古書市ご案内♭

期間:2024/09/13~2024/09/24
場所:フロム中武 3階バッシュルーム(北階段際)
立川駅北口徒歩5分 ビッグカメラ隣
URL:https://mineruba.bookmarks.jp/saiji.htm
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好書会

期間:2024/09/14~2024/09/15
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=620
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日本の古本屋メールマガジンその400 2024.8.8

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東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
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【発行者】
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調べる古本⑥ 最終回
古本とデジタルの融合あるいはエフェメラ論

調べる古本⑥ 最終回 古本とデジタルの融合あるいはエフェメラ論

書物蔵

 魂の双子が書いた『もっと調べる技術』(皓星社、先月出たばかり)でも特筆大書されていたけれど、国会図書館(NDL)がデジタルコレクション(電子図書館のこと)を2022年末から大規模化・リニューアルして、ヴァーチャルだけど、みんなの家の隣に帝国図書館が建った。
 それで、みんな(?)が古い本をいっしょうけんめい古本で集める欲が低下したように感じられる。すでに研究書のたぐいの古書価は軒並み下落してしまっていたけれど、今まで大学
図書館や県立図書館でゲットできなかった類の明治大正昭和の実用書なども、今度のデジコレ大拡大でずいぶん参照できるようになった。
 
 だから、去年だったか、長崎県に出張した際に、市内に唯一残っている古本屋さんから、
デジコレ拡大で商売あがったりになった、というクレームを聞かされて同情したことがある。実際、わちきみたいに古本しか趣味のない人だと古本屋が少なくなるとさみしいったらありゃしないからねぇ。
 
 でも考えようによってはまだまだ活路はあると思うのだ。NDLデジコレが明らかに手薄な
紙メディアというものもあるし。あそこの広報誌には策士がいたのだろう、「国立国会図書館にない本」なんてな断続連載があって、あるパターンにはまる本っぽいものは納本されないのだと明かしている。

地方小出版、自費出版

 たとえばあそこがいちばん得意にしている本(図書館界でいう「図書」)は、たしかに古本屋さんのメイン商品であるけれど、「国会図書館にない本」なんてザラにある。書かれている「ない理由」には留保をつけたいが、礫川全次『雑学の冒険:国会図書館にない100冊の本』(批評社、2016)という本もあるぐらいだ。
 
 先々週だったか、自分のGoogleアラートを見ていたら、全然おぼえのない著者と本の
タイトルが登録されていた。タイトルはともかく、出版社はちょっと怪しげな……。
 ・平沢一『人と本』(アルマス・バイオコスモス研究所、1999)
 ふとそれで検索すると、アマゾンにだけ1冊出品されていた古本を注文してみた。送られてきた本を見たら、ああ!『書物航游』(中公文庫、1996)の平澤さんかぁ……。書物エッセーの好きならこの中公文庫はみんな知っているよね。あの書物エッセーの続編が地元で出ていたんです。自分はどこかでそれに気づいてGoogleアラートに登録し(そして忘れ)ていたというわけである。改めて調べると、地元金沢の県立図書館と大学図書館にしかないレアもの。
 

限定頒布もの――総会屋名簿

 何年か前、業界紙(紙誌)の歴史を調べようとしたら、総会屋雑誌(取り屋)のこともわからないといけないとわかり、では総会屋のことを調べるには、ということで総会屋さんの主題書誌を作ったことがあった。その後、発見したのは総会屋名簿『㊙名簿』(1976)。
 
どうやら各大企業の総務課に販売されたものが何種類かあったらしい。ネットで担当者だった人にそんな話を聞いたことがある。中を見ると、ふつう(?)の出版社の出版人――たとえばトンデモ竹内文書研究で有名だった林信二郎――も立項されている。項目には人物名、生年月日、経営会社、刊行物タイトルなどが書かれているが、参照形(別名立項)が「といわれている」などと極めて面白い。
 
 マル秘㊙でないものも含め、昭和元禄華やかなりし頃の業界紙誌業界を調べるのに必須の
レファレンス本と言えよう。
 
soukaiya1
 
soukaiya2
 

地図

 古い地図は見ているだけで楽しいし、実は戦前のことを調べている場合には万事につけ、
役に立つ。
 いつの週末古書展だったか、佐藤昌次『最新大東京明細地図 町界・丁目界・番地入 6版』(日本統制地図、1942)を拾ったのでしばらく壁に懸けておいたが、東京市全部が地番入で参照できるので、戦前の話を読む際にはとっさに役に立つ。いま日本の古本屋を見ると、2000円から5000円くらいで買える。
 そういえば、いつも行く高円寺のあたりはどうなっているだろうかと見ると、こんな感じ。
 
seibu1
 
 ちょうど今、ネットで使える地形図DB「今昔マップon the web」が、現在地との
対照する際に便利なので西部古書会館はどこいらへんになるのか試してみるとこんな感じ
 
seibu2
 
 この調子だと、中央線沿線に住んでいた文士たちを訪ねる散歩もできそうね。
ちなみに今も細々と残っている「看板地図」(むかしはブリキ版にかかれていた)に
似ている地図に「商工地図」というものが戦前あった。それが現在、NDLデジコレで
見られるので高円寺のあたりを示すとこんな感じ(北が上になるように回転させた)。
商工地図は古本で1万円前後で売られているようだ。
 
seibu3
 

自分向きのスクラップブック

 これまた用事の合間を縫って古書展へ行ったら、月の輪さんがスクラップブック(貼り込み帳)を大量に出品していた。あわてて自分の関心ある主題のものがないかチェックして「発禁物語」「書物展望」といった背文字が書いてあるものを買い込む。1冊1000円程度だった。
 
scrap book1
 
 中を読んでみると、全国紙各紙の新聞切抜きが貼り込んである。新聞DBはいろいろ
あるが、各紙を特定ジャンルの事柄で総覧するというのは、実はけっこう手間がかかる。
こうやってそのものズバリの新聞切抜き帳があるときわめて効率的。
 
scrap book2
 

エフェメラ

 他にもいわゆる「本」に限らず、本屋のブックカバー(書皮)を買って、戦前有名だった
書店「三昧堂」の地番を知ったり、昭和19年に海をわたってもたらされた南京維新政府の
国立図書館館報を買ったり、ひとことで言って「エフェメラ」に類するものの収集に乗り出してから、古書趣味に広がりができた。
 
 ウィキペディアに「エフェメラ(ephemera)は一時的な筆記物および印刷物で、長期的に使われたり保存されることを意図していないものを指す。」とある。「一過性資料」などとも訳されたが、要するに古本の世界でいう「一枚もの」や「紙もの」と言われるものいろいろのこと。
 本を集めていた際には、その時々の正統なものが集まるけれど、エフェメラ集めに手を
広げると、その事物の周辺やその時代の背景がなんとなく感じられてくるから楽しい。
 

デジタル化と古本趣味

 日月堂さんが雑誌『望星』2023年10月号に「古本屋ですけど、本棚はありません」という文章を載せていた。エフェメラもデジタル化されると古書価が下がってしまうと指摘しているけれど、私の知る限り、日本の図書館は伝統的にエフェメラを軽視してきたので、なかなかそうもならないのではないかしらん。
 前記の東京の地図みたいに、デジタル化でその利便性や存在を知って、古書展などで買ってみる(古書業界的には買ってもらう)というのも一つの道のような気がするし。
 
 以前、このメルマガ連載で「古本の読み方」をやった際、観点をズラすと面白く古本を楽しめるし、それで飽きたら、収集対象のメディア形態をズラすとよいよ、と述べた(「古本読書史と古本に飽きたときの展開法(古本の読み方5最終回)」)。エフェメラもまた、本でないものの一種だろう。そして……
 

集め手から書き手へ――同人誌出します

 エフェメラに囲まれていると、石神井書林さんのいう時代のしずくに囲まれることになるので、なんとなくそれについての感興がわきおこってくる。それで結構ブログ記事を書いたし、今年の夏、コミケでそれを集大成した同人誌『あったかもしれない大東亜図書館学』を出すことにした。コミケ残りは懇意の出版社から通販をしてもらうかもしれない。
 
dojinshi
 
 本の集め手から、書き手へ移行するのも、ひとつの趣味と思っている。
 
 
書物蔵
本格的古本歴は19年ほど。興味は日本図書館史から近代出版史へ移行し、今は読書史。
共書に『本のリストの本』(創元社、2020)がある。
X(旧Twitter)https://twitter.com/shomotsubugyo (2009年~)
 
 
※シリーズ【調べる古本】は今回が最終回です。
ご愛読ありがとうございました。
 

Copyright (c) 2024 東京都古書籍商業協同組合

cover_REKIHAKU

「書庫拝見」番外編
『REKIHAKU』特集「蔵書をヒラク」を読む 

「書庫拝見」番外編
『REKIHAKU』特集「蔵書をヒラク」を読む  国立歴史民俗博物館 2024年6月刊

南陀楼綾繁

 本メルマガで「書庫拝見」を連載しはじめて、2年以上が経つ。図書館や資料館、文学館などの一般には公開されていない「閉架書庫」に入り、その本棚に並ぶ貴重な資料やコレクション(文庫)を見せていただく。そして、その空間を守っている方にお話を聞くというものだ。
7月までに24館を紹介してきた。現在、その前半を単行本にまとめる作業中だ。
 
 そんななか、国立歴史民俗博物館の研究誌『REKIHAKU』の特集が「蔵書をヒラク」だと
知り、すぐに入手した。特集のリードには、「ヒラク」には「蔵書そのものの実態を明らかにするため、記録史料や書籍類をもとに丁寧に読み解くこと【披く】」「古代から近現代まで、多分野の幅広い視角から“蔵書”のあらゆる面に迫ること【開く】」「『蔵書文化』という新たな学際的なテーマを提起すること【拓く】」「このような研究成果を紹介することで、読者の皆さんの日々の生活が豊かになることに少しでも繋げること【啓く】」の4つの意味を込めたとある。9編の論文・コラムが掲載されているが、これまで取材した館で見聞きしたのとイメージが重なることも多く、興味深く読んだ。
 
 本特集の編集を担当した工藤航平氏の総論「蔵書文化ことはじめ」によれば、「蔵書」とは「その人固有の〈知〉を表象したもので、蔵書を深堀りすることで〈知〉の形成・継承のプロセスを解き明かすことができる」という。しかし、竹原万雄「旧家に伝来した書籍保存の課題」にあるように、歴史学では手書きの古文書が重視され、書籍の史料的価値が低く見られていた。「とくに一見して印刷物とわかる書籍は、他所に残存している可能性が高い=『希少価値が低い』と判断され」たのだ。それが2000年代以降、「書籍を文書と同様に史料として
扱い、地域の遺された多種多様な書籍に注目して、書籍がもつ社会的な影響力の解明や、
読者・社会の変容を描く研究が行われるようになった」(「蔵書文化ことはじめ」)。
 
 江戸時代以前の蔵書は、正倉院献納宝物から古代の蔵書を探った小倉慈司「古代天皇の
宝庫」
、金沢文庫の形成・継承をたどる貫井裕恵「中世鎌倉 武家と寺家のアーカイブス」にあるように、特権階層が持つものだった。それが江戸時代になると、読み書きできる層が広がり、版本・写本が流通するようになったことで、個人が蔵書を持つ時代が現れた。彼らは独自のネットワークを持ち、借りた本を写して蔵書を増やし、会読(読み合わせ会)やコレクションの交換会によって知識の質を高めていった(岡村敬二『江戸の蔵書家たち』講談社選書メチエ)。「書庫拝見」の松阪(江戸時代は「松坂」)の本居宣長記念館や射和文庫の取材でも、本居宣長や竹川竹斎が江戸や京都の最新情報をいち早く手に入れ、またそれを他の人に伝えていたことが判った。伊勢における蔵書家のネットワークについては、菱岡憲司『大才子・小津久足』(中公選書)に詳しい。
 
 小池淳一「書物と民俗」は、民俗学において調査の対象外とされがちだった書物が、生活の中にどのように根付いていたかを、沖縄や福島の例をもとに論じている。そこでは本が擬人化されたり神聖視されたりするのだ。民俗学と書物については、川島秀一『「本読み」の民俗誌』(勉誠出版)がある。気仙沼地方には「本読み」「小説読み」と呼ばれる人たちがおり、彼らに読んでもらうために蔵書を持つ家もあった。書物は共有され、語られ、改変されながら伝えられるものであったのだ。
 
 山中さゆり「松代藩真田家の本箱」は、松代藩の蔵書を収めた「本箱」がテーマだ。
その本箱には複数の貼紙があり、書籍目録と照合すると多くのことが判るという。一方、
菅谷壽美子「池波正太郎の書斎」は、『真田太平記』の著者でもある池波が、書斎でしばしば手に取った書物を紹介する。小粥祐子「日本住宅における『知を形成する空間』」は、江戸城本丸御殿のどの部屋で将軍が本を読んだかを推理している。
 
 特集最後の岡村龍男「『羽田八幡宮文庫旧蔵資料』の郷土資料としての再構築」は、羽田八幡宮の旧蔵書が豊橋市図書館に所蔵された経緯をたどるもの。羽田八幡宮文庫は1848年(嘉永元)に宮司の提案で生まれたもので、誰でも利用できた。貸出箱の蓋の裏には、貸出冊数や
貸出日数、弁償責任などの規則が書かれているという。「書庫拝見」で取材した宮城県図書館にも「青柳文庫」が所蔵されている。江戸の富豪・青柳文蔵が献上した書籍と維持資金をもとにして1831年(天保3)に設立したもので、「日本初の公共図書館」と云われる。
 
 岡村氏は「文庫資料のような様々な来歴を持つ資料群をいっしょくたに分類してしまうと、文庫資料それぞれが持っていた『図書館蔵書となる前』の秩序や性格がわかりにくくなってしまう」と指摘する。幸い、私が取材した図書館や資料館では、「旧蔵書」はひとつの塊りとして別置されており、多くの場合、その来歴を示す資料も残されている。それによって、どんな人たちが旧蔵書を築き、守り、受け継いできたかというドラマを私なりに描くことができるのだ。そして、日本近代文学館や長岡市立中央図書館・文書資料室の回で触れたように、古書業界の人々もこの「来歴」に深く関わっている。
 
どこから読んでも面白い特集だったが、「蔵書」にはまだまだヒラクべき要素があるはずだ。第2弾を期待したい。
 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)
 
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。
 
X(旧Twitter)
https://twitter.com/kawasusu
 
 
==========単行本化のお知らせ==========
 
10日配信号で好評連載中・南陀楼綾繁さんの「シリーズ書庫拝見」が
本になります!『書庫をあるく アーカイブのかくれた魅力』(仮)は
今秋刊行予定です。乞うご期待!
 
『書庫をあるく アーカイブのかくれた魅力』(仮)
南陀楼綾繁 著/皓星社 刊/価格未定
 
 
==========今回ご紹介した書籍==========
 
cover_REKIHAKU
 
 
『REKIHAKU 特集・蔵書をヒラク』
国立歴史民俗博物館・工藤航平・箱崎真隆 編
国立歴史民俗博物館 発行
文学通信 発売
1,200円(税込)
ISBN:978-4-86766-055-3
 
好評発売中!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-86766-055-3.html
 
 

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2024年7月25日号 第399号

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。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
    。.☆.:* その399 7月25日号 *:.☆. 。
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【日本の古本屋】は全国992古書店参加、データ約678万点掲載
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☆INDEX☆
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1.『すこし広くなった  「那覇の市場で古本屋」それから』
                  宇田智子(市場の古本屋ウララ)

2.古本屋ツアー・イン・ジャパン2024年上半期報告
                   古本屋ツーリスト 小山力也

3.ヒトラー最初の侵略
               高橋義彦(北海学園大学法学部准教授)

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━━━━━━━━━【自著を語る(330)】━━━━━━━━━━━

『すこし広くなった  「那覇の市場で古本屋」それから』
                  宇田智子(市場の古本屋ウララ)

 今年の5月に沖縄の出版社「ボーダーインク」から、『すこし広くなった 
「那覇の市場で古本屋」それから』という本を出版しました。副題のとおり、
2013年にボーダーインクから出した『那覇の市場で古本屋 ひょっこり
始めた〈ウララ〉の日々』の続編のような本です。
自分の店「市場の古本屋ウララ」で店番しながら書きました。

 その間、東京の出版社からも本を出しましたが、沖縄の出版社から
出すのはやはり特別なことだと感じました。

 
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=15528
 
 
 
『すこし広くなった  「那覇の市場で古本屋」それから』
宇田智子(市場の古本屋ウララ) 著
ボーダーインク 刊
税込価格:1,980円(税込)
ISBNコード:978-4-89982-465-7
 
 

好評発売中!
https://borderink.com/
 
 
 
━━━━【古本屋ツアー・イン・ジャパン2024年上半期報告】━━━━

古本屋ツアー・イン・ジャパン2024年上半期報告
                   古本屋ツーリスト 小山力也

 私は今、非常にてんてこ舞いなのである。何故ならば、古本屋さんでもない
私が、八月の終りから一ヶ月、大阪「梅田蔦屋書店」で古本フェアを開催する
からである。以前からこちらでは、古本を販売させてもらっており、また時折
古本まつりやフェアなどにも参加させてもらってはいたが、今回単独で五百冊を
準備してくれと言うのである。

五百冊……プロではない素人には、大変に重い数字である。ただ右から左に用意
するだけならなんてことはないのだが、“古本屋ツアー・イン・ジャパン”としての
フェアなので、精選し良質でおかしな並びにしなければ、とてもじゃないが気が済まない……。

 
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=15258
 
 
 
小山力也 (こやま・りきや)

2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、
全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。
西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚と大阪「梅田蔦屋書店」で古本を
販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』、「日本古書通信」にて
『ミステリ懐旧三面鏡』連載中。

http://furuhonya-tour.seesaa.net/

 
 
 
━━━━━━━━━【大学出版へのいざない20】━━━━━━━━━━━

ヒトラー最初の侵略
                高橋義彦(北海学園大学法学部准教授)

 自らの野望のために、ヨーロッパそして世界を破滅の淵に追いやったアドルフ・
ヒトラーの、最初のターゲットとなった国がどこかご存じだろうか。
第二次世界大戦の着火点となったポーランド、その前年ズデーテン地方を奪われた
チェコスロヴァキアを思い浮かべる方も多いだろうが、ヒトラーの対外侵略の
最初の犠牲者となったのは彼の祖国でもあるオーストリアだった。

1938年3月12日、オーストリアはドイツ軍に侵攻され瞬く間に併合される。
本書はこのナチ・ドイツによるオーストリア併合(「アンシュルス」)を軸に、
当時の政治家や文化人たちがこの歴史的大事件にどう向き合ったのかを
描き出すことをテーマとしている。
 
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=14922
 
 
 
『ウィーン1938年 最後の日々――オーストリア併合と芸術都市の抵抗』
高橋義彦 著
慶應義塾大学出版会 刊
税込価格:2,970円
ISBN:978-4-7664-2972-5

8月10日発行予定
https://www.keio-up.co.jp/np/index.do
 
 
 

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━━━━━━━━━【展示会のお知らせ】━━━━━━━━━

2023年に没後10年を迎えた連城三紀彦。現存する直筆原稿、
構想ノート、スケッチ類、愛用されていた身のまわりの品々、
作品に添えられた挿絵原画、著作、映画・舞台台本などを
展示します。なお、本展示は昨年、出身地の名古屋で開かれた
展覧会を再現する内容となっています。
 
 

連城三紀彦展

 
7月26日(金)—8月5日(月)
※7月28日(日)、8月4日(日)は休館日 
時間:月曜~金曜 10時-18時/土曜 10-17時
会場:東京古書会館 2階情報コーナー
料金:無料
主催:連城三紀彦展実行委員会
後援:市立小樽文学館けやき書店(図録販売)、村上芳正の会、スタジオカッツェ
協力:水田公師
 
東京古書組合WEBサイト「東京の古本屋」
https://www.kosho.ne.jp/?p=1125
 
 
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━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。
 
「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964

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━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━━━

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書名:『映画館に鳴り響いた音 戦前東京の映画館と音文化の近代』
著者名:柴田康太郎
出版社:春秋社
価格:1,980円(税込)
ページ数:784ページ
判型:A5
ISBN:9784393930496
Cコード:3074

好評発売中!
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393930496.html

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「大学出版へのいざない」シリーズ 第21回

書名:『教職実践演習-幼稚園教諭・保育士・保育教諭を目指すために-』
著者名:塩 美佐枝・古川 寿子・河合 優子・重安 智子・関口 明子・井口 厚
出版社名:聖徳大学出版会
判型/製本形式/ページ数:B5判/並製/177頁
税込価格:1,760円
ISBNコード:978-4-915967-57-3
Cコード:2037

好評発売中!
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日本の古本屋メールマガジン その399・7月25日

【発行】
東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋」事業部
東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
URL  https://www.kosho.or.jp/

【発行者】
広報部・編集長:藤原栄志郎

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古本屋ツアー・イン・ジャパン2024年上半期報告

古本屋ツーリスト 小山力也

 私は今、非常にてんてこ舞いなのである。何故ならば、古本屋さんでもない私が、八月の
終りから一ヶ月、大阪「梅田蔦屋書店」で古本フェアを開催するからである。以前からこちらでは、古本を販売させてもらっており、また時折古本まつりやフェアなどにも参加させてもらってはいたが、今回単独で五百冊を準備してくれと言うのである。五百冊……プロではない素人には、大変に重い数字である。ただ右から左に用意するだけならなんてことはないのだが、“古本屋ツアー・イン・ジャパン”としてのフェアなので、精選し良質でおかしな並びに
しなければ、とてもじゃないが気が済まない……。

そのオファーが来たのは、フェアの五ヶ月前の三月であった。普段の販売用の補充も送りつつ、フェア用の古本をひと月に百冊は送らねば、フェアは成立しないのだ。だが気持ちは
最初から決まっていたので、依頼を承諾し、早速古本の準備に取りかかったのである。

 家にある古本をまとめれば話は簡単なのだが、やはりそうは言っても売りたくない本やまだ読んでいない本も多いので、ここからすべてを出すわけにはいかない。そんな訳で当然仕入れをしなければいけないことになるのだが、もちろん私は古本屋さんではないので、市場で仕入れたり買取をしたりということは出来ない。自然、古本屋さんを巡り、安値で己のメガネに適った古本を買い集めるということになるのだ。

生活圏は東京の西方中央線沿線なので、中野〜三鷹間の馴染みの古本屋さんを中心に、西武
池袋線沿線・京王井の頭線沿線・小田急線沿線の古本屋さんを順繰りに、ほぼ毎日のように
こまめに巡りまくり、辛抱強く古本を買い集めたのである。またこれに加え、高円寺「西部
古書会館」や御茶ノ水「東京古書会館」で開かれる会館展にも足繁く通うようになった。

店巡りと同じで、いつでも好みの本が買えるとは限らないのだが、おかげでそれぞれの催事に個性があるのを感じ取ることが出来るようになってきた。だがその個性についてはあまり気にせず、とにかく通った。好みの本が多い催事は確かに収穫も多いし楽しいが、それ以外の本が多く並ぶ催事では、極少量だが好みの本が安値で並ぶことがあったりするので、結局どの催事も見逃せないのである。

中でも六月に開催された新しい催事「萬書百景市」は、それぞれの参加店が全力で古本を
並べ、去年開催の「中央線はしからはしまで古本フェスタ」同様、古本ファンの期待に応えつつも、新たな古本ファンを引き寄せる力を持った試みであった。この会館通いは、古本販売の世界が、伝統と革新が絡み合い発展して行くのを垣間見る思いであった。

 そんな風に現在進行形で大量に古本を買い集めているのだが、フェア中の補充分も含め、
まだまだ続けねばならないだろう。家の精選良書を核にして、買い集めた古本で一群を作り
上げるのだが、一回に送る量はだいたい三十〜五十冊くらいで、現時点で十三箱を送付済みである。どうにか約束の五百冊には達しているので、ホッと一安心しているが、それでもまだまだ油断せず、古本は準備しなければならないのだ。

このように古本準備でてんてこ舞いの日々を送っているのだが、その間にも様々な変化は
起こっている。武蔵小金井「古本ジャンゴ」、豪徳寺「玄華堂」、本八幡「山本書店」、
国分寺「七七舎」、巣鴨「かすみ書店」、金町「書肆久遠」、などがお店を閉じ、古本界に
寂しい風を吹き入れてしまった。

だが、武蔵小山「九曜書房」が恵比寿に移転して店舗再開、神保町から撤退した「古書かんたんむ」が湯島で店舗再開、「七七舎」跡地ではすぐに「イム書房」が開業(この店舗はこれで、「ら・ぶかにすと」→「七七舎」→「イム書房」とまた古本屋さんに引き継がれることになった)、さらにその「七七舎」も倉庫を店舗として開けるべく奮闘中、また三月に古書会館のトークショーでお世話になった古本乙女&母カラサキ・アユミ氏の古本仲間が博多に「ふるほん住吉」を開業(現在カラサキ氏は店員さんとして活躍中とのこと)、神保町では裏路地にレトロ雑貨+古本の「アリエルズ・ブルービューティー」が開店し、古本屋界に風通しを良くしたり、新たな風を吹き入れたりもしている。

すでにこの七月に入っても、閉店情報や営業再開情報&開店情報も飛び込んできているので、暑い夏もまだまだ古本の風が吹き荒れ続けそうな予感がしている。

 さらなる古本活動としては、定期的に行っているアンソロジスト・日下三蔵氏邸の書庫片付けがいよいよ佳境に突入している。月に一回「盛林堂書房」さんと通い続けた甲斐があり、
ついに古本一時避難用として臨時に借りていたアパートを引き払い、本邸&マンション書庫の集約フェイズに入ったのである。

スペースが出来たことにより、作業が俄然しやすくなったので、日下氏単独でも整理が進める状況になったのは大きい。足掛け十年、もはやライフワークの一つの如く他人の書庫整理に
関わろうとは、思ってもみなかった。いったいどんな結末を向かえるのか、いや、それよりも本当に結末はあるのか、あの元魔窟の行く末が今後も楽しみである。

 そして「盛林堂書房」買取の手伝いや古本まつりでの臨時店員などを務め、相変わらず色々な楽しい経験をさせてもらっているのだが、五月には非常に稀有な仕事に従事させてもらった。それはある古本屋さんの閉店作業で、市場に出す本を運び出す前に、大量の廃棄本を
トラックに積み上げ、何度も運び出すと言う重労働。およそ八トンの量を、店から運び出して、バンバントラックの荷台に放り投げて行く……古本を投げるのは荒事祭のような状態で、ハイになること請け合いであった。いや、古本屋さんって、重労働である。

 またそんな大好きな古本屋さんに関わった仕事としては、東京古書組合の買取ポスターや
全古書店大市会のポスターをデザインさせてもらったのも、貴重な体験であった。何度も何度も理事さんたちと協議を重ね、練り上げて行った作品である。その功績として、『日本の古本屋』の帆布エプロンをいただけたのは、身に余る光栄であった。古本に関わるイベントに出るときは、なるべくこれを身に着けて出るようにしよう。

 とまぁ、相変わらず古本に塗れて毎日を送っているわけである。以前のように新しい店舗を求めて全国を飛び回るようなことはしなくなっているが、大好きな古本屋さん&古本には違うカタチで触れ合うことが増えてきた。これは時代は流れるし、私も年を取りつつあるので、
当然の変化として前向きに鷹揚に受け入れている。

 最後に上半期の主だった古本収穫を紹介しておこう。今年は何故か署名本に恵まれる機会が多く、それは今でも継続している。殿山泰司の「ミステリ&ジャズ日記」署名イラスト入りが五百円、山下清の「日本ぶらりぶらり」がサインペン署名で百円、種村季弘の「怪物のユートピア」がフランス文学者窪田般彌宛署名入りで二千円、古川緑波「ロッパ食談」が徳川夢声宛毛筆署名で三千円。やっぱり古本屋さんはいつでも、夢があって、面白いところなのである。 

 
 
小山力也 (こやま・りきや)

2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を
目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の
『フォニャルフ』棚と大阪「梅田蔦屋書店」で古本を販売中。
「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』、「日本古書通信」にて『ミステリ懐旧三面鏡』連載中。

http://furuhonya-tour.seesaa.net/

 
 

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「那覇の市場で古本屋」それから 少し広くなった

『すこし広くなった  「那覇の市場で古本屋」それから』

宇田智子(市場の古本屋ウララ)

 今年の5月に沖縄の出版社「ボーダーインク」から、『すこし広くなった 「那覇の市場で
古本屋」それから』という本を出版しました。副題のとおり、2013年にボーダーインクから
出した『那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』の続編のような本です。自分の店「市場の古本屋ウララ」で店番しながら書きました。

 その間、東京の出版社からも本を出しましたが、沖縄の出版社から出すのはやはり特別な
ことだと感じました。刊行後、編集者と一緒に県内の新刊書店にあいさつに行くと、本は必ず新刊台に平積みされていました。地元出版社の本のコーナーが確保されているからです。
私の店にも発売前から問合せがありました。地元のラジオに出演して宣伝したら、翌日、ラジオを聴いたお客さんが店に来てくれました。

 沖縄の本は、県外の新刊書店にはなかなか並びません。ただし、11年前に比べると出版社と直取引をして本を仕入れる個人の書店が増えました。ボーダーインクが「一冊!取引所」という発注サイトに登録したことでより直取引がしやすくなり、さまざまな書店が扱ってくれています。小さな出版社の本が小さな本屋に並んでいる様子を想像します。

 私の本屋は4.5坪しかありませんが、これでも2020年に「すこし広く」なりました。隣にあった洋服屋さんが閉店するとき、「次はあなたが借りなさい」と言ってくれて、1.5坪の
物件を引き継いだのです。そのころは新型コロナウイルスの流行のために緊急事態宣言が出て、店をしばらく休んでいました。売上もないのに支出を増やすなんて無茶だと一度は断りかけたのですが、いまを逃したらもう増床するチャンスはないかもしれないと考えなおして、
借りました(隣の洋服屋さんは50年続けました。次に借りる人も50年続けるかもしれません)。

 店を広げた2020年、向かいにある那覇市第一牧志公設市場は建替工事中で、それにともない頭上のアーケードが撤去されました。戦後すぐから続いてきた店がいくつも閉店し、建物が壊されてホテルや駐車場になりました。私が店を始めるずっと前から続いてきた那覇の市場の風景が、どんどん変わっていきました。

 この本には、2016年から2024年にかけて書いた文章を収めました。特に、月刊誌『小説すばる』に連載していた「小さな本屋の本棚から」が軸になっています。最初は本と本屋について書いていたのが、しだいに那覇の町や市場の話が多くなり、コロナの流行も始まって、毎月の市場の様子を報告するような連載になりました。

 前著『那覇の市場で古本屋』を出したときは店を始めてから1年半しかたっていませんでした。県外から来て、古本屋も未経験だった私には毎日が驚きの連続でした。店や市場で起きるできごとがあまりにおもしろく、だれにも頼まれないのに文章を書きはじめました。

 その後、商店街のイベントに関わったり、牧志公設市場の建替の話が持ち上がったり、
アーケードの再整備の活動を始めたりすることで、のんきに市場を観察していた私も当事者として動くようになりました。那覇の商店街は行政や一企業が運営しているものではなく、また自然に続いてきたわけでもなく、そこで商売をしている店の人たちが時間とお金をかけ、話しあいと交渉を重ねながら必死につくりあげてきた空間であることに気がつきました。

 ゆるく曲がった通りが何本も並走しては交差点でつながり、通りの両側に店が立ち、あいだに抜け道やわき道があり、頭上にはアーケード、建物の下には暗渠となった川が流れている。そんな商店街のなかの4.5坪の空間で、私はお客さんと話したり、古本の書きこみを消したり、風にチラシを飛ばされたり、急な雨にあわててビニールカバーを広げたりしています。

店にいると、しょっちゅう「国際通りはどっちですか」と聞かれます。入り組んだ商店街で
方向を見失ってしまうのです。アーケードや建物がすきまなく立ち並び、全体を見渡せる場所はどこにもありません。そこで本屋が役に立てるかもしれない、と思います。那覇の地図が
あれば、通りや建物の位置関係を把握できます。さらに市場の歴史の本があれば、風景の由来を想像することができるかもしれません。ごちゃごちゃしていて無秩序に見える空間には、
こうなった理由があるのです。

 11年前に最初の本を出したときは、そんなことは考えていませんでした。毎日、店を開けるだけで精一杯でした。「すこし広くなった」のは店だけでなく、私の視野や心も、と言ってみたい気がします。

 最初の本と変わらないのは、店番しながら見たもの、聞いた声をたくさん書きとめたところです。店を始めて13年たっても、目のまえで起きるできごとはいつもおもしろくて、これが見たくて店をやっているのだと思います。この瞬間、この場所にこの人がいたからこそ生まれた言葉を、私だけが聞いているのはもったいないので、みなさんにもおすそわけしたいのです。

 先日、神奈川近代文学館で「没後15年 庄野潤三展――生きていることは、やっぱり懐しいことだな!」を見てきました。展示されていた原稿『自分の羽根』の「私は自分の体験したことだけを書きたいと思う」「私は自分の前に飛んで来る羽根だけを打ち返したい」という言葉に、私も気持ちだけはこうでありたいと思いました。こんな狭い場所のことばかり書きつづけてなにになるのか、と迷うこともあるけれど、那覇の市場で、これからも自分の羽根を打ち返していきます。どうか、お読みいただけたら幸いです。
 
 
 
「那覇の市場で古本屋」それから 少し広くなった
 
 
『すこし広くなった  「那覇の市場で古本屋」それから』
ボーダーインク 刊
1,980円(税込)
ISBN:978-4-89982-465-7
 
好評発売中!
https://borderink.com/?pid=180729928
 
 
前著についてはこちらから
『那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=1110
2013年8月23日 第140号【自著を語る(104)】より

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ヒトラー最初の侵略【大学出版へのいざない20】

ヒトラー最初の侵略

高橋義彦(北海学園大学法学部准教授)

 自らの野望のために、ヨーロッパそして世界を破滅の淵に追いやったアドルフ・ヒトラーの、最初のターゲットとなった国がどこかご存じだろうか。第二次世界大戦の着火点となったポーランド、その前年ズデーテン地方を奪われたチェコスロヴァキアを思い浮かべる方も多いだろうが、ヒトラーの対外侵略の最初の犠牲者となったのは彼の祖国でもあるオーストリアだった。

1938年3月12日、オーストリアはドイツ軍に侵攻され瞬く間に併合される。本書はこの
ナチ・ドイツによるオーストリア併合(「アンシュルス」)を軸に、当時の政治家や文化人
たちがこの歴史的大事件にどう向き合ったのかを描き出すことをテーマとしている。
 
 では簡単に各章の内容をご紹介しよう。第一章ではアンシュルスに最後まで抵抗したオーストリア首相クルト・シュシュニクを中心に、前史となるドイツ=オーストリア関係を解説している。1934年に首相に就任したシュシュニクは、度重なるドイツの圧力にも耐え1938年2月にヒトラーと直接会談(「ベルヒテスガーデン会談」)したあとには、オーストリア独立維持の是非を問う国民投票を企画した。第一章ではベルヒテスガーデン会談の詳しい内容や着々とオーストリア併合を目指すドイツ側の計画などにも言及している。
 
 第二章はアンシュルス前夜のウィーンの文化生活を、指揮者であるブルーノ・ワルター、
作家フランツ・ヴェルフェルとアルマ・マーラー夫妻、エリアス・カネッティとヴェツァ・
カネッティ夫妻を軸に描いている。ワルターは国立歌劇場の監督としてシュシュニクの信頼も厚く、またヴェルフェルはシュシュニクの個人的友人であり、アルマの主宰するサロンにも
シュシュニクは頻繁に出入りしていた。一方カネッティ夫妻のところには政府と対立する野党社会民主党のシンパが集っていた。
 
 第三章はドイツ軍侵攻前夜である1938年3月11日の様子を、時系列にドキュメンタリー風に描いている。国民投票中止とシュシュニク辞任を求めるドイツからの最後通牒にはじまり、ナチ系のアルトゥア・ザイス=インクヴァルトの首相就任で幕を閉じるこの日は、まさに
「オーストリアの一番長い日」であった。
 
 第四章はヒトラーを中心にアンシュルス後のウィーンの様子を論じている。1906年に初めてリンツから上京したヒトラーにとってウィーンは憧れの街であるとともに「挫折の街」でもあった。造形芸術アカデミーの受験に失敗した若きヒトラーはこの街で浮浪者のような生活を送った。しかし長じてドイツ首相にまで昇りつめたこの男は、1938年3月15日ウィーン王宮前でアンシュルスの成立を高らかに宣言する。このあと行われたアンシュルスの是非を問う
国民投票では、実に99%以上の賛成票が投じられた。
 
 第五章はヒトラー支配下の文化生活をフロイト一家、ウィトゲンシュタイン姉弟、
ヴェルフェル夫妻を軸に論じている。ユダヤ系というだけでなくその理論もナチに嫌われた
フロイトは、マリー・ボナパルト、アーネスト・ジョーンズなどさまざまな人の手を借りて
ウィーン脱出に成功した。

一方大富豪ウィトゲンシュタイン家では、亡命を拒む姉たちと一刻も早い脱出を説く弟の
パウル、そしてイギリスで身動きの取れないルートヴィヒら姉弟間の関係が悪化し、
アンシュルスは家族の絆をも破壊してしまう。1938年の段階でフランスに脱出していた
ヴェルフェル夫妻は、ドイツ軍のフランス侵攻を受け最終的に徒歩でピレネー越えをして
アメリカへと亡命する。
 
 終章ではヒトラー、ザイス=インクヴァルト、シュシュニクそれぞれの1945年を描いている。ヒトラーはソ連軍の侵攻が迫る中ベルリンの総統地下壕で自殺した。ザイス=インクヴァルトは戦犯として捉えられ、ニュルンベルクで刑場の露と消えた。アンシュルス以来長い拘留生活にあったシュシュニクは、1945年5月にようやく解放されたが、祖国オーストリアは彼の帰国を望まなかった。終章ではドイツからのオーストリア「再独立」の経緯も説明している。
 
 このように本書はアンシュルスという歴史的事件を、政治史だけでなく文化史も絡めながら描いたものである。政治史的観点からシュシュニク、ヒトラー、ザイス=インクヴァルト
などに関心を持つ読者、文化史的観点からワルター(音楽)、ヴェルフェルやカネッティ
(文学)、フロイト(精神分析学)などに関心のある読者も、ぜひ手に取っていただければ
幸いである。
 
 
 
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『ウィーン1938年 最後の日々――オーストリア併合と芸術都市の抵抗』
慶應義塾大学出版会 刊
2,970円(税込)
ISBN:978-4-7664-2972-5
 
8月10日発行予定
https://www.keio-up.co.jp/np/index.do
 

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